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CFD解析を外部に頼むとき——依頼前に揃えるもの、実験で確かめる理由、受け取る成果物

この記事のポイント(結論先出し)
CFD解析(流体解析)は計算による「予測」で、結果の正しさは証明できず、状況証拠を積み上げて論証するしかない[1]。だから外部に頼むときは、解析で何を決めたいかを最初に書き、形状・物性・境界条件・運転条件の範囲を、値の出どころ(実測か設計値か)と一緒に渡す。境界条件そのものにも数%の不確かさがあり、結果に効く[2]。受け取る成果物は結果の図だけでなく、計算の検証(格子を変えても答えが動かないか)と、実験など独立した方法との比較の記録までを決めておく[1][3]。解析が現象を表している度合いは、実験や手計算など、解析と独立した方法と比べることでしか示せないからである。
目次
依頼する前に、解析で何を決めたいかを書く
CFD解析の外注がうまくいかない原因は、計算の腕よりも依頼の入口にあることが多い。「ダクトの流れを解析してほしい」とだけ頼むと、解析する側は形状を受け取って計算し、流速の分布図を返してくる。しかし発注側が本当に知りたかったのは、「圧力損失を今より下げられる形状はどれか」かもしれないし、「この風量で冷却が足りるか」かもしれない。決めたいことが違えば、計算の範囲も、出力する量も、確かめ方も変わる。
日本原子力学会誌の解説は、シミュレーションは数値計算による予測なので、実現象に対する計算結果の正しさを演繹的に証明することはできず、正しさの度合い(品質)を状況証拠の積み上げで帰納的に論証するしかない、と書いている[1]。そして、その論証の中核が V&V(検証と妥当性確認)だとしている。依頼書の最初に「何を判断するための解析か」を書くのは、何を論証すれば足りるかを決めるためである。
依頼の目的は、たとえば次のように書く。
- 候補形状 A・B・C のうち、規定風量での圧力損失が最も小さいものを選ぶ
- 現行の撹拌条件で、槽内に流れの淀む場所があるかを確かめる
- 製品の表面温度が上限を超えない冷却風量の目安を出す
「選ぶ」「確かめる」「目安を出す」のどれかで、求める精度は大きく違う。複数の案の順位が分かればよい比較なのか、絶対値で上限と比べる判定なのかを、依頼の段階で伝える。絶対値で判定する用途ほど、後で述べる実験との比較が欠かせなくなる。
依頼前に揃えるもの
解析を頼むときに渡す情報は、形状だけでは足りない。解説は、実体を言葉で記述し理想化する過程で、形状・材料特性・荷重の不確かさや、数学的モデル化に伴う不確かさが入り込み、さらに解析モデルを作って計算する過程で入力の誤りや数値計算の誤差が入る、と整理している[1]。発注側が揃える情報は、この入り口の不確かさを小さくするためのものである。
| 揃えるもの | 中身 | 無いと起きること |
|---|---|---|
| 形状 | 3次元モデル、図面、実物と図面が違う箇所(溶接の盛り上がり・継ぎ目の段差など) | 理想形状で計算され、実機の損失や偏りが出ない |
| 流体と物性 | 空気・水・油などの種類、温度範囲、粘度や密度の温度依存 | 一定値で計算され、温度が変わる条件で外れる |
| 境界条件 | 入口の流量・圧力・温度、出口の条件。値が実測か設計値か、その測り方 | 結果の差が、計算の差か入力の差か切り分けられない |
| 運転条件の範囲 | 定格だけでなく、最小・最大の運転点 | 1 点だけ合わせた結果を、範囲全体に使ってしまう |
| 判定に使う量 | 圧力損失、最高温度、流量の配分など、何を数字で返してほしいか | 図はきれいでも判断に使える数字が無い |
| 手元の実測値 | 現行品で測った圧力・温度・流量があれば、測定位置と条件ごと | 比較の相手が無く、妥当性確認が後回しになる |
このうち境界条件は、渡す側が「確かな値」と思い込みやすい。精度保証付きの実験データを論じた解説は、直径 100 mm の円管に水を平均流速 1 m/s で流す単純な例で、直径の公差が 1 mm なら断面積で 2%、流量計の誤差を 5% と考えると、流束の誤差は合わせて約 5.4% になる、と計算してみせている[2]。同じ解説は、板曲げ溶接で作った円管なら真円度や溶接部の盛り上がり、表面粗さも流れに影響しうると書いている[2]。
| 入力の不確かさ(解説の例) | 大きさ | 流束への影響 |
|---|---|---|
| 直径 100 mm に対する公差 1 mm | 長さで 1% | 断面積で 2% |
| 流量計の誤差 | 5% と仮定 | 5% |
| 両方を独立とみて合わせる | — | 約 5.4%(1,000 mm/s に対し ±54 mm/s) |
出典の数字はあくまで説明のための例で、どの設備にもこの値が当てはまるわけではない。ただ、発注側が「流量は 1 m/s」と一つの数字で渡したとき、その数字自体に幅があることは覚えておきたい。依頼書には、値と一緒に「どの計器で、どこで、いつ測ったか」を書き、設計値なら設計値と明記する。
解析の条件は、依頼する側と受ける側で決める
乱流の扱いと、計算の細かさ
流れの多くは乱流で、その扱い方によって計算の重さと答えが変わる。解説は、乱流の計算には k-ε モデルのような単純なものから、LES(大きな渦を直接解く方法)、場合によっては DNS(乱流を直接解く方法)まで様々なモデルがあり、また計算では流れが十分に発達していると仮定することが多いが、実験では助走区間を長く取っても偏りが残ることがある、と指摘している[2]。
どのモデルを使うかは解析する側の専門の領分だが、発注側は「なぜそのモデルで足りるのか」の説明を求めてよい。判断が順位づけなら軽いモデルで足りることもあり、局所の温度の山を見たいなら、より細かい扱いが要ることもある。条件の選び方を見積の段階で書面にしてもらうと、後で結果が合わなかったときに、どこを見直すかの手がかりになる。
計算が収束しているかを確かめる(検証)
V&V の前半の「検証」は、計算モデルが基礎になる数学モデルとその解を正確に表しているかを示すことで、後半の「妥当性確認」は、モデルが意図した使い道に対して現実の現象をどの程度正確に表しているかを示すことだ、と解説は ASME(米国機械学会)の定義を紹介している[1]。
検証の代表的なやり方が、計算の格子(流れ場を区切る細かさ)を変えて答えが動かないかを見ることである。日本計算工学会の論文では、差分法で数値解を求め、格子収束指数(GCI)とリチャードソン外挿を使って、格子に依存しない解を算出している[3]。外注先にこの手法そのものを指定する必要はないが、「格子を粗い・中くらい・細かいの少なくとも数段階で計算し、判定に使う量がどれだけ変わったか」を成果物に入れてもらうのは、発注側が求めてよい最低限の確認である。
同じ論文は、別々の実験(染料注入法と PIV)で、渦崩壊が起きる限界のレイノルズ数がずれている可能性に触れたうえで、数値解がどちらの実験値に近いかを調べている[3]。実験の値にも幅があり、計算と実験のどちらかが常に「正」とは限らない。この点は、次の妥当性確認の考え方につながる。
実験で確かめる理由
計算がどれだけ細かくても、解析モデルが現実の現象を表しているかは、計算だけでは分からない。日本計算工学会の標準手順(HQC002)を紹介した解説によれば、妥当性確認では解析結果を独立した方法による解(外部的論証材料)と比べ、独立した方法として手計算、妥当性確認済みの類似解析(参照解析)、別の解析モデルによる計算(クロスチェック)、実験を挙げている[1]。また、境界条件の影響を見る感度解析や上下界評価のように、解析モデルを使った試験(内部的論証材料)で理想化の適切さを評価するとしている[1]。
製造業の設備や製品では、現行品の実測値を「独立した方法」として使えることが多い。たとえば送風機では、JIS B 8330 が試験項目として温度、送風機全圧、送風機静圧、空気量、回転速度、軸動力、騒音及び運転状態を挙げ[4]、遠心送風機は締切状態又はサージング点から 5 種類以上の異なった空気量で試験し、少なくとも 1 種類は規定の圧力より低い圧力で試験する、と定めている[4]。規格の試験が複数の運転点で特性を取るのと同じように、解析も 1 点だけで実測と合わせて終わりにせず、運転範囲の複数の点で比べるほうが、範囲全体に使ってよいかを判断しやすい。
精度保証付き実験データの解説は、検証用データの必要条件として、実験の境界条件・初期条件が明確であること、得られた計測結果の物理量が明確で不確かさが評価されていることの 2 点を挙げている[2]。社内で比較用の実測をするなら、測定点の位置、計器、測った時の運転状態を記録し、どの程度の誤差がありうるかを添えておく。そうでないと、計算と実測が数%ずれたとき、それが解析の問題なのか測定の問題なのか判断できない。
なお、解説は ASME の V&V が妥当性確認をした試験条件の近くでの実機計算を暗黙の前提としていて、大きな内挿・外挿を伴う場合の予測性能の評価は今後の課題としている、と述べている[1]。実測で確かめた範囲の外へ条件を広げて解析結果を使うときは、その分だけ余裕を見込む必要がある、ということである。
受け取る成果物を、見積の前に決める
結果の図だけを納品物にすると、後で条件を変えた再計算も、他社での追試もできない。成果物は見積の前に一覧にしておく。
| 成果物 | 入れてもらう内容 |
|---|---|
| 解析の仕様と計画 | 目的、対象範囲、仮定と簡略化した箇所、使うソフトウェアと版 |
| 入力条件の一覧 | 形状の版、物性値、境界条件と、その出どころ |
| 検証の記録 | 格子を変えたときの判定量の変化、収束の状況 |
| 妥当性確認の記録 | 実測や手計算との比較、ずれの大きさとその理由の考察 |
| 結果と結論 | 判定に使う量の数値、使ってよい条件の範囲 |
| データ一式 | 解析モデルや計算結果のファイルを渡すか、どの形式で、どこまで |
解説によれば、HQC002 は計画からデータの保管までの一連の工程を含む標準的な手順をまとめたもので、本番計算の前に解析モデルを確かめる事前検証と、解析結果の検証を合わせた系統的な検証を重視している[1]。外注先がこうした手順で業務を回しているかは、見積の段階で尋ねてよい項目である。
データと権利の扱い
解析モデルや計算結果のファイルを受け取るかどうかは、価格に関わる。取引が取適法の情報成果物作成委託に当たる場合、公正取引委員会のテキストは、委託した情報成果物の作成過程で受託側に知的財産権が発生し、作成の目的たる使用の範囲を超えて委託側に譲渡・許諾させることを含めて発注するなら、その範囲を発注時の明示(4 条明示)の「給付の内容」の一部として明示し、譲渡・許諾の対価を代金に加える必要がある、としている[5]。解析の外注がどの取引に当たるかは、委託の内容と双方の規模で決まるので、製造委託・情報成果物・役務提供のどれに当たるかの記事で確かめる。当たらない場合でも、データの扱いを先に書面にしておけば、後から「ファイルも渡してほしい」と頼んで揉めることを避けられる。
よくある質問
実験の費用が出せない。解析だけで決めてはいけないか
判断の重さによる。複数案の順位づけなら、検証を丁寧にしたうえで解析だけで絞り込み、最後の 1 案だけを試作で確かめる進め方もある。絶対値で上限と比べる判定を解析だけで行うなら、解析の結果に余裕を見込むか、手計算や過去の類似解析など、実験以外の独立した方法で比べておく[1]。どれも無い状態で絶対値だけを使うのは避けたい。
解析と実測が合わなかったら、誰の責任か
まず、どこが原因かを切り分ける。入力の境界条件、格子、乱流の扱い、実測側の誤差のどれが効いているかは、検証と妥当性確認の記録が無いと分からない[2]。成果物に記録を入れてもらう取り決めは、この切り分けのためでもある。合わないこと自体は珍しくなく、合わない理由を説明できる解析かどうかを見る。
過去に頼んだ解析で、実機の性能が出なかった
条件設定と現場とのずれについては、流体解析の条件設定が甘く実環境で性能が出ないトラブルの記事が典型的な原因を挙げている。依頼のやり直しでは、上の表の「境界条件」と「運転条件の範囲」をまず見直す。振動や騒音が絡む場合は、流れの解析とは別に測定から入る進め方もあり、振動の測定と解析を頼むときの記事で扱っている。製品の試験条件を仕様にどう書くかは、振動・衝撃試験を仕様に入れるときの記事が参考になる。
画像の検査を自動化したいが、これも外部に頼めるか
流れの解析とは別の技術だが、依頼の前に「何を決めたいか」と「どう確かめるか」を書く点は同じである。始める前に決めることは、外観検査を AI で自動化するときの記事にまとめた。
まとめ
CFD解析の結果は予測で、正しさは検証と妥当性確認の積み上げで示すしかない。外部に頼むときは、何を決めるための解析かを書き、形状・物性・境界条件・運転範囲を値の出どころと一緒に渡す。格子を変えて答えが動かないかの検証と、実測など独立した方法との比較を成果物に入れ、データと権利の扱いを見積の前に決める。実験で確かめた範囲の外へ使うときは、その分の余裕を見込む。
出典・参考資料
- シミュレーションの V&V の現状と課題 第 3 回(最終回)V&V に関わる技術標準の動向-「モデル V&V と品質 V&V」(中村 均/日本原子力学会誌 57 巻 2 号/2015 年)
- モデリング・シミュレーションの高度化 第 2 回 V&V のための精度保証付実験データ(岡本 孝司/日本原子力学会誌 56 巻 2 号/2014 年)
- 円筒容器内渦崩壊流れに対する格子収束指数の適用(岩津 玲磨・中塚 勇貴・鈴木 晃二・児山 秀晴/日本計算工学会論文集 2019 巻/2019 年 6 月)
- JIS B 8330:2000 送風機の試験及び検査方法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2000 年 7 月 20 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
工程の条件を、解析と実験で決めたいとき
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