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MCナイロンとPA66(ナイロン66)の選び方——吸水による寸法変化、切削品の公差と発注での指定

この記事のポイント(結論先出し)
MC ナイロンは PA6(ナイロン 6)をモノマーキャスティングで作った材料で、ポリアミドの成形用・押出用材料の呼び方を決める JIS K 6920-1 は、PA6 のモノマーキャスティングタイプを適用範囲から除いている[1]。だから MC ナイロンは JIS の呼び方では指定できず、材料メーカーとグレード、又は要る性質の値と試験方法で書く。PA66(ナイロン 66)は同じ規格の呼び方で書ける[1]。どちらも水を吸うと寸法が大きくなり[5]、PA66 は吸水で実用上の弾性率が大きく下がるとされる[6]。規格の引張弾性率は絶乾状態で測る値なので[1]、データシートの値は乾いた材料の値として読む。切削品の公差は、金属の普通公差 JIS B 0405 を非金属に当ててもよいとされているが[4]、どの吸湿状態・どの雰囲気で測って合否を決めるかを発注時に書いておかないと、受入で寸法が合わない。
目次
MC ナイロンと PA66 は、規格のうえでも扱いが違う
ギヤ・ローラ・ライナ・ブッシュのような機械部品の図面では、材質欄に「MC ナイロン」「ナイロン 66」「PA66」と書かれることがある。どれも「ナイロン」と呼ばれるので同じ仲間に見えるが、発注の書き方は同じではない。
ポリアミド(PA)の成形用及び押出用材料の呼び方を決めている JIS K 6920-1(2018 年改正)は、全てのポリアミドのホモポリマー・コポリマー・混合品に適用するとしたうえで、PA6 のモノマーキャスティングタイプのポリアミドと、PA12 のモノマーキャスティングタイプのポリアミドを適用から除いている[1]。MC ナイロンは、モノマーキャスティング(モノマーを型に注いで、その場で重合させる作り方)で作る PA6 で、この除かれた側に入る。ネットワークポリマー誌の報文(2010 年)は、モノマーキャスト型の PA6 を、初期粘度がきわめて低いモノマーを急速にポリマーへ重合できる「現場重合型」と説明し、予熱した金型に注型して重合させている[8]。つまり MC ナイロンの部品を「JIS K 6920-1 の呼び方で」指定することはできず、材料の中身は、材料メーカーのグレードで固定するか、要る性質の値とその試験方法で決めることになる。
一方 PA66 は、この規格の呼び方で書ける。規格は、ジアミンとジカルボン酸の二つのモノマーから作るポリアミドを PA xy と表し、x をジアミンの炭素数、y をジカルボン酸の炭素数とする[1]。PA66 はヘキサメチレンジアミン(炭素数 6)とアジピン酸(炭素数 6)から作るので PA 66 になる。単一モノマーから作るものは PA x と表し、ε-カプロラクタムからのホモポリマーが PA 6 である[1]。呼び方には、強化材・充てん材の種類と含有率(GF37 なら 37%ガラス繊維)、用途や加工方法(射出成形用の M、押出用の E など)、熱老化安定性などの添加剤、粘度数と引張弾性率の区分が並ぶ[1]。
| 項目 | MC ナイロン | PA66(成形用・押出用材料) |
|---|---|---|
| ポリマー | PA6(ポリアミド 6)[7] | PA66(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸から)[1] |
| JIS K 6920-1 の扱い | モノマーキャスティングタイプとして適用除外[1] | 呼び方で指定できる[1] |
| 発注での特定 | 材料メーカーとグレード、又は要る性質の値と試験方法で書く | JIS の呼び方、又はメーカーとグレードで書く |
| 規格の引張弾性率の測り方 | (規格の対象外) | 絶乾状態で測る[1] |
| ガラス転移点(文献の値) | (文献で確かめていない) | 50℃付近[6] |
表の「発注での特定」の行は、規格の要求ではなく発注側の実務の整理である。MC ナイロンの欄に空欄を残したのは、この記事で読んだ一次資料の範囲で確かめられなかった項目を、推測で埋めないためである。
MC ナイロンは、荷重のかかり方で強さが違う
MC ナイロン(PA6)の機械的性質を調べた研究(2018 年)は、単軸の引張・圧縮とねじりの試験を、ひずみ速度を変えて行い、どの負荷条件でもひずみ速度への依存性がはっきり見られたこと、ねじりによるせん断強さが最も低く、圧縮強さが最も高かったことを報告している[7]。論文は、MC ナイロンの部品にせん断の荷重がかかると強度低下のおそれがあるとしている。キー溝を持つ樹脂ギヤや、ねじで締めたフランジのように、せん断がかかる部位がある部品は、カタログの引張強さだけで寸法を決めないほうがよい。
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水を吸うと、寸法と剛性が変わる
ナイロンの性質を結晶化の面からまとめた総説(1960 年)は、ナイロンが吸水すると寸法が増えること、各種ナイロンの吸水率の差は、結晶化による吸水率の低下よりも大きく影響すること、熱処理すると結晶化度が高くなると同時に成形残留ひずみの緩和も起こり、一定の水分率の変化に対する寸法変化が少なくなることを示している[5]。同じナイロンでも、熱処理(アニール)をしたかどうかで、吸水したときの寸法の動き方が変わるということである。
剛性も変わる。日本機械学会の講演論文(2019 年)は、PA66 のガラス転移点が 50℃付近にあり、それより高い温度では曲げ弾性率が大きく下がること、さらに PA66 は吸水が非常に多く、実用上の弾性率はデータより大きく下がることを書いている[6]。JIS K 6920-1 は引張弾性率を絶乾状態で測るとしているので[1]、データシートの弾性率は「乾いた状態の値」であり、使う環境で水を吸った状態の値ではない。
吸水率の数字は、そのまま比べられない
材料を比べるとき、データシートの「吸水率」を並べたくなる。しかしプラスチックの吸水率の求め方を決めた JIS K 7209 は、決めた時間だけ浸せきしたり湿度にさらしたりして求めた吸水率は、同じ材料のバッチの違いを比べたり品質管理に使ったりするためのもので、水分平衡には達しないので、種類の異なるプラスチックの水分吸収特性の比較には用いることができない、と書いている[2]。材料どうしの比較は、同じ条件にさらした平衡含水量で行うべきだとしている[2]。
代表的な浸せきの方法は、23℃の水に(24±1)時間浸してから表面の水をふき取って量るものである[2]。「24 時間で 0.○%」という値は、その条件のその厚さの試験片の値で、部品が使う環境で最終的に吸う量ではない。MC ナイロンと PA66、あるいはナイロンと別の樹脂を吸水率の数字で比べて選ぶときは、同じ条件で求めた平衡の値かどうかを、まず確かめる。
切削品の公差は、測る状態を決めないと合否が決まらない
MC ナイロンや PA66 の切削品の図面には、金属部品と同じように「普通公差 JIS B 0405 中級」と書かれていることが多い。JIS B 0405 は、金属の除去加工又は板金成形によって製作した部品の寸法に適用するとしたうえで、これらの公差は金属以外の材料に適用してもよい、と備考に書いている[4]。樹脂の切削品に JIS B 0405 を当てること自体は、規格の枠内である。普通公差の等級の考え方は普通公差(JIS B 0405)の等級指定で扱った。
問題は、どの状態の寸法に公差を当てるかである。吸水で寸法が動く材料では、加工直後に測った寸法と、倉庫で数週間置いてから測った寸法が違いうる。プラスチックの状態調節と試験の標準雰囲気を決めた JIS K 7100 は、特に規定がない場合の標準雰囲気を 23℃・相対湿度 50%とし、関連する規格に状態調節の時間が書いていなければ、この雰囲気で 88 時間以上置くとしている[3]。規格の附属書は、水分の吸収や脱離の速さは材料や試験片によって違うことを述べており[3]、厚い切削品では既定の時間で平衡に達しないことも考えておく。
実務では、次のどれで判定するかを図面か購買仕様書で決める(規格の要求ではなく提案である)。
| 判定する状態 | 書き方の例 | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 加工直後(出荷時) | 「加工後○時間以内に、温度 23℃で測った値で判定する」 | 受入で時間がたってから測ると外れる |
| 標準雰囲気で状態調節した後 | 「JIS K 7100 の 23/50 で○時間置いてから測る」[3] | 仕入先と受入で置く時間が違い、値が合わない |
| 使う環境を想定した吸水後 | 「所定の条件で吸水させた後の寸法を設計値とする」 | 乾燥状態で合格した部品が、使用中にはめあいがきつくなる |
軸受のブッシュのように、はめあいで機能が決まる部品は、どの状態の寸法を狙うかで加工寸法そのものが変わる。これは発注側の設計の判断で、仕入先に任せると、仕入先は自分が測りやすい加工直後の寸法で合わせる。樹脂を成形で作る場合の、収縮と吸湿を含めた考え方は樹脂成形品の寸法公差の決め方にまとめた。
発注書・図面に書くこと
- MC ナイロンなら材料メーカーとグレード、又は要る性質の値と試験方法。PA66 なら JIS K 6920-1 の呼び方か、メーカーとグレード
- 強化材・充てん材の有無と種類・含有率(PA66 なら呼び方の GF30 など)
- 素材から削るのか、成形品なのか(同じ PA でも作り方が違えば別の部品になる)
- 熱処理(アニール)の要否
- 寸法を判定する状態(加工直後・状態調節後・吸水後のどれか)と、測る雰囲気と時間
- はめあい寸法など機能に効く寸法は、普通公差に任せず個別に公差を書く
- 材料やグレードを変える前に承認を取ること
よくある質問
MC ナイロンの部品を、射出成形の PA66 に置き換えてもよいですか
同じ部品として扱わないほうがよい。ポリマー(PA6 と PA66)も、作り方(素材からの切削と射出成形)も違い、JIS のうえでも MC ナイロンは呼び方の適用から除かれている[1]。置き換えるなら、寸法・強度・吸水後の寸法変化を、実際の部品で確かめて承認する。代替を承認する手順の一般論は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認を参照してほしい。
データシートの吸水率が小さいほうを選べば、寸法は安定しますか
その数字だけでは決められない。決めた時間だけ浸せきして求めた吸水率は、種類の異なるプラスチックの比較には使えないと JIS K 7209 に書かれている[2]。比べるなら同じ条件の平衡の値で比べ、熱処理の有無で寸法の動き方も変わることを考える[5]。
受入で寸法が図面から外れていたら、不合格にしてよいですか
判定する状態を発注時に決めていたなら、その状態にそろえて測り直してから判断する。決めていなかったなら、まず仕入先と測った条件(時間・温度・湿度)を突き合わせる。基準を後から厳しくして不合格にすると、取引上の問題にもなりうるので、次の発注から判定する状態を書面にする。
まとめ
MC ナイロンは PA6 のモノマーキャスティングタイプで、JIS K 6920-1 の呼び方の適用から除かれているので、メーカーとグレード、又は要る性質の値と試験方法で指定する。PA66 は同じ規格の呼び方で書ける。どちらも吸水で寸法が大きくなり、PA66 は吸水で実用上の弾性率が下がる。規格の弾性率は絶乾状態の値で、データシートの吸水率は種類の違う材料どうしの比較には使えない。MC ナイロンにはせん断の荷重で弱い面がある。切削品に JIS B 0405 を当てるのは規格の枠内だが、どの吸湿状態・どの雰囲気で測って判定するかを決め、はめあい寸法は個別の公差で書く。
同じ束では、吸水の少ない摺動材料をPOM(ポリアセタール)の選び方で、耐熱・絶縁の部品に使われる熱硬化性樹脂をフェノール樹脂の工業部品の発注で、ほとんど吸水しないふっ素樹脂をPTFE 部品の発注で扱う。
出典・参考資料
- JIS K 6920-1:2018 プラスチック-ポリアミド(PA)成形用及び押出用材料-第1部:呼び方のシステム及び仕様表記の基礎(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 2 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
- JIS K 7209:2000 プラスチック-吸水率の求め方(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2000 年 2 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS K 7100:1999 プラスチック-状態調節及び試験のための標準雰囲気(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 7 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0405:1991 普通公差-第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1991 年 2 月 1 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- 小林治男・高柳孟司・井上正一「ナイロンプラスチックの性質(主として結晶化による諸性質の変化について)」材料試験 9 巻 85 号(日本材料学会/1960 年 10 月)
- 加田雅博「ポリアセタールが樹脂歯車市場を独占している技術的背景」日本機械学会 2019 年度年次大会 講演論文集(日本機械学会/2019 年 9 月)
- 栗田詢也・吉川高正・稲葉忠司「MC ナイロンの機械的性質に関する実験的研究」日本機械学会 M&M2018 材料力学カンファレンス 講演論文集(日本機械学会/2018 年 12 月)
- 今西春実・西田裕文・平山紀夫「ポリアミド 6 をベースとしたポリマーアロイの開発と複合材料への応用」ネットワークポリマー 31 巻 2 号(合成樹脂工業協会/2010 年)
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