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投稿日:2026年10月16日

フェノール樹脂(ベークライト)部品の発注——積層板 JIS K 6912 の記号と、耐熱・絶縁での選び方

この記事のポイント(結論先出し)

フェノール樹脂(ベークライト)の工業部品は、板から削る積層板(JIS K 6912)と、型で成形する成形材料(JIS K 6915)で規格が分かれる[1][2]。積層板は基材と用途で記号が決まっていて、紙基材の PL-PEM、布基材の PL-FCM、ガラス布基材の PL-GH のように、同じ「フェノール樹脂の板」でも別の材料になる[1]。成形材料の規格の値は試験片の値で、圧縮・射出・トランスファの成形方法が違えば同じ呼び方でも同一とはみなさない、と規格自身が書いている[2]。どちらの規格も、検査は注文者との取り決め(協定)に任せている部分があるので[1][2]、記号まで書き、検査の項目と成績書を注文時に決めておく。紙基材の積層板はもろく、打抜きで切り口に割れが出やすいので[3]、打抜く部品は打抜き用の記号を選ぶ。絶縁部品では、汚れと結露によるトラッキングにも気を配る[4]。

「ベークライト」で頼むと、何が決まらないか

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絶縁板・端子台・治具のベース・ギヤ・ワッシャのような部品の図面では、材質欄に「ベークライト」「フェノール樹脂」「紙ベーク」「布ベーク」と書かれることがある。ベークライトはフェノール樹脂の通称として使われる呼び名で、規格の材料名ではない。日本機械学会誌の解説(1960 年)は、フェノール樹脂の工業的生産は古く 1910 年にさかのぼり、工業化に初めて成功したのは Leo H. Baekeland 氏で、戦前には合成樹脂の代名詞のように親しまれたと書いている[6]。同じ解説は、フェノール樹脂の応用製品として、成形材料・積層製品・注形用・塗料・接着剤・各種の結合剤を挙げている[6]。

工業部品として買うのは、このうち主に積層板と成形材料である。積層板は紙や布に樹脂を含ませて重ね、加熱加圧して板にしたもので、部品は板から切削や打抜きで作る。成形材料は粉末状の材料で、金型で圧縮・射出・トランスファ成形して部品にする。この二つは JIS が別で、指定の書き方も違う。「ベークライト」とだけ書くと、どちらなのか、どの基材なのかが決まらない。

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積層板は、記号で基材と用途が決まる(JIS K 6912)

熱硬化性樹脂積層板の JIS K 6912 は、紙を主基材としフェノール樹脂やエポキシ樹脂を結合剤とした板、布を主基材としフェノール樹脂を結合剤とした板、ガラス布やガラスマットを主基材とした板などを対象に、種類・区分・記号を決めている[1]。本体は 1995 年版で、2006 年の追補 1 で石綿基材フェノール樹脂積層板(PL-AH・PL-AFH)の種類が削除された[1]。古い図面に石綿基材の記号が残っていたら、現行の規格には無い材料なので、図面を改めて代わりの記号を決める必要がある。

記号の頭の PL はフェノール樹脂積層板を表し、続く文字で基材と用途が分かれる。主なものを抜き出すと次のようになる。加熱後の外観の試験温度は、この温度で外観に著しい変化がないことを確かめる試験の条件で、使ってよい温度の上限ではない[1]。

記号 種類 区分 加熱後の外観の試験温度
PL-PEM 紙基材フェノール樹脂積層板 電気及び機械用 130±2℃
PL-PM 紙基材フェノール樹脂積層板 機械用 120±2℃
PL-PEM-P 紙基材フェノール樹脂積層板 電気,機械及び打抜き用 120±2℃
PL-FCM 布基材フェノール樹脂積層板 太糸布基材:機械用 140±2℃
PL-FLI 布基材フェノール樹脂積層板 細糸布基材:機械精密加工用 140±2℃
PL-GH ガラス布基材フェノール樹脂積層板 長繊維ガラス布基材:機械用 180±2℃

表は規格の表 1 と表 10 から抜き出したもので[1]、ほかに紙基材の耐電圧・耐湿用や耐燃用、布基材の電気用などの区分がある。品質の規定値(曲げ強さ・絶縁抵抗・吸水率など)は記号ごとに規格の表 2・表 3 にあるので、規格で確かめる。

規格が決めていることと、決めていないこと

JIS K 6912 は、積層板の品質を規格の試験方法で試験したとき表 2 に適合しなければならないとしつつ、受渡当事者間の協定によって試験の一部を省くことができる、としている[1]。厚さは、測定点の 90%以上がその厚さの許容差の範囲内にあり、残りの 10%未満が許容差の 125%以下でなければならない、という決め方で、許容差の値は記号と厚さごとの表 6 による[1]。色は原則として自然色で、フェノール樹脂積層板の自然色には薄い黄褐色から薄い褐色や赤褐色まで種々含まれ、それ以外の色が要るときは受渡当事者間の協定による[1]。包装への表示は、名称・種類と記号・色・正味質量・寸法・製造年月と製造ロット・製造業者名である[1]。

ここで押さえておきたいのは、規格の厚さ許容差やそり率は積層板(素材の板)に対する規定で、板から削った部品の寸法を保証するものではないことである。部品の寸法は、図面の公差と、切削の普通公差をどう当てるかで決まる(普通公差の考え方は普通公差(JIS B 0405)の等級指定で扱った)。また、試験の一部を協定で省けるので、どの試験の成績を出してもらうかは注文時に決めておく必要がある。

紙基材の板は、打抜きで割れやすい

フェノール樹脂積層板のせん断加工を研究した論文(1964 年)は、通信機器には 3mm 以下の薄板をせん断加工した部品が多く使われるが、この材料はもろいため、せん断の切り口とその近くの表面に割れが発生しやすく、割れを防ぐためにせん断時に材料を加熱して軟化させる必要があり、加熱してせん断すると加熱に伴う寸法変化のために高い精度に加工しにくい、と書いている[3]。割れは電気絶縁上も外観上も好ましくないので、打抜き加工性は特に重視されてきたという[3]。

JIS K 6912 の記号に「打抜き用」の区分(PL-PEM-P など、記号の末尾が P)があるのは、この性質に対応している[1]。打抜きで量産する部品なら打抜き用の記号を選び、切削で作る部品なら機械用の記号を選ぶ、というのが記号の読み方になる。厚い板にも注意がある。規格は参考として、厚さ 30mm を超える紙基材フェノール樹脂積層板は切断面や端面にわずかなひび割れ・き裂が生じることがあるので、布基材フェノール樹脂積層板を使うことが望ましい、と書いている[1]。これは要求事項ではなく参考の記述だが、厚い板から削る部品の基材を選ぶときの目安になる。

成形材料の規格値は、試験片の値(JIS K 6915)

フェノール樹脂成形材料の JIS K 6915(2006 年改正)は、成形材料から圧縮・射出又はトランスファ成形によって作った試験片の物理的・化学的な特性の要求事項を規定するとしている[2]。成形材料は、一般用(PM-GG・PM-GE)、電気用(PM-EG・PM-EE)、衝撃用(PM-ME・PM-MG・PM-MI)、耐熱用(PM-HH・PM-HM)、食器用(PM-T)などの小区分の記号で分かれ、記号の末尾の R はレゾール形を表す[2]。木粉・鉱物粉・ガラス繊維・雲母などの充てん材と強化材の種類と含有率も、小区分ごとに決まっている[2]。

規格の要求特性の表には備考があり、圧縮成形・射出成形・トランスファ成形の材料の特性値の違い、起こりそうな試験結果の変動などによって、同じ呼び方でも同一とはみなさないとされている[2]。また、硬化時間・粒子の大きさ・水分量のような特性が用途によって重要になる場合は、特性と試験方法を受渡当事者間で合意するとし、検査項目と抜取検査も受渡当事者間の協定によるとしている[2]。

つまり、成形材料の記号を図面に書いても、それで決まるのは「試験片で測ったときの特性の下限」までで、成形した部品の性能や寸法ではない。成形品の寸法の決め方は樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱った手順で、別に決める。

絶縁部品で見ておくこと

紙基材フェノール樹脂積層板は絶縁部品に広く使われてきたが、電気学会の論文(1981 年)は、この絶縁部品が空気中のほこりによる汚損や結露などの外的条件によって電食されることがあり、蓄電池スイッチの絶縁材料に使われたフェノール樹脂で、溶出金属を伴ったトラッキングが直接の原因と疑われる火災事故の例が報告されていると書いている[4]。トラッキングは、絶縁物の表面で汚れと水分を介して電流が流れ、劣化が進んでいく現象を指す。JIS K 6915 では、一般用や電気用など多くの小区分に保証トラッキング指数(PTI)の下限が決められている[2]。汚れや結露がある場所で使う絶縁部品は、記号を選ぶときにこの指標を見て、使う環境を仕入先に伝える。

難燃性にも釣り合いがある。難燃性紙基材フェノール積層板を研究した論文(1981 年)は、プラスチックは難燃剤の添加で難燃性が上がる反面、耐熱性・機械的性質・電気的性質などの諸物性が低下するので、物性の低下を抑えた難燃化が求められると書いている[5]。耐燃用の記号を選ぶか、難燃グレードに切り替えるときは、難燃性だけでなく、ほかの特性が要求を満たしているかもあわせて確かめる。

発注書・図面に書くこと

以下は規格の要求ではなく、発注側の実務としての提案である。

  1. 積層板か成形材料か。積層板なら JIS K 6912 の記号、成形材料なら JIS K 6915 の小区分の記号まで書く
  2. 打抜きで作るか切削で作るか(打抜くなら打抜き用の記号)
  3. 厚い板から削る部品なら、基材(紙か布か)を書く
  4. 色(自然色でよいか)
  5. 出してもらう試験成績の項目(規格の試験の一部を協定で省けるため)と、ロットの記録
  6. 絶縁部品なら、使う環境(汚れ・湿気・電圧)と、トラッキングや耐燃性の要求
  7. 材料・記号・製造業者を変える前に承認を取ること

よくある質問

図面に「紙ベーク」とだけあります。そのまま発注してよいですか

紙基材のフェノール樹脂積層板であることは分かるが、JIS K 6912 の紙基材の記号には電気用・機械用・打抜き用・耐燃用など複数の区分がある[1]。部品の用途(絶縁か機械か、打抜きか切削か)を確かめて記号を決めてから発注する。

成形品を、同じ記号の材料なら別の成形方法に変えても同じですか

同じとはみなさない。JIS K 6915 自身が、圧縮・射出・トランスファの成形方法で特性値が違うことなどから、同じ呼び方でも同一とはみなさないと書いている[2]。成形方法を変えるなら、変更として承認の手順を通し、部品で確かめる。

フェノール樹脂の板にも、材料の証明書は付きますか

規格は検査の一部を協定に任せていて、成績書を必ず付けるとまでは決めていない[1][2]。必要な試験項目の成績と、ロットや製造年月が分かる記録を注文時に求めておけば、受入で記号と現品を照合できる。包装には規格どおり種類と記号、製造年月とロットが表示されるので[1]、受入ではその表示も確かめる。

まとめ

フェノール樹脂の工業部品は、板から削る積層板(JIS K 6912)と、型で成形する成形材料(JIS K 6915)で規格が分かれる。積層板は基材と用途で記号が決まり、石綿基材の記号は 2006 年の追補で削除された。積層板の厚さ許容差は素材の板への規定で、部品の寸法は別に決める。成形材料の規格値は試験片の値で、成形方法が違えば同じ呼び方でも同一とはみなさない。紙基材の板はもろく、打抜きでは割れやすいので打抜き用の記号を選び、厚い板は布基材も比べる。どちらの規格も検査の一部を取り決めに任せているので、記号まで書き、成績の項目を注文時に決め、絶縁部品では汚れと結露によるトラッキングと、難燃化による特性の低下にも気を配る。

同じ束では、熱可塑性の樹脂部品をPOM(ポリアセタール)の選び方、MC ナイロンと PA66 の選び方、PTFE 部品の発注で扱う。樹脂を種類で書くかグレードで書くかの一般論は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認にまとめた。

出典・参考資料

  1. JIS K 6912:1995 熱硬化性樹脂積層板(追補 1・追補 2:2006)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 3 月 25 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS K 6915:2006 フェノール樹脂成形材料(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 4 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  3. 北条英典「フェノール樹脂積層板のせん断加工に関する研究」精密機械 30 巻 359 号(精密工学会/1964 年 12 月)
  4. 河村鴻允・坂本三郎「電解液-紙基材フェノール樹脂積層板界面における溶出金属の挙動とトラッキング現象」電気学会論文誌 A 101 巻 12 号(電気学会/1981 年 12 月)
  5. 海老原直文・半田隆「難燃性紙基材フェノール積層板の難燃性およびはんだ耐熱性」材料 30 巻 336 号(日本材料学会/1981 年 9 月)
  6. 山形静達「フェノール樹脂(高分子工業材料特集)」日本機械学会誌 63 巻 497 号(日本機械学会/1960 年 6 月)

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