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無酸素銅 C1020 とタフピッチ銅 C1100 の違い——JIS H 3100 の水素ぜい化と導電率で選ぶ

この記事のポイント(結論先出し)
無酸素銅 C1020 とタフピッチ銅 C1100 の違いは、酸素を酸化銅(I)の形で含むかどうかにある。JIS の用語では、タフピッチ銅は酸素を 0.02〜0.05% 含む銅 99.90% 以上の金属で、還元性雰囲気中で高温加熱すると水素ぜい化を起こす場合がある[1]。無酸素銅は酸化銅(I)や残留脱酸剤を含まない銅 99.96% 以上の金属で、水素ぜい化を起こさない[1]。板の JIS H 3100 では、水素ぜい化試験が規格で適用されるのは C1020 で、C1100 には適用されない[2]。導電率は導電用の製品記号で注文し、注文者が要求したときに適用され、焼なまし材の規定値は両者で同じ[2]。水素を含む雰囲気での加熱(炉中ろう付けなど)・溶接・真空用途のどれかがあれば C1020(真空用途なら C1011 も候補)、どれも無ければ C1100、が判断の軸になる。
この記事は、電気部品・熱交換部品などに使う純銅の板・条・棒を発注するとき、無酸素銅とタフピッチ銅のどちらを指定し、何を発注書に書き、受入で何を確かめるかをまとめる。銅合金(黄銅・りん青銅など)は扱わない。
目次
違いは酸素の含み方:JIS の定義
伸銅品の用語を定めた JIS H 0500 は、三つの純銅を次のように定義している[1]。
- 無酸素銅:酸化銅(I)(Cu₂O)や残留脱酸剤を含まない銅 99.96% 以上の金属(C1011、C1020)。参考として、電気・熱の伝導性に優れ、還元性雰囲気中で高温加熱しても水素ぜい化を起こさない
- タフピッチ銅:酸化銅(I)の状態で酸素を 0.02〜0.05% 含む銅 99.90% 以上の金属(C1100)。参考として、電気・熱の伝導性に優れるが、還元性雰囲気中で高温加熱すると水素ぜい化を起こす場合がある
- りん脱酸銅:りんによって脱酸され、酸化銅(I)を含まない銅 99.90% 以上の金属(C1201〜C1221)。残留りん量の多いものは水素ぜい化の心配はないが導電性が低下し、少ないものは導電性の低下は少ないが条件によっては水素ぜい化のおそれもある
タフピッチ銅は「脱酸した銅」ではない。酸素を酸化銅(I)として含んでいるのがタフピッチ銅で、脱酸してあるのはりん脱酸銅のほうである。この区別を取り違えると、材料の選び方が逆になる。
日本金属学会の会報に掲載された技術資料は、代表的な純銅の分析例として、酸素を無酸素銅で 3 ppm、タフピッチ銅で 370 ppm と 400 ppm と示している[3]。同じ資料は、タフピッチ銅では含まれる酸素が過飽和で、Cu₂O の形で析出しているためミクロ的には Cu₂O を介在した不均一相であり、無酸素銅では酸素が 3 ppm 以下ときわめて少ないと説明している[3]。また、第 2 相が Cu₂O の形で存在しないことは、加工の際のクラックの基点を少なくするので、機械的特性にも好ましい影響を与えると考えられる、としている[3]。
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JIS H 3100 の規格値を並べると
板と条の規格 JIS H 3100「銅及び銅合金の板及び条」の値を並べる[2]。
| 項目(JIS H 3100) | 無酸素銅 C1020 | タフピッチ銅 C1100 |
|---|---|---|
| 銅(Cu) | 99.96% 以上 | 99.90% 以上 |
| 規格の「特色」の記述 | 導電性・熱伝導性・展延性・絞り加工性に優れ、溶接性・耐食性・耐候性がよい。還元性雰囲気中で高温に加熱しても水素ぜい化を起こすおそれがない | 導電性・熱伝導性に優れ、展延性・絞り加工性・耐食性・耐候性がよい |
| 水素ぜい化試験 | 適用する | 適用しない |
| 導電率(質別 O・厚さ 0.50 mm を超え 30 mm 以下の板・導電用) | 100 %IACS 以上 | 100 %IACS 以上 |
| 引張強さ(質別 O) | 195 N/mm² 以上 | 195 N/mm² 以上 |
| 板の適用寸法(厚さ×幅×長さ) | 0.10〜30 mm × 1 250 mm 以下 × 3 500 mm 以下 | 0.10〜30 mm × 2 500 mm 以下 × 3 500 mm 以下 |
導電率は、注文者の要求がある場合に適用される規定である[2]。焼なまし材(O)の導電率の規定値は、C1020 と C1100 で同じ値になっている。規格の上では、導電率だけで無酸素銅を選ぶ理由は見えにくい。両者を分けるのは、水素ぜい化と、規格の「特色」に書かれた溶接性である[2]。
水素ぜい化:加熱の工程があるかで決める
JIS H 3100 は、合金番号 C1020 と C1201 の板と条は水素ぜい化試験を行ったとき、結晶粒界に水素ぜい化特有の多数の気泡または粒界分離を示す組織が生じてはならない、ただし C1201 は注文者の要求がある場合に適用する、としている[2]。試験は、水素を充満させた加熱炉で試験片を 850±25℃ で 30〜120 分加熱し、研磨とエッチングのあと顕微鏡で 75〜200 倍に拡大して結晶粒界を観察する[2]。C1100 にはこの規定がない。
棒の規格 JIS H 3250 も同じ考え方で、C1020 B は水素ぜい化試験を行って同じ組織が生じてはならず、C1201 B は注文者の要求がある場合に試験を行うとしている[4]。
発注側が確かめるのは、部品の製造工程か使用中に、水素を含む還元性の雰囲気で高温に加熱される場面があるかどうかである。たとえば、水素を含む雰囲気の炉で行うろう付けや焼なまし、還元雰囲気での熱処理がそれに当たる。JIS H 0500 の定義どおり、タフピッチ銅はこうした加熱で水素ぜい化を起こす場合がある[1]。加熱の工程が部品メーカーの中にあって発注側から見えないこともあるので、見積の段階で工程を確かめる(当方の提案)。
真空機器なら電子管用無酸素銅 C1011 もある
無酸素銅にはもう一つ、JIS H 3510「電子管用無酸素銅の板,条,継目無管,棒及び線」がある[5]。合金番号は C1011 で、銅 99.99% 以上、酸素 0.001% 以下、鉛・亜鉛・ビスマス・カドミウム・水銀・りん・硫黄・セレン・テルルにもそれぞれ上限が決められている[5]。水素ぜい性は、板・条・管・棒の水素ぜい化曲げ試験、線の繰返し曲げ試験、顕微鏡試験のいずれかで確かめる[5]。導電率は、焼なまし材の板で厚さに応じて 100 %IACS 以上または 101 %IACS 以上と規定されている[5]。
JIS H 3100 は、適用範囲から JIS H 3510 に規定する板と条を除いている[2]。真空装置の部品などで不純物とガスの放出を厳しく管理したい場合は、C1020 ではなく JIS H 3510 の C1011 で注文するかを、設計者に確かめる。
製品記号で「導電用」と寸法の等級を指定する
JIS H 3100 は、表の種類の記号の後に質別を示す記号を付けて製品記号とし、導電用または圧力容器に使用する場合は、種類の記号の後に用途を示す記号と質別を付けて製品記号とする[2]。導電用は P・PS・R・RS の後に C、圧力容器用は V を付ける[2]。P は板、R は条(コイル状の帯)で、S の付いたものは特殊級である。等級(普通級・特殊級)は寸法の精度(許容差または許容値)によって分類される[2]。
規格の表示の例は「JIS H 3100 C 1020 PS-1/2H」である[2]。導電率の規定値を受入の条件にしたいなら、導電用の製品記号(たとえば C 1100 PC-O)で注文し、導電率の適用を発注書に書く。製品記号の考え方は銅合金でも同じで、銅合金の製品記号と質別の指定で扱っている。
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成績書は要求したときに出る
JIS H 3100 の報告の箇条は、製造業者は受注時に注文者から要求がある場合、受渡当事者間で同意した試験と検査の成績を記載した報告書(成績書)を提出しなければならない、としている[2]。検査の頻度は製造業者の判断によるが、特に要求がある場合は受渡当事者間の協定による[2]。外観も、使用上有害な欠陥の基準は製造業者の判断により、特に要求がある場合は協定による[2]。
JIS H 3100 の附属書 A(参考)は、合金番号ごとに一般に適用する試験項目と、注文者の要求がある場合の試験項目を整理している[2]。C1020 では水素ぜい性が一般に適用する項目、導電率は注文者の要求がある場合の項目である[2]。成績書が要るなら、載せてほしい項目(化学成分、引張試験、導電率、C1020 なら水素ぜい化試験の結果)を発注書に書く。
発注書に書く項目
純銅の板・条を買うとき、発注書か購買仕様書に書く項目をまとめる(当方の提案)。
- 規格番号と製品記号(例:JIS H 3100 C 1020 P-O、導電用なら C 1100 PC-O)。合金番号だけで終わらせない
- 寸法と等級(普通級か特殊級か)
- 導電率を受入の条件にするなら、その適用
- 部品の工程に還元性雰囲気での高温加熱があるか。ある場合は C1020(または C1011)を指定し、水素ぜい化試験の結果を求める
- 成績書の要否と記載項目
銅の価格は地金の相場で動くので、純度の違いが単価にどう効くかは見積で分けて見る。地金と加工費を分けた価格の決め方は銅を含む部品の価格の決め方で扱っている。
置き換えの判断:C1020 から C1100 にしてよいか
コストを下げたいとき、C1020 を C1100 に替えられないかという話が出る。判断の手順をまとめる(当方の提案)。
- 図面がなぜ C1020 を指定しているかを設計者に確かめる。水素ぜい化を避けるためか、溶接性のためか、真空用途か
- 部品メーカーの工程と、組み付け先の工程に、還元性雰囲気での高温加熱がないかを確かめる
- 導電率が理由なら、導電用の製品記号で C1100 の規定値を満たすかを見る。焼なまし材の規定値は C1020 と同じである
- 替えるなら図面の材料変更として扱い、試作で加工・接合・特性を確かめる
逆に、C1100 で問題が出て C1020 に替える場面もある。ろう付け部や加熱した部分の割れ、ふくれが出たときは、加熱の雰囲気と材料の組み合わせを疑う。
同じ束では、銅と亜鉛の合金を黄銅板 C2801・C2680 の発注で、ニッケル基の耐熱合金をインコネル(NCF600・NCF718)の発注で扱っている。
よくある質問
Q. タフピッチ銅は「脱酸した銅」ではないのか。
A. JIS H 0500 の定義では、タフピッチ銅は酸素を酸化銅(I)の状態で 0.02〜0.05% 含む銅である。りんで脱酸して酸化銅(I)を含まないのはりん脱酸銅(C1201 など)である。
Q. 無酸素銅のほうが電気をよく通すのか。
A. JIS H 3100 の導電用の焼なまし材では、C1020 と C1100 の導電率の規定値は同じである。導電率だけで選ぶなら規格の値に差はない。無酸素銅を選ぶ理由は、水素ぜい化を起こさないことと、溶接性や真空用途である。
Q. C1100 の成績書に水素ぜい化試験の結果がない。
A. JIS H 3100 では C1100 に水素ぜい化試験は適用されない。水素ぜい化の心配がある用途なら、材料を C1020 に替える。
Q. 電子機器の放熱板に使うが、どちらがよいか。
A. 加工の途中や組み付けで還元性雰囲気の加熱(炉中ろう付けなど)があるかで決まる。なければ C1100 で足りることが多い。熱伝導を受入で確かめる規格値はないので、導電率で代わりに見るかを決めておく。
まとめ
無酸素銅 C1020 は酸化銅(I)を含まない銅 99.96% 以上の金属で、還元性雰囲気で高温加熱しても水素ぜい化を起こさない。タフピッチ銅 C1100 は酸素を酸化銅(I)として 0.02〜0.05% 含み、同じ加熱で水素ぜい化を起こす場合がある。JIS H 3100 では水素ぜい化試験は C1020 に適用され C1100 には適用されず、導電率は導電用の製品記号で注文し要求したときに適用され、焼なまし材では両者の規定値は同じである。水素を含む雰囲気での加熱・溶接・真空用途のどれかがあれば C1020(真空なら C1011 も)、どれも無ければ C1100 で選び、製品記号・等級・導電率の適用・成績書を発注書に書く。
出典・参考資料
- JIS H 0500:1998 伸銅品用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 8 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 3100:2018 銅及び銅合金の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- 最近の無酸素銅をベースとした希薄合金(西山進一/日本金属学会会報 28 巻 2 号/1989 年)
- JIS H 3250:2021 銅及び銅合金の棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 1 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 3510:2012 電子管用無酸素銅の板,条,継目無管,棒及び線(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2012 年 10 月 22 日改正)
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