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インコネル(NCF600・NCF718)の発注——JIS G 4901・G 4902 の記号と熱処理、削り・溶接の注意

この記事のポイント(結論先出し)
「インコネル」は商品名で、JIS ではニッケル基の耐熱合金をNCF の記号で規定している。棒は JIS G 4901、板と帯は JIS G 4902 で、どちらも 27 種類がある[1][2]。発注で落としやすいのは熱処理の状態の記号で、NCF718 のように時効処理で強度を出す合金は、規格の強度が時効処理後の値として決められている[1]。板の規格は NCF718 などについて、熱処理の状態の記号と、本体と試験片のどちらに熱処理をするかを注文者が指示するとしている[2]。ミルシートは注文者が求めたときに提出され、種類の指定がなければ検査証明書 3.1 になる[1][2]。削りにくさと溶接材料の選び方は、見積と工程の前提として仕入先と先に合わせる。
この記事は、工業用のニッケル基耐熱合金(いわゆるインコネル)の棒・板を発注するとき、図面と発注書に何を書き、受入で何を確かめるかをまとめる。合金の開発史や商品ごとの特長は扱わない。
目次
インコネルは JIS では NCF の記号で呼ぶ
図面の材質欄に「インコネル 600」「インコネル 718」と書かれていることがある。これは海外メーカーの商品名で、規格の記号ではない。発注書を規格で書くなら、JIS の記号に置き換えておく必要がある。
ステンレス協会の解説は、JIS G 0203 の定義を引いて、耐熱鋼は高温での耐酸化性・耐高温腐食性・高温強度を保つ合金鋼で、合金元素の総量が約 50% を超えるものは一般に超耐熱合金、耐熱合金、または超合金と呼ばれると説明している[3]。インコネルと呼ばれる材料は、この超合金の側に入る。
JIS では、ニッケル基の合金を形状ごとに二つの規格で決めている。棒(丸棒・角棒・六角棒・平材)は JIS G 4901「耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-棒」、板と帯は JIS G 4902「耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-板及び帯」である[1][2]。どちらも種類を 27 種類とし、耐食耐熱超合金を NCF、ニッケル及びニッケル合金を NW の記号で表している[1][2]。現行は棒が 2023 年改正、板が 2019 年改正で、それぞれ改正のときに JIS H 4553(棒)・JIS H 4551(板)が廃止されてこの規格に置き換えられた[1][2]。古い図面に H 番号の規格が書いてある場合は、いまの G 番号の規格に読み替える。
商品名で呼ばれる合金が NCF のどの記号に当たるかは、規格の成分表と照らして決める。JIS G 4901・G 4902 の本体には、商品名や海外規格の番号との対応表は載っていない[1][2]。海外の材料で受ける場合は、同等材の指定と承認の手順で、どの規格のどの成分範囲を満たせば同等とみなすかを決めておく。
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NCF600 と NCF718 を規格の値で並べると
よく使われる二つの合金を、棒の規格(JIS G 4901)の値で並べる。成分は溶湯分析値、機械的性質は製品の熱処理状態での規定値である[1]。
| 項目(棒・JIS G 4901) | NCF600 | NCF718 |
|---|---|---|
| ニッケル(Ni) | 72.00% 以上 | 50.00〜55.00% |
| クロム(Cr) | 14.00〜17.00% | 17.00〜21.00% |
| 鉄(Fe) | 6.00〜10.00% | 残部 |
| 強度を出す元素 | 規定なし | Nb+Ta 4.75〜5.50%、Mo 2.80〜3.30%、Ti 0.65〜1.15%、Al 0.20〜0.80% |
| 規格値の熱処理状態 | 焼なまし(A) | 固溶化熱処理後時効処理(H) |
| 耐力 | 245 N/mm² 以上 | 1 035 N/mm² 以上 |
| 引張強さ | 550 N/mm² 以上 | 1 280 N/mm² 以上 |
| 伸び | 30% 以上 | 12% 以上 |
| 硬さ | 195 HBW 以下(または 92 HRBW 以下) | 331 HBW 以上(または 36 HRC 以上) |
| 表の値が適用される寸法 | 規定なし | 径・対辺距離・厚さ 100 mm 以下 |
二つの合金は、同じ「インコネル」でも使い方が違う。NCF600 は焼なましの状態で規格値が決まっていて、硬さは上限で規定されている。NCF718 は時効処理で強度を出す合金で、規格値は時効処理後の値として下限で規定されている[1]。硬さは表の HBW・HRC などのいずれかによるとされ、どれを適用するかは特に指定がなければ製造業者が選ぶ[1]。受入で硬さを見るなら、試験方法を注文時に指定しておくと、成績書の値と社内の測定値を比べやすい。
板の規格(JIS G 4902)では、NCF718 の H の値は厚さ 25 mm 以下で耐力 1 035 N/mm² 以上・引張強さ 1 240 N/mm² 以上・伸び 12% 以上、25 mm を超え 60 mm 以下で伸び 10% 以上である[2]。同じ記号でも、棒と板では引張強さの下限と適用寸法が違う。図面に「NCF718」とだけあって形状が決まっていないときは、どちらの規格で受けるかを先に決める。
熱処理の状態を記号で指定する
NCF 系の発注で一番大事なのは、どの熱処理状態の材料を買うかである。
棒の規格の記号
JIS G 4901 は、熱処理の状態と仕上げ方法を記号で表している。熱間加工ままが R、焼なましが A、固溶化熱処理が S(S1、S2)、固溶化熱処理後時効処理が H(H1、H2)、熱間加工後時効処理が H3、仕上げ方法は酸洗仕上げ P、冷間引抜き D、切削 T、研削 G である[1]。棒は熱間加工のあとに熱処理を行うのが原則で、受渡当事者間の協定によって熱処理を省略して熱間加工ままとしてもよいとされている[1]。熱処理の種類は受渡当事者間で協定し、熱処理条件は規格の機械的性質に適合するように選ぶ[1]。
熱処理を省略した熱間加工ままの棒には、規格の機械的性質を適用しない。冷間引抜きままの棒は試験は行うが、機械的性質とその規定値は受渡当事者間の協定による[1]。さらに、NCF718 などについては、規格の表以外の熱処理を行った棒の機械的性質も受渡当事者間の協定によるとされている[1]。つまり、熱処理の記号を書かずに発注すると、規格の表の値で受け入れられる材料が届くとは限らない。
板の規格は、熱処理を本体にするか試験片にするかまで指示させる
JIS G 4902 は、NCF601・NCF625・NCF718・NCF750・NCF751・NCF80A・NW5500 の熱処理について、注文者は熱処理の状態を表す記号を指定し、さらに本体と試験片のどちらに熱処理を行うかを指示するとしている[2]。たとえば NCF718 の板を固溶化熱処理の状態(S)で買い、部品に加工したあとで時効処理をする場合、材料メーカーが出す強度の値は「試験片に時効処理をした値」になる。部品そのものの強度は、部品メーカーか熱処理を担当する工場の時効処理で決まる。
両方の規格とも、製造業者が出荷したあとの製品に熱処理を行った場合の機械的性質は規定していない、と注記している[1][2]。材料の成績書の値と、加工・熱処理を終えた部品の値は、別のものとして扱う。
時効処理の条件は参考の例
JIS G 4901 の附属書 A は、NCF718 の熱処理条件の例として、固溶化熱処理(S)を 925〜1 010℃ から急冷、時効処理(H)を S 処理後 705〜730℃ に 8 時間保持、610〜630℃ まで炉冷し、その温度で時効したあと空冷、総時効時間 18 時間と示している[1]。この附属書は「参考」で、規格の要求ではない。部品メーカーに時効処理を任せるなら、条件を仕様書に書き、処理の記録(温度と時間の記録)を出させる。熱処理の図面指示の書き方は熱処理の図面への指定、硬さの試験方法の合わせ方は図面の硬さ指定で扱っている。
耐食性・結晶粒度・非破壊試験は、求めないと試験されない
耐熱合金を選ぶ理由は耐食性や高温での性質であることが多い。しかし規格の試験の多くは、注文者の指定がある場合にだけ行われる。
JIS G 4901 では、耐食性は注文者の指定がある場合に試験を行い、その耐食性と試験方法は受渡当事者間の協定による[1]。結晶粒度は NCF800H だけが規格で粒度番号 5 以下(5 またはこれより粗粒)と決められていて、ほかの種類は注文者の指定がある場合に協定してもよいとされている[1]。製品分析も、注文者の要求がある場合に行い、許容変動値は協定による[1]。
検査の箇条は、注文者は高温引張試験・浸透探傷試験・超音波探傷試験を要求してもよく、その場合の試験方法は JIS G 0567・JIS Z 2343-1・JIS Z 2344 のいずれかにより、合否判定基準は受渡当事者間の協定によるとしている[1]。内部の欠陥が心配な用途なら、どの試験を、どの基準で行うかを注文時に決める。非破壊試験の方法と判定基準の決め方は非破壊検査の指定にまとめた。
ミルシートは注文時に求め、種類を決める
JIS G 4901 と JIS G 4902 の報告の箇条は同じ書き方で、製造業者は注文者から報告の要求がある場合に検査文書を提出しなければならず、検査文書の種類は注文時に特に指定がない場合、JIS G 0415 の検査証明書 3.1 によるとしている[1][2]。配管用のステンレス鋼管の規格のように「特に指定のない限り提出する」書き方ではないので、発注書に書かなければ出てこない場合がある。
JIS G 0415 は、検査証明書 3.1 を、製造業者が受渡検査の試験結果を記載し、注文書の要求事項に適合していることを宣言して発行する文書としている[4]。商社など中間業者を通す場合、中間業者は注文者の要求があるとき、製造業者の検査文書の原本か複製を、修正や追加をせずに提出しなければならない[4]。切断して小分けした材料を買う場合は、切断後の材料と元の検査文書の対応がわかるようにしておく。検査文書の区分の違いはEN 10204 のミルシート区分で扱っている。
規格は、検査に合格した棒に、種類の記号・寸法・仕上げ方法の記号と許容差の等級の記号・熱処理の状態を表す記号・製造業者名・溶解番号または検査番号を表示するとしている[1]。受入では、表示の熱処理記号と溶解番号が、ミルシートと一致するかを見る。
寸法の許容差は、冷間仕上げ棒なら等級を指定する
冷間仕上げ棒の寸法許容差について、JIS G 4901 は表の値によるとしたうえで、注文者は許容差の等級を指定しなければならないとしている[1]。表は 9 級(h9)から 12 級(h12)までの公差クラスを並べていて、丸棒は 9〜11 級、角棒は 11 級、六角棒と平材は 12 級を適用する[1]。外径をそのまま使う部品なら、等級を発注書に書く。
切削用の丸棒切削材は、径の許容差がプラス側だけで決められている(たとえば径 25 mm を超え 80 mm 以下で +0.25/0)[1]。削って使うことを前提とした区分なので、黒皮付きの熱間圧延材と取り違えないようにする。
削りにくさを、見積と工程の前提に入れる
NCF718 のような時効硬化型の合金は、加工の手間が材料費と同じくらい見積に効く。精密工学会誌に掲載された論文は、ニッケル基超耐熱合金がガスタービンや航空機エンジンの部品に広く使われる一方、高温での強度が高い、切削中に切削抵抗が変動する、加工硬化しやすい、硬い炭化物や金属間化合物を含む、工具材料との親和性が高い、高温で強度の高い切りくずが出る、熱伝導率が低く切削温度が高くなりやすい、といった理由で工具寿命が極端に短くなると整理している[5]。
同じ論文は、Inconel 718 の高速エンドミル加工で切削温度を測り、Ti-6Al-4V 合金より 150〜200℃ 高かったこと、工具の摩耗速度は Ti-6Al-4V の 10 倍だったこと、長い工具寿命と大きな除去量を両立する条件は約 680℃ 付近のきわめて狭い範囲に限られたことを報告している[5]。この結果はコーテッド超硬工具を使った特定の試験条件のもので、一般化はできない。ただ、同じ形状の部品でもステンレスと同じ加工時間・工具費で見積もれない材料だということは、発注側も知っておきたい。
実務では、次の点を見積依頼の段階で仕入先と合わせる(当方の提案)。
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- 素材を時効処理前(S)で削るか、時効処理後(H)で削るか。どちらで削るかで工具費と寸法の出し方が変わる
- 時効処理を加工の途中に入れる場合の取り代と、熱処理による寸法変化の見込み
- 試作で削り条件を確かめる必要があるか。最初の数個は量産と別の単価になることがある
溶接するなら、溶接材料の JIS 記号まで決める
ニッケル基合金の溶接材料にも JIS がある。ティグ溶接・ミグ溶接などに使う溶加棒とソリッドワイヤは JIS Z 3334、被覆アーク溶接棒は JIS Z 3224 である[6][7]。JIS Z 3334 は、溶加材を形態の記号(溶加棒とソリッドワイヤは S、帯は B)と化学成分の記号で表し、たとえば SNi6625 のように書く[6]。化学成分の記号は、Ni6○○○ が鉄 25% 未満のニッケル-クロム系の合金、Ni7○○○ がそれに析出硬化のためのアルミニウムとチタンを加えたもの、のように区分されている[6]。
JIS Z 3224 の附属書 A(参考)は、溶接棒ごとに主な用途を説明している。たとえば Ni 6082 はニッケル-クロム-鉄合金(とくに UNS N06600 など)の溶接に、Ni 6625 はニッケル-クロム-モリブデン合金(とくに UNS N06625)の溶接や鋼への肉盛溶接に用いられ、Ni 6625 の溶接金属の耐食性は母材に匹敵し約 540℃ までの温度で使用できるとしている[7]。附属書は母材を UNS 番号で挙げているので、NCF の記号の材料にどの溶接材料を使うかは、仕入先に溶接施工要領として示させ、承認してから着手させる。溶接の指定全体(施工要領・溶接士の資格・検査)は溶接を含む部品の発注で扱っている。
発注書に書く項目
NCF 系の材料を買うとき、発注書か購買仕様書に書く項目をまとめる(当方の提案)。
- 規格番号と種類の記号(例:JIS G 4901 NCF718、JIS G 4902 NCF600)。商品名だけで終わらせない
- 熱処理の状態の記号(A・S・H など)。板では、熱処理を本体にするか試験片にするかも
- 形状・寸法と、冷間仕上げ棒なら許容差の等級(h9〜h12)
- 受入に使う硬さの試験方法(HBW か HRC か)
- 耐食性・結晶粒度・製品分析・非破壊試験が要るなら、その試験と判定基準
- 検査文書の要否と種類(3.1 か 3.2 か)。中間業者を通す場合は原本か複製か
- 部品メーカーで時効処理・溶接を行う場合は、その条件と記録の提出
同じ束では、耐食性で選ぶ材料として二相ステンレス SUS329J4L の選び方を、配管材としてステンレス鋼管 JIS G 3459・G 3446 の違いを扱っている。
よくある質問
Q. 図面に「インコネル 718」とだけ書いてある。そのまま発注してよいか。
A. 商品名のままだと、規格の成分範囲・熱処理の状態・形状の規格が決まらない。JIS で受けるなら NCF718 と、棒(JIS G 4901)か板(JIS G 4902)か、熱処理の状態の記号を書く。海外規格の材料で受けるなら、同等とみなす条件を先に決める。
Q. ミルシートが付いてこなかった。
A. JIS G 4901・G 4902 では、検査文書は注文者から報告の要求がある場合に提出するものとされている。次の注文から、発注書に検査文書の要否と種類を書く。今回の材料は、溶解番号から製造業者の検査文書をたどれるか、仕入先に確かめる。
Q. 部品にしたあとの硬さが規格の値に届かない。
A. 規格の機械的性質は材料の熱処理状態での値で、出荷後に部品へ行った熱処理の結果は規定していない。部品の時効処理の条件と記録、測った位置と試験方法を確かめる。材料の成績書の値が規格を満たしていても、部品の時効処理が条件どおりでなければ硬さは出ない。
Q. 板で買うか、棒で買うか迷っている。
A. 部品の形と取り代で決まるが、規格の値は形状で違う。NCF718 の時効処理後の引張強さの下限は、棒(100 mm 以下)が 1 280 N/mm²、板(25 mm 以下)が 1 240 N/mm² である。図面の強度の要求がどちらを前提にしているかを確かめてから選ぶ。
まとめ
インコネルは商品名で、JIS では棒を JIS G 4901、板と帯を JIS G 4902 で規定し、NCF600・NCF718 などの記号で呼ぶ。規格の機械的性質は熱処理の状態ごとの値なので、発注では熱処理の状態の記号を書き、板では本体と試験片のどちらに熱処理をするかも指示する。耐食性・結晶粒度・非破壊試験・製品分析は、注文者が求めなければ試験されない。ミルシートも要求したときに提出され、種類の指定がなければ検査証明書 3.1 になる。削りにくさと溶接材料は、見積と工程の前提として先に仕入先と合わせる。
出典・参考資料
- JIS G 4901:2023 耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 4902:2019 耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-板及び帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 9 月 20 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- ステンレスと耐熱鋼の違いについて(一般社団法人ステンレス協会)
- JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)
- ニッケル基超耐熱合金 Inconel 718 の高速エンドミル加工における工具摩耗(関谷克彦・山根八洲男・鳴瀧則彦/精密工学会誌 70 巻 8 号/2004 年)
- JIS Z 3334:2017 ニッケル及びニッケル合金溶接用溶加棒,ソリッドワイヤ及び帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2017 年 4 月 20 日改正)
- JIS Z 3224:2025 ニッケル及びニッケル合金被覆アーク溶接棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 2 月 20 日改正)
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