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工場の騒音を低減!アクティブノイズキャンセリングシステムの導入

工場の騒音対策を検討すると、必ず名前が挙がるのがアクティブノイズキャンセリング(ANC)です。
一方で「どのくらい静かになるのか」「うちの設備に効くのか」がはっきりしないまま、検討が止まっている現場も多く見られます。
本記事では、ANC が効く音と効かない音を先に整理したうえで、工場に導入するときの進め方を、発注する側の視点でまとめます。
アクティブノイズキャンセリング(ANC)は、マイクで拾った騒音と逆位相の音波をスピーカーから出して打ち消す技術です。万能ではありません。効くのは低周波・定常的な音で、対象を絞れば確実に効きます。逆に、高い音・衝撃音・断続的な音や、工場全体を面で静かにする用途には向きません。導入の可否と効果量は、対象音源を実測してからでないと判断できません。
目次
工場の騒音対策には、性質の違う2つの規制がある
「騒音対策」と一言でいっても、何を守るための対策なのかで、測る場所も対策も変わります。工場が関係する規制は大きく2つで、これを混ぜたまま検討を始めると、測定をやり直すことになります。
| 敷地の外を守る | 働く人を守る | |
|---|---|---|
| 根拠 | 騒音規制法 | 労働安全衛生法 |
| どこで測るか | 敷地の境界線 | 作業者のいる場所 |
| 誰が基準を決めるか | 都道府県知事が地域を指定し、区域と時間帯ごとに規制基準を定める | 厚生労働大臣の定める作業環境測定基準(作業環境評価基準は騒音には適用されない) |
| 守らないと | 改善勧告・改善命令 | 6か月以内ごとに1回の測定と、記録の3年保存(安衛則590条・591条) |
騒音規制法は、著しい騒音を発生する政令指定の設備(特定施設)を置く工場について、敷地の境界線での騒音の大きさに許容限度を設けています(第2条第2項)。[1] 基準は全国一律ではなく、都道府県知事が地域を指定したうえで、昼間・夜間などの時間区分と区域区分ごとに定める仕組みです(第3条・第4条)。事業者にはこの基準の遵守義務があり(第5条)、超過すれば改善勧告・改善命令の対象になります(第12条)。[1]
もう一方の労働安全衛生法は、政令で定める作業場について作業環境測定とその記録を義務づけています(第65条第1項)。[2] ここで注意が要るのは、騒音の測定義務が「著しい騒音を発する屋内作業場」のうち省令で定めるものに限られている点です(労働安全衛生法施行令第21条第3号)。具体的には労働安全衛生規則第588条が、鋲打ち機・はつり機など圧縮空気により駆動される機械・器具を使う作業場、ロール機・圧延機、動力ハンマーによる鍛造、タンブラー、ドラム缶洗浄、ドラムバーカー、チッパー、多筒抄紙機の作業場を挙げています。
この対象に当たる場合は、6か月以内ごとに1回、等価騒音レベルを測定し、記録を3年間保存する必要があります(労働安全衛生規則第590条。設備・工程・方法を変更したときは第591条により遅滞なく測定)。
⚠️ 騒音には「作業環境評価基準」の適用がありません。管理区分に区分して評価する仕組みは、粉じん・特定化学物質・鉛・有機溶剤の作業場に定められたもので(作業環境評価基準第1条)、騒音の測定結果を評価して管理区分を出す義務はありません。この点を混同すると、必要のない評価を業者に発注することになります。
そして後で述べる設備別の適性表と、この法定測定義務の対象は、ほとんど重なりません。ANC が効きやすいコンプレッサ・空調ファン・冷却塔は第588条のどの類型にも当たらず、逆に ANC が苦手な圧縮空気駆動の工具(インパクトレンチ等)のほうが対象になり得ます。法定の測定義務があるかどうかと、ANC で対策できるかどうかは別の話だと切り分けてください。
つまり、近隣からの苦情で動いているのか、作業者の聴覚保護で動いているのかで、測る場所も対策の当て先もまったく変わります。ANC の検討を始める前に、どちらが目的なのかを先に決めてください。両方が目的なら、測定も2系統必要になります。
ANC が効く音と、効かない音
ANC は逆位相の音をぶつけて打ち消す技術なので、打ち消しやすい音とそうでない音がはっきり分かれます。ここを共有しないまま話を進めると、導入後に「思ったほど静かにならない」となります。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 低周波(おおむね数百Hz以下が中心) | 波長が長く、逆位相の音を重ねやすい。高い音ほど苦手になる |
| 定常的・周期的な音(回転・モータ・ファン) | 音のパターンが読めるほど制御が安定する |
| 音源が局所的/受音点が限られている | 点・近傍・個人装着が現実解。工場全体を面で消すのは現実的ではない |
| 高域・衝撃音・断続的/ランダムな音 | 苦手領域。吸音・遮音・保護具との併用が前提になる |
効果量についても、正直に書いておきます。条件の合う定常低周波であれば、その周波数帯だけを見れば大きく下がることがあります。ただし騒音レベル全体(dBA)では数dBというのが実務上の目安です。耳元や特定エリアなど受音点を絞れば、もっと大きく取れることもあります。
⚠️ 「1台で低音から高音まで万能にカバーする装置」は現実的に存在しません。得意領域に絞った構成でまず導入し、効果が確認できた対象から横に広げるのが、費用対効果でも確実性でも最良です。カタログで「〇dB低減」とだけ書かれた製品を比較しても、自社の音に効くかは分かりません。
設備別に見た ANC の向き・不向き
実測前の一般論としての目安です。実際の適性は録音データを見るまで確定しませんが、検討の入口としてどこから手を付けるかの判断には使えます。
なお、冷却塔のように敷地境界の騒音が問題になる設備でも「向き」としているのは、境界線に沿って消音装置を並べる話ではありません。音源の近くで制御して、そこから外へ放射される音そのものを減らす構成です。前節の「音源が局所的」という条件を満たしているため成立するもので、広い空間の音場を面で打ち消す方式とは別物です。
| 騒音源 | 適性(目安) | コメント |
|---|---|---|
| コンプレッサ設備音 | 向き | 定常・低周波成分が主。最初の対象として第一候補 |
| 空調ファン・送風機 | 向き | 定常・低中周波。同じく第一候補 |
| 冷却塔・冷却水ポンプ | 向き | 低周波が敷地境界の騒音を支配することが多く、消音器が効きにくい領域 |
| プレス機のモータ音 | 条件次第 | 回転の定常成分は狙えるが、打撃音・成形音が混ざると難度が上がる |
| インパクトレンチの締結音 | 不向き寄り | 断続的・高域・衝撃性。ANC 単独では苦手で、保護具の併用が現実的 |
| 鉄パレットなどの干渉音 | 不向き寄り | 衝撃・広帯域・突発。ANC より発生源側の対策や緩衝材が先 |
ANC の設備構成――カタログ品ではなく、現場ごとの設計
構成そのものは単純で、①騒音を拾うマイク ②逆位相の音を出すスピーカー ③リアルタイムで制御するコントローラの組み合わせです。据置型(音源の近傍や特定エリア)と、個人装着型(ヘッドセット・イヤーマフ一体)があり、用途で使い分けます。
ただし、この3点を買えば動くという性質のものではありません。マイクとスピーカーをどこに置くか、制御のパラメータをどう合わせるかを、対象の音源ごとに現場で作り込む必要があります。「持ち運んで各現場を回り、その場で調整して効果を見る」という進め方自体は成立しますが、同じタイプの音(たとえば定常低周波)に向けた実証セットを用意して、対象現場で調整するという形になります。どこでも即プラグインで効く装置ではありません。
だからこそ、最初に対象音源を1〜2種に絞ることが重要になります。絞るほど効果の実証が速く確実になり、成功事例を作ってから横展開したほうが、社内の説得力も高くなります。
パッシブ対策との使い分け
ANC は既存の対策を置き換えるものではなく、パッシブ対策で落としきれない低周波を埋める位置づけで考えるのが実務的です。
| 観点 | ANC | パッシブ対策(遮音壁・吸音材・保護具) | 発生源対策(設備の改善) |
|---|---|---|---|
| 低周波への効果 | ○ 得意領域 | △ 遮りにくい | ○ 設備次第 |
| 高域・衝撃音への効果 | △ 苦手 | ○ 得意領域 | ○ 設備次第 |
| 広い範囲を面で下げる | △ 不向き | ○ 向く | ○ 向く |
| 導入の進め方 | 実測→可否判定→実証が前提 | 仕様が決まれば調達しやすい | 設備更新の計画に紐づく |
| 維持管理 | 電子機器の点検・校正が要る | ほぼ不要(保護具は消耗品) | 設備保守と一体 |
順序としては、まず発生源とパッシブで落とせるところを落とし、それでも残る低周波に ANC を当てるのが費用対効果の面でも合理的です。いきなり ANC から入ると、パッシブで安く落とせたはずの帯域まで電子制御で追うことになります。
導入は5つのステップに分けて進める
ANC の導入がうまくいかない典型は、いきなり全社展開の見積もりを取りにいくことです。音源ごとに設計が変わる以上、見積もりの前提が定まりません。次の順で、小さく確かめてから広げます。
STEP 1 音源データの取得
対象設備の録音と、現場の条件を揃える。まずは定常・低周波系(コンプレッサ、空調ファンなど)から。
STEP 2 一次可否判定
周波数解析にかけ、ANC 制御の可否と効果の見込みを判定する。ここで「向かない」と分かれば、パッシブや発生源対策に切り替える。
STEP 3 実証(PoC)対象の合意
効果が見込める1〜2音源に絞り、実証の範囲と評価指標(目標のdBA・どこで測るか)を決める。
STEP 4 実証セットの準備と現地調整
対象に合わせてマイク・スピーカー・制御を構成し、現場で調整して効果を測る。
STEP 5 効果検証と横展開
実証結果を評価し、似た音源・他の現場への展開計画を立てる。全社展開は数年単位で考える。
⚠️ STEP 2 を飛ばして機器の見積もりを取らないでください。音源の性質が分からないまま出てきた金額は、効果の裏付けを持ちません。逆に、STEP 2 で「この音には向かない」と分かることにも価値があります。向かない対策に投資せずに済むからです。
最初に用意するもの
STEP 1 で必要になるのは、次の3つです。特別な測定機器がなくても、まずは手元の記録から始められます。
| 用意するもの | 具体的に |
|---|---|
| 対象設備の録音データ | 数十秒以上。設備の近くと、作業者が立つ位置の2点で録れると精度が上がる |
| 現場の条件 | 設備の種類と台数、稼働状況、部屋の面積と天井高、現状の騒音レベル(dBA)、目標値 |
| 設置の制約 | 音源の近くにマイクやスピーカーを置けるか、防爆・防塵などの要件があるか |
この3つが揃えば、制御できる音かどうかの一次判定はできます。逆にこれが無い状態では、どのメーカーに聞いても一般論しか返ってきません。
発注する側が押さえるポイント
ANC は「製品を選ぶ」買い物ではなく、実測データをもとに仕様を決めてから発注先を選ぶ買い物です。先に測定データを持っていれば、複数社に同じ条件で提案を求められ、比較が成立します。データを持たずにメーカーを回ると、各社が別々の前提で見積もりを出してくるため、金額の比較そのものができません。
よくある質問
Q. ANC でどのくらい静かになりますか。
A. 音源の性質で大きく変わるため、実測前に数値をお答えすることはできません。条件の合う定常低周波であれば、騒音レベル全体(dBA)で数dB、耳元や特定エリアなど受音点を絞ればより大きく取れることもある、というのが実務上の目安です。「工場全体が劇的に静かになる」技術ではなく、「対象を絞れば確実に効く」技術と考えてください。
Q. 1台で工場中の騒音に対応できる装置はありますか。
A. 現実的にはありません。ANC は音源ごとにマイク配置と制御を作り込むため、得意領域(低周波・定常音)に絞った構成で導入し、効果が確認できた対象から横に広げる形になります。
Q. 近隣からの苦情対策にも使えますか。
A. 使えます。冷却塔や大型ファンのように、敷地境界の騒音を低周波が支配していて消音器が効きにくいケースは、ANC の適性がある領域です。ただしこの場合の測定は敷地の境界線で行う必要があり、作業環境の測定とは別の設計になります。騒音規制法の規制基準は地域・区域・時間帯ごとに定められているため、自社に適用される基準値を先に確認してください。[1]
Q. 耳栓やイヤーマフで足りるのではないですか。
A. 高域や衝撃音であれば、保護具のほうが確実で安価です。保護具が苦手なのは低周波で、ここが ANC の得意領域と重なります。また、保護具は装着してもらえて初めて効くもので、長時間の装着が負担になる現場では運用が続かないという別の問題もあります。どちらか一方ではなく、周波数帯と作業実態で使い分けてください。
Q. 効果が出なかった場合はどうなりますか。
A. だからこそ STEP 3 で実証(PoC)の範囲と評価指標を先に決めます。目標値と測定点を合意しておけば、実証の結果で進むか止めるかを判断できます。全面導入の契約を先に結んでしまうと、この判断ができなくなります。
まとめ
ANC は、パッシブ対策で落としきれない低周波に対して確実に効く技術です。一方で、高域・衝撃音・広い範囲を面で下げる用途には向きません。この線引きを最初に共有できるかどうかが、導入の成否を分けます。
進め方は、①目的(敷地境界か作業環境か)を決める → ②対象音源を1〜2種に絞る → ③録音データで可否を判定する → ④実証で効果を確かめる → ⑤横に広げる、の順です。数値の約束から入らず、実測から入ってください。効果を断定する提案は、対象の音を聴かずに書かれている可能性があります。
出典・参考資料
対象設備の録音データがあれば、制御できる音かを一次判定します
newji は製造業の調達購買を支援しています。騒音対策については、要件の整理、測定や音源解析の手配、実証の設計、発注先の選定を、技術パートナーと連携して窓口ひとつでお引き受けします。測定そのものは当社が行うのではなく、対象と目的に合った測定を手配する形です。
まずは対象設備の録音データと現場条件をお送りください。ANC 制御の可否と効果の見込みを一次判定してご報告します。「この音には向かない」という結果であれば、その旨と代わりの対策をお伝えします。効果の数値を先にお約束することはいたしません。
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