投稿日:2025年8月22日

航空スペース確保のためのAllotment契約とNo-Showペナルティ管理

はじめに:現場目線から考える航空スペース確保の重要性

航空貨物は現代のサプライチェーンにとって、なくてはならない輸送モードです。
自動車部品、電子部品、医療機器など、高付加価値かつリードタイムが求められる品目では特に、航空スペースの確保が安定供給の生命線となります。
しかし、航空スペースは常に需要と供給のバランスの上に成り立っており、繁忙期には余剰スペースがほとんどなく、調達購買担当者や現場責任者は頭を悩ませます。

この悩みを解決する手法のひとつが「Allotment(アロットメント)契約」です。
また、その運用で不可避となるのが「No-Showペナルティ」管理です。

実務経験をもとに、アナログ慣行が根強く残る製造現場にも通用するノウハウを交えながら詳しく解説します。

Allotment契約とは何か?

Allotment契約は、定期的に一定量の航空スペースを確保し、優先的に利用できる契約体系のことです。
製造業での実務では、需要変動の激しい部材や緊急輸送が多いプロジェクトなどで重宝されています。

Allotment契約の基本構造

航空会社やフォワーダーから、「毎週この本数、この重量、このルートのスペースを確保します」と約束する形で契約します。
対価として、スペース使用の有無に関わらず、合意した最低保証量(Minimum Commitment、またはGuarantee)の料金が請求されるケースが一般的です。

スポットブッキングとの違い

多くのサプライチェーン現場では、スポットで空きスペースを都度予約する「スポットブッキング」も主流ですが、スポットは価格変動や予約不成立のリスクが高く、繁忙期やBCP(事業継続計画)観点ではAllotment契約が有利です。

Allotment契約が普及しない昭和体質の理由

多くの日本の製造現場では、依然としてスポットブッキングに偏りがちです。
理由は「余剰在庫は悪」とする効率志向、「予測の不確かさを嫌う現場風土」、「過去の失敗体験(No-Showによる無駄請求)」などが挙げられます。
しかし、国際競争力を高めるには、安定輸送確保のためのAllotment活用は必須です。

Allotment契約のメリットとデメリット

メリット

– 輸送スペースの優先確保により、緊急・高付加価値品でもリードタイムを死守できる
– 繁忙期の割増料金や輸送不能リスクを低減できる
– サプライヤーや顧客に対して納期遵守をコミットメントしやすくなる
– 航空会社・フォワーダーとのパートナーシップ強化(優先顧客扱い)

デメリット

– 実需が読めずにスペース未使用の場合、最低保証金(No-Showペナルティ)発生リスク
– 需要予測の精度向上、調整コストが必要
– 契約見直しやスペース再配分の柔軟性に欠ける場合がある

Allotmentは「普段は余計なコスト」と見がちですが、BCPやイレギュラー対応も重視する昨今では、長期視点での評価が必要です。

No-Showペナルティの実務運用

Allotment契約と切り離せないのが「No-Showペナルティ(予約だけして実際の貨物を出さない場合に科される違約金)」です。
このペナルティ管理が場当たり的だと、コスト増や社内外トラブルにつながります。

No-Showペナルティの仕組み

航空会社やフォワーダーとAllotment契約を結ぶと、多くの場合、使用されなかったスペース分に対し「No-Show Penalty」としてペナルティが発生します。
設定金額は区間や契約内容によって異なりますが、全額もしくは7割程度の運賃が請求されます。

事前のアナウンスやキャンセル期限がルール化されている契約も多いですが、「ブッキング時点でペナルティ発生」が一般的です。

No-Show回避のための現場ノウハウ

– 需要予測手法と連動し、日・週単位で物量見込みの精度を高める
– 出荷実績と予約状況を可視化し、在庫や出荷工程と分単位で調整する仕組みを持つ
– 荷主・サプライヤー・フォワーダー間でのリアルタイムな情報共有体制
– 一定比率の予備スペース確保(バッファ設定)を数値根拠に基づいて運用

現場では「No-Showを恐れて予約を控える」ことで、結局繁忙期に困るという悪循環になりがちです。
このジレンマをどう打破するかが管理職・現場担当者の腕の見せ所です。

サプライチェーン全体で取り組むべきペナルティ管理

No-Showは一部門の努力だけでは減らせません。
サプライチェーン全体の情報連携が不可欠です。

1. サプライヤー・工場間の出荷カレンダー厳守

下流からの変更要求やイレギュラーに迅速対応する一方で、サプライヤー管理体制を強化し出荷カレンダーのコントロール力を高めましょう。

2. デジタル化による予約運用の最適化

昭和的なExcel台帳・電話予約から、WMSやSCMシステムと連携したブッキング管理へ移行すれば、予約・実績・キャンセル状況をリアルタイムで追跡可能です。

3. サプライヤー教育・ガイドライン整備

No-Showが頻発するサプライヤーには明確なガイドラインを設け、共通KPI・インセンティブを設計することが現場安定化のカギです。

バイヤーの視点、サプライヤーの視点

バイヤーとしては、「確実に航空スペースが欲しい」が、「コストは無駄にしたくない」というジレンマを常に抱えています。
一方、サプライヤー側から見れば、「急な需要変動や生産遅れがあっても責任を問われるのか?」という不安があります。

お互いのスタンスを理解するには?

– サプライヤー:「バイヤーは調達リスク回避のため予約を多めに入れている」「No-Showペナルティを最小化したい」という意図を理解
– バイヤー:「サプライヤーも生産の最終段取りに間に合わない時がある」ことを現実的に受け止め、予備的なキャンセル枠やペナルティ条件を柔軟化

バイヤー・サプライヤー相互の定期的な対話・レビューが、運用の最適解を導きます。

今後の航空スペース確保と業界トレンド

航空会社・フォワーダーも、従来の「契約量主義」から「実需主義・柔軟運用型」への移行が進んでいます。
デジタル化やAIによる需要予測の高度化で、よりダイナミックなスペース調整が可能となりつつあります。

コロナ禍をきっかけとした“需給ひっ迫”経験後は、多くの大手製造業でもAllotment契約見直しや複数確保が進んでいます。
日系企業ならではの、「身内贔屓の割当て・上意下達」ではなく、現場・調達・サプライヤーが一体化した“運用型スペース確保”が主流になっていくでしょう。

まとめ:航空スペース管理は組織知で磨くもの

Allotment契約はコストだけ見れば負担ですが、安定輸送・納期死守という製造業の本質的価値を守る強い武器です。

No-Showペナルティも、ただの負担や萎縮要因ではなく、組織全体の需要管理能力・予測精度を磨くチャンスととらえ、「部門横断でNo-Showを最小化するファクト主義」「デジタル連携によるリアルタイム可視化」「バイヤー・サプライヤー双方向のオープン対話」を実践しましょう。

長年、“計画通りにはいかない”現場を知る者として、アロットメントの現場力向上が、日本の製造業の国際競争力と現場の未来を切り開くと断言できます。

安定・効率・柔軟性を備えた航空スペース管理の実現へ、今こそ一歩踏み出しましょう。

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