投稿日:2025年6月9日

AUTOSARによる車載ソフトウェア開発とそのポイントおよび開発事例

AUTOSARによる車載ソフトウェア開発の重要性

近年、車載分野におけるソフトウェアの役割が飛躍的に高まっています。
自動運転やADAS(高度運転支援システム)、コネクテッドカーなど、付加価値の大部分がソフトウェアに依存する時代が到来しています。
このような状況で欠かせないのが、「AUTOSAR(オートザー)」による車載ソフトウェア開発です。

AUTO-motive Open System ARchitecture、すなわちAUTOSARは、車載用ソフトウェアアーキテクチャの国際標準規格です。
もともと欧州の大手自動車メーカー・サプライヤーが連携して設立し、今やワールドワイドな広がりを見せています。

自動車メーカーやサプライヤー、さらに調達や品質管理など、「昭和」時代のアナログ的手法が色濃く残る領域においても、標準化されたAUTOSARの考え方が新たな地平を切り開いているのです。

AUTOSAR導入のメリットと現場へのインパクト

1. プラットフォームの標準化による開発効率化

従来、車載ECU(電子制御ユニット)のソフトウェアは、各自動車メーカーごとに独自仕様で設計されていました。
そのためベンダー・サプライヤーは顧客ごとに個別対応が必要で、開発効率の低下や、部品ごとの不整合が大きな課題でした。

AUTOSARの導入によりソフトウェアアーキテクチャは「共通言語」を持つことになり、共同開発や再利用、インテグレーションが飛躍的に向上します。
調達購買の視点でも、「A社専用仕様」が削減され、バイヤー目線でより柔軟なサプライヤー選定が可能となります。

2. 製品ライフサイクルの変化とアップデート文化の定着

車載ソフトウェアは出荷後も機能追加や不具合修正といった“アップデート対応”が求められます。
「昭和的」なハード一発勝負型のサプライヤーは淘汰されつつあり、今や“製品+サービス”の視点で競争力を保つことが重要です。

AUTOSARベースの設計はソフト更新や機能拡張を容易にし、「売り切り」から「長期サポート」への発想転換を促します。
これはバイヤーサイドも、中長期視点でサプライヤーを評価・選定する基準の強化につながります。

3. 品質管理と機能安全の新たな維持基準

「ゼロ不良」を目標とする日本の品質管理文化。
そこでもAUTOSARは品質・機能安全観点でも重要な役割を果たします。

具体的には、ISO26262と密接に連携。
アプリケーション層・BSW層(Basic Software:基本ソフト)といった明確な分割により、ソフトウェア異常時にも車両の安全を担保する仕組みが標準搭載されるようになりました。

これにより、品質保証部門・工場長視点でリスク管理がしやすくなり、製造現場だけでなく、バイヤーやエンジニア双方にとっての“安心設計”が現実的となりました。

AUTOSAR導入の実践ポイント

では、工場管理や品質管理、調達購買まで含めた現場が、どのようにAUTOSAR開発体制を築くべきか、具体的なポイントをご紹介します。

1. 標準プロセスへの順応と人材育成

まず最重要なのは、“標準プロセス”を徹底的に現場へ浸透させることです。
昭和式の「ベテラン個人技」や、「口伝ブラックボックス」的な技法ではもはや追いつけません。

AUTOSAR関係のツールや開発プロセス(例えば、モデルベース開発、コンフィグレーション管理)を習熟した技術者を計画的に育成し、現場のスキル標準化を図ることが不可欠です。
人材開発部門や教育担当も「AUTOSARリテラシー」を測る新たな物差しを早期導入しましょう。

2. サプライヤー協業・バイヤー戦略の構築

調達購買部門には、「AUTOSAR対応」をRFI/RFQ(引き合い)段階で明確に要件化し、協力会社とWin-Winの関係を築く視野が求められます。
また、サプライヤー側も「単なる受託」から「プラットフォームビジネス」を指向し、積極的に提案型のアプローチを試みましょう。

従来のようなコスト・リードタイム偏重から、品質・柔軟性・サステナビリティまで含めた総合的なバリュー評価が肝要です。

3. 実装テスト・評価フェーズの仕組み改革

自社製造工場・ライン試験・品質部門でのAUTOSARプラットフォーム上の「テスト自動化」も必須となります。
HIL(Hardware-in-the-Loop)やSIL(Software-in-the-Loop)試験ソリューションの導入、MBD開発への対応など、デジタル変革は避けて通れません。

現場目線では、「目視検査中心」から「自動検証+AI異常検出」へ、一歩抜け出すための具体的な手段を積極的に模索してください。

AUTOSARを活用した開発実例と最新動向

日本国内でも複数の自動車メーカーやティア1サプライヤーがAUTOSAR開発を本格展開しています。

開発事例1:大手自動車メーカーにおけるECUソフトのサブシステム共通化

ある大手メーカーでは、エンジンECUやボディ系ECU、ADAS系ユニットで個別実装されていたソフトウェアをAUTOSAR Classic Platformで再設計しました。
ハードウェア共通プラットフォームと「BSWモジュール」の再利用率を高めた結果、コスト・納期・品質指標が劇的に改善。
バリューチェーン全体で“開発の見える化”が進み、SCM(サプライチェーンマネジメント)も高度化しました。

開発事例2:ティア1サプライヤーのモデルベース開発最適化

あるティア1サプライヤーではAUTOSAR Adaptive Platformを活用。
AI・OTAアップデートなど新しい開発要求への適応力を高めると同時に、自動車メーカーごとに異なる「カスタマイズ要求」にも標準プロセス内で柔軟対応が可能となりました。

サプライヤー自身がバイヤー視点を持ち、「どのような機能・品質が価値になるか」を深く(ラテラル)考えてソリューション開発する事例が増えています。

開発事例3:海外拠点とのグローバル連携強化

昨今の自動車業界はグローバル展開が日常です。
AUTOSAR形式の開発書類・ソフトウェア資産を標準化することで、国内外工場やパートナー間の技術移管・プロジェクト協業が円滑化。
この「共通言語化」が、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも寄与しています。

まとめ:昭和から抜け出すヒントと未来展望

車載ソフトウェア開発の現場は、大きな転換点を迎えています。
“昭和的アナログ手法”でも実績はありますが、グローバル化やIoT化、SDV(Software Defined Vehicle)の時代には「標準化」と「見える化」「柔軟性」が欠かせません。

AUTOSARは、一見すると技術者向けの用語かもしれません。
しかし工場長、バイヤー、サプライヤー、開発現場それぞれの立場で「ラテラル」に考えることで、調達や品質、さらなる業界進化への突破口となり得ます。

製造業が未来へと進化するためには、「道具」を熟知し現場で使いこなす“実践力”と、業界変革を伴走する“マインドセット”が必要です。
自社の立ち位置から、ぜひAUTOSARによる変革と、製造業の新たな価値創造に挑戦してみてください。

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