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モータ制御系設計基礎と電流速度制御への応用PC実習ガイド

目次
はじめに:モータ制御の重要性を再認識しよう
モータは現代の製造業において心臓部といえるほど重要な役割を担っています。
組立ラインの搬送、加工機の駆動、包装や検査機械、AGV(自動搬送車)の動力源まで、多種多様な現場で欠かせません。
特に生産効率や品質管理向上への寄与度が高いモータですが、その制御設計をしっかり抑えているかどうかで、現場の競争力は大きく左右されます。
近年ではAIやIoTの導入、現場データの可視化といったトレンドもありますが、その根底にはアナログ時代から脈々と続く「制御の基本」があります。
この記事では、モータ制御系設計の基礎から、工場現場でよく使われる電流制御・速度制御のポイント、さらにこれをPC上で実習するための実践的ガイドまで、現場目線で解説します。
バイヤーだけでなく、操業側・サプライヤーの方も「どういう観点でモータの仕様を決め、制御の最適化に取り組むべきか」という視点を得られる内容になっています。
モータ制御系設計の基礎:なぜ設計が現場を変えるのか
1. モータ制御システムの全体像を理解する
モータ制御とは単にスイッチで回す・止めるだけではありません。
現場で求められる「自動化」「高精度」の根幹には、きめ細かな制御システムが必須です。
モータ制御系の基本構成は大きく
・パワー素子(インバータ、サーボドライバ)
・制御ユニット(PLCやマイコン、産業用PC)
・センサ類(エンコーダ、電流センサ)
・制御アルゴリズム
という4要素で成り立っています。
これに加え、現場ならではのノイズ耐性や保守性、トラブル時の安全設計などの工夫も求められます。
2. 制御目標は「位置」「速度」「トルク」の3段階
モータ制御で必須となるのが「何を狙って制御するか」の明確化です。
・位置制御
⇒ロボットやX-Yテーブルなど、決められた地点まで高精度で移動させたい場合
・速度制御
⇒一定の速度でワークを搬送したい場合や、合流制御など
・トルク(電流)制御
⇒力を一定に保って巻き取りたい、張力を管理したい場合
多くの現場では、これらの制御を適切に組み合わせています。
しかし、「位置精度に異常はないか」「速度ムラによる不良は起きていないか」「トルクが不足して停止していないか」と、モニタリングしづらい現場が多いというのが、古い製造現場の現状です。
3. アナログからデジタルへ—いまだ残る課題
昭和時代の製造現場では、リレー制御やマグネットスイッチ中心のアナログな制御が主流でした。
しかし、IoTや産業デジタル化が進む中でも、“現場オペレーターの感覚頼み”や“ブラックボックス化したPLCラダー”が根強く残っています。
こうした“アナログ文化”がもたらす問題点
・不具合時の原因特定が困難
・設備入れ替えやリニューアルの際に知見が継承されない
・省エネや品質向上など課題解決スピードが遅い
そのため、正しい設計の基礎を押さえ、最新の制御技術やシミュレーションを取り込むことが、明日からの現場を強くする第一歩といえます。
電流制御・速度制御の現場応用と課題
1. 電流制御の基礎—トルクを操る技術
電流制御とは、モータ巻線に流す電流量を直接コントロールして、希望するトルク(回転力)を出す制御です。
なぜ電流制御が重要かというと…
・モータのトルクは流す電流に比例する(原理)
・過負荷やコンベア詰まり時、精密にトルク管理することで設備保護や品質向上ができる
最新サーボモータでは、電流フィードバック制御が一般化していますが、古い設備や廉価設備ではまだ「電源ON/OFF」「定電圧駆動のみ」など粗い制御のままになっているケースも多いのが実情です。
現場例
・フィルム巻き取り機で「巻始め部の張力異常」が連発する
・ボトルキャップ装着ラインで「締め付けトルクムラ」による不良
こうした問題も、電流制御によるリアルタイム管理を導入することで解消へ近づきます。
2. 速度制御でムダ・ムラを無くす
速度制御は「安定搬送」「量産効率アップ」「品質トレース」へ直結する重要な要素です。
従来は機械的調速(ギア比やプーリー径、インバータのアナログボリューム調整など)が主流でしたが
・PLCやPCからのデジタル制御(パルス出力、アナログ電圧命令等)
・フィードバック制御(エンコーダで実速度取得→PIDアルゴリズムで補正)
ができることで「始動時の衝撃減」「加減速コントロール」「ジャーク(振動)抑止」など様々な製造現場課題が解消されています。
導入事例
・印刷工程や塗装工程での速度同期(ばらつき減・品質安定)
・組立ラインでのタクト合わせ、全体最適化
現場では「スペックの高いサーボ=高効率」と思いがちですが、現実には制御系の設計精度・波形検証の有無で大きな差が出ます。
3. バイヤー・サプライヤー視点の制御仕様書の重要性
設備導入時や改修時に、制御仕様書が曖昧だと現場設計に皺寄せがいきます。
バイヤー(発注側)は「どの点を実現したいのか」(例:巻き取り張力±2%精度、速度変化時の衝撃抑止など)
サプライヤー(設計側)は「どう実現するか」(例:制御アルゴリズム選定、出力リミット設定など)
を明記することでトラブルや後戻りが減り、結果として立上げ工数・品質トラブルが大幅に減少します。
PC実習で学ぶ、制御系設計の実践テクニック
1. シミュレーションで見える化する意義
現場でいきなりアルゴリズム変更やパラメータ調整を行うと、思わぬ事故や品質問題につながりかねません。
そのため、近年はPC上の制御シミュレーション、モデルベース設計(MBD)の活用が不可欠となっています。
実習環境例
・MATLAB/Simulinkなどの専用ツール
・無料で使えるPython+制御パッケージ(Control, NumPy, Matplotlib等)
・Excelマクロやオープンソースシミュレータ
これらで、モータや負荷部、サーボドライバの特性を“仮想現場”として反映し、極端な制御定数設定、不具合モードも再現できます。
2. PID制御の調整を体感しよう
製造現場で最もよく使われる「PID制御(比例・積分・微分制御)」も、紙面では分かった気になってしまいがちです。
PC上でシミュレーションすることで、
・定数を変えると応答がどう変動するか
・過渡応答の設計(オーバーシュート許容量、収束時間等)
・測定ノイズや摩擦など現場のリアリティ
が手に取るように分かります。
実習例
・モータの目標速度までの立上がりカーブを描画→最適なPIDの値を探す
・負荷変動時の挙動をグラフで比較
・センサ応答時間が遅い場合の問題点を検証
こうした手を動かす実習を新入社員・技能伝承者に体験させることで、アナログ文化とデジタル制御の“橋渡し人材”を育てることができます。
3. 制御設計の「悪しき慣習」を打破する
昭和の現場に根付く「前任者から引き継ぎがないと分からない」「 PLCメーカー任せ、ドライバメーカー任せ」体質は、今後の働き方改革、生産現場の競争力強化の足かせです。
PCシミュレーションによる可視化、論理的なパラメータ決定、制御仕様書・経緯のドキュメント化が今後ますます求められます。
また、現場リーダーやバイヤーも
・トラブル発生時、どこをどんな順序で見ていくべきか
・どこまでを自社技術で、どこからを委託先ノウハウに任せるか
といった「統治できる力」の獲得が必須です。
まとめ:製造現場の未来は制御設計の深化にかかっている
モータ制御系設計の基礎を理解し、現場で電流・速度制御を的確に行うことは、“昔ながらの職人技”を超えて“誰でも高レベル品質・省エネ・生産効率”を実現できる時代への土台となります。
PC実習を通じて設計者・保守者・バイヤー・サプライヤーが同じ言語で議論できることは、設備の寿命延伸にも大きな意味を持ちます。
昭和アナログの名残、属人化・ブラックボックス化を脱却し、これからの製造業の進化に貢献していきましょう。
あなたの現場でも、小さな一歩からでも「制御の見える化」と「実践的トライアル」を始めてみてはいかがでしょうか。
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