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ゴム材料特性の基礎と環境劣化対策および部品・製品開発への適切な活用法・事例

目次
ゴム材料特性の基礎と環境劣化対策および部品・製品開発への適切な活用法・事例
はじめに ― ゴム材料とものづくりをつなぐ現場目線
製造業におけるゴム材料は、自動車・家電・建築・医療機器など幅広い分野で欠かせない存在です。
密封性やクッション性・耐薬品性など製品の機能や信頼性を支える“黒子”とも言えるでしょう。
しかしゴムは「劣化する」素材でもあります。
現場では「何年使える?」「環境変化に耐えられる?」という現実的な課題と常に向き合わなければなりません。
本記事では、現場で長年ゴム部品や製品開発に携わってきた筆者の経験をもとに、ゴム材料の基礎的な特性解説から、環境劣化対策の実践、そして実際のものづくりの現場で成功と失敗を分けた“生きた事例”をお伝えします。
昭和のアナログ時代から令和のDX化に至るまで、変わりゆくものと変わらない本質的な“ゴムとの向き合い方”を共有します。
ゴム材料の基礎:種類ごとの特徴と現場での選定ポイント
ゴムの分類:天然ゴムと合成ゴム
ゴム材料は大きく分けて「天然ゴム(NR)」と「合成ゴム」に分類されます。
天然ゴムはその名の通り熱帯地域に自生するゴムの樹から採取される樹液が原料で、弾性や柔軟性に優れています。
一方、合成ゴムは石油化学製品などから合成された工業材料で、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Q)など、用途や性能に合わせて選べます。
主要なゴム材料の特性と使いどころ
– **天然ゴム(NR)**
低温でも柔軟、高い弾性と耐摩耗性、ただし油やオゾン、紫外線には弱いです。
自動車のタイヤやショックアブソーバー、耐震部材などによく使われます。
– **ニトリルゴム(NBR)**
油や燃料への耐性が高く、パッキンやシール材、ホース部品などで多用されます。
– **エチレンプロピレンゴム(EPDM)**
耐熱性・耐候性・耐オゾン性・耐薬品性に優れ、屋外用途や自動車のウェザーストリップ、建築の防水材など幅広く利用されています。
– **シリコーンゴム(Q)**
極めて高い耐熱・耐寒性を持ち、医療機器やキッチン用品、電気絶縁体など特殊用途で重宝されます。
現場での選定 “よくある落とし穴”
ゴム材料の選定では、カタログスペックだけに頼りすぎるのは危険です。
例えば「耐熱200℃」とあっても、実際の製品構造や加わる応力、組み合わせる材料との相性によっては早期に劣化が生じることもあります。
一方で、“今までこれで問題なかったから”という思考停止も命取りです。
新しい素材や製造方法の進化をキャッチアップしつつ、自社の製品にとって「本当に必要な機能、コスト、寿命」を粘り強く現場で検証する姿勢が重要です。
ゴム材料の劣化メカニズムと対策の最前線
劣化現象――何がゴムを傷めるのか?
ゴムの劣化要因は実に多様です。
1. 熱劣化
ゴムは加熱されると架橋構造が切断され、柔軟性や弾性が失われます。
いわゆる“硬化・割れ”の主犯格です。
2. 酸化劣化
空気中の酸素がゴムと反応することで、亀裂や色あせが進行します。
3. オゾン・紫外線劣化
屋外での使用や照明下では、オゾンや紫外線による表面の細かいひび割れ(クラック)が問題になります。
4. 油・溶剤劣化
特定の種類のゴムは、油や有機溶剤で膨潤・溶解することがあります。
5. 真菌・カビ・バクテリア
医療や食品用途では、微生物による分解・劣化にも注意が必要です。
最適な劣化対策 ― 材料・設計・現場運用の三重奏
1. 「材料選定」――最初の砦
用途に応じて、耐油性や耐候性に優れたゴムを選択することが第一です。
2. 「配合・添加剤」――レシピで耐久性を変える
酸化防止剤や老化防止剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック(黒煙)などの充填剤を配合することで、劣化を遅らせる工夫が行われています。
昭和期までは経験的に配合を決めていた現場も多かったですが、最近では統計的品質管理で最適値を見出すケースが増えています。
3. 「設計・構造」――応力集中を防ぐ
ゴム部品の形状や組み込み方次第で、耐久性は大きく変わります。
コーナー部のR処理、厚みの確保、押し込み量の調整など、現場の小技が光るところです。
4. 「運用・点検」――劣化を見抜く目
異常な膨れや変色、亀裂を早期に発見して交換時期を見極める現場の“目利き”が、トラブル防止には不可欠です。
IoTやセンサーによるモニタリングも登場していますが、“最後は人”という状況も依然多いのが実態です。
部品・製品開発での活用事例 ― 現場で起きた「勝ちパターン」と「失敗パターン」
自動車用Oリングの劣化対応事例
自動車部品では、ゴムOリングの劣化によるオイル漏れが大きな品質クレームにつながります。
ある現場では、従来NBR(ニトリルゴム)を使っていたのを、EPDMへの変更を検討しました。
EPDMはオゾンや温度変化に強い一方、油への耐性が不足しています。
実際に試作から量産まで進めたものの、現場テストで数カ月後にオイルによる膨潤が発生し、結果的に従来材料へ戻したという経緯があります。
この反省から、対象となるオイルの組成や現場条件を必ず再検証し、条件付きで新規材料を使う重要性を学びました。
設備用クッションゴムの長寿命化 ― 設計変更による成功事例
大型プレス機の振動・騒音対策で使われるクッションゴムは、現場での損耗・早期劣化が悩みの種でした。
そこで、設計担当と現場作業者が連携し、以下3つの工夫を施しました。
1. ゴム厚みを1.2倍に増やして応力分散を図る
2. 内部に補強繊維を挿入し、繰返し変形による割れ・欠損を予防
3. 表面に耐候性コーティングを追加し、紫外線や薬品による表面劣化を防止
結果として、メンテナンス周期が従来の3年から7年に延伸し、コスト・安全性両面で大きな成果を得ました。
ゴム材料の根本的な特性と“攻め・守り”の対策を複合的に活用した好例です。
バイヤー目線・サプライヤー目線の“攻防”とは
ものづくりの現場では、“材料選定”をめぐってバイヤー(調達担当)とサプライヤー(ゴムメーカーや加工業者)の間に知識ギャップが生まれがちです。
バイヤーは価格と納期、安定調達の観点から「今使っているものより安く、同等以上の品質を担保できるか?」という交渉を重視します。
一方サプライヤーは、「安易なコストダウンは長期的な劣化/クレームリスクを高める」と懸念し、試験データや長期実績をもとに慎重な提案を求めます。
最良の関係は、単なる価格交渉ではなく「最適な材料選定・設計改善でトータルコストと品質を最大化する」という“共創”の意識が現場に根付くことです。
未来を見据えたゴム材料活用のヒントと最新動向
サステナビリティ対応 ― リサイクル・バイオマスゴムの台頭
かつては「使い捨て」のイメージが強かったゴム材料ですが、近年はサーキュラーエコノミーやSDGsの観点から、再生・リサイクルゴムやバイオマス由来ゴムの導入が本格化しています。
現場では、使用済みタイヤの分解・再生や、パーム油・ユーカリなど植物由来原料の合成ゴムが注目されています。
今後は「機能・コスト・環境」の最適バランスで材料を選ぶ判断がますます重要になるでしょう。
DX・IoT活用でゴム部品の“見える化”が進む
AIやビッグデータ解析/IoT技術の導入により、ゴム部品の劣化や寿命予測もデジタルで可視化されつつあります。
実際の現場では、
– ゴム部品のたわみ量やひずみセンサによるモニタリング
– 経年劣化データの蓄積をもとにした交換予知アルゴリズム
などが実用化され始めています。
ただし、いまだに「現場の経験や勘」が頼りになる領域が大きく、アナログとデジタルのハイブリッド運用が当面はベストとなりそうです。
異業種・異分野連携によるブレークスルーが現場を変える
最近では、自動車業界と家電ベンチャー、化学メーカーと食品メーカーといった異分野連携の中で、従来用途を超える新しいゴム材料開発も進んでいます。
“これまでにない発想”――たとえば微細加工やナノ粒子を使った最先端のゴム複合材料など、新たな地平線が拓かれようとしています。
まとめ ― ゴム材料の本質を見極めて、現場価値を最大化するために
ゴム材料は、私たちの暮らしや産業インフラを支える“縁の下の力持ち”ですが、本当の強さは「材料特性を知り尽くし、最適な使い方を設計・現場運用までトータルで考える力」にあります。
1. 材料ごとの特性と弱点を知って、カスタマイズする目を持つ
2. 環境変化や将来の技術動向も踏まえて、柔軟に材料・設計を最適化する
3. バイヤー・サプライヤー・現場作業者が知恵を持ち寄る“対話と共創”を大切にする
これこそが、昭和の時代から続く日本のものづくりの魂であり、今後も世界に遅れない製造業発展の原動力になると信じています。
ゴム部品一つの選定・開発に込められた現場知、そして新たなラテラルシンキングの挑戦が、次の時代の製造業の飛躍を必ず支えるでしょう。
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