投稿日:2025年6月13日

材料力学の基礎と疲労強度・寿命設計への活かし方

材料力学の基礎とは何か

材料力学は、製造業の現場で欠かすことのできない基礎知識の一つです。
現場の実務では、設計や購買、生産、品質保証などあらゆる部門で材料力学の知識が求められます。
なぜなら、「どのような材料を選び、どれだけの力が加わったときに、どの程度の寿命が期待できるか」を知らずして、ものづくりの根拠をつくることはできないからです。

材料に加わる力や変形は、目に見えにくく、つい曖昧になりがちです。
しかし、トラブルやクレームが起きてから「なぜ破損したのか」と問われると、「材料力学」を理解していないことが根本原因であるケースが少なくありません。

この分野の基本を押さえておくことは、アナログ現場で今なお主流の“勘と経験”に頼るスタイルからの脱却にもつながります。
昭和的な“思い込み設計”や“過剰品質”が多く残る現場に新たな風を吹き込むためにも、改めて材料力学の基礎を復習し、現場目線での具体的な活用方法まで深く掘り下げていきます。

材料力学の基礎用語とその意味

応力とひずみとは何か

材料に外部から力を加えると、内部には「応力(おうりょく)」が生じます。
応力は、断面積あたりに働く力として定義され、単位はN/mm²やMPaを使います。

一方、「ひずみ」は材料の元の長さに対してどれだけ変形したかを示す無次元量です。
引張や圧縮の際、それぞれ伸びや縮みの割合を数値化します。

応力―ひずみ線図(σ-ε曲線)を用いることで、材料の弾性限界などの特性を視覚的に理解できます。
これらの知識は「なぜこの厚みが必要なのか」「なぜこの素材を使うのか」といった設計根拠を説明する力へとつながります。

降伏点と破断点の違い

材料には「弾性域」と「塑性域」、そして「破断点」が存在します。
弾性域では外力を取り除くと元通りになりますが、降伏点を超えると「塑性変形」といって、元に戻らず変形が残ります。

更に応力を増やすと最終的に破断点で材料が破壊されます。
したがって、設計段階ではこの弾性限界や降伏点を意識して安全率を設定する必要があります。

疲労強度と疲労寿命とは

実際の工場や製品現場では、一度だけ大きな荷重が加わるケースだけでなく、繰り返し荷重による“疲労破壊”が多発します。

疲労強度とは、ある回数(例えば100万回や200万回)の繰り返し応力で破断しない最大値のことです。
そして、疲労寿命とは、ある応力で何回の繰り返し荷重に耐えられるかの“回数”という指標です。

これらは設計や品質保証の現場で、製造物責任(PL法)やクレームリスクの低減に不可欠な概念です。

疲労強度・寿命設計の重要性

なぜ現場で“疲労”を甘く見てはいけないのか

現場では「見た目で問題なさそう」「一応設計値を満たしている」で済ませてしまう風潮が残っています。
しかし、製造業のトラブルで最も多いのが「疲労破壊」です。
ネジ、溶接部、ベアリング、シャフトなど「動きのある箇所」は特に要注意です。

例えば工場の搬送設備では、地味な金具部品が突然パキン!と破損し、設備停止による何百万円もの損失を生み出すことも珍しくありません。
こうした事態を未然に防ぐには、材料の疲労強度と部品の疲労寿命を科学的に算出・評価し、合理的な設計・調達判断を行うことが必要不可欠です。

アナログ発想と科学的設計のギャップ

昭和から引き継がれるアナログ現場では、依然として「長年やってきたから大丈夫」「吟味部品ならOK」といった根拠の曖昧な判断がまかり通っています。
しかし、設計や購入仕様、品質保証の世界は今や“グローバル標準”が常識となり、「見えない力の設計(材料力学)」の合理化が競争力の分水嶺となっています。

この点に着目して、「あいまいなルール」から「理論とデータによる意思決定」へと現場をシフトできる人材こそ、これからの製造業で高く評価されます。

疲労強度・寿命設計の基本プロセス

現場に根付かせるべき4つのステップ

1. 必要な使用条件・負荷条件の明確化
2. 材料の選定と機械的特性データの取得
3. 応力解析による安全率・耐久性の確認
4. フィードバックと再設計

この4ステップを現場の全員が理解し、設計から調達、品質管理に至るまで共通言語として運用することが、トラブルレスなライン構築や顧客満足度向上に直結します。

疲労試験・解析技術の進化にも注目

最近では、CAE(数値解析)による応力分布可視化技術、AIによる異常予兆保全など、情報技術と融合した“見える化”が進んでいます。
現場のバイヤーやサプライヤーがこうした最新手法にキャッチアップできれば、短期間で最適な調達・評価力を高めることが可能です。

バイヤー・サプライヤー必見の実践ポイント

調達の現場で活きる“材料力学の知識”

バイヤーにとって、単に安い部材を選ぶだけではコストダウンにはなりません。
例えば板金部品の厚み、締結部の材質、軸受けの仕様など、「過剰品質」「過小設計」の見極めが最も重要です。

材料力学を理解することで、サプライヤーの“過剰な安全余裕”や“根拠なき現場判断”による価格上乗せを見抜き、コストと品質の最適解を探ることができます。

サプライヤーとして説得力のある提案をするには

サプライヤー側も、単なる図面読みや加工技術の提案だけでなく、「なぜこの材料、なぜこの寸法なのか」を材料力学・疲労設計の理論で説明できれば、取引先から高い信頼を得られます。

「実際の使用条件ではこの応力で疲労寿命が○○万回以上確保できます」
「応力集中の懸念がある形状ですが、この工法ならストレス低減が可能です」
このような科学的根拠に基づく提案力が、競合他社との差異化ポイントとなるのです。

バイヤーの本音を知るためのポイント

バイヤーは常に「品質」「納期」「コスト」「リスク低減」の最適バランスを求めています。
材料力学や応力・疲労設計の知識を持つことで、本当の意味での“購買目線”を持ち、現場と経営陣双方の信頼を得やすくなります。

また、下請・サプライヤーから見ると「なぜこのスペックを要求するのか」「何を根拠に価格交渉しているのか」といったバイヤーの“考えの芯”を理解できるため、余計な摩擦を避けて建設的な商談につなげることができます。

昭和的アナログ業界からの脱却と新たな地平

多くの現場でいまだに残る「勘と経験・度胸」の経営は、日本製造業の強みでもあり、変革の壁ともなっています。
材料力学や寿命設計の知識を武器に“データドリブン”型の意思決定を推し進めることは、今こそ必要な一手です。

例えば、小規模な工場でも「部品破損ゼロプロジェクト」や「再発防止会議」の場で、材料力学を“共通言語”として現場全体が学ぶ仕掛けをつくることで、世代交代や技術伝承、ひいては競争力の底上げにつながります。

まとめ:材料力学で製造業の未来を拓く

材料力学の基礎知識と疲労強度・寿命設計の論理は、昭和のアナログ産業からグローバル最先端のものづくりへと現場が成長するための中核テクノロジーです。
調達バイヤー、サプライヤー、現場エンジニアが共通基盤をもつことで、余裕ある安全設計、高効率調達、攻めのコストダウンなど、あらゆる現場課題が科学的かつ実践的に解決できます。

伝統的な現場文化を尊重しつつも、現場目線・ラテラルシンキングを駆使して“新しい材料力学の地平”を切り拓くことが、あなたとあなたの組織の発展につながるのです。

今この瞬間から日々の業務に「材料力学」を意識して取り組み、現場改善や調達・提案力強化に役立てていきましょう。

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