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レオロジーの基礎と流動性物質の測定・解析および応用

目次
はじめに ― レオロジーの重要性とは
製造業の現場において、「レオロジー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
レオロジーは、物質の「流れ」と「変形」のふるまいを科学的にとらえる学問です。
この分野は、食品・化学・医薬・自動車・建材など多岐にわたり、現代のものづくりに欠かせないものとなっています。
昭和時代のアナログな手法では、経験や勘で素材を扱うことが当たり前でした。
しかし、今日の製造現場では、製品の品質・生産効率・コスト競争力を向上させるために、科学的なデータの活用が求められています。
その中心にあるのが、このレオロジーという分野です。
バイヤーを目指す方や、サプライヤー側からバイヤーのニーズを知りたい方にとっても、レオロジーの理解は欠かせません。
なぜなら、素材や部品の流動特性、加工適性を正確に把握し、最適な提案へとつなげる観点こそが、取引先からの信頼や差別化につながるからです。
本記事では、レオロジーの基礎から流動性物質の測定・解析方法、さらに現場視点での実践的な応用事例まで詳しく解説します。
レオロジーの基礎 ― 何を明らかにする学問か
レオロジーとは何か
レオロジーはギリシャ語で「流れる」という意味の「rheo」と「学」という意味の「logy」が語源です。
直訳すれば「流れの学問」。
固体・液体・気体といった物質全般について、「どのように流れるか」「外部から力が加わった時にどう変形するか」を科学的に明らかにします。
例えば、パン生地を練る、塗料を塗る、樹脂を成型する、コンクリートを打設する、といった場面で「伸びる」「垂れる」「固まる」「混ざる」などの現象が起こります。
この時の「ふるまい」こそが、レオロジーの対象です。
粘性と弾性 ― 基礎的な二本柱
レオロジーでは、まず「粘性」と「弾性」の考え方が重要です。
– 粘性とは?
液体の「トロミ」や「ねばり気」を表す性質です。
水や油の違い、塗料のサラサラ・ドロドロといった違いが典型例です。
– 弾性とは?
ゴムのように「力を加えると伸び、力を抜くと元に戻る」特性です。
バネやスポンジ、弾性プラスチックなどのふるまいが該当します。
実際の工業材料の多くは、「粘性」と「弾性」が混在した“粘弾性体”となる点がポイントです。
レオロジーは、これらがどのように現れるかを数値化し、解析します。
粘度・弾性率・剪断応力といった物性値
レオロジーで代表的な物性値は以下の通りです。
– 粘度(ビスコシティ):液体の流れやすさ・流れにくさを数値化。単位Pa・s(パスカル・秒)。
– 弾性率(モジュラス):弾性体の「硬さ」。単位パスカル(Pa)やギガパスカル(GPa)。
– 剪断応力(シアストレス):液体などが流れるとき、層間に働く力。
これらの測定と解析が、製造現場で極めて重要な意味を持ちます。
流動性物質の測定・解析手法
レオメーターとその種類
流動性物質の測定には「レオメーター」と呼ばれる専用機器を用います。
レオメーターには以下の種類があります。
– 回転型レオメーター
– 落球式粘度計
– キャピラリー型レオメーター
– ねじり型レオメーター
– 振動型・共振型レオメーター など
最も現場で一般的なのは「回転型レオメーター」と「キャピラリー型」です。
これらはサンプルに一定の力(もしくは一定速度)を加え、応答を数値化します。
たとえば、回転型の場合は、センサー(パドルや円柱)が液体内で回転する際に必要なトルクを測定し、粘度や弾性率に換算します。
キャピラリー型では、細い管(キャピラリー)をサンプルが通過する時間や圧力を測定し流動特性を求めます。
測定時のポイントと現場での“あるある”
粘度などを正確に測るには、「温度」「せん断速度」「前処理」が非常に重要です。
特に昭和型の現場では、「社内標準」と称して実は測定条件が曖昧だったりする“あるある”が見受けられます。
現代のISOなど国際基準導入現場では、「誰が測定しても同じ値が出るか」という再現性が問われます。
バイヤー・サプライヤー間でトラブルにならぬよう、測定条件(例:粘度23℃、せん断速度100s-1等)を明確に取り決めることがポイントです。
非ニュートン流体 ― 理想と現実のギャップを乗り越える
「ニュートン流体」は、力を加えるほど比例的に流れる理想的な液体(水やアルコールなど)です。
しかし、多くの工業製品(塗料、食品、スラリーなど)は「非ニュートン流体」という複雑な流動性を示します。
– ダイラタント性・・・撹拌すると固くなる(片栗粉の水溶き、トウモロコシスターチなど)
– 擬塑性・・・混ぜるとサラサラに(ケチャップ、塗料、インクなど)
– チキソトロピー・・・練ると一時的に流動性が増す(グリース、ゲル化食品)
現場で問題となるのは、こうした複雑な物質の「加工適性」が“慣れ”や“経験”だけでは制御しきれないことです。
レオロジー装置での数値化、現場検証の徹底がますます不可欠となっています。
レオロジーの実践的な応用 ― 製造業での活用事例
生産管理・工程設計への寄与
例えば塗料メーカーや製菓メーカーでは、レオロジーデータを活用し、「スプレー塗装時の垂れ」といった現象を事前に予測し最適化します。
また、成形樹脂メーカーでは「金型流動解析」をレオロジーデータに基づいてシュミレーションし、歩留まり向上やスループット改善につなげています。
生産管理の現場では、「新原材料投入時の工程安定性検証」にも活用されています。
たとえば、海外サプライヤーからの調達原料のロットぶれを早期に見抜き、歩留まり悪化や不良品発生を未然に防ぐことも可能です。
品質保証・クレーム未然防止の武器
品質管理部門にとっても、レオロジー評価は欠かせません。
粘度や弾性率などのデータで「この製品は仕様を満たしているか」という判定基準になります。
アナログ時代は、現場から「何か今回は違う気がする…」といった定性的な情報が上がるのみでした。
今では、レオロジー測定によって客観的な数値根拠をもとに「不良の原因追及」「製品設計のフィードバック」などが実現可能です。
また、納品先バイヤーとのクレーム時にも「社内基準値」と共に「測定データ」を迅速に提供することで、無用なトラブルや不信感を未然に防げます。
サステナビリティとレオロジーの新たな関係
カーボンニュートラルやリサイクル材の活用が求められる昨今、レオロジーの意義はますます高まっています。
例えば、再生プラスチックの流動特性をきめ細かく管理し、新材との混合比率最適化や、成形不良の低減をはかる現場も増えています。
また、食料品メーカーでは「食品ロス低減」のため、残さ部分の新用途開発時にもレオロジー評価が不可欠となります。
こうした社会課題へ取り組む上でも「数値によるエビデンス」が説得力となる時代です。
バイヤー・サプライヤー間の信頼構築にレオロジーデータを活用する
バイヤーとしては、調達先であるサプライヤーが「科学的な根拠に基づき原料や製品の提供ができるか」が大きな評価材料となります。
反対に、サプライヤー側からすれば、「レオロジーデータをもとにバイヤーニーズに応え、提案力を高める」ことが差別化につながります。
実務では、技術部門・品質部門と営業や調達担当が密接に連携し、
– 「新規材料の流動性評価」
– 「加工トライアル前の流動シュミレーション共有」
– 「クレーム発生時に迅速な原因解析」
を通じて、レオロジーが“共通言語”となりえます。
このように、レオロジー理解は両者の信頼性を高め、ビジネスの円滑化や次なる価値創出に直結します。
アナログ業界の昭和体質をアップデートするカギ ― レオロジーの現場的Tips
日本の製造業現場では、手仕事の伝承や“勘と経験”に依存した昭和流文化が色濃く残る場面も少なくありません。
それが「職人技」として競争力にもなっていますが、グローバル競争や世代交代期を迎え、
・「標準化」「数値化」「見える化」
への転換が急務です。
現場視点からレオロジーの導入・活用で意識すべきポイントを以下にまとめます。
– これまでの職人ノウハウも数値化データとセットで「見える化」
– 新規装置・計測導入時は「現場メンバーの体験」を積極的に巻き込む
– 測定方法やデータ管理の標準化(SOP、トレーサビリティ付与)
– システム・DX連携によるデータの自動蓄積&分析基盤づくり
これらを意識し、現場に根ざした“レオロジーの文化”を育てていくことが、製造業進化の突破口となります。
まとめ ― これからの製造業におけるレオロジーの未来
レオロジーは、ただの「数値測定」や「機械装置」ではありません。
「ものの流れを観る眼」「未知の問題の予兆を読む力」「サプライチェーン全体で価値を共創する道具」であると再定義できます。
昭和から続くアナログ技術と、現代のサイエンスを融合させる“かけ橋”となるのがレオロジーです。
現場の皆さま一人一人が、身近な現象・素材から「流れ・変形・粘り」を観察・測定し、次世代の現場づくりに役立てていくことを期待しています。
本記事が、製造業に携わる方々やバイヤー・サプライヤー職務の皆さまの視野拡大と、日々の業務への気づきやヒントになれば幸いです。
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