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地場の技術を活かした製品で“量ではなく価値”を売るためのブランド思考

目次
はじめに:なぜ今、地場技術にブランド思考が必要なのか
今、日本の製造業は大きな転換期を迎えています。
人口減少による人手不足や、グローバル競争の激化、デジタルトランスフォーメーションの波。
そんな中で、長年支えてきた地場の技術や町工場の知見が再評価されています。
しかし、未だに「大量生産」「安さが売り」という昭和的価値観から抜けきれず、実力を活かしきれていない現状も散見されます。
実際に20年以上工場に身を置いてきた私の実感としても、「技術はあるけど仕事が来ない」「もっと高く売りたいけどバイヤーに価格を叩かれる」といった声は後を絶ちません。
ここに必要なのが「量ではなく価値を売る」というブランド思考です。
この記事では、製造業の現場目線をベースに、どうすれば地場の技術を“安売り競争”から脱却させ、選ばれるブランドとして認知を勝ち取れるのかを分かりやすく、かつ実践的に解説します。
地場技術の現状と「価格競争」の落とし穴
昭和型モデルの限界と現代製造業
かつては「数を作れば売れる」「作れば作るほど単価が下がり儲かる」というモデルが通用しました。
部品サプライヤーとしても、大手メーカーの“下請け”に徹していれば安定受注が見込めた時代です。
しかし、生産拠点の海外シフト、国内マーケットの縮小、中国・ASEANの台頭という激変を受け、単純なロット勝負・価格勝負では到底生き残れなくなっています。
私が工場長時代に経験したのは、大口のリピーターが一度海外に取られただけで、半年で売上が30%も落ち込んだこと。
売り先が片寄り「とにかく安くしてくれ」と値引き要請の連続。
付加価値を説明できず、価格のみに縛られたしんどさは、多くの現場で今も繰り返されています。
今こそ求められる「価値訴求型ブランド」へのシフト
地場の中小が本当に強みとしているのは、熟練工の加工技術、小回りのきく少量多品種対応、高い品質要求に応じられる現場力などです。
ところが「この部品ならウチが一番」という自負はあっても、それが仕様書やデータシートに出てこない。
結局、「似たようなものならより安い方へ」という発注になるのです。
解決するカギは明らかに「スペック以外の価値をブランドとして打ち出す」ことです。
そして、その価値をバイヤーやエンドユーザーにしっかり“伝える力”を磨くことが不可欠です。
ブランド思考とは?~伝統の「価値」を見える化する方法~
ブランド思考=目に見えない強みを言語化し、市場に伝える力
モノづくりにおけるブランドは、単なる「ロゴマーク」や「パッケージデザイン」ではありません。
むしろ工程・品質・対応など多様な無形価値こそがブランドの真髄。
たとえば “100分の1ミリ単位で毎回公差を守る精密板金” “現場で突発不具合にも即応できるフットワーク” “歴代継承の特殊熱処理ノウハウ” ―
これらは営業資料の後ろに小さく載ってるだけ、なんて場合がほとんどです。
本気でブランド構築するには、現場に根付く当たり前を“他社との違い”として再発見し、シンプルな言葉やストーリーで「あなたの仕事が、いかに顧客のリスク・コスト削減に効いているか」を説明できるよう整理しましょう。
実践例:現場の“こだわり”をブランド価値化するプロセス
1. 【現場観察】普段の作業で「他の会社なら難しい/嫌がる」ことを洗い出す。
2. 【ストーリー化】なぜそれが可能なのか(技術・設備・人のこだわり)をエピソードで語る。
3. 【定量+定性訴求】数値化できる性能+プロジェクト事例で信頼性を裏付ける。
4. 【顧客課題と結びつける】たとえば「調達部門が困っている納期遅延リスク」に対し、自社ならではの強みを具体的にアピール。
私の勤める工場では、どうしても手作業になる微小部品のバリ取りを、ベテラン職人が“型にはめず、1個1個丁寧に指先で感触確認している”ことをアピールしています。
この「1点モノでも品質を保証できます」という説明が、信頼構築の第一歩となりました。
価値を売るためのブランド戦略
明確ターゲティング:誰に、どんな価値を届けるのか
ブランドを作る最初の一歩は「どの市場で、どんな悩みを持つ誰に、何を提供するのか」を明文化することです。
漠然と「すべてのバイヤーに製品を売る」では、結局「安さで比較される消耗戦」に飲み込まれます。
たとえば「精密医療機器向けに、認証が厳しい海外OEM向けサプライヤーとして認知されたい」「急な設計変更にも付き合える、建材業界の試作支援」といった風に、顧客像を最大限具体的に設定しましょう。
ストーリーテリングで“存在理由”を伝える
ブランドの本質は「なぜあなたの会社から買うのか?」にムリなく答えられる一貫したメッセージです。
自社の歴史、現場技能、製造思想、そして顧客事例…。
“安ければ良い”という買い手心理を超えて、「この想いと仕組みが、我々のお客様にとって本当に価値があるんです」という物語を語り続けることです。
現場を知る元請けや技術者から直接コメントをもらう、プロセス動画/現場写真で可視化する、企業SNSやHPの更新を通じて継続発信する。
一朝一夕で届かなくても、地道に実績が積み重なれば、やがて「この会社には頼める」という信用と共感が生まれます。
バイヤー目線で考える「選ばれるメーカー」の条件
バイヤーが重視するポイント
調達側の立場から見ても「単なる価格比較」だけでサプライヤーを選ぶ時代は終わっています。
特に新規調達・海外進出・イノベーション案件では、納期の信頼性、品質管理体制、リスク時の対応、技術データの開示力、そしてコミュニケーションのしやすさなど様々な“非価格要件”が評価基準に加わっています。
また、部品メーカー側にはなかなか伝わりませんが、バイヤー自身も「リスクのある新規サプライヤー」を上司に推薦するためには、説得材料とする“付加価値”と“ストーリー”が必要です。
「ここは普通と違うから安心して取引できる」と自信を持って推せる材料が、ブランド価値そのものといえるでしょう。
サプライヤーが意識すべきポイント
・「納期遵守率」や「トレーサビリティ(製品履歴管理)」など、現場で培った当たり前を定量化して開示する
・ISOやIATFなどの認証取得も一つの“信用ラベル”になる(ただし運用実態と結びつけることが重要)
・“現場の声”として、改善・失敗談・再発防止策などのリアルなエピソードを顧客向け媒体で共有
・バイヤーとの対話機会を大切にし、課題共有→提案型営業へ変えていく
これらを続ければ「安いだけが選ばれる理由じゃない」メーカーとして認知されます。
アナログ業界ならではの“伝え方”の工夫
現場発信で顧客接点を強化する
ホームページ刷新やSNS運営も大事ですが、
・現場見学会の開催
・技術者による現場レポート(ニュースレター等)
・出前講座や地域連携、若手社員主体の工場ツアー
など、“リアルな現場体験”に勝る説得力はありません。
また、伝統産業地域ならではの横連携ネットワーク(異業種交流、事例共有、共同開発・共同販路など)も無形価値を高めるポイントです。
習慣化できる小さな取り組みがブランドを作る
「Webや外部エージェントに頼まないと難しそう…」という声も多いですが、
・毎朝の5分ミーティングで現場の工夫を拾い上げる
・納品書に一言メッセージを添える
・SNSで日々の品質チェック風景を写真で投稿
こうした当たり前の積み重ねが「この会社なら安心」と感じてもらえるブランド資産となります。
今すぐできる!地場技術ブランド化への5ステップ
1. 強みの棚卸「うちはここだけは譲れない」をリストアップ
2. 顧客ヒアリング「なぜウチに頼むのか?」「どこに不満があるか?」を現場・営業で直接聞く
3. 競合分析「他社と比べて何が違うのか」を可視化し言語化
4. ブランドストーリー作成「創業からのエピソード+現場のこだわり+将来ビジョン」
5. 一歩ずつ情報発信(HP・営業資料・現場ツアー・SNS)で実績と声を蓄積
まとめ:価値を紡ぐブランドが、これからの地場製造業を救う
製造業のサプライヤーに本当に求められるのは、単なる価格競争やリピート大量生産だけではありません。
むしろ、今こそ地場ならではの深い技術・現場知見・組織内の課題解決力が、ブランド資産として大きな差別化ポイントになります。
人にもモノにも「顔」がある。
その顔つき=ストーリーを品質や営業時に伝えていくことで、「見積もりだけで判断される下請け」から「価値を理由に選ばれるパートナー」に進化することができます。
この記事が、製造業現場やバイヤー、サプライヤーの方々が自身の立場から“価値で選ばれるものづくり”へ一歩踏み出すヒントとなれば幸いです。
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