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製造業のスキルマップの作り方——作業の分け方・段階の決め方と、技能伝承への使い方

この記事のポイント(結論先出し)
製造現場のスキルマップは、表を作ること自体より、作業の分け方と段階の決め方で使えるかどうかが決まる。作業は「それだけで仕事として成り立つ単位」まで分け、段階は「一人でできるか」「教えられるか」のように、見て判定できる言葉で決める[1]。法令で資格や特別の教育が必要な業務は、技能の段階とは別の欄で持つ[3][4][5]。技能継承がうまくいっている企業が挙げる理由の筆頭は「計画的に OJT を実施している」ことで[2]、スキルマップはその計画の元帳として使って初めて意味がある。更新の時期と担当を決めない表は、半年で実態とずれる。
目次
スキルマップで何を決めたいのか
スキルマップは、誰がどの作業をどの段階までできるかを一覧にした表である。作ること自体は難しくないが、作った後に使われなくなることが多い。原因の多くは、表の目的が決まっていないことにある。発注側から見ても、仕入先の教育の体制を確かめるときにスキルマップを見せてもらうことがあり、そこで聞くのも「この表を何に使っていますか」である。
現場で使うスキルマップの目的は、大きく三つに分けられる。
- 休みや異動で穴が空く作業を先に見つけ、代わりに入れる人を育てる
- 次に誰に何を教えるかを決め、教育の計画を立てる
- 資格や特別の教育が必要な業務に、要件を満たさない人を就かせない
三つ目は法令の話で、技能の段階とは性質が違う。後で述べるとおり、別の欄で持つ。
技能継承の現状
労働政策研究・研修機構(JILPT)が、ものづくり産業(製造業 19 業種)の従業員 30 人以上の企業 2 万社を対象に行った調査(平成 30 年度〜令和元年度の研究の一部。結果の記者発表は 2019 年 6 月、調査シリーズ No.194 は 2020 年 2 月公表)では、回答企業の多くが技能継承を重要と考える一方、うまくいっていると考える企業は半数弱にとどまった[2]。
| 設問(JILPT 調査シリーズ No.194・回答企業) | 回答 |
|---|---|
| 技能継承をどの程度重要と考えるか | 重要 66.4%、やや重要 28.4% |
| 技能継承が会社としてうまくいっているか | うまくいっている 5.2%、ややうまくいっている 39.8%、あまりうまくいっていない 47.1%、うまくいっていない 6.7% |
| 将来の技能継承について | 不安がある 15.2%、やや不安がある 65.2%(合わせて約 8 割) |
うまくいっている・ややうまくいっていると答えた企業(2,643 社)に理由を複数回答で聞くと、「計画的に OJT を実施しているから」が 59.5%で最も高く、「指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションがよく図られているから」39.0%、「技能継承を受ける側の社員の意欲が高いから」35.1%、「継承すべき技能を見極められているから」22.1%と続く[2]。この数字は、うまくいっている企業の中での割合であって、全回答企業の中での割合ではない点に注意したい。それでも、計画的な OJT と、継承すべき技能の見極めが上位に入っていることは、スキルマップの使い道とそのまま重なる。
作業の分け方
スキルマップの横軸(作業の欄)を細かくしすぎると、更新が追いつかない。粗すぎると、「組立ができる」と書いてあっても、その人に任せられる範囲が分からない。
厚生労働省の職業能力評価基準は、仕事の内容を「職種」→「職務」→「能力ユニット」→「能力細目」という単位に細分化して整理している[1]。同じ厚生労働省の「職業能力評価基準の構成」は、職務を構成する「課業」を、組織に必要な機能や役割を個々の労働者に割り当てるときに有意義に分類しうる最小の活動単位で、単なる「作業」や「動作」ではなく、達成すべき目的があり、それ自体が仕事としてまとまりを持っているもの、と説明している[6]。
この考え方を現場に当てはめると、スキルマップの一つの欄は「それを任せたら一人で最後まで終わらせられる単位」にするとよい。たとえば「旋盤加工」では広すぎ、「チャックを締める」では細かすぎる。「図面を読んで段取りし、初品を測って量産に入る」までを一つの欄にするか、「段取り」と「初品の測定」を分けるかは、その工程で人が入れ替わる単位で決める。
欄を決めるときに使える手がかりは次のとおりである。
- 作業標準書や作業手順書が一つある単位
- 休んだ人の代わりを探すとき、実際に「この作業ができる人」と探している単位
- 品質の不具合が起きたとき、原因として名前が挙がる作業の単位
段階の決め方
見て判定できる言葉で決める
段階を「初級・中級・上級」とだけ書くと、付ける人によって判定が割れる。職業能力評価基準の職業能力評価シートは、社員が自分でチェックし、その後に上司がチェックする手順で、次の記号を使う[1]。
- 〇:一人でできている(下位者に教えることができるレベルを含む)
- △:ほぼ一人でできている(一部、上位者・周囲の助けが必要なレベル)
- ×:できていない(常に上位者・周囲の助けが必要なレベル)
- 業務上、該当しない評価項目は「-」として評価対象外にする
同じ資料は、自己評価と上司評価の後に上司がコメントを書き、評価が異なっていればなぜその評価を付けたのか、知識・スキルを向上させるにはどうすればよいかを面談で話し合う、という流れを示している[1]。スキルマップでも、本人と指導者の判定が違う欄は、次に教える内容を決める材料になる。
現場のスキルマップでは、この 3 段階に「教えられる」「手順を見直せる」を足して段階を作ることが多い。下の表は段階の付け方の一例で、規格や法令で決まったものではない。
| 段階(例) | 判定の目安 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 1 指導を受けながらできる | 指導者が横にいれば手順どおりにできる | 指導者の立ち会いの記録 |
| 2 ほぼ一人でできる | 通常の作業は一人で終わるが、異常時は助けが要る | 一定期間の作業記録と不具合の件数 |
| 3 一人でできる | 異常時の一次対応まで一人でできる | 指導者による確認(実技・口頭) |
| 4 教えられる | 他の人に手順と勘所を教えられる | 教えた相手が段階 2 に上がった実績 |
職業能力評価基準のレベル区分は、会社で期待される責任・役割の範囲と難易度による 4 段階で、新入社員・担当者相当から部長・部門長までを区分している[1]。これは職務全体の段階で、一つの作業の習熟度とは物差しが違う。スキルマップの段階は作業ごとの習熟度、評価基準のレベルは人の役割の段階と分けて考えると、両方を混ぜずに使える。
「確かめ方」を書いておく
段階を上げるときに何を見て判定したかを残さないと、表は自己申告の一覧になる。上の表の右列のように、段階ごとに確かめ方を決めておく。初品の測定や外観の判定のように結果が記録に残る作業なら、その記録を判定の根拠にできる。外観の判定は検査員によって割れやすいので、判定の基準そのものを先に揃えておく必要がある。基準の揃え方は外観の合否基準を決める記事に、検査を画像の AI に置き換える場合は外観検査を AI で自動化するときの記事に書いた。
法令で決まっている資格と教育は別の欄で持つ
技能の段階とは別に、法令で決まっている要件がある。ここを技能の段階と一緒に「3:一人でできる」と書いてしまうと、資格の無い人を就かせる事故につながる。
労働安全衛生法第 61 条は、クレーンの運転その他の政令で定める業務について、免許を受けた者や技能講習を修了した者などでなければ就かせてはならないとし、その業務に従事するときは免許証その他の資格を証する書面を携帯していなければならない、としている[3]。政令で定める業務には、最大荷重 1 トン以上のフォークリフトの運転、つり上げ荷重 5 トン以上のクレーンの運転、制限荷重 1 トン以上の揚貨装置又はつり上げ荷重 1 トン以上のクレーン等の玉掛け、可燃性ガス及び酸素を用いて行う金属の溶接・溶断・加熱など、16 の業務が挙げられている[4]。
同法第 59 条は、労働者を雇い入れたとき、作業内容を変更したときに安全衛生教育を行うこと、危険又は有害な業務に就かせるときは特別の教育を行うことを事業者に求めている[3]。特別の教育が必要な業務として、労働安全衛生規則は研削といしの取替え又は取替え時の試運転、動力プレスの金型やシャーの刃部・安全装置の取付け・取外し・調整、アーク溶接等、最大荷重 1 トン未満のフォークリフトの運転などを挙げ、特別教育を行ったときは受講者・科目等の記録を作成して 3 年間保存しなければならない、としている[5]。雇入れ時等の教育の項目には、機械等や原材料等の危険性・有害性と取扱い方法、作業手順、作業開始時の点検などが含まれる[5]。
| 欄 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 免許・技能講習 | 就業制限業務の資格の有無、取得日、証の番号 | 労働安全衛生法第 61 条・同法施行令第 20 条[3][4] |
| 特別教育 | 受講した業務、日付、記録の保管場所 | 同法第 59 条第 3 項・労働安全衛生規則第 36 条・第 38 条[3][5] |
| 技能の段階 | 作業ごとの習熟度(1〜4 など自社で決めたもの) | 自社の基準(職業能力評価基準などを参考に)[1] |
資格と教育の欄は「有る・無い」で判定でき、技能の段階より先に確かめる。資格の欄が空の人には、技能の段階がいくつであってもその業務を割り当てない、という使い方にする。
更新の仕方
スキルマップは、作った日から実態とずれ始める。人が入れ替わり、作業が変わり、段階が上がるからである。更新は次の三つの時点で行うと決めておく。
- 定期の見直し(四半期や半期など、評価や教育計画を立てる時期に合わせる)
- 作業が変わったとき(新しい設備・新しい品番・手順の改訂)。欄そのものを足す・分ける
- 人が動いたとき(入社・異動・退職・資格の取得)
作業内容の変更は、技能の欄だけでなく教育の欄にも関わる。労働安全衛生法第 59 条は、雇い入れたときの教育の規定を作業内容を変更したときにも準用するとしている[3]。設備を入れ替えて作業が変わったのに、教育の記録が無いまま全員の段階を据え置く、という更新は避けたい。
更新の担当者と、どこに最新版があるかも決めておく。現場の掲示物と事務所のファイルが別々に直されると、どちらが正しいか分からなくなる。表計算で持つなら、正本を一つに決め、掲示は正本から印刷する。
技能伝承と教育計画に使う
穴の空く作業を先に見つける
スキルマップを作業ごとに縦に見て、段階 3 以上の人が一人しかいない欄は、その人が休むと止まる作業である。その人の年齢や異動の予定と合わせると、技能継承の優先順位が決まる。JILPT の調査でうまくいっている理由に「継承すべき技能を見極められているから」が挙がっていた[2]のは、この見極めのことでもある。
教える順番を決める
人ごとに横に見ると、次に何を教えるかが分かる。段階 2 の作業を 3 に上げるのか、新しい作業を 1 から始めるのかを、上の「穴の空く作業」と照らして決める。教える人は段階 4 の人から選び、教える時間を業務の予定に入れる。計画的な OJT がうまくいっている理由の筆頭だった[2]ことを考えると、スキルマップから教育計画を作り、実施した結果を段階の更新に戻す、という一回りを作ることが要になる。
仕入先の体制を確かめるとき
発注側が仕入先の工場を確かめるとき、スキルマップの有無だけでなく、最終の更新日、資格と教育の欄の有無、段階を上げるときの確かめ方を聞くと、実際に使われている表かどうかが分かる。縫製工場の技能評価の例は縫製工場での技能評価と教育制度の記事にある。外国人の働き手を受け入れている仕入先では、制度の変更で人の入れ替わりが起きやすくなる点を育成就労制度への移行の記事で扱った。人の入れ替わりは品質の変化点になるので、スキルマップの更新と合わせて見る。
よくある質問
表計算で作ってよいか
始めるのは表計算で十分である。大事なのは欄の分け方・段階の言葉・更新の時期と担当で、道具ではない。ただ、人数や作業の欄が増え、教育の記録や資格の期限まで一緒に持とうとすると、表計算では更新が追いつかなくなることがある。現場の情報を見える形にする段階の考え方は、在庫の見える化の記事で在庫を例に書いたが、スキルマップでも同じで、紙・表計算・システムのどれでも「正本が一つ」「更新する人が決まっている」ことが先である。
段階の判定を本人に任せてよいか
職業能力評価シートの手順のように、本人の自己評価の後に上司が評価し、違いを面談で話し合う形がよい[1]。本人だけだと甘くも辛くもなり、上司だけだと本人が次に何をすればよいか分からない。
評価や処遇と結びつけるべきか
職業能力評価基準の資料は、人材育成だけでなく人事評価や処遇の参考にも使えるとしている[1]。ただし処遇と強く結びつけると、段階を上げる判定が甘くなりやすい。まずは教育計画と代わりの人の確保に使い、判定の確かめ方が定着してから処遇との関係を考える順番が無理がない。
まとめ
スキルマップは、作業を「任せたら一人で終わらせられる単位」に分け、段階を見て判定できる言葉と確かめ方で決める。法令で決まった資格と特別教育は技能の段階と別の欄で持ち、要件を満たさない人を就かせない。更新の時期と担当、正本の置き場所を決め、穴の空く作業を見つけて教育計画を作り、結果を段階の更新に戻す。この一回りが回って初めて、技能伝承の道具になる。
出典・参考資料
- 職業能力評価基準導入マニュアル(厚生労働省 人材開発統括官 能力評価担当参事官室/2021 年 3 月)
- 調査シリーズ No.194「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果」(労働政策研究・研修機構)
- 労働安全衛生法(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 職業能力評価基準の構成(厚生労働省)
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