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在庫管理の見える化——量・場所・滞留を現場で一目で分かるようにする手順

この記事のポイント(結論先出し)
在庫の見える化は、画面やグラフを作ることではない。JIS は「目で見る管理」を、正常か異常かを一目で見て分かり、管理しやすくした工夫と定義している[1]。在庫で一目で分かるようにすべきものは、量(最大と最小に対して今どこか)、場所(どこに何があるか)、滞留(どれだけ動いていないか)の 3 つに絞れる。手段は現物の表示・紙・表計算・システムのどれでもよく、先に決めるべきなのは、誰がその表示を見て何をするか、というルールのほうだ[2]。ルールのない見える化は、ただ掲示されているだけになる。
目次
「在庫管理の見える化」で、何が見えていないのか
在庫の見える化を進めたいという相談の中身を分けると、だいたい次の 3 つのどれかになる。
- 欠品してから気づく(あと何日分あるかが、現場で分からない)
- 探すのに時間がかかる(帳簿にはあるのに、どこにあるか分からない)
- 使わない在庫が積み上がる(何年も前に買った材料が棚を占めている)
この 3 つは、それぞれ量・場所・滞留の問題であり、見せるものも直す手段も違う。全部を 1 枚のダッシュボードで解決しようとすると、たいていどれも中途半端になる。最初に、自分の現場で困っているのがどれなのかを決めておくと、何から手を付けるかが決まる。
なお、帳簿の側の作り(受払いの記録の付け方)がずれていると、何を見せても正しくならない。入庫と出庫をどう記録するかは受払簿を正にする在庫管理の記事で、発注残や引当を含めて「使える在庫」を数える考え方は在庫表を表計算で持つ限界の記事で扱った。この記事は、その数を現場でどう見せ、どう使い続けるかに絞る。
JIS での位置づけ:現品管理と目で見る管理
生産管理の用語を定めた JIS Z 8141 は、資材・仕掛品・製品などの物について、運搬・移動または停滞・保管の状況を管理する活動を「現品管理」と呼び、その目的を「現品の経済的な処理並びに数量及び所在の確実な把握」としている[1]。在庫の見える化の対象は、まさにこの数量と所在である。
同じ JIS は「目で見る管理」(見える化ともいう)を、作業者または管理者が進捗状況や正常か異常かといった生産の状況を一目で見て分かり、管理しやすくした工夫と定義し、原材料の管理を目的とした例として、生産管理板・在庫表示板・かんばんを挙げている[1]。また、品物の入出庫日・入庫・出庫・在庫量を明示するための現品カードを「棚札」(在庫管理票とも呼ぶ)としている[1]。
見える化は新しい IT の言葉ではなく、在庫表示板や棚札のように、もともと現場にある道具の延長だということを押さえておくと、手段の選び方を誤りにくい。
見せるもの 1:量(最大と最小に対して今どこか)
在庫の量を見せるときにまず要るのは、「多い・少ない」を判断する基準である。基準がなければ、数字を見せても誰も動けない。工場の見える化を論じた田村・小島(2007)は、部品の欠品の防止と過剰在庫の防止を目的にした例として、部品の置き場所と置き方を決め、そこに所番地を記したカードを最大在庫の高さに掲示し、最小在庫を表す位置に三角かんばんを付ける方法を挙げている[2]。部品が減って三角かんばんが見えたら、それが発注の合図になる。
この方法の要点は、最大と最小の 2 本の線を現物の上に引いてしまうことにある。担当者は帳簿を開かなくても、棚の前に立てば「足りないか・余っているか」が分かる。最小の線をどこに引くか(発注点)と、最大の線をどこに引くかは、出庫の実績と調達の日数から決める。発注点と安全在庫の出し方は適正在庫の決め方の記事で扱っている。
自動車部品の大手メーカーの事例を調べた早馬・田村(2014)の報告は、従来は在庫水準を表す目印やシュート横の目印などで在庫量を見える化してきたこと、IT を使う場合は在庫管理ソフトで在庫情報を表示し、欠品防止のために在庫水準にイエローゾーン(注意域)とレッドゾーン(警告域)を設け、段階ごとに発注や督促ができるようにしていることを紹介している[3]。紙でもシステムでも、2 段階の警告ラインを先に決めている点は同じである。
見せるもの 2:場所(どこに何があるか)
帳簿の数は合っているのに、物が見つからない。この問題は、量ではなく場所の問題である。5S の整頓について JIS Z 8141 は、必要なものを必要なときにすぐに使用できるように、決められた場所に準備しておくことと注記している[1]。
中小企業での 5S の指導を報告した日本機械学会誌の記事は、整頓のテクニックとして、すぐに取り出せるようにすることと同時に、すぐに元の位置に戻せるようにすることを挙げ、そのためにどこに何があるかを明確にする表示が大切で、表示は誰もが間違えないようにすること、所番地を決めて表示は見やすく大きくすること、工場の床には白線を引いて区分を設けることを挙げている[4]。同じ記事は、棚の最上段や最下部には極力モノを置かない、モノは積まない・混ぜない・覆わない、段ボールの床への直置きを禁止する、といった原則も示している[4]。
場所の見える化で最初にやることは、所番地(棚の番号と段の番号)を決めて現物に貼り、その番号を品目の記録に持たせることである。システムに保管場所の欄があっても、現物の側に番号が無ければ、探す時間は減らない。
置き場を決めるときに外せない法令の線
在庫の置き場を増やそうとして通路に物を置くと、安全の問題になる。労働安全衛生規則は、事業者に、作業場内に労働者が使用するための安全な通路を設けて常時有効に保持すること、主要な通路には通路であることを示す表示をすることを求めている[5]。屋内の通路については、用途に応じた幅を持たせること、通路面から高さ 1.8 メートル以内に障害物を置かないことを定め、機械間またはこれと他の設備との間に設ける通路は幅 80 センチメートル以上としている[5]。
| 置き場を決めるときの確認 | 数値・内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 主要な通路の表示 | 通路であることを示す表示をする | 労働安全衛生規則 第 540 条第 2 項[5] |
| 通路の上の空間 | 通路面から高さ 1.8 m 以内に障害物を置かない | 同 第 542 条第 3 号[5] |
| 機械間の通路の幅 | 80 cm 以上 | 同 第 543 条[5] |
| 棚の使い方 | 最上段・最下部には極力置かない。積まない・混ぜない・覆わない | 中小企業の 5S 指導の報告[4] |
| 在庫量の線 | 最大在庫の高さに所番地のカード、最小在庫の位置に三角かんばん | 工場の見える化の研究の例[2] |
床に引く白線は、在庫の区画を示すと同時に、通路を守る線でもある。「この線の外には物を置かない」が守られていれば、在庫が増えたときに真っ先に目に付く。
見せるもの 3:滞留(どれだけ動いていないか)
量と場所が見えても、使わない在庫が増えていくことは止まらない。JIS Z 8141 は棚卸の注記で、在庫品をその活動性によって死蔵在庫・眠り在庫・活動在庫・過剰在庫に分け、それぞれ適否を検討するとしている[1]。在庫の数量だけでなく、動いているかどうかを区分して見ることを、用語の段階で求めているわけである。
この区分を現場で使えるようにするには、「最後に出庫してから何か月か」を品目ごとに出し、社内で決めた区切りで色分けするのが手っ取り早い。区切りの月数は、品目の性質(補修用か、量産用か、長納期品か)で変わるので、一律の正解はない。例えば「6 か月動いていないものを眠り在庫、2 年動いていないものを死蔵在庫の候補として月 1 回の会議で扱う」のように、区切りと、それを見た人が何をするかをセットで決める。
滞留在庫が見えたら、使い道の確認、仕入先への返品や転売の可否、廃棄、決算での扱いを決めていくことになる。棚卸資産の評価損と棚卸減耗損の違いは棚卸減耗損と評価損の記事にまとめた。帳簿と現物が合わない場合の調べ方は棚卸差異の調べ方の記事で扱っている。
手段は 4 段階。紙から始めてよい
見える化の手段について、早馬・田村(2014)は、からくり、紙、現物、IT、およびそれらの複合形に分けて整理している[3]。同じ報告は、紙や現物は初期コストが安く導入も比較的容易である一方、紙は日々の更新に手間がかかり、すでにその時点で過去の情報になっている場合も多いこと、IT は初期投資と導入時間がかかるが、表現の豊かさ・データ処理・リアルタイム性・遠隔地からの確認で優れていることを、筆者らの主観的な評価として示している[3]。
論文の分類(からくり・紙・現物・IT・複合形)を、ここでは在庫の見える化で使い分けやすいように、次の 4 段階(現物の表示・紙の掲示と棚札・表計算・システム)に置き換える。
| 段階 | 量 | 場所 | 滞留 | 弱いところ |
|---|---|---|---|---|
| 現物の表示 | 最大・最小の線、三角かんばん | 所番地の札、床の白線 | 入庫日を書いた札(目で見て古さが分かる) | 離れた場所からは見えない。集計できない |
| 紙の掲示・棚札 | 棚札に入出庫と残を記入 | 置き場の配置図 | 最終出庫日を棚札から読む | 書き忘れで現物とずれる。更新に手間 |
| 表計算 | 受払いから残を計算し、発注点と比べて色を付ける | 品目に所番地の列を持つ | 最終出庫日からの月数で並べ替える | 同時に何人も更新できない。現場で見にくい |
| システム | 注意域・警告域で知らせ、発注や督促につなぐ | 保管場所ごとの在庫を一覧で出す | 滞留の一覧を定期に出す | 入力が現場の動きに追いつかないと、画面だけ正しく見える |
どの段階でも、量・場所・滞留の 3 つは同じように見せられる。違うのは、更新の手間と、離れた場所から見られるかどうかである。最初から最後の段階に飛ぶ必要はない。現物の表示で量と場所が回るようになってから、集計と滞留の一覧を表計算やシステムに移すほうが、何を見せればよいかが分かっている分だけ失敗しにくい。在庫管理のシステムを選ぶときに確かめる項目は在庫管理システムの選び方にまとめている。
見える化が続かない理由と、続く形
見る人と、見たあとの動きを決めていない
田村・小島(2007)は、見える化を推進し有効にするために明確にすべき要素として、目的、対象、方法、図表や仕組みを作る業務担当者、それを使う活用者、活用法の 6 つを挙げ、なかでも重要なのは活用者と活用法だとしている[2]。これらが明確でないと情報が単に図表化されるだけに終わり、単にパソコンなどで情報が見られるようにすることは「見せる化」と呼ばれる、とも書いている[2]。同じ論文は、交通信号の例を引いて、見える化のために作った図表も活用のルールが明確でないと、活用されずに単に掲示されているだけになると指摘している[2]。
先ほどの三角かんばんの例でいえば、論文は活用法を、部品発注担当者はかんばんが外れたら発注する、職場のグループリーダーは最大在庫と最小在庫を調整する、グループの構成員は在庫削減の改善をする、工場長は在庫が管理・改善されているかを見る、と人ごとに書き分けている[2]。見える化の表示を作るときは、この「誰が・見て・何をする」を 1 行ずつ書き出し、掲示物の横に貼ってしまうくらいでちょうどよい。
都合の悪い数字が隠れる
早馬・田村(2014)は、人には都合の良い情報は見せたいが都合の悪い情報は隠したいという心理が働き、「見える化」が「見せる化」になり、都合の悪い情報は見せない「隠し化」になることが度々生じると述べ、紙や実物(特に在庫や不良品)による見える化は人間の思いの入る余地が大きいとしている[3]。滞留在庫の一覧が会議に出てこなくなる、棚の奥に古い材料が押し込まれる、といった現象はこれに当たる。
対策は、数字を出す人と、その数字で評価される人を分けることである。滞留在庫の一覧は、在庫を持っている部署ではなく、受払いの記録から機械的に出す。数え方を決めた人とは別の人が、月に 1 回同じ手順で出す。現場の努力の見せ場を作るなら、減った量のほうを掲示する。
道具を替えると、反発が出る
同じ報告は、IT による見える化に対して、紙のほうが安価で手軽ではないか、紙なら多くの情報を一度に掲示できるが IT だと一画面しか見せられない、IT は現状の姿をブラックボックス化するのではないか、手作業で育っていた問題発見力が下がるのではないか、といった管理者の抵抗感があったことを報告している[3]。ただし、IT の利用で問題意識や改善力が下がるかどうかを検証したデータは見られないとも書いている[3]。
現場の紙の掲示を、いきなりモニターに置き換える必要はない。紙と現物の表示はそのまま残し、集計の手間がかかる部分(滞留の一覧、複数の倉庫の合計)から表計算やシステムに移すと、「見えなくなった」という反発は出にくい。
始めるときの手順
1. 困っていることを 1 つ選ぶ
欠品・探す時間・使わない在庫のうち、いちばん困っているものを 1 つ選ぶ。全部を同時に始めない。
2. 対象の品目を絞る
欠品なら、止まると生産が止まる部品から。探す時間なら、出庫の回数が多い棚から。滞留なら、金額の大きい品目から。
3. 基準を決める
最大・最小の量、滞留とみなす月数を決める。決めた値と、その決め方を記録に残す。
4. 誰が見て何をするかを書く
表示を見る人と、その人が取る行動を 1 行ずつ書く。書けない表示は作らない。
5. 1 か月回して、表示とルールを直す
表示が守られているか、基準が厳しすぎないかを見て直す。現物の表示で回るようになってから、集計を表計算やシステムに移す。
よくある質問
在庫の見える化は、システムを入れないとできませんか
できる。JIS が目で見る管理の例に挙げている在庫表示板やかんばん、棚札は、どれもシステムがなくても使える道具である[1]。システムが効くのは、品目や倉庫の数が多く、集計や離れた場所からの確認が必要になったときである。
表示を作ったのに、すぐに現物と合わなくなります
表示がずれるのは、入出庫の記録か、置き場のルールのどちらかが守られていないためであることが多い。決められた場所以外に置かない、取ったら記録する、が守られているかを先に確かめる。帳簿と現物のずれを調べる順番は棚卸差異の記事を参照してほしい。
滞留在庫を見える化したら、捨ててよいのですか
見える化は判断の材料をそろえる段階で、処分を決める段階ではない。補修用に長く持つ必要がある部品や、仕入先との取り決めで持っている在庫もある。使い道・返品の可否・会計上の扱いを確かめてから決める。
需要の予測を AI に任せれば、見える化は要らなくなりますか
予測が出ても、現物がどこに何個あるかが合っていなければ、予測に基づく発注は外れる。予測の前提になるのは、正しい在庫と出庫の記録である。生産計画や在庫管理に AI をどう使うかは生産計画・在庫管理に AI を使うときの記事で扱っている。
まとめ
在庫の見える化で一目で分かるようにするのは、量・場所・滞留の 3 つである。量は最大と最小の 2 本の線を現物の上に引き、場所は所番地を決めて現物と記録の両方に持たせ、滞留は最後に動いてからの月数で区分する。手段は現物の表示・紙・表計算・システムのどれでもよく、紙から始めてよい。続くかどうかを決めるのは道具ではなく、誰がその表示を見て何をするかというルールであり、数字を出す人と評価される人を分けておくことである。置き場を広げるときは、通路の確保と表示という労働安全衛生規則の線も外さない。
出典・参考資料
- JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
- 工場の見える化と工場診断への利用に関する一考察(田村隆善・小島貢利)(日本経営診断学会論集 第 7 巻・J-STAGE/2007 年)
- ITを活用した製造現場の見える化の事例とその考察(早馬真一・田村隆善)(日本経営診断学会論集 第 14 巻・J-STAGE/2014 年)
- 中小企業の「5S」改善のステップ(日本機械学会誌 第 113 巻 第 1101 号・J-STAGE/2010 年 8 月)
- 労働安全衛生規則(第 540 条・第 542 条・第 543 条 通路)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
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