- お役立ち記事
- 棚卸差異が出たら何から調べるか——7段の順番と、外注先で出た差の扱い
棚卸差異が出たら何から調べるか——7段の順番と、外注先で出た差の扱い

この記事のポイント(結論先出し)
棚卸差異が出たら、在庫が本当に減ったと考える前に記録の側の誤りから順に疑う。調べる順番は、数え直し、基準時点の前後の伝票、未処理の伝票、単位と入数、品番と置き場(対になる差)、預け在庫と支給材、そして最後に本当の減少である。差は消して終わりにせず、どこで記録が抜けたかを示す信号として扱い、帳簿を実地に合わせて処理するが、外注先で出た差を原因の確認なしに代金から差し引かない。取適法では、あらかじめ合意があっても、相手の責めに帰すべき理由がない減額は違反になる[5]。
目次
差異は「在庫の問題」より先に「記録の問題」として見る
帳簿の数と数えた数が合わないとき、最初に頭に浮かぶのは紛失や盗難かもしれない。しかし製造業の現場で出る差の多くは、物が消えたのではなく、記録と現物のどちらかが基準時点で揃っていなかったことから生じる。調べる順番を「記録の誤りから現物の減少へ」と決めておくと、短い時間で原因の多くを片づけられる。
財務報告の内部統制の実施基準は、生産管理システムに棚卸の検証の仕組みを組み込み、製造部門が製造指図のデータに沿って材料の出庫数量を入力し、倉庫係が日々の実在庫データを入力する手続を業務に組み込めば、帳簿在庫と実在庫の差をすぐ把握して問題の発見に役立てられる、という例を示している[3]。差は「出たら消すもの」ではなく、どこで記録が抜けたかを教える信号として扱う、というのがこの考え方である。
監査の基準も同じ立場をとる。継続記録を維持している企業で、継続記録と実地棚卸数量の間に差異が識別されることがあり、これは棚卸資産の増減に係る内部統制が有効に運用されていないことを示唆していることがある、と書いている[2]。差の原因を調べることは、そのまま翌期の記録の運用を直す作業になる。
差異の原因の種類(記録漏れ、単位の取り違え、数え漏れ、破損、目減り、外注先での消費)は棚卸のやり方と手順で一覧にしている。この記事では、その原因にどの順番で当たり、何の資料で確かめるかに絞る。
📄 実務で使うなら — 検収・支払・棚卸(全 5 章・無料サンプルあり)
調べ始める前に決めておく 3 つ
どの差から調べるか
すべての差を同じ深さで追うと決算が締まらない。調べる対象は、差の金額の大きいものと、差の率が大きいものの両方から選ぶ。金額だけで選ぶと、単価の安い小物で数量が大きくずれている品目(単位や入数の誤りが疑われるもの)が漏れる。率だけで選ぶと、高額品の数個の差が埋もれる。
法人税法施行規則は、棚卸表に棚卸資産の種類、品質および型の異なるごとに数量、単価および金額を記載するよう求めている[1]。差を比べる単位もこの粒度にそろえる。品目をまとめた合計で比べると、プラスとマイナスが相殺されて差が見えなくなる。
誰が調べるか
差を調べる人は、その品目を数えた人とは別の人にする。同じ人が数え直すと、最初の数え方の癖がそのまま再現されることがある。また、帳簿を付けている人だけで原因を確定させないようにする。帳簿側の誤りを帳簿の担当者が見つけにくいのは、どの職場でも同じである。
いつまでに確定させるか
調べる期限を決めておく。期限までに原因が分からない差は「原因不明」として処理し、翌期に重点的に数える対象として申し送る。原因の分からない差を期末に抱えたまま決算を止めるより、分からなかったことを記録に残すほうが、翌期の調査に役立つ。
調べる順番——7 段で絞り込む
次の表の上から順に当たる。上の段ほど調べるのが速く、原因として多いものを並べた。
| 段 | 疑うこと | 見る資料 | 見つかったら直す側 |
|---|---|---|---|
| 1 | 数え間違い | 別の人による再カウント | 実地(カウントシート) |
| 2 | 基準時点の前後のずれ | 基準時点の前後に動いた入出庫伝票 | 帳簿または実地 |
| 3 | 未処理の伝票 | 未入力の出庫票、検収待ちの入荷 | 帳簿 |
| 4 | 単位・入数の取り違え | 品目マスタの単位、梱包の入数 | 帳簿またはマスタ |
| 5 | 品番・置き場の取り違え | 差が逆向きに出ている似た品番・近い置き場 | 帳簿(振替) |
| 6 | 手元にない在庫 | 外注先の在庫報告、支給の記録 | 帳簿(預け在庫) |
| 7 | 本当の減少 | 不良の記録、廃棄の記録、置き場の状態 | 減耗として処理 |
1 段目:まず数え直す
差が出た品目は、別の人がもう一度数える。ここで差が消えるなら、原因は当日の数え方にある。重量で換算した小物なら、換算に使った 1 個あたりの重さが今の部品と合っているかも確かめる。部品の仕様が変わって重さが変わっているのに、古い換算値を使っていることがある。
監査の基準は、テスト・カウントのやり方として、実地棚卸の記録から抽出した品目を実物と照合し、反対に実物から抽出した品目を記録と照合する、という両方向の確認を挙げている[2]。数え直しも同じで、シートから現物を探すだけでなく、現物からシートを探す。前者だけでは「シートに載っていない置き場」の在庫を見落とす。
2 段目:基準時点の前後を揃える
数え直しても差が残るなら、基準時点の前後に動いた伝票を確かめる。数えている最中に出庫されたもの、基準時点の直前に入荷したが置き場に入っていなかったもの、基準時点の後に入力されたが日付が前になっている伝票などである。監査の基準も、実地棚卸の指示と手続の評価にあたって、基準日前後の保管場所の移動と入出庫に係る管理に対処しているかを見る項目に挙げている[2]。棚卸そのものを期末日以外の日に行った場合には、監査人はその日から期末日までの増減が正しく帳簿に入っているかの証拠を求めることになっており[2]、期中の加減に使った伝票も同じように範囲を残しておく。
この段の差は、帳簿と実地のどちらが正しいとも言えない。基準時点を決めて、それより前の動きは帳簿に入れ、後の動きは帳簿から外す、という線を引き直すことで消える。線を引く根拠になる伝票の範囲を残しておく。
3 段目:入力されていない伝票を探す
出庫票が現場に残ったまま入力されていない、入荷したが検収が終わらず帳簿に入っていない、といったものである。帳簿の数が実地より多ければ出庫の入力漏れを、少なければ入庫の入力漏れを疑う。差の向きで探す伝票の種類が決まる。
入荷の入力漏れは、仕入の計上漏れにつながることがある。在庫だけ直して仕入の側を直さないと、期末の棚卸高だけが増えて売上原価が小さく出る。在庫の差を直すときは、対応する仕入や支払いの記録まで確かめる。計上の日付の考え方は仕入はいつ計上するかにある。
4 段目:単位と入数を確かめる
差の数量が、きりのよい倍数になっていたら単位を疑う。たとえば帳簿の数がちょうど 10 倍、100 倍、あるいは箱の入数の倍数でずれている場合である。仕入先の納品書は箱単位、自社の帳簿は個単位、という品目で起きやすい。品目マスタの単位と、入庫時に入力した単位が一致しているかを確かめる。
単位の誤りは、その品目だけでなく同じ仕入先・同じ担当者の他の品目にも出ていることが多い。1 件見つかったら、同じ条件の品目をまとめて見る。
5 段目:逆向きの差を探す
ある品番で帳簿より 30 多く、よく似た品番で 30 少ない、という組み合わせが見つかったら、出庫や入庫のときに品番を取り違えた可能性が高い。同じ品番を別の置き場に置いていて、片方の置き場だけ数えた場合も、置き場ごとに見るとプラスとマイナスが対になって出る。
この段の差は、品目の合計で見ると消えてしまう。差の一覧を品番と置き場の両方で並べ、絶対値が近い逆向きの差を探す。見つかったら、在庫を増やしたり減らしたりするのではなく、品番間または置き場間の振替として直す。在庫の総額は変わらない。
6 段目:手元にない在庫を確かめる
外注先へ預けている材料や、検査のために社外へ出している品は、自社の在庫として帳簿に残っている。数える範囲から外れていれば、そのまま差になる。外注先から在庫の報告を受け、自社の支給の記録と照合する。監査の基準は、第三者が保管し管理している棚卸資産について、数量と状態に関する第三者への確認や、実査などの手続を挙げている[2]。発注側の調査でも、報告書を書面で受け取っておくことが基本になる。棚卸を兼ねたような作業量の大きい報告を外注先に求めるなら、報告の範囲・頻度と、その作業の対価(または無償とする根拠)を先に決めておく。その考え方は実地棚卸を早く終わらせるにはで書いた。
支給材の差は、外注先の加工の歩留りが想定と違うことでも出る。この場合は物が消えたのではなく、所要量の前提がずれている。差の扱いは後の節で書く。
7 段目:残った差が本当の減少
ここまで当たって残った差が、破損、劣化、目減り、紛失などによる本当の減少である。不良品として別置きにしたものを廃棄したのに記録していない、という例もこの段で見つかる。減少として処理する前に、廃棄や不良の記録と照合し、記録があるのに帳簿に反映していないものは 3 段目に戻して直す。
差をどう処理するか
原因が分かった差と、分からなかった差のどちらも、最終的には帳簿を実地に合わせる。ただし直し方が違う。
記録の誤りだった差(2〜6 段目)は、元の伝票を正しく入力し直す形で直す。差額を一括で「調整」と入れてしまうと、どの伝票が誤っていたのかが帳簿から消える。翌期に同じ誤りが起きたとき、前回の原因をたどれない。
本当の減少だった差(7 段目)と、原因不明のまま期限を迎えた差は、棚卸減耗として処理する。通常の範囲のものと異常なものの区分、評価損との違いは棚卸減耗損と棚卸評価損の違いで扱っている。決算の仕訳の形は、同じ時期に書いた棚卸の結果を決算でどう仕訳するかにまとめる。
どちらの場合も、差の一覧に「段」と「原因」と「直した伝票」を残す。財務報告の内部統制の基準は、日常的モニタリングの例として、各業務部門で帳簿記録と実際の在庫数量等を照合することや、定期的な棚卸手続で在庫の残高の正確性と網羅性を監視することを挙げている[3]。差の一覧は、その監視の記録そのものになる。
外注先・支給材の差は、代金で精算する前に確かめる
外注先に支給した材料が、支給量と加工実績から計算した量より少なかったとき、その差を外注先の負担として代金から差し引きたくなることがある。ここには取適法の線がある。
取適法は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに製造委託等代金の額を減ずることを禁じている[4]。公正取引委員会のテキストは、仮に事前に代金の減額等について合意があったとしても、中小受託事業者の責めに帰すべき理由なく代金の額を減ずる場合は違反になると明記している[5]。支給材の差の原因が、支給側の数え間違いや、自社が示した所要量の前提の誤りであれば、外注先の責めに帰すべき理由には当たらない。原因を確かめないまま差し引けば、この線を越えるおそれがある。
受託中小企業振興法に基づく振興基準は、委託事業者が支給材を支給しようとする場合には、支給材の保管の方法、契約不適合がある場合の取扱い、支給材の所要量の算定方法、残材の処理の方法、支給の時期、対価の決定方法などを、あらかじめ中小受託事業者と協議して定めるものとしている[6]。望ましくない事例として、残材の買取りについて明確な取決めをせず負担を一方的に押し付けることも挙げている[6]。差が出てから負担を決めるのではなく、所要量の計算式と、差が出たときの扱いを支給の前に決めておけば、棚卸のたびに揉めずに済む。支給材の代金の扱いそのものは有償支給材と金型代の禁止行為で扱っている。
再発を防ぐ——原因の段ごとに直す場所が違う
差の調査が終わったら、段ごとに件数と金額を集計する。どの段が多いかで、直すべき場所が変わる。
1 段目(数え間違い)が多いなら、当日の数え方と換算値を直す。置き場の順に並べたシート、数え終わった区画の印、換算に使う重さの更新日を決める。
2・3 段目(基準時点と未処理伝票)が多いなら、伝票の流れが遅れている。入荷から入力まで、出庫から入力までの時間を測り、締めの前日に未入力をゼロにする運用を決める。入力が後追いになっている限り、毎期同じ差が出る。
4・5 段目(単位と品番)が多いなら、品目マスタと現物の表示を直す。単位の統一、似た品番の置き場を離す、現物のラベルに品番と単位を併記する、などである。実施基準が例示するように、出庫と実在庫の入力を業務の中に組み込めば、差は期末を待たずに見えるようになる[3]。
6 段目(手元にない在庫)が多いなら、外注先との報告の取り決めを直す。報告の時期と様式、支給の記録との照合方法を決め、所要量の算定方法を支給前に協議しておく[6]。
7 段目(本当の減少)が多いなら、保管と廃棄の管理を直す。不良品置き場の分離、廃棄の承認と記録、劣化しやすいものの保管条件である。
よくある質問
差が小さい品目は、調べなくてよいか
金額が小さくても、差の率が大きい品目は調べる対象に入れる。単位や入数の誤りは、単価の安い品目で大きな率の差として出やすく、同じ誤りが他の品目にも広がっていることがあるからである。逆に、金額も率も小さい差は、調べる手間に見合わないことが多い。どこで線を引いたかを記録に残しておけば、翌期に同じ判断ができる。
数え直して実地の数が変わった。最初の数はどうするか
カウントシートの最初の数は消さずに残し、数え直した数と、数え直した人を書き加える。最初の数を書き換えて消してしまうと、当日の数え方にどれだけ誤りがあったかが分からなくなる。数え直しの件数そのものが、次の棚卸の段取りを直す材料になる。
帳簿のほうが正しいと分かったら、実地を直してよいか
実地の数え間違いと確認できた場合は、カウントシートを正しい数に直す。ただし「帳簿と合わないから帳簿の数にしておく」という直し方はしない。帳簿の数をシートに写すと、記録漏れや紛失がすべて隠れる。直す根拠(再カウントの結果、見つかった置き場など)を必ず添える。
原因不明の差が毎期同じ品目で出る
その品目は、期末の一斉棚卸だけでなく、期中に区切って数える対象にする(循環棚卸の組み方は実地棚卸を早く終わらせるための準備と分担で扱う)。数える間隔が短いほど、差が出たときに動いた伝票が少なく、原因を絞り込みやすい。毎期出ているなら、物の減少ではなく、その品目の入出庫の記録の仕方に原因があることが多い。
外注先から報告された在庫と、自社の計算が合わない
まず自社の支給の記録と、外注先から受け取った加工済み品の数を照合する。そのうえで、所要量の前提(歩留り、端材の扱い)が実態と合っているかを外注先と確かめる。差の負担を決めるのは原因が分かってからで、代金からの差し引きを先に行わない[5]。
まとめ
棚卸差異は、在庫の減少より先に記録の誤りとして調べる。数え直し、基準時点の前後、未処理の伝票、単位と入数、逆向きの差、手元にない在庫と順に当たり、残ったものを本当の減少として扱う。差を比べる単位は棚卸表と同じく種類・品質・型ごとにそろえ、金額と率の両方で調べる対象を選ぶ。記録の誤りは元の伝票を直し、本当の減少と原因不明は減耗として処理する。外注先で出た差は、原因を確かめないまま代金から差し引かず、所要量の算定方法と差の扱いを支給の前に決めておく。段ごとの件数を集計すれば、翌期に直す場所が決まる。
出典・参考資料
- 法人税法施行規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 監査基準報告書 501「特定項目の監査証拠」(日本公認会計士協会 監査・保証基準委員会/2024 年 9 月 26 日最終改正)
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 振興基準(受託中小企業振興法第 3 条第 1 項に基づく)(経済産業省/令和 8 年 6 月 24 日)
差異の原因の分け方を、棚卸の手順ごと社内で共有したいとき
NEWJI総研の研修テキスト「検収・支払・棚卸」は、納品されたあとの流れを章ごとに整理した教材です。棚卸のやり方と手順の章で差異の原因の分け方と処理、手元にない在庫の扱いを、棚卸表の作り方の章で差異の列の持ち方と差異の原因の記録を扱っています。受領拒否・返品・やり直しの線や支払通知書の章もあります。無料サンプルで中身を確かめてからお選びいただけます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
FREE DOCUMENT — サービス資料(PDF・無料)
見積依頼から比較まで、
ひとつの画面にまとめる方法
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
▶ 見積依頼から比較までをひとつの画面にまとめる方法を、資料で見る(PDF・無料)
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
見積・発注クラウド Newji one
受発注が増えるほど、入力・確認・催促が重くなる。
受発注管理を“仕組み化“して、ミスと工数を削減しませんか。
見積・発注・納期まで一元管理できます。
