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棚卸減耗損と棚卸評価損の違い|低価法を選定していないと損金にならない

この記事のポイント(結論先出し)
棚卸減耗損と棚卸評価損は、名前が似ているが原因も処理も違う。減耗損は「数が足りない」、評価損は「価値が下がった」。減耗損は現物と帳簿の差なので原則として損金になる。評価損は、単なる時価の下落なら低価法の選定が要るが、災害による著しい損傷・著しい陳腐化などに当たれば低価法がなくても損金にできる。まず自社がどちらで届け出ているかを確認するところから始まる。
目次
減耗損と評価損の違い
| 項目 | 棚卸減耗損 | 棚卸評価損 |
|---|---|---|
| 何が起きた | 数量が減った | 単価が下がった |
| 計算 | (帳簿数量 − 実地数量)× 原価 | 実地数量 ×(原価 − 時価) |
| 原因 | 紛失・破損・記録漏れ・盗難・目減り | 陳腐化・相場下落・品質低下 |
| 気づくきっかけ | 実地棚卸で帳簿と合わない | 売価や相場を見て判断 |
| 税務上の扱い | 事実があれば損金 | 単なる時価下落は低価法の選定が前提。著しい損傷・陳腐化等は例外[6] |
| 再発防止の方向 | 入出庫の記録と現物管理 | 発注量と在庫日数の見直し |
両方が同時に起きることもある。その場合はまず数量を確定させ(減耗損)、残った実地数量に対して単価の判断をする(評価損)。順番を逆にすると、存在しない在庫の評価損を計上することになる。
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棚卸減耗損——数が合わない
計算のしかた
帳簿上の数量と、実地棚卸で数えた数量の差に、原価を掛ける。
帳簿数量 1,000 個/実地数量 980 個/単価 500 円
棚卸減耗損 =(1,000 − 980)× 500 = 10,000 円
原因を分けて見る
減耗損は「原因不明の差」として処理されがちだが、原因ごとに打ち手が違う。
記録漏れ——出庫したが記録していない、逆に入庫を二重に記録した。これは在庫が減ったのではなく、帳簿が間違っている。最も多い原因で、運用の問題である。
単位の取り違え——本と箱、kg と m、枚と束。単位が混在している品目で起きる。マスタの単位を統一すれば消える。
破損・不良——保管中の損傷、加工中の仕損。数量としては減っているので減耗だが、発生工程が分かれば原価管理の対象になる。
目減り——液体の蒸発、粉体の飛散、鋼材の錆による削り代。物性上避けられないものは、歩留りとして見込む。
外注先での消費——支給した材料が想定より多く使われた。歩留りの想定と実際がずれている。
棚卸のたびに同じ差が出るなら
帳簿を実地に合わせて終わりにすると、翌期も同じ差が出る。金額の大きい品目から、いつ・どの工程で差が生まれたかを追う。入出庫の記録が日付と担当者つきで残っていれば追える。残っていなければ、まずそこを作る。
棚卸評価損——価値が下がった
低価法を選定していないと損金にならない
ここが実務でいちばん重要である。税務上、棚卸資産の評価方法は届け出るもので、原価法と低価法がある[2]。低価法を選定していなければ、期末に時価が下がっていても評価損を損金に算入できないのが原則である。
会計上は収益性の低下に応じて簿価を切り下げる処理をしていても、税務では加算されることになる。「決算で評価損を計上したのに認められなかった」という事態は、この選定の有無から生じる。自社の届出書を確認しておきたい[2]。
低価法がなくても損金にできる場合がある
ここまでは「時価が下がった」ケースの話である。これとは別に、一定の事実が生じた場合には、低価法を選定していなくても評価損を損金に算入できる制度がある[6]。
対象になるのは次の 3 つで、いずれも損金経理によって帳簿価額を減額することが要件になる[6][7]。
- その資産が災害により著しく損傷したこと
- その資産が著しく陳腐化したこと
- これらに準ずる特別の事実
「著しい陳腐化」には、季節商品の売れ残りで今後通常の価額では販売できないことが明らかな場合や、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品が発売されて、通常の方法では販売できなくなった場合が挙げられている[8]。「準ずる特別の事実」には、破損・型崩れ・たなざらし・品質変化等により通常の方法で販売できなくなったことが含まれる[8]。
⚠️ 一方で、単に物価変動・過剰生産・建値の変更等によって時価が下がっただけでは、この例外に当たらない[8]。相場の下落はここに含まれないため、やはり低価法の選定が必要になる。
時価は「売ったらいくらか」
低価法を適用する場合の時価について、法人税基本通達 5-2-11 は「当該事業年度終了の時における価額」を、その時点でその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額としている[3]。
さらに注では、その算定にあたって通常は、商品または製品として売却するものとした場合の売却可能価額から、見積追加製造原価(未完成品に限る)および見積販売直接経費を控除した正味売却価額によるとしている[3]。
平成 19 年度の税制改正で、この評価額は「取得のために通常要する価額」(再調達原価)から改められている[3]。仕掛品なら、完成までにかかる追加費用と販売にかかる直接経費を引いた額が時価になる、ということである。
判定の単位
低価の事実の判定は、棚卸資産の種類・品質・型を同じくするものについて行う。ただし事業の種類ごとに、かつ棚卸資産の区分ごとに一括して計算することもできるとされている[1]。売価還元法を選定している場合は、通常の差益の率が同じものごとに判定する[1]。
製造業で評価損の判断が要る場面
仕様変更で使えなくなった部品
客先の設計変更により、手元の部品が次期以降使われない。転用先がなければ価値は下がる。ただし在庫として持ち続ける限り、処分するまで数量は残る。処分するなら廃棄の記録を残し、在庫から外す。
相場が下がった材料
金属や樹脂原料は相場で動く。仕入時より下がっていれば評価損の対象になりうるが、低価法を選定していなければ税務上は認められない。
長期滞留している在庫
年単位で動いていない在庫は、実質的に価値がないことが多い。ただし「動いていない」だけでは評価損の根拠にならない。売却可能価額を見積もれるかどうかで判断する。
品質が劣化したもの
保管中の錆、樹脂の劣化、接着剤やシール材の期限切れ。使用できないなら処分し、値引きしてでも売れるならその価額で評価する。
両方が同時に起きたときの計算
実務では、数量も足りず単価も下がっている、という状態がよく起きる。順番を決めておかないと金額を間違える。
前提 帳簿数量 1,000 個/実地数量 950 個/原価 500 円/時価 420 円
① 棚卸減耗損(数量の差 × 原価)
(1,000 − 950)× 500 = 25,000 円
② 棚卸評価損(実地数量 ×(原価 − 時価))
950 ×(500 − 420)= 76,000 円
③ 期末の棚卸資産
950 × 420 = 399,000 円
評価損は実地数量に対して計算する。帳簿数量 1,000 個で計算すると、存在しない 50 個分まで評価損を計上することになる。減耗損を先に確定させる理由はここにある。
なお②を損金にできるのは低価法を選定している場合である[2]。選定していなければ、期末の棚卸資産は 950 × 500 = 475,000 円のままになる。
実地棚卸の進め方
減耗損を正しく把握するには、実地の数量が正確でなければならない。数え方が雑だと、実際には無い差が出る。
数える前に決めること
範囲——自社倉庫だけか、外注先の預け分・出荷済み未受領分・未着品まで含めるか。含めるものと含めないものを先に紙に書く。
基準時点——何時時点の在庫を数えるか。作業中に入出庫が発生する場合、締めの時刻を決めて記録を止める。
担当と単位——誰がどこを数えるか。品目ごとの単位(本・箱・kg)をリストに明記しておく。単位の取り違えは差異の主要な原因である。
数えるとき
二人一組で、数える人と記録する人を分ける。数え終わった棚には印を付け、二重カウントと数え漏れを防ぐ。開封済みの箱は現物を数える(箱数で数えない)。
数えた後
帳簿と突き合わせ、差異のある品目を一覧にする。金額の大きい順に原因を追う。すべての差異を追う必要はないが、上位は必ず追う。
循環棚卸という選択肢
品目数が多く、一度に全数を数えられない場合、品目を区切って年間を通じて数える方法がある。動きの速い品目は頻度を上げ、遅い品目は年 1 回にする。ただし期末時点の数量を確定させる必要がある点は変わらない。
減らすには——発注の側から
減耗損も評価損も、期末に見つけて処理する話ではなく、発注と在庫の運用から生まれる。
発注量の前提を見直す
最小発注数量(MOQ)に合わせて多めに買った分が、そのまま滞留になっていないか。単価は下がっても、使い切れなければ評価損になる。
仕様変更の情報を早く受ける
客先の設計変更が決まってから発注を止めるまでの時間が、そのまま不要在庫になる。発注残が一覧で見えていれば、止められる分を判断できる。
支給材の歩留りを実績で更新する
有償支給がある取引では、発注時に品名・数量・対価・引渡しの期日・決済期日・決済方法を明示する義務がある[4]。この記録と実際の消費量を突き合わせれば、歩留りの想定を実績で更新できる。発注書の記載事項は発注書に明示しなければならない 12 項目で扱っている。
入出庫の記録を運用に組み込む
記録漏れが減耗損の最大の原因である。棚卸の日だけ頑張っても、日々の記録がなければ差は埋まらない。棚卸資産の評価方法そのものについては棚卸資産とは|評価方法の選び方で整理している。
よくある質問
減耗損はどの科目で処理するか
原価性があるもの(通常発生する範囲)は売上原価または製造原価に、原価性がないもの(異常な量)は営業外費用または特別損失に区分するのが一般的である。金額と発生原因で判断する。毎期同じ基準で処理する。
実地棚卸をしないと減耗損は出せないか
減耗損は帳簿と実地の差なので、実地で数えなければ差が分からない。全数を数えられない場合、循環棚卸(品目を区切って年間を通じて数える)という方法もある。ただし期末時点の数量を確定させる必要がある点は変わらない。
評価損を計上したいが低価法を選定していない
まず、その原因が単なる時価の下落なのか、災害による著しい損傷・著しい陳腐化・これらに準ずる特別の事実に当たるのかを分ける[6]。後者なら、低価法を選定していなくても損金経理を要件に損金算入できる。破損・型崩れ・たなざらし・品質変化により通常の方法で販売できなくなった場合も含まれる[8]。
単なる時価の下落であれば、低価法への変更が必要になる。評価方法の変更には承認の申請が要り[5]、当期の決算に間に合うかは手続の時期による。いずれの場合も、事実関係の判断が要るので顧問税理士に確認したい。
盗難による減少はどう扱うか
盗難が明らかな場合は、その事実(発覚日・品目・数量・状況)を記録し、警察への届出があればその控えも保管する。金額が大きければ保険の対象になることもある。原因が特定できないまま「減耗損」として毎期処理していると、実際に盗難があっても気づけない。
廃棄した場合はどうなるか
現物を処分すれば在庫から外れる。ただし廃棄の事実(日付・品目・数量・方法・処分業者)を記録しておかないと、後から確認できない。マニフェストなど処分業者の書類も保管する。
差異が減らない現場に共通すること
毎期おなじ額の減耗損が出ている現場には、いくつか共通の形がある。
記録が後追いになっている
現物を先に動かし、伝票は後でまとめて処理する。この運用では、締めのタイミングで必ずずれる。動かすときに記録する形にしないと、差は消えない。
持ち出しの記録がない
試作用に少し持ち出す、営業がサンプルとして持っていく、社内で使う。少量なので記録されず、積み上がって差になる。少量でも記録の対象にするか、対象外の範囲を明文化する。
置き場が決まっていない
同じ品番が複数の場所にある、仮置きが常態化している。数える人が全部を見つけられず、数え漏れが出る。ロケーションを決め、現物にラベルを付ける。
単位が品目によって違う
同じ材料でも、購買はkg、現場は本、在庫は箱。換算のたびに端数が出る。マスタの単位を一本化し、換算が必要なら係数を固定する。
不良品の行き先が決まっていない
不良と判定した現物が、良品と同じ棚に置かれたままになる。数えるときに区別できず、翌期に持ち越される。不良品置き場を分け、処分か再生かの判断期限を決める。
まとめ
棚卸減耗損は数量の差、棚卸評価損は単価の下落である。減耗損は事実があれば損金になる。評価損は、単なる時価の下落なら低価法の選定が前提だが、災害による著しい損傷・著しい陳腐化・これらに準ずる特別の事実に当たれば、低価法がなくても損金経理を要件に損金算入できる[6][8]。時価は「売ったらいくらか」——売却可能価額から見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いた正味売却価額で判断する[3]。
どちらも、期末の処理より発注と記録の運用で決まる。減耗損が毎期同じ額で出ているなら、それは処理すべき損失ではなく、直すべき運用である。
両方が同時に起きたときは、先に減耗損で数量を確定させ、残った実地数量に対して評価損を計算する。順序を逆にすると、存在しない在庫の評価損を計上することになる。
実地棚卸は、数える前に範囲・基準時点・単位を決めておくかどうかで精度が変わる。特に外注先への預け分と未着品は、現物が手元にないため範囲から漏れやすい。数え終わってから「あれは含めたか」を議論しないよう、始める前に紙に書いておきたい。
出典・参考資料
- 所得税基本通達 法第47条関係〔棚卸資産の評価の方法(令第99条関係)〕(国税庁)
- C1-25 棚卸資産の評価方法の届出(国税庁)
- 4 棚卸資産の評価の方法(法人税基本通達 5-2-11 時価)(国税庁)
- 中小受託取引適正化法 テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- C1-29 棚卸資産の評価方法等の変更の承認の申請(国税庁)
- 法人税法 第33条(資産の評価損の損金不算入等)(e-Gov 法令検索)
- 法人税法施行令 第68条(資産の評価損の計上ができる事実)・第31条(法定評価方法)(e-Gov 法令検索)
- 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(9-1-4〜9-1-6)(国税庁)
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