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在庫管理システムの選び方|製造業で確認すべき項目と導入の順番

この記事のポイント(結論先出し)
在庫管理システムを比較する前に決めることがある。数量を合わせたいのか、金額を合わせたいのか、法令の保存要件を満たしたいのか。この 3 つは必要な機能が違う。製造業では仕掛品・ロット・支給材が絡むため、汎用の在庫管理だけでは足りないことが多い。在庫が合わない原因の多くは、システムではなく発注と入出庫の記録にある。
目次
「在庫管理システム」で何を解決したいのか
在庫管理システムの検討は、たいてい次のどれかから始まる。目的が違えば必要な機能も違うので、まずどれなのかを決める。
| やりたいこと | 必要になる機能 | エクセルで足りるか |
|---|---|---|
| 数量を合わせたい | 入出庫の記録・ロケーション・棚卸 | 品目数が少なく、担当者が 1 人なら可能 |
| 金額を出したい | 評価方法の適用・受払の履歴 | 移動平均は手作業では実質困難 |
| 欠品と過剰を減らしたい | 発注点・発注残・リードタイム管理 | 発注残が見えないと成立しない |
| 法令の保存要件を満たしたい | 取引書類の保存・検索・改ざん防止 | 規程を整備すれば可能[1] |
| 追跡できるようにしたい | ロット・製造番号・引当の紐付け | 現実的でない |
ここを曖昧にしたまま製品比較に入ると、機能一覧の多さで選んでしまう。「数量を合わせたい」だけなら必要な機能は限られる。逆に「金額も法令もロットも」なら、在庫管理単体ではなく受発注と会計を含む範囲で考えることになる。
エクセルで足りなくなる境目
エクセル管理が破綻するのは、品目数ではなく同時に触る人数と、記録のタイミングで決まる(壊れない作り方は在庫管理をエクセルで作るにまとめた)。
複数人が同時に更新する
担当者が 2 人以上になると、どちらが最新か分からなくなる。ファイルをコピーして作業し、後でマージする運用が始まったら限界のサインである。
記録が後追いになっている
現物を先に動かし、伝票は後でまとめて入力する。この形では締めのたびに差が出る。動かした時点で記録できる仕組みでなければ、システムを入れても同じである。
発注残が見えない
在庫表には手元の数しか載っていないため、「発注済みでまだ届いていない分」が見えない。結果として二重発注が起きる。発注残が在庫と同じ画面で見えるかどうかは、システムを分ける大きな境目になる。
過去の状態に戻せない
上書きで更新していると、いつ誰が何を変えたか分からない。棚卸で差が出たときに原因を追えず、毎期同じ差を計上し続けることになる。
製造業で要件が増える理由
小売や EC の在庫管理と、製造業の在庫管理は別物である。次の 3 つが加わる。
仕掛品がある
製造の途中にある在庫は、原材料でも製品でもない。棚卸資産の区分としては、商品・製品・半製品・仕掛品・主要原材料・補助原材料・消耗品などに分かれる[2]。数量だけでなく、どこまで加工が進んだかで金額が変わる。汎用の在庫管理システムには、この区分と加工進捗の概念が無いことがある。
ロットと製造番号を追う
材料の受入ロットと、そこから作った製品の製造番号がつながっていないと、不具合が出たときに範囲を特定できない。ミルシートなどの検査証明書を保管していても、現品と紐付いていなければ「どのロットの材料か」を示せない。証明書の扱いについてはミルシート Type 3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くで扱っている。
支給材がある
客先から預かった材料、外注先へ支給した材料は、所有権と保管場所が一致しない。有償支給の場合、発注時に品名・数量・対価・引渡しの期日・決済期日・決済方法を明示する義務がある[3]。この記録と実際の消費量が突き合わせられないと、歩留りの想定を更新できない。
法令が求める保存要件
在庫管理システムそのものに法令上の要件があるわけではないが、周辺の取引書類には要件がある。システムを選ぶときに見落とされやすいので整理しておく。
電子取引の保存
メールや Web でやり取りした注文書・請求書などの取引情報は、電子データのまま保存する。真実性・可視性・検索の 3 つの要件があり、検索は取引年月日・取引金額・取引先の 3 項目で行えることが求められる[1]。
真実性については、タイムスタンプや訂正削除の履歴が残るシステムを使う方法のほかに、訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する方法が認められている[4]。システムを入れなくても要件は満たせる、ということである。詳しくは電子帳簿保存法にシステム無しで対応するで扱っている。
売上高が小さい事業者の緩和
判定期間の売上高が 5,000 万円以下である場合など、一定の要件を満たすときは、税務職員のダウンロードの求めに応じることを条件に検索要件が不要になる[4]。自社が該当するかを確認せずにシステムを検討すると、必要のない機能に費用をかけることになる。
棚卸資産の評価方法
期末の在庫金額をいくらで計上するかは、選定して届け出た評価方法で決まる[2][6]。先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法などがあり、届出をしていない場合は、最終仕入原価法による原価法が法定の評価方法になる[2]。システムが対応している計算方法と、自社が届け出ている方法が一致しているかは必ず確認する。
選ぶときに確認する項目
製品比較の前に、次を自社の条件として書き出しておくと、比較が早くなる。
品目の性質
品目数、単位(本・箱・kg・m)、単位換算の有無、ロット管理の要否、有効期限の有無。単位が品目によって違う場合、換算をどう扱うかは早い段階で確認する。ここでつまずくと運用が回らない。
拠点と保管場所
倉庫が複数あるか、外注先への預け在庫を管理するか、客先預けがあるか。所有権が自社にあるが手元に無い在庫を扱えるかは、製品によって差が大きい。
入出庫の記録方法
誰がどの端末で入力するか。現場でスマートフォンやハンディ端末を使うのか、事務所でまとめて入力するのか。現場が入力しない仕組みを選ぶと、記録は必ず後追いになる。
発注との連携
発注残が在庫と同じ画面で見えるか。発注書の記載事項を満たせるか。発注書に明示すべき項目は法令で定められており、12 項目ある[3]。この点は発注書に明示しなければならない 12 項目で整理している。
既存データの移行
品目マスタ、取引先マスタ、現在の在庫数。移行時にデータを整理する必要があるかどうかで、導入の手間が大きく変わる。同じ品目が違う名前で複数登録されている場合、移行前に統合しないと差異が残り続ける。
費用の見え方
初期費用、月額、ユーザー数による課金、取引件数による課金。人数で増える課金は、現場に入力させたい場合に効いてくる。入力する人が増えるほど費用が上がる形だと、結局一部の人だけが入力する運用に戻る。
導入の順番
いきなり全品目を載せようとすると、たいてい途中で止まる。順番を決めておく。
1. 現状の差異を測る
実地棚卸をして、帳簿との差が金額でいくらあるかを出す。この数字がなければ、導入の効果も測れない。
2. 差の大きい品目から載せる
金額の大きい上位品目だけを先に載せる。数量が多いだけの消耗品は後回しでよい。
3. 入出庫の記録を運用に組み込む
現物を動かすときに記録する形にする。ここが定着しなければ、どのシステムでも同じ結果になる。
4. 発注をつなげる
発注残が見えるようにする。二重発注と欠品はここで減る。
5. 金額の計算を合わせる
届け出ている評価方法と、システムの計算を一致させる。決算で使えるかどうかはここで決まる。
在庫が合わない原因はシステムの外にあることが多い
システムを入れても差が消えない現場には、共通する原因がある。
持ち出しの記録がない——試作用に少し持ち出す、営業がサンプルとして持っていく。少量なので記録されず、積み上がって差になる。
置き場が決まっていない——同じ品番が複数の場所にあり、仮置きが常態化している。数える人が全部を見つけられない。
不良品の行き先が決まっていない——不良と判定した現物が良品と同じ棚にある。数えるときに区別できない。
単位が部署によって違う——購買は kg、現場は本、在庫は箱。換算のたびに端数が出る。
いずれもシステムの機能では解決しない。導入の前に、これらが自社にあるかを確認しておく。差異の処理そのものについては棚卸減耗損と棚卸評価損の違いで扱っている。
効果をどう測るか
導入の可否を判断するにも、導入後に続けるか決めるにも、測る指標を先に決めておく。金額で言えるものが望ましい。
棚卸差異の金額
実地と帳簿の差を、金額と件数の両方で見る。導入前の数字が無いと比較できないので、検討を始めた時点で一度出しておく。件数が減っていないのに金額だけ減った場合は、大口の品目だけ改善して小口は放置されている可能性がある。
欠品による特急対応の回数
在庫切れで急送費を払った回数と金額。発注残が見えるようになると、ここが最初に動く。特急運賃や割増加工費は伝票に残るので集計しやすい。
棚卸にかかった時間
人数 × 時間で出す。ロケーションが決まり、記録が追いつくようになると短くなる。ここが短くならないなら、システムではなく現物の置き方に原因がある。
滞留在庫の金額
一定期間動いていない在庫の金額。増え続けているなら、発注量の前提を見直す必要がある。システムを入れただけでは減らない指標だが、見えるようになること自体に意味がある。
よくある質問
在庫管理システムと生産管理システムはどう違うか
在庫管理は「今どこに何がいくつあるか」を扱う。生産管理は「いつ何を作るか」を扱い、その結果として在庫が動く。製造業では両方が必要になるが、同時に入れると定着しにくい。在庫の記録が回るようになってから生産計画に進む方が現実的である。
エクセルのまま法令に対応できるか
できる。電子取引データの保存については、訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する方法が認められている[4]。検索要件も、ファイル名に日付・金額・取引先を含める方法や、索引簿を作る方法で満たせる[4]。システムの導入は法令対応のためではなく、在庫の精度と手間の削減のために判断する。
クラウドと自社サーバーのどちらがよいか
拠点が複数ある、現場のスマートフォンから入力したい、担当者が少なく保守に人を割けない——これらに該当するならクラウドが向く。判断材料は機能ではなく、誰が保守するかである。
導入したのに使われない
入力する人にとっての利点がないと定着しない。「入力すると探す手間が減る」「入力しないと発注が出せない」のように、日々の作業と結びついていることが条件になる。管理側だけが便利になる仕組みは使われない。
評価方法の届出をしていない場合はどうなるか
届出をしていない場合は、最終仕入原価法による原価法が法定の評価方法になる[2]。システム側で別の計算をしていると、決算の数字と合わなくなる。まず自社の届出内容を確認し、必要なら変更の承認申請を検討する[5]。
まとめ
在庫管理システムの検討は、製品の比較からではなく目的の切り分けから始まる。数量・金額・法令・追跡のどれを解決したいかで、必要な機能も費用も変わる。
製造業では仕掛品・ロット・支給材が加わるため、汎用の在庫管理だけでは足りないことが多い。特に発注残が在庫と同じ画面で見えるかは、二重発注と欠品に直結する分かれ目になる。
そして、在庫が合わない原因の多くはシステムの外にある。持ち出しの記録、置き場、単位、不良品の扱い。導入前にこれらを整理しておかないと、システムを入れても同じ差が出続ける。
出典・参考資料
- 電子帳簿保存法上の電子データの保存要件(国税庁)
- 法人税法施行令 第10条(棚卸資産の範囲)・第28条(評価の方法)・第31条(法定評価方法)(e-Gov 法令検索)
- 中小受託取引適正化法 テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁)
- C1-29 棚卸資産の評価方法等の変更の承認の申請(国税庁)
- C1-25 棚卸資産の評価方法の届出(国税庁)
発注残が見えれば、二重発注は止まる
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