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投稿日:2026年10月2日

在庫表を表計算で持つ限界——入庫予定・出庫予定・有効在庫を同じ表で見る

この記事のポイント(結論先出し)

表計算の在庫表が持てているのは、たいてい棚にある数(手持在庫)だけである。発注するかどうかを決めるのに要るのは、まだ届いていない発注残と、使う予定で押さえた引当量を加減した有効在庫で、JIS Z 8141 は「手持在庫-引当量+発注残」と定めている。この 3 つの数は発注のファイル・受注や生産計画のファイル・在庫表に分かれて置かれ、更新の時刻もずれるので、表計算では揃わない。システムに移すときは、どの出来事でどの数が動くかを先に 1 枚の表に書き、発注残と期首在庫を 1 件ずつ移してから、表計算と並べて差を見る。

在庫表が答えられない問い

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品番ごとに棚の数を書いた在庫表は、「いま何個あるか」には答えられる。けれども、購買の担当者が本当に知りたいのは「いま発注しないと足りなくなるか」である。それには、棚にある数に加えて、2 つの数が要る。すでに発注していてまだ届いていない数と、来週の生産や出荷のために使う予定で押さえている数である。

在庫表に棚の数しかなければ、担当者は発注のファイルを開いて未納の行を探し、受注や生産計画のファイルを開いて使う予定の数を拾い、頭の中で足し引きする。担当者が 1 人で、品目が少なければこれで回る。品目が増え、担当が増えると、誰かが古い数字で計算して二重に発注するか、足りないことに気づかずに欠品する。

表計算で在庫を正しく数える作り方——受払簿を正にして在庫一覧を数式で出す方法——は在庫管理をエクセルで作るで扱っている。この記事は、そこから一歩進んで、入庫予定と出庫予定まで含めた数を表計算から外すときの話である。

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4 つの数の意味をそろえる

会社ごとに「在庫」「引当」「予定」の意味が違うと、システムに移したあとで数字が合わない。JIS Z 8141(生産管理用語)の定義に合わせておくと、話が早い。

  • 手持在庫:現物が手元にある在庫量。実在庫又は現品在庫ともいう[1]
  • 発注残:発注済みであるがまだ手元に届いていない在庫量[1]
  • 在庫引当:注文又は出庫要求に対して、在庫台帳の在庫残高にその量を割り当て引き落とすこと[1]
  • 有効在庫:手持在庫に加えて発注残及び引当済みの量を考慮した、実質的に利用可能な在庫量。「有効在庫=手持在庫-引当量+発注残」で表される[1]

JIS は、発注点方式を「有効在庫量が発注点に達するか下回ったときに発注する方式」と定義している[1]。つまり発注の判断に使うのは棚の数ではなく有効在庫である。棚の数だけで発注点を見ていると、すでに発注した分を見落として二重に発注するか、引当済みの分を使えると思って欠品する。

同じことは、所要量の計算でも起きる。中根の解説は、発注点方式では発注の納期が親部品の納期と直接関係なく、その品目の在庫水準から独立に決まってしまうため、在庫増の割りには品切れが多くなったと書いている[3]。使う予定(出庫予定)を見ずに棚の数だけで判断する在庫表は、同じ弱さを抱えている。

どの出来事で、どの数が動くか

表計算の在庫表が揃わない理由は、4 つの数を動かす出来事が別々の人の手元で起きるからである。移す前に、自社でどの出来事がどの数を動かすのかを 1 枚の表に書き出す。次の表は一般的な例である。

出来事 手持在庫 発注残 引当量 表計算でいま記録している人
発注を確定する — 増える — 購買(発注ファイル)
納品を受け取る 増える 減る — 倉庫(在庫表)と購買(発注ファイル)の両方
分けて届く(分納) 届いた分だけ増える 届いた分だけ減る — 倉庫。発注ファイルの残数は直し忘れやすい
発注を取り消す — 減る — 購買。行を消すと履歴が残らない
受注を確定する・生産に使う予定を立てる — — 増える 営業・生産管理(受注表・計画表)
出庫する・使う 減る — 減る 倉庫・現場
棚卸で数を合わせる 差の分だけ動く — — 経理・倉庫

右端の列に書かれた人が多いほど、表計算では数が揃わない。とくに分納と取消は、発注ファイルの残数を直す人と在庫表を直す人が別なので、発注残が実際より多く残り続ける。発注残の数え方そのものは発注残の数え方と追い方で、1 つの発注を分けて納めてもらうときの管理は1 つの発注を分けて納めてもらうときの管理で扱う。

「入れた日」と「受け取った日」は同じとは限らない

在庫表に入庫を書く日は、会社によって、荷が着いた日だったり、検査に合格した日だったり、棚に置いた日だったりする。在庫の数としてはどれでも成り立つが、取適法の対象になる製造委託では、支払期日の起算日になる受領日は別に決まっている。公正取引委員会のテキストは、製造委託の給付の受領を、給付の目的物を検査の有無にかかわらず受け取り、自己の占有下に置くことと説明している[2]。

検査に合格してから在庫表に入れる運用なら、在庫表の日付は受領日ではない。受け取った日を別に残しておかないと、支払期日を検査の合格日から数えてしまう。受け取りと検査の記録の残し方は納品と検収の記録をどう残すかと受入と検査の結果を紙の記録から移すで扱う。システムに移すときは、在庫を増やす操作と受領日を記録する操作が同じなのか別なのかを確かめておく。

移す前に決める 5 つのこと

1. 有効在庫の式を 1 つにする
JIS の式(手持在庫-引当量+発注残)を使うのか、安全在庫も差し引いた数を「使える数」と呼ぶのかを決める。部署ごとに違う式を使っていると、同じ品目で欠品の判断が分かれる。

2. 発注残に入れる時点を決める
発注を作った時点か、承認された時点か、取引先に送った時点か。下書きの発注まで発注残に入れると、実際には出していない発注で在庫が足りているように見える。

3. 引当を立てる時点を決める
受注を確定した時点か、生産の指示を出した時点か、出庫の指示を出した時点か。早く立てるほど欠品には気づきやすいが、受注の取消や延期が多い会社では、使わない分まで押さえて在庫が足りないように見える。

4. 拠点・ロット・単位を持つかどうかを決める
倉庫が 2 つある、ロットで追う必要がある、kg や m で数える品目がある。こうした条件は、移した後から足すのが難しい。選ぶ仕組みが持てる項目を先に確かめ、持てないなら表計算や別の帳票に残す範囲を決めておく。

5. 期首の数と発注残の移し方を決める
移行日の手持在庫は、表計算の数字を写すより、実地で数えた数を起点にするほうが安全である。発注残は、未納の発注を 1 件ずつ移す。合計の数だけを移すと、届いたときにどの発注の分かが分からない。表計算から移すときの全体の順番は表計算の購買業務をシステムに移す順番にまとめる。

並行期間に見る差

移したあとしばらくは、表計算の在庫表と新しい仕組みの両方を動かし、週に 1 回、主な品目の手持在庫を並べて差を見る。差が出た品目は、どちらが正しいかを棚で数えて確かめ、原因を 3 つに分ける。入力漏れ(どちらかに記録していない)、時点のずれ(片方は荷着き、片方は検査合格で入れた)、移行時の誤り(期首や発注残の写し間違い)である。時点のずれが原因なら、上の 5 つの決めごとに戻って直す。

中小製造業での生産管理パッケージの使われ方を調べた藤川・前田の報告は、中小企業の生産現場では情報端末が配布されていることが少なく、生産指示や報告は紙に印字されたものに手書きで記入する状態だと述べている[5]。仕組みを入れても、現場の出庫が紙に書かれ、月末にまとめて入力されているなら、有効在庫は月末にしか正しくならない。並行期間は、記録の入口を誰がどこで担うかを確かめる期間でもある。

棚卸と決算の数は、在庫表とは別に残る

仕組みに移しても、期末の実地棚卸はなくならない。青色申告法人は、事業年度終了の日に棚卸資産の棚卸を行い、棚卸表を作成して、棚卸資産の種類、品質及び型の異なるごとに数量、単価及び金額を記載することとされている(法人税法施行規則第 56 条)[4]。棚卸表は帳簿書類として、起算日から 7 年間保存することとされている(同第 59 条)[4]。ただし、青色申告で欠損金が生じた事業年度の分は、その欠損金の繰越しを受けるなら 10 年間になる(同第 26 条の 3)[4]。

在庫表や在庫の仕組みの数は、棚卸表を作るときの「帳簿の数」として使い、実地で数えた数と並べて差を確かめる材料になる。棚卸表の作り方は棚卸表の作り方で扱っている。仕組みを選ぶときは、品目ごとの数量を期末時点で書き出せるかを確かめておく。

表計算のままでよい場合

品目が数十点で、発注も出庫も同じ担当者が記録しており、受注や生産計画から使う予定が読み取れるなら、表計算の在庫表に「発注残」と「引当」の列を足すだけで足りる。その場合も、発注残は発注のファイルから数式で引き、手で書き写さない。手で写した数は、分納や取消のたびにずれる。

表計算で苦しくなる境目は、同じ品目の数を 3 人以上が別々のファイルで動かすようになったときである。このとき、在庫表の数を誰も信じなくなり、各自が自分の控えで判断し始める。

よくある質問

引当を受注確定で立てると、在庫が足りないように見えます

見え方としては正しい。受注を確定した時点で使う予定の数が決まっているなら、その分は他に使えない。ただ、受注の取消や延期が多いなら、引当を出庫指示の時点まで遅らせる選択肢もある。どちらにするかは、欠品と過剰在庫のどちらを避けたいかで決める。

手持在庫がマイナスになる品目があります

出庫の記録が入庫の記録より先に入っているか、入庫の記録が漏れている。在庫を増やす記録をどの時点で付けるかを決め直す。仕組みに移しても、記録の時点のずれは自動では直らない。

仕入先の倉庫に置いてある自社の部品はどう数えますか

自社の所有なら手持在庫として、置き場所を分けて数える。取引先に一定の在庫を常に持たせて、使った分だけを後から払う方式は、取適法のテキストが、発注の明示義務違反や支払遅延が生じるおそれが強く基本的には認められないとしている[2]。仕入先に在庫を置く場合は、数量と納期を決めて発注しているかを確かめる。

表計算の発注ファイルに、もう届いたはずの発注残が何年分も残っています

移す前に棚卸しをする。未納のまま残っている行を取引先ごとに書き出し、相手に納入済みか、取消になったかを確かめてから、本当に未納のものだけを新しい仕組みに移す。確かめずに全部を移すと、届かない入庫予定がいつまでも有効在庫を押し上げ、必要な発注が出なくなる。

在庫の仕組みと発注の仕組みを、別々の製品で入れてもよいですか

入れてよいが、発注残を在庫の側でどう受け取るかを先に決める。発注残が在庫の仕組みに自動で渡らないなら、有効在庫を計算するたびに発注のデータを書き出して取り込む作業が残り、表計算のときと同じずれが起きる。選ぶ前に、発注の確定・分納・取消が在庫の側の数にどう伝わるかを、実際の操作で確かめておく。

まとめ

表計算の在庫表が持てているのは棚の数で、発注の判断に要るのは発注残と引当量を加減した有効在庫である。3 つの数は別々の人が別々のファイルで動かすので、表計算では揃わない。システムに移すときは、どの出来事でどの数が動くかを 1 枚の表にし、有効在庫の式・発注残に入れる時点・引当を立てる時点・拠点やロットの有無・期首と発注残の移し方を決める。並行期間には手持在庫の差を週に 1 回見て、入力漏れ・時点のずれ・移行の誤りに分けて直す。受け取った日と在庫に入れた日は別に残し、期末の棚卸表は在庫の数とは別に作る。

出典・参考資料

  1. JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
  2. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  3. MRPシステムについて(中根甚一郎/日本経営工学会誌 29 巻 4 号/1979 年)
  4. 法人税法施行規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  5. 中小製造業おける生産管理パッケージ(藤川裕晃・前田真輝/横幹連合コンファレンス予稿集 2023 巻/2023 年)

入庫予定と出庫予定を、在庫と同じ一覧で見る

この記事で扱った項目のうち、Newji one では、品目ごとの現在在庫・入庫予定・出庫予定・有効在庫を一覧で見られます。発注を確定すると入庫予定が、受注を確定すると出庫予定が入り、納品済みにすると在庫に反映されます。現在在庫が 0 以下の品目は「在庫切れ」、有効在庫が 0 以下の品目は「要補充」と表示され、「在庫少」は設定した安全在庫と現在在庫(棚にある数)を比べて、その値以下のときに出ます。在庫少の判定には入庫予定を足さないので、発注済みの分が届けば解消する場合もあります。在庫の調整、在庫カレンダー、CSV での書き出しもできます。なお、在庫は品目ごとに 1 つの数で持ち、拠点ごとの在庫・ロット・シリアルは持てません。在庫数は整数で、入庫は発注単位で全数を入れる形のため、一部だけ届いた分を記録することはできません。

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