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安全在庫を出庫の実績で見直す——計算の前に記録から取り除く 7 つのもの

この記事のポイント(結論先出し)
安全在庫を出庫の実績で見直すとき、最初にやるのは計算ではなく、出庫の記録から「需要ではないもの」を取り除くことである。欠品していた期間の出庫ゼロ、一度きりの大口、棚卸の調整、拠点間の移動、品番の切り替えが混ざったまま平均を取ると、設定値は実態から離れる。見直しの前には、自社の「安全在庫」欄に入っている値が JIS Z 8141 のいう安全在庫(変動を吸収する上乗せ分)なのか、発注点(調達期間中の推定需要と安全在庫の和)なのかを確かめる。受注に紐づいて動く部品は、出庫の統計で安全在庫を決める対象から外す。
目次
見直す前に、「安全在庫」の欄に何が入っているかを確かめる
品目マスタや在庫表の「安全在庫」の欄は、会社によって意味が違う。JIS Z 8141(生産管理用語)は、安全在庫を「需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」と定め、発注点を「調達期間中の推定需要量と安全在庫との和として求められる」在庫水準としている[1]。前者は上乗せの部分だけ、後者は届くまでに使う分を含めた発注の目安である。
表計算で在庫を管理している現場では、「この数を切ったら発注する」という値を安全在庫の欄に入れていることが多い。それは JIS の言葉でいえば発注点である。どちらの意味で入っているかを確かめないまま実績から計算し直すと、上乗せ分だけを出したつもりで発注点を下げてしまい、届く前に欠品する。
見分け方は単純で、いまの設定値と「調達期間中に使う量」を比べればよい。設定値が調達期間中に使う量より明らかに小さければ上乗せ分として、同じかそれより大きければ発注点として使われている可能性が高い。発注点と安全在庫の出し方そのものは適正在庫の決め方で扱っているので、この記事では、すでに設定されている値を実績で見直す手順に絞る。
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出庫の実績で見直す品目を絞る
すべての品目を同じやり方で見直す必要はない。JIS は、受注又は予測に基づいて必要量と必要時期を決める品目を独立需要品目、上位品目の需要から算定される品目を従属需要品目と呼び分けている[1]。中根の解説は、独立需要品目は予測によって需要を求めることができ統計的在庫管理の対象になりうる一方、従属需要品目の需要は親品目の需要から直接計算によって求められ、統計的在庫管理の対象にすべきではない、という考え方を紹介している[2]。
購買の実務に置き換えると、出庫の実績で安全在庫を見直す意味があるのは、多くの製品で共通に使うねじや消耗品、補修用の部品のように、個々の受注と切り離して少しずつ使われていく品目である。受注ごとに部品表から必要数が決まる部品は、出庫の実績の平均で在庫を持つより、受注から所要量を計算して手配するほうが合っている。受注から部品表で発注を起こす作業は受注から部品表を展開して発注する作業を表計算から外すで扱う。
出庫の記録から、需要ではないものを取り除く
見直しの成否は、ここでほぼ決まる。在庫表や受払簿の「出庫」には、実際の需要ではない動きが混ざっている。そのまま平均を取ると、設定値が実態から離れる。
| 混ざっているもの | そのまま使うと | 扱い |
|---|---|---|
| 欠品していた期間の出庫ゼロ | 使わなかったのではなく使えなかっただけなのに、平均が下がる | その期間を除いて平均を取る。欠品中に出た要求の数が分かればそれを使う |
| 一度きりの大口(試作・特注・展示) | 平均もばらつきも大きくなり、上乗せが過大になる | 別枠にして平均から外す。繰り返すなら別の計画として扱う |
| 棚卸での数の調整 | 差の分が「使った量」に見える | 出庫に入れない。調整は調整として別に記録する |
| 拠点間・置き場所間の移動 | 会社全体では消費していないのに出庫に数える | 移動は除く。拠点ごとに見直すなら、移動先での出庫を数える |
| 戻入・返品 | 出庫が多く見える | 出庫から差し引くか、元の出庫ごと除く |
| 品番の切り替え | 新しい品番は実績が短く、旧品番の実績が捨てられる | 切替日の前後をつないで 1 つの品目として見る |
| 単位の違い(箱と個) | 桁がずれる | 在庫の単位にそろえてから足す |
表計算の受払簿では、これらが備考欄の文字でしか区別されていないことが多い。見直しのたびに備考を読んで除くのは手間がかかるので、出庫を記録するときに「通常の使用」「大口」「調整」「移動」「戻入」のような区分を選ばせておくと、次の見直しから楽になる。
どの期間の実績を使うか
期間が短すぎると、たまたま多かった月や少なかった月に引っ張られる。長すぎると、使い方が変わった後の実態が薄まる。1 つの目安として、直近 12 か月の月平均と直近 3 か月の月平均を並べ、差が大きい品目だけ理由を調べる。差の理由が製品の売れ行きの変化なら直近を重く見て、季節の山なら前年の同じ月を見る。理由が分からないまま新しい数字に合わせない。
実績がまだ短い新しい品目は、見直しの対象にせず、類似の品目の値を当面使う。初期の値のまま何年も見直されないことが滞留の原因になりやすい点は、適正在庫の決め方でも触れている。
実績から出した目安と、いまの設定値を並べる
補正した実績から、調達期間中に使う量を出し、いまの設定値と並べる。調達期間は、仕入先が約束した日数ではなく、発注してから実際に届いた日数の実績を使う。次の表は、考え方を示すための例である(数字は説明用)。
| 品目(例) | いまの設定値 | 月平均出庫(補正前→補正後) | 調達期間の実績 | 調達期間中に使う量 | 読み方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 共通ねじ | 2,000 個 | 1,800 → 1,500 個(試作の大口を除外) | 20 日 | 1,000 個 | 発注点として使っているなら、上乗せが 1,000 個。下げる候補 |
| 樹脂部品 | 500 個 | 300 → 450 個(欠品の 2 か月を除外) | 45 日 | 675 個 | 発注点として使っているなら、届く前に足りなくなる。上げる候補 |
| 補修用部品 | 50 個 | 10 → 10 個 | 60 日 | 20 個 | 使用は少ないが、止まると影響が大きいかで判断する |
2 行目の樹脂部品は、補正前の数字で見ると設定値が多すぎるように見え、補正後に見ると足りない。欠品していた期間の出庫ゼロをそのまま平均に入れていたためである。補正の手間を省くと、欠品した品目ほど在庫を減らす判断になる。
表の「読み方」は機械的に決めない。3 行目のように、使用量は少なくても、止まったときの影響が大きい品目は、上乗せを厚めに持つ判断がありうる。金額と影響の大きさで品目を分けて手をかける考え方は前掲の記事にある。
定期の見直し以外に、見直すきっかけ
決まった時期に見直すだけでは、前提が変わったときに間に合わない。次の出来事があったら、その品目は時期を待たずに見直す。
- 仕入先が変わった、または海外からの調達に切り替えた(調達期間が変わる)
- 仕入先から生産終了や供給の制約の予告が来た
- 設計変更で使う製品が増えた、または減った
- 品番を統合した、または分けた
- 大口の取引先の受注が始まった、または終わった
生産終了の予告に対して最終購入でまとめて確保する判断は、通常の安全在庫の見直しとは別の話になる。半導体の例は汎用・レガシー半導体の長期確保で扱っている。
変えるときに決めること、残すもの
新しい値は担当者が決めて入れるのではなく、誰が承認するかを決めておく。値を下げるときは、余っている分を廃棄せずに、発注を止めて使いながら減らすのが基本である。持ちすぎた在庫は、後から税務で損金にできるとは限らない。国税庁の法人税基本通達は、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは評価損の計上ができる事実に当たらないと明記している(9-1-6)[4]。著しい陳腐化に当たる例としては、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品が発売されたことで今後通常の方法により販売できないようになった場合などが挙げられている(9-1-4)[4]。評価損の扱いは棚卸減耗損と棚卸評価損の違いにまとめている。
値を上げるときに、自社で持たずに仕入先に在庫を置いてもらう案が出ることがある。公正取引委員会のテキストは、取引先に一定の在庫水準が常に保たれるように納入させ、使った分を後から支払う方式(コック方式・使用高払方式・ベンダー管理在庫など)について、発注内容の明示義務違反や支払遅延が必然的に発生するおそれが強く、基本的には認められないとしている(Q84)[3]。仕入先に在庫を持ってもらうなら、数量と納期を決めて発注する形にする。
変えた値は、変える前の値・変えた日・使った実績の期間と補正の内容・承認した人と一緒に残す。次に見直す人が、何を除いてその値にしたのかを読めるようにするためである。値の変更をファイルの上書きで済ませると、どれが最新の設定なのか分からなくなる問題はどれが最新のファイルか分からない問題で扱う。
記録があっても、取り出せなければ見直せない
出庫の記録を日々付けていても、品目別・月別に集計して取り出せなければ見直しは進まない。中小製造業での生産管理パッケージの使われ方を調べた藤川・前田の報告は、パッケージで生産の終了時刻を記録している工場が、入力したデータを工程や加工の種類ごとに集計する機能がなく、別に RPA でデータを整理する仕組みを作らないと実績を集計・評価すらできない、という例を紹介している[5]。ただし報告自身が、その機能がもともと無いのか、使う側が操作を見つけられないのかは分からないと断っている[5]。在庫の記録を表計算から移すときは、出庫の記録を区分つきで、品目別・期間別に書き出せるかを確かめておく。
よくある質問
出庫の実績が 3 か月分しかありません
3 か月では、たまたまの多寡と季節の影響を見分けにくい。当面は類似の品目の値か、調達期間の日数を目安にした値で持ち、実績がたまってから見直す。見直す時期をあらかじめ決めておくと、初期値のまま放置されにくい。
季節で使用量が大きく変わる品目はどうしますか
年間の平均で 1 つの値を持つと、山の時期に足りず、谷の時期に余る。前年の同じ月の実績を見て、時期ごとに値を切り替えるか、山の前に別の計画で積み増す。季節で変わるのが需要なのか調達期間なのかも分けて見る。
計算式で出た値をそのまま入れてよいですか
入れる前に、上の表のように補正前と補正後、いまの設定値と並べて、差の理由を説明できるかを確かめる。説明できない差は、データに需要ではないものが残っているか、品目の性質が式の前提に合っていない(受注に紐づく部品など)ことが多い。
受注生産の部品でも、急な受注に備えて少し持ちたいのですが
持つこと自体は判断としてありうる。ただ、出庫の平均から統計的に出すのではなく、「何台分の急な受注に応える」という形で量を決め、その理由を残しておく。受注の部品表から所要量を出す仕組みと並べて使うときは、どちらの数で発注したかが分かるようにしておく。
まとめ
安全在庫を実績で見直すときに効くのは、式の選び方より、出庫の記録の掃除である。欠品期間のゼロ、一度きりの大口、棚卸の調整、移動、戻入、品番の切り替えを取り除かないまま平均を取ると、欠品した品目ほど在庫を減らす判断になる。見直す前に、自社の「安全在庫」の欄が上乗せ分なのか発注点なのかを確かめ、受注に紐づく部品は統計で決める対象から外す。新しい値は、補正の内容と承認者と一緒に残し、仕入先の切り替えや生産終了の予告があれば時期を待たずに見直す。
出典・参考資料
- JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
- MRPシステムについて(中根甚一郎/日本経営工学会誌 29 巻 4 号/1979 年)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(9-1-4〜)(国税庁)
- 中小製造業おける生産管理パッケージ(藤川裕晃・前田真輝/横幹連合コンファレンス予稿集 2023 巻/2023 年)
出庫の実績から、安全在庫の候補を出す
この記事で扱った項目のうち、Newji one では、品目の編集画面で安全在庫の欄の「提案」を押すと、出庫の実績(90 日以上の記録が必要)から「月平均の出庫量 ×(リードタイムの日数 ÷ 30)× 1.5」を切り上げた値が入り、調整してから保存できます。リードタイムが未設定の品目は 14 日として計算します。この値は調達期間中に使う平均量に余裕を掛けたもので、この記事の言葉でいえば発注点に近い考え方です。保存した安全在庫やリードタイムの変更は、変更前後の値と変更した人が品目の変更履歴に残り、現在在庫が安全在庫以下になった品目は在庫一覧に「在庫少」と表示されます。この判定は棚にある数だけで行い、発注済みで届いていない分は数に入れないので、在庫少が出たら発注残を確かめてから追加の発注を決めてください。なお、提案の計算は記録された出庫をそのまま平均したもので、欠品期間や一度きりの大口を除く補正や、出庫のばらつきの考慮はしていません。安全在庫を下回っても、発注案は自動では作りません。
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