投稿日:2025年9月11日

輸送中の温湿度管理が製品品質に直結するケーススタディ

はじめに:製造業現場で見逃されがちな「輸送中の温湿度管理」

製造業の現場では、原材料の仕入れから、製品の組み立て、そして出荷に至るまで、様々な品質管理の手法が導入されています。

ISOや各種GMP、トレーサビリティなど、グローバル化の中で品質への要求は年々高まっています。

しかし、意外と見落とされやすいのが「輸送中の温湿度管理」です。

工場では万全な品質管理体制を敷いていても、出荷した製品がエンドユーザーや次工程に届くまでの「あいだ」で不適切な環境に晒されれば、たちまち品質が損なわれる可能性があります。

この記事では、実際の現場経験や業界動向をもとに、「なぜ輸送中の温湿度管理が重要なのか」「どんな問題が起きているのか」「現場目線でどのような対策が可能か」を分かりやすく解説していきます。

また、バイヤーやサプライヤーの立場からも、すぐに役立つ知見を提供します。

なぜ輸送中の温湿度管理が製品品質に直結するのか

製造現場での管理と物流現場でのギャップ

多くの製造業では、工場内での温度・湿度管理は徹底的に行われています。

例えば電子部品や医薬品、食品など、温湿度の変化が品質に与える影響が甚大な製品では、専用のクリーンルームや定温倉庫を設置する例も少なくありません。

しかし、製品が出荷され、物流会社、倉庫業者、さらには営業所や再販業者の手に渡る中で、その管理レベルのバラつきは急激に大きくなります。

特に昭和時代から続くアナログな運用が色濃く残る業界では、「現場の感覚頼み」のケースも多く、記録や監視が形骸化しているところもあります。

「ほんの数時間」の油断が命取り

たとえば、夏場に冷蔵が必要な試薬や医薬品の配送が数時間常温に放置されたとします。

「たった数時間、たかが20度」と思うかもしれませんが、こうした温度逸脱によって分解が始まり、薬効が失われたり、有効成分が化学変化してしまうことがあります。

逆に、冬場に湿度が異常に下がる倉庫で長期間保管すると、電子部品の絶縁材が硬化・割れを起こす事故が実際に発生しています。

温湿度は、製品そのものの「安全性」や「信頼性」を根本から揺るがすリスク要因なのです。

実際にあった「温湿度管理ミス」のケーススタディ

ケース1:電子部品の微細クラック発生

自動車メーカー向けに電子基板を出荷していたA社では、現場では規格通りの品質管理を徹底していました。

しかし、出荷後しばらくしてエンドユーザーから「動作不良」のクレームが相次ぐ事態に。

調査の結果、輸送中にトラックの庫内温度が想定外に低く(0度近く)、温度差による結露と乾燥の繰り返しが原因で基板内部に「微細クラック」が生じたことが判明しました。

このように、工程内でどれだけ完璧な品質を保っていても、物流区間だけで「品質事故」が起きうる、という典型例です。

ケース2:医薬品の有効成分消失トラブル

医薬品業界のB社では、製品の輸送時に「温度履歴管理」を導入していましたが、実はデータロガーを積み込む運用の定着が不十分でした。

たまたま夏季配送の際、サプライヤー側倉庫の積替え場で半日ほど高温になり、薬品の有効成分が分解。

見た目の異常がなかったため、納入後の分析検査ではじめて全品回収となりました。

ここでも、温度逸脱の「ごく短い一瞬」が後の大規模リコールに繋がったのです。

ケース3:食品の梅雨時カビ発生

食品工場のC社が出荷した菓子類に、梅雨時期、到着後の小売倉庫でカビの大量発生事故が発生。

調査の結果、運送車両の庫内湿度が高温多湿になり、出荷時点では正常だった商品パッケージ内部で発生したことが特定されました。

日頃は「気をつけている」という意識があっても、実際の記録や運用が追いつかない場面が多いのです。

現場目線で考える温湿度管理のポイントと限界

1.「出荷した瞬間、品質管理の手が離れる」という現実

多くの製造現場では「納品したら自分たちの責任は終わる」という気持ちが根強くあります。

しかし、実際には納品後の問題(返品、リコール、クレーム)のダメージは、直接現場や会社の信用に跳ね返ってきます。

とくにサプライヤーの立場では、「出荷後の輸送区間をいかに見える化するか」が信頼獲得のカギとなります。

2.「データロガー」や「ロギングシステム」の活用が進む現場

近年は、出荷ラベルに温度記録用データロガー(USBやNFC通信、Bluetooth仕様等)が組み込める低価格な機器も普及しつつあります。

これにより、小ロット〜大規模品まで、輸送中の温度履歴や湿度履歴を簡単に記録・回収でき、「異常が起こっていないか」を納品先とリアルタイムで共有することが可能になりました。

こうした「現場単位でできる可視化」は、多くの品質リスクを未然に防ぐために不可欠です。

3.「アナログ対応」と「デジタル化」のはざまで

一方、多くの業界や企業では、「まだまだアナログな対応が強い」というのも現場の実情です。

たとえば、

– パレットや梱包材を目視点検し、「だいたい大丈夫」と現場感覚で判断
– データが紙ベースでしか残っておらず、証拠として曖昧
– 現場の作業担当者が「ベテランの経験」を頼りに現場判断を委ねている

といった状況も珍しくありません。

こうした文化の根強さも、昭和からのアナログ文化が業界に色濃く残っている一因です。

現代のサプライヤーやバイヤーは、こうした現実も直視しつつ、段階的なデジタル移行や運用ルールの仕組み化を進めていく必要があります。

バイヤー視点・サプライヤー視点で押さえたい実務ポイント

バイヤーが「見極めるべき」サプライヤーの取組み

原材料や製品を仕入れるバイヤーの立場では、サプライヤーの「工場内管理体制」だけでなく「輸送現場での対応力」を必ずチェックしましょう。

– 温湿度管理履歴の提出(過去のトレーサビリティ提出義務化)
– 不具合発生時の原因究明力(輸送区間も遡及可能か)
– トラブル発生時の「事後報告」ではなく「リアルタイム共有」があるか

といった点は、今やグローバル標準になりつつあります。

「昔から付き合いがあるから問題ない」という運用は、品質事故一発で全て崩壊するリスクと背中合わせです。

サプライヤーは「輸送中も製品の品質を見守る」体制を構築

サプライヤーの立場では、「出荷したら終わり」ではなく、「納入先まで責任を持つ」姿勢を明確にアピールすることが、選ばれる条件となります。

– 輸送区間の温湿度管理体制を明示
– 記録のデジタル化・クラウド共有によるリアルタイム見える化
– 問題が起きた場合の速やかな報告体制と、自己改善の継続

これらは、工場内の品質保証以上に、顧客に安心感を与える強力なメッセージとなります。

また「見せかけのシステム」ではなく、現場作業者がしっかり理解・運用できていなければ逆効果です。

現場主導の教育や、定期的な運用ルール見直しが求められます。

温湿度管理の「真の姿勢」が今後の取引の成否を分ける

SDGsやサプライチェーン全体管理の時代へ

昨今、SDGsやサプライチェーン全体での管理強化が叫ばれています。

例えばCO2排出量の可視化や、BCP(事業継続計画)の策定の場でも、「輸送区間」の温湿度リスク評価が問われるようになっています。

海外の大手自動車メーカーや半導体メーカーでは、「サプライチェーン途中の温度履歴の証明」が求められるケースが急増中です。

今や「輸送も含めた品質保証」が業界の新しい当たり前になりつつあるのです。

現場主導の「新しい価値」創出へ

単に「ミスを起こさない仕組み」としてではなく、温湿度管理を徹底することが「新たな受注増」や「顧客拡大」のきっかけになる時代です。

現場レベルから、積極的に問題点を洗い出し、アナログとデジタルを組み合わせた独自の管理体制へ進化させる。

これが今、製造業のバイヤーにもサプライヤーにも必要とされています。

まとめ:温湿度管理で「一歩先へ」進む製造業現場に

工場で努力した品質も、「輸送中の温湿度管理」なくしては無駄になりかねません。

バイヤーもサプライヤーも、個々の現場から一歩踏み出し、輸送区間の可視化・記録・仕組み化に取り組むことが、「昭和的な品質管理」から脱却し、「未来型サプライチェーン競争力」を高めるカギとなります。

「現場主義」と「システム活用」のハイブリッドが、今後の製造業発展を支えていくのです。

それぞれの立場から、いち早く「輸送中の温湿度管理」の重要性に気付き、未来のものづくりの地平線をともに切り拓いていきましょう。

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