投稿日:2025年10月3日

見た目を無視した資料が経営層に響かないコンサルタントの課題

はじめに:なぜ「見た目」の良さが問われるのか

製造業の現場では、数字と事実がすべてだという文化が長らく根付いてきました。
とくに昭和世代の現場管理者は、「資料の中身が重要であり、見た目は二の次」という考え方に慣れています。
私自身、20年以上製造現場で働きながら、シンプルな表と文章だけの報告書を当たり前のように作成し、それでも上司や役員に評価された経験があります。

しかし、時代は大きく変わりました。
グローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の波を受けて、経営層や外部コンサルタントの多くは「見せ方・伝え方」の重要性を強調しています。
資料のデザインやプレゼンテーションの構成が与える印象が、意思決定そのものに大きな影響を与えているのです。

本記事では、製造業のコンサルタントが陥りやすい、「見た目を無視した資料」の課題と影響、そして解決策を、現場経験の観点から掘り下げていきます。

現場で生まれるアナログな価値観と資料作成のギャップ

数字やデータに絶対的な信頼を置く背景

製造業の現場では、「正確なデータ提出」が常に求められてきました。
生産実績、歩留まり、異常発生数、調達コストダウン――これらは全て、Excelや手書き表で実直に積み上げられて報告されてきたのが現実です。
このようなアウトプットに慣れていると、「色をつけたり、グラフを増やしたりする時間があるなら、現場の改善に注力したい」と考えるのは自然なことです。

現場主義が生み出す「見た目不要論」

多くのベテラン管理者や工場長は、会議資料や報告書の体裁に時間を割くことを無駄だと考えてきました。
ときには、「データさえ正しければ、見た目はどうでもよい」という雰囲気さえ蔓延していた現場もあります。

この考え方は、ある意味「ものづくり日本」の強みであり、裏付けのないプレゼンより、現場で奮闘する姿に重きを置く傾向があります。

経営層が期待する“伝わる資料”とのズレ

一方で、経営層――とくに本社やホールディングスに在籍する役員、外部コンサルタント経験者――は、限られた時間で膨大な情報を処理し、意思決定しなければなりません。
そのため、「短時間で全体像が掴め、課題や提案内容が直感的に理解できる」資料が要求されます。
視覚的に情報が整理されていない、あるいは構造化されていない資料は、内容がどれほど優れていても評価されにくくなるのです。

見た目を無視した資料が抱える具体的な課題

1. 意図や主張が伝わらず、経営判断が誤るリスク

経営層は現場の細かい数字や用語に精通しているとは限りません。
論点が散漫で直感的に伝わらない資料は、本来の意図や訴えが埋もれてしまいます。
意思決定が遅れたり、誤った判断につながったりするリスクが潜んでいます。

2. 読み手による「情報の解釈違い」

グラフや図解を使わず、文章と表だけで完結する資料は、複雑な現象やプロセスを十分に説明しきれません。
その結果、読み手一人ひとりが違う解釈をし始め、議論がかみ合わなくなる現象も多発します。

たとえば、「歩留まり30%改善」の報告も、具体的にどこにどんな変化が起こったのかを図示しなければ、経営層は“何が成果なのか”を十分に評価できません。

3. 資料の信頼性・プロフェッショナリズムへの懸念

外部コンサルタントが持ち込んだ資料が“昭和感満載”の、色使いもフォントもバラバラな報告書の場合、組織全体が「本当にこの会社に任せて大丈夫か?」と懸念を抱きます。
見た目の乱れは、「細かい部分への詰めが甘いのでは」と不安材料となり、信頼性に影響します。

なぜアナログな価値観は根絶しないのか

製造業は“守るべきもの”と“変わるべきもの”を見極める必要があります。
経験や勘に裏打ちされた職人技や、現場のリアリズムを大切にする文化は、依然として業界の競争力を支えています。

一方で、世代交代やデジタル化の進展により、経営層やバイヤー、他業界から転入してきたメンバーのニーズも無視できません。
この「現場VS経営」の溝を埋めることができない限り、アナログな価値観と伝わる資料作成のギャップはなかなか縮まらないのです。

製造業のコンサルタントが実践すべき「伝える技術」

1. 現場データを「ストーリー仕立て」で伝える

単なる数字や事象の羅列ではなく、「この現象はなぜ起き、どのようなソリューションで、どんな成果を狙うのか」を物語のように組み立てて訴求します。

– 課題が可視化できるデータ
– そこから導出される根本原因
– カイゼン施策の全体像
– 投資対効果やリスクの明確な整理

これらを、順序立ててスライドや紙面上に配置することで、経営層にも“自分ごと”として納得してもらえる可能性が高まります。

2. グラフィカルな表現と一目で伝わる構成

– ビフォーアフターやKPIの推移を、棒グラフや線グラフで明示する
– QCストーリーや問題解決フローを、工程図やロジックチャートで図解する
– 提案内容をピラミッドストラクチャーやPREP法で“端的に”まとめる

これだけで資料の印象が「現場の苦労話」から「経営的判断材料」に進化します。

3. 「読みやすい」デザインの細部まで手を抜かない

– フォントや色づかい、レイアウトの統一感
– ページごとに論点を明確に示すタイトルやリード文
– 重要事項のハイライトや囲み枠

現場視点と経営視点、それぞれの「読みやすさ」への配慮ができてこそ、一流のコンサルタントと評価されます。

見た目の良さと現場の価値観を融合するために

“伝える力”は現場経験の価値を最大化する

資料の「見た目」を磨くことは、現場の知恵や努力を正しく、広く伝えるための手段に過ぎません。
見た目重視が一人歩きしては本末転倒ですが、現場ならではの視点や改善のノウハウを、経営層や外部バイヤーにも納得させる“翻訳者”としての役割があります。

これはバイヤー経験者だけでなく、サプライヤー側で「現場の声を製品開発や調達交渉に活かしたい」と感じている方にも必須のスキルです。

業界全体で“伝え方改革”を進める重要性

昭和のアナログ文化と新時代のデジタル思考――その融合により、日本のものづくりはさらなる成長が期待できます。
企業ごとのベストプラクティスを共有し、教育やOJTを通じて実践力を高めていくことが必要です。

まとめ:資料の見た目は“経営を動かすレバー”

製造業のコンサルタントや管理職経験者として言えるのは、
「現場の真実は、うまく伝わってこそ初めて会社を動かす力になる」
ということです。

どれだけ汗をかいて改善し、どれだけよい数字や成果を出しても、伝え方一つで過小評価されたり、プロジェクトが進まなかったりする現実があります。

見た目を軽視してきたアナログな時代の価値観に、現代の伝える力を掛け合わせて、「経営層に響く」資料を作れる人材こそが、これからの製造業で真に求められるプロフェッショナルなのです。

現場経験のある皆さんや、バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの思考を理解したい方――ぜひ「伝え方」の進化を、現場から実践していきましょう。

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