投稿日:2025年9月4日

設計審査でのコストKPIを一次指標と遅行指標に分け改善の打ち手を早期化

はじめに:設計審査とコスト管理の重要性

製造業における設計審査(DR:Design Review)は、製品ライフサイクル全体のコスト構造を大きく左右する最初の関門です。

そして、設計段階での意思決定が80%以上のコストを決めてしまうという「設計決定理論」は、現場を長年経験した身としても決して誇張ではありません。

一方で、設計部門でのコストKPI(重要業績評価指標)運用は、どうしても“結果論”になりがちです。

つまり、「不具合が発生した」や「コストが想定をオーバーしてしまった」という、いわゆる遅行指標をもとに反省や再発防止を講じがちです。

本記事では、コストKPIを一次指標(先行指標)と遅行指標に分解し、現場でどのように具体的な早期改善サイクルを実現できるかについて、工場長や調達部門、そしてサプライヤーの視点も交えて解説します。

伝統的な設計審査のコスト管理手法の問題点

形式的な審査になりやすい理由

製造業の現場では、設計審査が「チェックリスト」や「質疑応答」の形式的イベントに陥るケースが数多く見受けられます。

その背景には、コストやリスクを「数字」で捉えきれず、プロセス改善への手立てが属人的・後追いになってしまうという課題があります。

遅行指標だけで測る限界

例えば、量産後に「原価差異がこれだけ発生した」と結果だけ数値で把握しても、そこでようやく“過去の失敗”が認識できるのみです。

これは昭和型の製造現場ではいまだ根強いスタイルで、現場改善が常に数ヶ月〜1年単位で遅れ、累積損失になる原因となっています。

ラテラルシンキングで捉える「一次指標」と「遅行指標」の設計

一次指標(先行指標)とは

一次指標は、「この活動が実践されていれば、将来的に必ず良い結果につながるはず」という“行為”に着目したデータです。

設計部門で言えば、
– 部品点数の削減提案の数
– コスト分析が設計審査前にどれだけ評価されているか
– サプライヤーとの初期価格交渉履歴の有無
– 設計プロセスにおける機能統合・標準部品活用率

など、設計段階で完結する「動き」を可視化する指標がそれに当たります。

遅行指標(アウトカム指標)とは

遅行指標とは、設計確定後や市販後などに数値で“結果的に発現する”コストです。

具体的には、
– 製品原価、購入部品コスト
– 市場不良率またはリコールコスト
– 後工程での手戻り率

などがこれに相当します。

先行指標は行動の「前振り」、遅行指標は「既成事実」と言い換えることもできます。

なぜ、2つで管理する必要があるのか

一次指標を見張れば、「今、どこで次の失敗のタネをまこうとしているのか」が手前の段階で“見える化”できます。

一方、遅行指標に頼り切ると、失敗が起きて初めて気づきます。

両者を組み合わせることで、「まだ起きていない未来のロス」を前倒しで検知し、打ち手を迅速に発動できるようになるのです。

設計審査のプロセスに先行指標をどう組み込むか

1. 設計前段階でのバイヤー・サプライヤー巻き込み

コストダウンは設計が“固まってから”では既に遅い、というのが現場の実感です。

材料選定や部品構成の初期検討段階から、バイヤーやサプライヤーのコスト知見を取り込み、
「この案を設計したらコストインパクトはどれほどになるか?」
「複数サプライヤーの見積もり取得ができているか?」
こうしたアクションを「先行のKPI」として設計進捗表に組み込むことで、情報のサイロ化を防ぎます。

2. 設計変更のレビュー履歴・件数のトラッキング

設計変更が頻発する現場は、後工程・調達・品質側に無駄な工数やコストを爆発的に広げます。

ただし、変更そのものが“絶対悪”ではなく、「変更理由」を追い、リスク評価された変更案件数やレビューの早期化をKPI登録するのです。

これにより、手戻りコストの芽を早めに摘み取れるようになります。

3. 社内外の標準部品・テンプレ活用率

現場で見落とされがちなのが、「社内標準部品」や「サプライヤーカタログ品」の活用です。

設計担当個人の“引き出し”頼りではなく、「標準率」を設計審査ごとに定量評価し、流用率が上がらない案件には「なぜか?」のレビューを設けることで、設計思想にコスト意識を溶け込ませましょう。

バイヤー視点:設計審査への先回りと意思決定支援

設計初期こそコスト見通しの勝負どころ

バイヤーや調達部門は「設計が決まった後」でしか交渉カードを持ちづらい、と感じがちです。

ですが、設計審査の現場にバイヤーが同席し、材料費や生産ロット、量産後の値下げ余地などを「早い段階で嫌がられても伝える」ことが非常に重要です。

調達からのフィードバックが設計側の一次KPI(たとえば「コスト目標超過アラート発生件数」など)に即反映されれば、現場の「肌感覚」もタイムリーになります。

3Dデータ・コストシミュレーションの活用

サプライヤーによる見積依頼が紙図面ベースのままだと、工程分解やコスト見積もりにムダが多くなります。

設計審査に3Dデータとコストシミュレーションを持ち込み、「この部分の肉厚を減らせればいくら下がる」といった定量情報を、一次指標で合意形成しましょう。

これにより、設計側・バイヤー・サプライヤーの三位一体となったコスト意識が実装され、結果として遅行指標(原価目標達成率)が向上します。

サプライヤーの視点:一次指標で自社の立ち位置を高める

サプライヤー側から見ると、価格提示や生産性向上提案は「設計確定後」だと後手に回りがちです。

ですが、設計審査初期から
– 工法簡略化や歩留り改善の提案数
– コスト低減アイディアの提出件数
– 初期流動での品質リスク情報の開示率

といった一次KPIを自社で追い、顧客メーカーに先回りしてフィードバックできていれば、「次回もこのサプライヤーに頼みたい」という信頼度が大きく向上します。

遅行指標を「真因追究」のために使う

遅行指標は「過去の事実」ですが、その真因を1つ1つ“紐解き”、次の設計プロセスに組み込むことが重要です。

たとえば不良率の高い現場では、その責任が単に現場や品質だけに押し付けられがちです。

しかし、真因分析で
– 設計段階でのリスク洗い出し不足
– サプライヤー選定の初期妥協
– コスト目標未達案件に対する再審査不足

などが抽出できれば、それを新たな一次指標やプロセス強化に変換できます。

この「経験値のループ化」こそ、現場主導のデジタル化や組織知化の第一歩です。

昭和的アナログ慣習からの脱却とデジタル活用

古い体質の企業は、設計審査を「紙での承認回覧」「エクセル集計」「関係者への口頭表明」で済ませがちです。

ですが、近年では設計・調達のKPIをダッシュボード化し、
– プロジェクトごとの一次指標・遅行指標の自動集計
– 社内SNSでの進捗共有
– サプライヤー評価のフィードバック可視化

をリアルタイムで現場まで落とし込む企業も増えています。

このようなデジタル活用例を参考に、アナログ的属人運営からの転換を積極的に図りましょう。

まとめ:早期化サイクルの定着がコスト体質を変える

設計審査におけるコストKPIの「一次指標」と「遅行指標」への分解と運用は、単なる管理ツールではありません。

それは「現場の行動変容」を引き起こし、設計・調達・品質・サプライヤーの連携を密にして、コスト競争力と市場適応力を高めるトリガーとなります。

昭和型の“事後評価主義”から、「今、どこで無駄が生まれそうか」を見える化し、手前で芽を摘む仕組みづくりを目指しましょう。

失敗からの学び=“経験値”を組織全体で共有し、次世代のものづくり現場づくりに挑み続けること。

それこそが、製造業の現場において本当に強いコスト体質を生み出す近道です。

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