投稿日:2025年11月12日

リサイクルTシャツ印刷で密着を安定化させるための脱脂温度と乳剤改質設計

はじめに——サステナブルな製造現場が直面する「密着」の壁

近年、リサイクル素材への関心が世界規模で高まっています。

アパレル業界では、ペットボトル由来の再生ポリエステルやリサイクルコットンを活用したTシャツが急速に広がりました。

しかし、こうしたリサイクルTシャツは印刷時に「インクの密着性」に大きな課題が生じます。

理由は原料や繊維表面の特性がバージン素材と異なり、印刷インクの定着が不安定になるためです。

本記事では、バイヤー・サプライヤー双方の現場経験者の視点から、リサイクルTシャツ印刷で密着を安定化させるための“脱脂工程の温度管理”と“乳剤改質設計”のポイントを実践的に解説します。

もちろん、昭和時代から続く「経験則と勘」に頼りがちな製造現場にもフィットした内容です。

リサイクルTシャツの密着不良、その背景にある特有の要因

まず、なぜリサイクルTシャツはプリント工程で「密着不良」が起きやすいのかを整理します。

リサイクル原料繊維の“油分”と“異物混入”

リサイクルポリエステルやリサイクルコットンは、原料が一度廃棄されたものです。

使用済みペットボトルや古着は、粉砕→洗浄→再重合→紡糸など、複雑な工程を経ます。

その過程で油分(界面活性剤や工程油)、微細な異物、異種プラスチックが混入しやすくなります。

結果、繊維表面が「油っぽい」「ムラがある」「化学的に均一でない」といった性質を持ち、インクの密着性が落ちやすいのです。

旧来の脱脂工程・前処理の「死角」

昭和から続くTシャツプリント工場では、脱脂工程などの前処理は「温度と時間目安」による職人の経験則に頼りがちです。

リサイクルTシャツの場合、バージン原料に比べこの目安では脱脂不足や、逆に高温による繊維の劣化・縮みを招くリスクも大きくなります。

現場で見直すべき「最適脱脂温度」設定の考え方

なぜ「脱脂工程」が密着性に直結するのか

ご存知の通り、Tシャツプリント前の脱脂工程は繊維表面の汚れ・油分を除去し、インク密着の障壁を消します。

この工程が不十分だと、インクが“はじかれる”“すぐに剥がれる”など品質事故の原因となります。

バイヤー視点で言えば、納品不良率増加やクレーム増加をダイレクトに招きます。

リサイクルTシャツ用「脱脂温度」最適化フロー

1. 原料ごとに温度設定テストの実施
リサイクル素材の種類(リサイクルPET/コットンなど)とグレードごとに数パターンの温度と時間で脱脂テストを行います。

最軽量油分除去からしっかり除去まで、60℃台前半・70℃台中盤…と段階的に設定します。

2. 仕上げ面で「インク密着性」を定性・定量的に評価
いわゆる「テープ剥離試験」や、百円玉でこする簡易耐摩耗テストで、密着の違いを確認します。

3. 脱脂温度の過多・不足による副作用もウォッチ
必要以上に高温で処理すると、繊維がダメージを受けたり、表面に熱変性膜ができて逆に密着を阻害するケースもあります。

低すぎる温度では油分がしぶとく残り、結局密着不良の温床となります。

ここで重要なのは「脱脂温度は高ければよいわけではない」点です。

現場では「70~80℃」で万能と思われがちですが、リサイクル原料のロット特性や繊維密度によってベスト温度が変動します。

サプライヤー・バイヤー双方で管理すべき指標

現場レベルで「脱脂温度管理シート」の運用をおすすめします。

材料ロットNoごとに実施温度とインク密着評価結果を記録し、異常時に即トレースできる仕組みは品質保証の肝です。

この管理文化は、サプライヤー側の現場が「バイヤーの求める納品安定性」を実現する土台となります。

インク密着の最終決定打——「乳剤改質設計」の実践ポイント

脱脂工程を最適化することで「土台づくり」は完了します。

しかし、リサイクルTシャツ素材の場合、インク層そのものの密着性も格段に重要になります。

ここで注目したいのが「乳剤(エマルジョン)」のカスタム設計です。

従来乳剤と特殊乳剤、その違い

Tシャツ印刷の乳剤は、紫外線や熱によって硬化し、インクのエッジを鮮明に出すいわゆる「版膜」素材です。

従来乳剤(バージン素材前提で設計)は、リサイクル素材表面の凹凸や油分残渣とうまく“なじまない”場合が目立ちます。

そこで近年、界面活性成分や親油基側鎖、柔軟性添加剤を組み込んだ「密着強化型乳剤」が開発・市販されています。

乳剤改質設計——現場でできる工夫

現場でできる乳剤のカスタムの主な考え方は以下の通りです。

  • 市販の密着促進添加剤(海綿状物質、シランカップリング剤など)を既存乳剤に少量加える
  • 乳剤塗布厚み自体を厚くし、繊維表面を物理的に“埋める”
  • 乳剤の硬化プロセスで、60~80℃前後の温度保持時間を若干長めにする(過度な硬化はNG)

この工程を試作→評価→フィードバックのサイクルで磨くことで、密着事故の大幅な削減が可能となります。

また不良原因が乳剤由来か脱脂ミスか、工程記録(トレーサビリティ)があれば分かるため、対策もスピーディに回ります。

昭和から続く“勘頼み”の壁をどう超えるか——現場のマインドセット刷新

多くの工場で「昔ながらの目安」や「職人のカンピュータ」に支えられた脱脂・乳剤プロセスが続いています。

特にアナログ業界色の濃いTシャツ印刷現場では、新素材・新技術への抵抗感も根強いものがあります。

数値化、工程記録、ロットごと検証——“なぜやるか”の納得感づくり

本当に歩みを進める第一歩は、「現場が納得して科学的に工程改善に取り組める仕組みづくり」です。

「なぜサンプルごとに脱脂温度を変えるのか」「密着不良が乳剤設計でどう改善するか」を現場ミーティングやQCサークルで共有しましょう。

できれば、「社内レポート」として簡素なもので構いませんので工程データを蓄積(写真・動画付き推奨)、改善事例の見える化を進めてください。

サプライヤーとバイヤーの相互情報共有のススメ

バイヤーは「なぜ仕入れ元が密着不良を起こすのか」を現場レベルで把握している先はごくわずかです。

「御社は脱脂工程を何度で、どう管理していますか?」というQAをオープンに行い、仕入れ先との技術情報共有を行ってください。

これにより、サプライヤー側も「顧客要求を理解した工程改善」が進み、バイヤーは「潜在品質リスク」を事前に排除できるようになります。

未来志向の「工場自動化」視点も不可欠に——IoT・記録自動化の可能性

最後に、今後の製造現場の“新常識”となる自動化トレンドにも触れておきます。

脱脂工程の温度記録をIoT化する

市販のIoT対応温度ロガーや自動温度監視システムを脱脂槽に設置し、「ロットごと異常」を自動記録するのが今後の主流になっていきます。

これにより、不良発生時に「どの工程で異変があったか」を後追いしやすくなります。

乳剤撹拌ログ・印刷動作ログのデータ化

乳剤作成や塗布工程・印刷後の各種設定も、専用の作業記録ソフトで自動入力すれば、再現性の高い工程管理が可能になります。

人が減っても、ノウハウがデータとして残る。

これが「昭和からの脱却」につながる未来への一歩です。

まとめ——今、製造現場に求められる「密着」意識の進化

リサイクルTシャツのプリント現場は、従来の“バージン素材前提の常識”では乗り越えられない壁を抱えています。

その解決の核心は、「最適な脱脂温度の見極め」と「密着強化乳剤設計」の両輪改善。

さらに、「工程の数値化・記録・自動化」まで視野に入れた現場イノベーションが不可欠です。

バイヤーもサプライヤーも、それぞれの立場から現場課題を“見える化”して共有すれば、安定品質と、よりよいサステナブル社会の一翼を担えるはずです。

製造業に従事する全ての皆さんが、密着工程の進化に一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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