投稿日:2025年10月29日

漆と樹脂を融合した新素材を開発してD2C展開するためのプロトタイプ戦略

はじめに:漆と樹脂の融合がもたらす新たな素材革命

日本の伝統工芸である漆と、現代産業を支えてきた樹脂。
この二つを融合した新素材は、今までにない価値と可能性を秘めています。
しかし、その革新性を活かしてD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)として展開するには、現場目線での実践的なプロトタイプ戦略が必要不可欠です。

この記事では、調達・生産管理・品質管理・工場自動化、そしてD2C事業立ち上げまで、20年以上のものづくり現場経験で培った知見をもとに、漆×樹脂新素材のプロトタイピングの進め方を深掘りします。
また既存のアナログな業界動向を踏まえ、これから参入する人・バイヤー志望の方・サプライヤーの方が「使える」視点を提供します。

漆と樹脂の新素材とは ─ 伝統×最新技術の持つポテンシャル

漆:美しさ・耐久性・独自性

漆には堅牢で美しい独特の光沢があり、日本国内外で高く評価されています。
その一方で、採取や加工には熟練の人手が不可欠で歩留まりが悪く、高コスト、それに加えアレルギー性などの課題も内在しています。

樹脂:量産性・機能性・拡張性

人工樹脂は安価で量産性が高く、射出成形・押出成形など様々な方式で多様な物性をもたせることができます。
また着色や各種機能添加も柔軟です。
ただし、単体では「伝統美」や「付加価値」に欠ける面があります。

融合素材のUSP(独自価値提案)

漆の伝統美・独自性と、樹脂の機能性・生産性を掛け合わせることで、美しさと実用性、独自性を兼備した新たな付加価値素材になります。
例えば「割れにくい漆塗りタンブラー」「軽量で耐熱性が高い漆工芸アクセサリー」など、これまでにない商品群が生み出せます。

漆×樹脂のプロトタイプ開発ステップ

1. ターゲット顧客インサイトを徹底把握

D2Cで成功するには、現場の思い込みではなく、ユーザーインサイトの把握が肝心です。
特に伝統素材×現代デザイン商品は、「なぜ漆である必要があるのか」。
「そこに樹脂を取り入れる意味は?」の問いに対し、ストーリー性と合理性の両立が求められます。

たとえば
– 漆の高級感をカジュアルに楽しみたいけれど価格がネック
– 日常使いしたいがメンテナンスが大変
– アレルギーが心配だが漆デザインが好き

このような“リアルな声”をSNS調査、クラウドファンディング、試作品イベントなどから丁寧に拾い、商品軸の仮説を設定します。

2. 調達戦略:素材と生産リソースの最適化

今までの製造業では取引先を決めたら長く付き合う狭いサプライチェーンが主流でした。
しかし新規事業・新素材のプロトタイピングの場合は、「コスト・品質・納期」バランスを動的にチューニングする柔軟な調達力が重要です。

具体的には
– 国内外の漆原材料の供給元リサーチ(安定調達・品質確保・サステナブル性)
– 樹脂との混合・成形技術を持つ会社・工房との早期提携
– 欠員や仕様変更に柔軟に応じられるサプライヤー網の開拓

ここでバイヤー経験が活きます。
“見積もり・サンプル依頼→小ロット試作→実加工現場視察→実際の量産可否の検証“までをシームレスにこなせるネットワークと実務知識は、新素材D2Cには必須です。

3. 生産設計:試作〜量産移行の落とし穴と解決策

アナログ志向が強い分野では「職人頼み・勘頼み」の傾向が色濃く残っています。
しかしD2Cやグローバル展開を見据えるなら、標準作業手順(SOP)=「誰が作っても同じ品質で作れる仕組み化」を早期に設計することがカギとなります。

– 漆と樹脂の配合レシピ、塗布/成形条件、硬化時間や温度管理を数値化
– そのまま作業標準書や教育マニュアルに反映し、現場負担を可視化
– 「現場の暗黙知」をデジタル化・自動化し、技術の属人化を防ぐ

最初からいきなり完全自動化を狙わず、まずは職人技の“どこがDXに置き換え可能か”を分析し、検証します。

4. 品質管理:伝統美と実用性の均衡

ユーザーに「本物」を届けるためには、見た目の仕上げと本当の使いやすさ、つまり「伝統と品質の妥協なき両立」が求められます。

– 光沢、彩度、手触りといった官能評価基準の明文化
– 機能的には、耐摩耗性、耐熱性、剥離や割れなど事故リスクの試験
– D2Cビジネスなら使用中の事故・クレーム対応も継続的にフィードバックし、設計に反映

本格展開の前に必ず異常ロット・不良リスクを「見える化」し、消費者視点の商品管理へと進化させます。

D2C展開へのプロトタイプ戦略 ─ 体験価値とスピードの両立

最小実用製品(MVP)思考で企画を絞り込む

プロダクト開発は「思い入れ」で多機能・過剰スペックになりがちですが、D2C市場ではむしろ“いち早く出して、リアルな反響でブラッシュアップ”が基本です。
– 試作第一段階では、代表的な一品種にフォーカス
– 顧客アンケート、実使用モニター、ECサイトでの早期販売テスト
– その結果から「買わなかった理由」「もっと欲しい機能」「(ルックス、価格、ストーリー)」の冷静な見極め

ここで重要なのは、単なる“売れ筋調査”でなく、ブランドコンセプトも明確にし、愛着や社会性を伝えるストーリー設計を同時に進めることです。

アナログ業界・現場の壁と突破戦略

昭和時代からの古い体質が残る製造業では、「そんな前例はない」「うちのやり方に合わない」といった現状維持バイアスが根強いです。

しかし、逆に“現場の資産=技術・ノウハウ”をプロトタイプで見える化し、商品ストーリーとして発信することで、ブランドの独自性や愛着醸成につながります。

– 職人の作業風景や伝統の工程をショート動画で発信
– 産地や生産者ストーリーも購買体験に組み込む
– 工場見学やワークショップを取り入れ、消費者と現場をつなぐ架け橋にする

D2Cは単なる直販モデルでなく、「メーカーが消費者と直接語り、反応を聞き、迅速に応える」仕組みを指します。
現場こそが最大のマーケティング資源となる時代が来ています。

調達購買・サプライヤーとの協業で広がる共創モデル

漆×樹脂のような新素材事業では、単なるモノのやり取りでなく、サプライヤーと共に試作・失敗・学びを重ねていく「共創型バリューチェーン」が理想です。

– サプライヤーにバイヤー視点=市場動向や最終消費者の“ナマの声”を積極共有
– 試作段階からオープンな議論・フィードバック文化をつくる
– PDCAをスピード感もって何度もまわし、全員で成功体験・改善体験を分かち合う

バイヤー経験者の方は、価格交渉だけでなく「早期アラート」「一緒に課題解決」に主眼を置きましょう。
そしてサプライヤー側も“言われ仕事“に陥るのではなく、「どうしても解決したい課題は何か、それにはどんな技術・人材があるか」という発信が、長期的なパートナーシップへの近道です。

新素材でD2C:今後の展望と製造業バリューの再定義

漆と樹脂という“異なる文化・時代”をつなげた新素材は、単なるテクノロジー融合にとどまらず、新しいブランド体験、そして新たな現場価値の再定義につながります。

製造業の現場はこれからもアナログとデジタル、職人技と自動化、その二つを行き来しながら進化していく領域です。
D2Cという消費者直結モデルを通じ、ものづくり現場ならではの“気配りの技術”や“譲れない品質への執念”を大いに発信し、新たなファンと市場を創りましょう。

この記事が、
– 製造業現場から新規事業を目指す方
– バイヤーとしてモノの裏側まで見抜きたい方
– サプライヤーとして唯一無二の価値を打ち出したい方
の明日への指針となれば幸いです。

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