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投稿日:2025年6月11日

電子部品における設計裕度活用と信頼性向上

はじめに:電子部品設計における裕度の重要性

電子部品があらゆる製品の基盤となる現代社会において、「設計裕度」という言葉が再び注目されています。
昭和の時代から続くモノづくり日本では、品質や信頼性の本質を現場で叩き込まれた世代が多く存在します。
それだけに「設計裕度を持たせるのは甘えだ」「歩留まりを犠牲にするな」といった古い価値観と、グローバル競争や高信頼性市場への対応といった新しい観点がせめぎ合っています。
本記事では、長年現場で実務を担ってきた筆者の目線から、設計裕度の本質、現場での活用ノウハウ、さらに信頼性向上へ繋げる実践的視点を詳しく解説します。

設計裕度の基本概念と必要性

設計裕度とは何か

設計裕度(デザインマージン)は、電子部品やシステム・機器の性能や特性にバラつきや予測しない変動があった場合でも、正常に動作するために「余裕」を持つ設計思想です。
たとえば、耐圧100Vのコンデンサを使う予定があるとします。
もし基板の回路で90Vかかる可能性があるなら、100Vギリギリではなく、150Vや200Vの部品選定を検討する。
これが「裕度を持たせる」という考え方です。
現実の製造や運用環境は計算どおりいかないことが多く、その不確実性を見越して設定する安全領域が設計裕度です。

なぜ設計裕度が必要なのか

1. 部品特性や環境変化によるバラつき吸収
材料ロットや加工プロセス、組み込み時の作業条件などによって部品そのものの規格性能にバラつきが生じます。
また、使用環境(温度・湿度・電圧変動)も時に想定を超える事態が発生します。
設計裕度がなければ、これらの要因ですぐに不良や故障が発生し、追加コストや納期遅延リスクとなります。

2. 長期使用を前提とした信頼性設計
特に産業用機器や自動車、医療機器のような長期間安定稼働が求められる分野では、経年劣化による安全マージンの低下まで見越す視点が不可欠です。
設計裕度は、こうした長寿命化にも直結します。

3. アナログ業界に根付く経験則の裏付け
「念のため大きめを選ぶ」「確実性第一」という昭和のアナログ現場の考えは、グローバル化・高速化が進む現場でも色褪せません。
計算尽くしのデジタル設計だけでなく、現場のノウハウや経験に裏打ちされた設定が品質事故を未然に防いできました。

現場が直面する設計裕度の課題とその解決策

コスト競争とのトレードオフ

部品に大きな裕度を設けるということは、コストが増加する可能性を意味します。
安価なラインナップでは、安全マージンより低コストを優先するよう現場がプレッシャーを受けることも少なくありません。

解決策:
「部品ごとの重要度ランク付け」を徹底します。
機能上最も重要なパートにはしっかりと裕度を設定し、無理に全ての部位で裕度最大化を「させられる」ことなく細かく要件分けを行うことが肝心です。
また、TCO(Total Cost of Ownership:導入から廃棄までの全体最適コスト)の考え方を持ち込むことで、導入時コストは高くとも長期的にコスト削減になる設計をバイヤーや経営層へ説得できます。

サプライヤーとの信頼関係構築

部品サプライヤーがどこまで実データを開示してくれるか、安定調達できるかも設計裕度には不可欠な要素です。
「カタログスペックだけでは本質が分からない」ことがしばしばあるからです。

解決策:
現場の設計者およびバイヤーは、サプライヤーと「開発前段階の協議」や「実装環境での協業テスト」に積極的に関与する必要があります。
「動かしてみたがNGだった」「バッチ初期だけ良かった」のような悲劇を未然に防ぐためにも、双方の“暗黙知”を言語化し、設計条件や期待ライフを共有することが現代ものづくりの基本となっています。

量産体制・生産変動への対応

試作段階では十分だった裕度が、量産に入ったら生産条件の微妙な違いで突然不足する、ということも多いのが現場実情です。

解決策:
FMEA(故障モードとその影響解析)を通じて、可能な限り設計段階でリスクアセスメントを実施します。
また、現場生産担当や品質管理部門とのクロスファンクショナルなコミュニケーションが極めて重要です。
バリデーションテスト、量産試作のフィードバックをもとに、設計裕度の再評価→微調整を繰り返すPDCAサイクルの徹底が信頼性アップの鍵です。

設計裕度の賢い使い方と最新動向

「大は小を兼ねる」はもはや通用しない

従来は「設計裕度は多ければ良い」という考え方が主流でした。
しかし、エレクトロニクスの高密度実装化、小型軽量化要請、サプライチェーンの多様化という背景において、過大な裕度は「設計の甘さ」につながるリスクも孕んでいます。
すなわち、「適正値は設計者の手腕次第」という難しい時代です。

シミュレーションと実測のハイブリッド活用

近年ではCAE(コンピュータ支援設計)やSPICEなどによる部品・回路レベルのシミュレーション精度が格段に向上しました。
机上での裕度判断に加え、現場にて実装ボードテストや環境ストレス試験を織り交ぜることで、「狙いどおり」のマージン設定が可能です。
設計担当、試作現場、品質・信頼性担当が早期から協力し、サプライヤーにも協力を依頼するという三位一体の開発推進がこれからの常識です。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる新しいマインド

バイヤーの視点:「設計裕度」を購買交渉の武器にする

バイヤー(調達担当)は、ただ安い部品を仕入れるだけでなく、設計者・製造部門とコミュニケーションし、「どこに優先して裕度を持たせるべきか」「どの性能にリスクがあるか」を正しく把握したうえでサプライヤーと条件交渉を行うべきです。
価格・納期・品質だけではなく、設計裕度も含めた“価値”の最適化に取り組めるバイヤーの存在が、これからの現場で不可欠になります。

サプライヤーの視点:バイヤーの「リスク回避本音」を汲み取る

サプライヤー側には、自社部品の真の性能・信頼性データを積極的に開示し、顧客の期待水準や運用シーン(どんな裕度で使用されるか)への理解を深める姿勢が必要です。
「これくらいで大丈夫だろう」と仕様表面だけで片付けず、量産環境やフィールド応力など現実的な課題への提案力が求められています。

まとめ:設計裕度活用はこれからの「現場力」そのもの

電子部品の設計裕度は「古臭い」だけの考えではありません。
現場のリアルな体験、グローバル化する調達環境、加速するコスト競争を乗り越える、実践的かつ戦略的なアプローチです。
ポイントは「何となく」や「大体このくらい」ではなく、シミュレーション・実測・現場の知恵・サプライヤーとの連携を融合し、最適化の視点で向き合うことです。
工場が変われば設計裕度の意味合いも変化します。
「自社だからこそできるマージン設定とは?」「どこに競争優位を持たせるか?」を現場ごとに問い続けるラテラルシンキングこそ、製造業の新たな進化の原動力となります。

これから製造業でバイヤーを目指す方も、サプライヤーとして新提案を模索する方も、ぜひ“設計裕度”というアナログとデジタルが融合する知恵を現場で活かしてください。

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