投稿日:2025年6月6日

効果的効率的なFTAとDRによる未然防止の有効活用法

はじめに:FTAとDRが果たす現場革新の役割

製造業における未然防止活動は、コスト削減・品質向上・顧客満足度の向上に直結する、「攻め」と「守り」の両面で重要性が高い取り組みです。
その中でも、FTA(故障の木解析)とDR(デザインレビュー)は、現代の製造現場に欠かせない実践的手法です。
特に、アナログからデジタルへと移行しきれていない工場や、昭和時代からの慣習を色濃く残す現場にこそ、この二つの手法が既存業務の「見える化」そして「未然防止文化の定着」に大きな力を発揮します。

ここからは、バイヤー/サプライヤー双方の実態、そして工場現場の管理職経験を踏まえ、「FTAとDRによる未然防止」の真の効果的効率的な活用法を読み解きます。

FTA(Fault Tree Analysis)とDR(Design Review)とは何か

FTA:問題の根本を明確にする分析手法

FTAとは、故障やトラブルなど最悪の事象(トップ事象)が発生する原因を、論理的に階層的に掘り下げていく「ツリー構造」の解析手法です。
図式化することで、どこに潜在的なリスク要因が隠れているか仮説設定しやすくなり、未然にリスク要因を摘み取るアクションを取りやすくなります。

DR:組織的に知見を持ち寄る意思決定プロセス

DRは、設計段階や工程設計段階、試作、量産立ち上げなどタイミングごとに“複数人で”仕様・特性・リスクを評価、適正化する仕組みです。
暗黙知に頼った個人判断から脱却し、設計・生産・調達・品質・サービス部門が集合知を使って「失敗の芽=リスク」を早期に発見し、共有・合意できるのが特徴です。

アナログ作業現場こそFTA/DRが有効な理由

紙ベースの図面や台帳、経験則に頼る現場においては、情報が分散し属人化しやすい、失敗が表面化しにくい傾向があります。
この状況下でFTA/DRを導入すると、リスク要因の可視化と客観化、組織的予防活動への転換が実現しやすくなります。

過去の失敗事例から学ぶ:FTA・DRの未然防止インパクト

失敗① やりっぱなしDRによる現場混乱

ある組立メーカーでは、形だけのDRを形式的に実施していました。
「設計から指示が来た」「サプライヤーに図面は伝えた」の確認だけで、リスク感度や現場目線を反映せずに進行。
結果として、実際の現場で加工不適合が多発、顧客納期遅れ・コストアップが発生。
本来であればDR時点で「加工部門やサプライヤー現場のプロ」が参加し、具体的な懸念を指摘できていれば防げたミスでした。

失敗② 部品レイアウト変更による重大トラブル

電子部品の配置変更を図面上だけで完結し、FTA実施を省略したため、納入後に配線干渉やショート事故が発生。
「この設計変更、どんなリスクが生じるか?」をFTAで可視化していれば、未然に設計修正や現場教育が可能で、数千万の損失を防げた事例です。

成功事例:FTA/DRを徹底した新製品開発

一方で、ある大手自動車部品メーカーでは、FTA/DRを数回に分けて多部門横断で徹底。
現場メンバーも自分事として積極参加し、「小さな違和感」や「サプライヤー視点の潜在リスク」を拾い上げる事ができました。
納入トラブルゼロ、国内外ユーザーからも高評価を獲得し、長期信頼性・リピートオーダー獲得に直結しています。

FTAとDRを効果的効率的に現場で活用するためのポイント

1. FTAの活用ポイント:トップ事象の再定義と現場巻き込み

多くのFTAは、「論理図を書くだけ」「システム部門だけで実施」となりがちです。
しかし、真に未然防止を図るには、現場のリアルな“失敗”や“クレーム”をトップ事象と設定し直すのが有効です。

例えば、「検査工程での流出不良」や「お客様先での不具合対応コスト増加」といった現場の痛みをスタート地点に置く。
さらに、ラインリーダー・設備保全・品質管理・部品サプライヤーなど現場関係者を巻き込み、実感のこもった原因抽出を行います。
これにより、従来は見落としていた“現場特有の癖”まで深堀できます。

2. DRの実効性向上:「問いかけ型」進行とサプライヤー巻き込み

DRでは「設計図の清書チェック」的な作業に終始せず、
「なぜこの材質?」「この工程で不良が出る可能性は?」など“問いかけ型ファシリテーション”が有効です。

また、量産品ではサプライヤーの視点が抜けて形骸化しがちです。
サプライヤーバイヤー会議等を活用し、現場担当者をDRメンバーや準メンバーとして都度招くだけで、「調達側はここまで見ている/気にしている」という温度感がサプライヤーにも伝わり、未然防止の質が高まります。

3. 現場の「見える化」ツールとしての活用

FTA/DRシートをホワイトボードやデジタルツールとして見える化し、現場共有スペースに掲示する。
現場メンバーの改善意識が高まり、「自分たちの業務が確実に品質・効率に効いている」と実感が得やすくなります。

FTA×DRがもたらす現場組織の進化

業務の属人化脱却と“自走型”現場づくり

FTAとDRを形骸化させず運用することで、「誰かが気づく」「誰かがやっておく」といった属人化が減少し、情報と判断のオープン化が進みます。
そして、「なぜ今やるのか」「何のための活動か」を現場参加者全員が腹落ちし、“自走型組織”に変化します。

なぜ昭和型現場にFTA/DRが刺さるのか

ベテラン作業者の経験則・勘による微調整や個別対応は、長年の課題ではあるものの、事故やトラブル発生後に“個人責任”だけに帰結しがちです。
FTA/DRを通じ「考え方の言語化」や「課題の可視化」を仕組み化すると、そのノウハウが次世代や新人に着実に伝承され、組織の持続的発展につながります。

まとめ:FTAとDRは製造業進化の“攻めと守りの武器”

FTA・DRによる未然防止活動は、「やらされ感」ではなく、現場全員でリスクを掘り出し、共有し、改善し、企業価値・現場価値を押し上げていく強力な武器です。
サプライヤーにとっては、バイヤー側の管理・評価ポイントを知ることで強みを磨きやすくなり、バイヤー側も「現場・現物・現実」を知った設計図面や生産計画を策定しやすくなります。

いまこそ、FTAとDRを昭和流から一歩進んだ「本質的な未然防止文化」として、各現場で根付かせていくべきタイミングです。
現場での小さな成功体験を積み重ね、業界全体の生産性革命・品質向上を実現していきましょう。

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