投稿日:2025年7月12日

未然防止活動の効率的活用FMEA基本作成方法手順デザインレビュー有効活用事例

はじめに:製造業現場から見るFMEAと未然防止活動の重要性

製造業が抱える最大の課題の一つは、不良やトラブルの「未然防止」にあります。
早期にリスクを洗い出し、現場の作業や設計段階で手を打つことが、品質・納期・コストのすべてにおいて大きな差を生み出します。

昭和の時代から続くアナログ志向が色濃く残る業界ですが、近年はグローバル競争の激化やデジタル化の波を受け、未然防止活動の手法そのものがよりシステマティックかつ実践的なものへ進化しています。

本記事では、「未然防止活動の効率的活用FMEA基本作成方法手順デザインレビュー有効活用事例」というタイトルのもと、現役の工場長として身をもって体験した事例や、調達・生産管理視点での活かしどころ、さらに業界動向も絡めながら、現場目線で読み解きます。

バイヤー志望の方、現場技術者、あるいはサプライヤーの方へのヒントにもお役立てください。

FMEAとは何か?いま再注目される理由

FMEA(Failure Mode and Effect Analysis: 故障モード影響解析)は、設計や工程におけるリスク要因を早期に洗い出し、未然防止を図る品質管理手法の一つです。
1960年代に航空宇宙業界で生まれた手法ですが、日本の製造業でも多くの企業で取り入れられています。

「設計段階でのリスクの摘出」
「工程ごとの“ワナ”となる潜在不具合の発見」
「未然防止活動の標準化・見える化」

これらの点でFMEAは、DX化やグローバル化が急速な昨今、再び注目されています。
特に、ISO認証やサプライチェーン全体のトレーサビリティ要請が強まる中、多くのバイヤー・サプライヤーが導入を進めています。

FMEAが浸透しづらい“昭和的アナログ現場”の壁

しかしながら、製造業の現場ではFMEA導入が形骸化しがちです。
「過去帳のようになっている」
「設計者だけの自己満足で現場には落ちていない」
「ワークショップが会議体化し、本質議論にならない」

こうした問題点は、実は昭和から続く“現場一体感”や“匠のカン”に頼る体質が足かせになっています。
単なるチェックリスト作成ではなく、現場で使い倒してこそのFMEAです。

FMEA基本作成方法:実践的でムダのない手順

FMEAを最大限効率的に使いこなすには下記の手順が有効です。

1. 初期設定とスコープの明確化

まず、“どこのリスクを抽出するのか”というスコープ設定が重要です。

・設計FMEA(DFMEA)なのか、製造工程FMEA(PFMEA)なのか
・評価の単位やプロセスの分割粒度は適切か

スコープの曖昧さは、後の形骸化に直結します。
現場と設計の双方で共有できる分かりやすい単位を設定しましょう。

2. 現場経験者を巻き込むチームづくり

FMEAシートの作成は、決して設計部門や品質部門だけの仕事ではありません。
現場作業者、保全担当、調達バイヤーなど、多部門横断のチームづくりが必須です。

「現場経験者からの生々しい失敗談」「調達バイヤーのサプライチェーン視点」など、紙面では拾いきれないリスクが多数隠れています。

3. 故障モードとその影響の具体的な洗い出し

各工程・設計要素について、
・どのような異常や欠陥が発生するか(故障モード)
・その影響はどこまで広がるか(影響度)

を具体的な現場用語で記載します。
「“なんちゃって”FMEA」になる最大要因は、“一般論”で済ませることです。
現場で「あるある」と共感できるレベルまで掘り下げましょう。

4. 発生頻度・検出可能性・影響度の3指標の数値化

FMEAでは各リスク項目ごとに下記3つを点数評価します。

・発生頻度(Occurrence)
・検出可能性(Detection)
・影響度(Severity)

この数値化は、「定量化」を重視する調達・バイヤー部門とのコミュニケーションにも役立ちます。
単なる“なんとなくの感覚”ではなく、他社ベンチマークや過去不良率データなども活用すると説得力が増します。

5. 対策案の立案と“真の未然防止”の探究

高スコアのリスクに対し、「なぜ起こるのか」を深掘り、再発防止だけでなく“未然対策”を打つことが重要です。
本質対策は「止めてしまう」「異常流入防止機能を組み込む」「設計自体を変える」など、工程や仕様の見直しまで踏み込む必要があります。

また、対策の実施状況も定期的に見直し、“やりっぱなし”にならない運用が求められます。

デザインレビュー(DR)でのFMEA有効活用法

FMEAは「作って終わり」では全く意味がありません。
現場で本当に“未然防止”できているかをチェックする場として、デザインレビュー(DR)との連携がカギとなります。

FMEAをDRの議題の“入り口”にするコツ

多くの現場で、「DRは通過儀礼、FMEAは添付資料」という構図になりがちです。
本当にDRを有効に活用するには、FMEAのハイリスク項目こそが議論の軸であることを意識しましょう。

・FMEAでトップランクのリスクにDR参加者の知恵を集中させる
・見落としがちな部分は“なぜ抜けたか”を問い直す
・バイヤーやサプライヤーの視点で「調達先でも防げるか」を討議する

このような“本質議論”を通すことが、未然防止力の底上げに直結します。

“見える化”と“トラブル事例横展開”の推進

DR後はFMEAシートを現場へ“見える化”表示し、現場で自由に意見を書き込めるようにする方法も有効です。
また、DRで出たトラブル事例を「横展開」して、他の製品・工程にもリスク情報を供給しましょう。

これにより、単なる座学や会議体のFMEAから、“生きた未然防止活動”を実現できます。

未然防止活動の現場活用・成功事例

実際の製造現場でFMEAを活用して成果を挙げた事例を、いくつかご紹介します。

事例1:自動車部品メーカーでの工程FMEAによる不良流出激減

筆者が工場長を務めた自動車部品製造工場では、工程内でのFMEAを全面刷新しました。

従来は“形式的な書面作業”でしたが、一次現場のオペレーターや保全マンを交えたワークショップ形式に変更。
FMEAで指摘された「洗浄工程の水温ムラ問題」を現場で“なぜなぜ分析”したところ、設備の老朽化によるヒーター管理不良が主因と判明しました。

即座に補修・自動管理システムを設計変更したことで、類似不良の再発ゼロ・コストダウンという成果につながりました。

事例2:部品調達時におけるバイヤー視点による工程FMEAの活用

バイヤー部門がサプライヤー評価時に「工程FMEAの開示」を求めるケースが増えています。
ある電子部品メーカーでは、自社バイヤー主導の「現場FMEAレビュー会議」を月1回開催。
サプライヤーも交えたディスカッションで、「抜け・漏れ」の指摘と改善案提示がダイレクトに現場のFMEAシートへ反映される流れを構築しました。

調達先サプライヤーとしても、自社のリスク把握能力向上や顧客信頼獲得に直結する仕組みとなっています。

事例3:サプライヤーから現場への横展開を徹底、「標準化」の推進

精密機械業界では、一つのサプライヤーで発生した微細不良が、他サプライヤーやラインで再発するケースが絶えませんでした。
そこでFMEAの「横展開シート」を作成し、同一グループ企業内で情報共有。
どんなわずかなヒヤリハットやクレーム事例も、「FMEAのリスク項目」として他ラインに先んじて反映させることで、グループ全体の品質底上げに成功しました。

FMEA未然防止活動の“これから” ~アナログ業界の壁を突破するために~

FMEAや未然防止活動が真に現場で根付くためには、経営層やバイヤー、サプライヤー、現場作業者まですべてを巻き込む「仕組み作り」と「意識改革」が不可欠です。

・「設計と現場の壁」を越えるワークショップの文化化
・「チェックリスト思考」から「本質思考」への転換
・ITツールとアナログ現場ノウハウの“いいとこどり”を追求

昭和流の“カンと経験”を排除するのではなく、デジタルやFMEA手法と“融合”させる時代です。
未然防止活動の精度向上が、企業の競争力を左右する時代であることも忘れてはなりません。

まとめ:FMEAで未然防止活動を“現場力”に変える

本記事では、FMEAの基本から現実の応用事例、さらにはデザインレビューにおける有効活用方法やこれからの業界動向まで、現場目線で詳しく解説しました。

FMEAは単なる「ドキュメント」ではなく、現場の知恵やチームワーク、そしてサプライチェーン全体の品質リテラシー向上を実現する“生きた道具”です。

・未然防止活動×FMEAで“攻めの品質”を実現
・現場ベースの活用で形骸化を防止し、横展開で組織力を強化
・デザインレビューやバイヤー業務にも直結した手法へ進化

製造現場で働くあなた、バイヤーを目指すあなた、そしてサプライヤーとして顧客満足を追求するあなたへ。
ぜひ、今日からFMEAを“使い倒し”、業界全体のレベルアップにつなげてみませんか。

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