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安全信頼性を高める組込みソフト開発プロセスとリスク分析法

目次
はじめに:製造業の根幹を支える組込みソフト
現代の製造業では、組込みソフトウェアが生産設備や製品そのものの頭脳として機能しています。
ロボットアーム、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)、さらにはIoTデバイスなど、あらゆる装置や機器の内部にはソフトウェア制御が不可欠となりました。
しかし、組込みソフトのバグや信頼性低下は、工場停止や品質事故、製品回収といった重大なトラブルへ直結します。
本記事では、製造現場目線で「いかに組込みソフト開発の安全性・信頼性を高めるか」「開発プロセスとリスク分析法をどう実践すべきか」に焦点を当て、実態に合わせたアプローチを詳しく解説します。
サプライヤー、バイヤー、現場エンジニア、それぞれの立場からもメリットが理解できる内容としています。
製造業における組込みソフトの進化と課題
アナログ製造業からの脱却と組込みソフトの重要性
「ものづくり大国」の名のもとに成長してきた日本の製造業は、数十年前まで主に機械的・アナログ的発想で現場を運営してきました。
しかし、今や製品差別化や競争力の源泉は、ハードウェアそのものだけでなく、その“頭脳”である組込みソフトの出来に大きく左右されます。
例えば、自動車の走行安定性や制動力、工場ロボットの協調制御といった高度な機能は、組込みソフトの制御ロジック・安全設計がなければ実現しません。
また、IoT化やAI自動化の流れで、ソフトのコード量はこの20年で爆発的に増えています。
一方で、昭和時代から続く「現場力重視」「人の勘と経験」といった文化が根強いため、システム化の遅れによるリスクも顕在化しています。
組込みソフト開発現場の主な課題
組込みソフト開発でよくある現場の課題には、以下のようなものがあります。
– 要件変更が頻繁で仕様が曖昧になりやすい
– ハード・ソフトの分業が不十分で調整ミスが生じる
– セキュリティや安全規格(ISO26262、IEC61508など)の知見不足
– ドキュメントの整備不足、属人化、引き継ぎ困難
– バグ発見が遅れ、試作段階でコストと工期を浪費
こうした課題を放置すると、品質事故や市場トラブルが発生し、バイヤーからの信頼低下や納入停止にも繋がります。
そのため、現代の製造現場では“プロセス”と“リスク分析”による安全信頼性の徹底が不可欠です。
安全信頼性を担保する組込みソフト開発プロセス
プロセス設計のスタート:要求段階の徹底
組込みソフト開発で最も重要なのは、「要求段階」をいかに明確・具体的に固めるかです。
製品やシステムの利用シーン、想定される異常状態、さらにはバイヤーや最終ユーザーの視点を盛り込み、ウォークスルー(机上レビュー)で議論を深めます。
特に“見落としがちな部分”――たとえば電源の喪失時処理、センサ異常、外部通信ダウン、人的ミス――まで具体的にシナリオ化することで、現場の「こうなったらどうする?」が事前に洗い出せます。
この段階を怠ると、“思い込みエラー”による重大事故を招きやすくなります。
設計・実装段階でのレビュー強化
設計フェーズでは、ソフトとハードのインターフェース、制御ロジック、セーフティ回路などの整合性チェックが要です。
設計ドキュメントの作成とウォークスルー、静的解析ツールの活用、コーディング規約(MISRA-CやCERT Cなど)の遵守によって、人的ミスや抜け漏れを極力減らします。
また、昭和型の“手書きフローチャート”や“紙芝居レビュー”も、小規模な現場では今なお有効です。
担当者だけに依存せず、管理職やQA(品質保証)担当も交えたクロスチェック体制を組むことが、属人化リスクの回避につながります。
テスト段階のリスクベースアプローチ
組込みソフトではテスト範囲や網羅率が課題になりがちです。
“全部テストしきれない”を前提に、「どの機能やケースが最重要か」「失敗したときの影響度は?」の視点でテスト優先順位を決めます。
FMEA(故障モード影響解析)、FTA(フォールトツリー解析)、ISO26262などの安全規格に準拠したリスク評価を適用します。
工場のシミュレータや自動テストベンチを活用して、量産後やフィールド対応のトラブル予防まで含めてテスト項目を磨き上げる姿勢が大切です。
リスク分析法の実践:FMEAとソフトウェア
FMEA(故障モード影響解析)とは
FMEAは、設計や工程に潜む故障モードを洗い出し、その影響・重大さ・発生確率・検出難易度を数値で評価する手法です。
組込みソフトの場合、「どの入力や状態で異常が発生しやすいか」「ソフトでカバーできないリスクは何か」を可視化します。
開発初期にFMEAを実施することで、“ミクロなバグ”だけでなく、“マクロな構造リスク”も把握できます。
現場視点でFMEAを活用するコツ
組込みソフトFMEAで押さえておきたいのは、「現場の実情や過去事例」を必ず巻き込むことです。
たとえば、バイヤーが指定する安全要件、設備保全やオペレータからのヒヤリハット報告、納入先での実際の障害履歴などを抽出します。
また、机上の議論だけで完結せず、ソフト実装担当・ハード設計・現場エンジニア・品質保証の多職種コラボを行うことで、予想外のリスクも見逃さずに済みます。
FMEAで発見した重大リスクには、対策案(例:ダブルチェックロジックの追加、異常検知のフィードバック、フェールセーフ設計)が即時アクションにつながる体制を作りましょう。
業界動向:デジタル化・規格対応・属人化脱却の流れ
サプライヤー・バイヤー企業間で求められる信頼性
近年、自動車・産機・医療分野を中心に、組込みソフトの第三者認証や安全規格の遵守が取引の条件となるケースが増えています。
バイヤー企業は「開発プロセスやリスク管理体制が標準化されたサプライヤー」への発注を重視し、曖昧な自社基準では競争力が低下します。
一方サプライヤー側も、リスク分析や安全設計のノウハウを蓄積・開示することで、価格競争から脱し、付加価値提供企業へと進化できます。
デジタルツール導入と昭和型現場力のハイブリッド
AIモデルベース開発、バージョン管理システム(Gitなど)、自動テストフレームワークの導入は、今や先進企業の常識となっています。
しかし、現場現物主義、属人化の壁、スキル格差といった“昭和型製造業”特有の課題も依然として残存します。
新旧ハイブリッドで「ベテランの現場知見」と「システム化・見える化」の両立を図る戦略こそ、日本の強みを活かす最短ルートです。
おわりに:安全信頼性強化は“全体最適”のプロ意識で
組込みソフトの安全信頼性は、「開発者個人の力」「現場オペレータの注意力」だけでは担保しきれません。
全社・全工程を巻き込んだプロセス管理、リスク分析、多職種コラボ、それらを支えるデジタルツール化――どれか一つ欠けても品質事故のリスクはゼロになりません。
今こそ、「昭和の現場力」と「デジタル規格対応」をバランスよく進めることで、日本のものづくり現場をさらに進化させていきましょう。
バイヤー・サプライヤー・現場エンジニアそれぞれが、このプロセスとリスク分析法を武器に、次の世代へと新しい地平線を切り拓いていけることを願っています。
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