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EMC/EMI対策の初期設計:レイアウト・シールド・フィルタの要点

目次
はじめに:なぜEMC/EMI対策は「初期設計」が決め手なのか
製造業の現場で、電子機器のトラブルの半分は、EMC(電磁両立性)やEMI(電磁妨害)によるものといっても過言ではありません。
新製品の開発現場では、いざ量産直前になって「EMI試験不合格」という最悪の事態が起こることも稀ではありません。
このような現場混乱を防ぐカギは「最初からEMC/EMI対策を織り込んだ設計」に集約されます。
昭和時代から、設計と現場が分断されたまま十分な連携ができず、「場当たり的な後付け対策」に終始してしまった企業も少なくありません。
しかし、グローバル競争が激化し、品質・信頼性の担保がシビアに問われる現在、EMC/EMI対策は経営リスク低減の観点からも「初期設計段階での本質的アプローチ」が重要です。
本記事では、現場目線で陥りやすい盲点や、実践的ノウハウを他社のベンチマークも交えて解説していきます。
EMC/EMI対策とは?現場での本質的な意味合い
EMCとEMIの定義と違い
EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)は、自ら発するノイズで他の機器に悪影響を与えないこと、そして外部からのノイズにも耐性があること、両方の条件を満たすことを意味します。
一方、EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)は、電子機器から出る不要な電磁波が、他の機器に誤作動や不具合をもたらす現象です。
EMC=「妨害もしない・妨害も受けない」の両立
EMI=「発信源のノイズ」が課題
EMCの対応を怠ると、海外輸出製品では現地の規格試験で不合格→販売不能ということも現実に多発しています。
また車載・産業機器では安全性・信頼性も大きく損なわれます。
EMC/EMIトラブルの「あるある」
・最終段階でノイズ不良→基板再設計
・数万円の後付けフィルター追加発注
・顧客ラインの検査工程でNG、現場へのクレーム
・現地訪問して必死の調整作業
現場では「なぜ事前に対応できなかったのか」と設計、調達、品質が押し付け合いになりがちです。
こうした非効率の根本解決が「初期設計段階の包括的アプローチ」です。
レイアウト設計の要点:信号・電源・GNDの配置がカギ
レイアウト設計の失敗が全体の8割を決める
多くのEMI対策は、「変なところを後でシールド」「フィルタでゴマカシ」など後出し対応になりがちです。
しかし、基板レイアウト設計で以下のような工夫を盛り込むことで、ほとんどのトラブルは事前予防できます。
配線のルーティングと配慮点
・高速信号ラインはクロストーク防止のため最短距離・直通配線を心がける
・ノイズを発生しやすいスイッチングIC・電源ラインは「クリーンエリア」「ノイズエリア」を分離して配置
・GND(グラウンド)プレーンを大きく確保し、信号リターン経路を最短に保つ
これらの原則を守ることで、想定外のループ経路からのノイズ放射・感受性を最小化できます。
シグナルインテグリティ(伝送品質)を意識した分割
基板の分割設計では、「アナログエリア」と「デジタルエリア」の干渉を防ぐため、分割スリットやガードトレースによる絶縁対策も有効です。
また「GNDループ経路」を見直すだけで、ノイズ耐性が劇的に向上することもあります。
プロの裏技:「設計初期の3Dノイズマップ」
最近では、3Dシミュレーションソフトを使って、ノイズの発生・拡散経路を「見える化」した上で、設計段階から問題エリアの除去案を事前検討できるようになりました。
これにより、あらゆるレイアウト案を比較・最適化しやすくなっています。
シールド(遮蔽)設計の本質:材料・構造・コストのバランス
シールド部品採用の失敗パターン
・樹脂筐体でコストダウン優先→金属シールド効果ゼロ
・アルミテープを隙間貼り→逆にフローティングノイズ源化
・不適切なアース処理でシールド効果が打ち消される
こうした例は「カタログ上の数値」だけで判断した場合によく発生しています。
EMC/EMIシールド設計は、現場のインストール条件や製造プロセスも含めて考えることが不可欠です。
シールド方式のタイプと選定ポイント
・メタルシールドケースで筐体全体を覆う方式
・プリント基板上のスポットシールド(金属カバー/シールドペイント塗布)
・ケーブルグランド用のEMIガスケットや導電パッキン
それぞれの長所短所やコストインパクトを整理し、「部分的にピンポイントで強化する」という考え方も有効です。
設計初期段階から、シールド取付用のスタッドやボスをレイアウトに組み込んでおくと調達・組立現場での工数削減につながります。
現場視点:「現物試作品で本当に効くシールドか」
設計図やカタログスペックだけでは判断できない“現場ノウハウ”も重要です。
特に、アースポイントの絶縁不良・締め付け不足・ラッチングによるバネ性低下等が、量産現場やフィールドで想定外のトラブルを生むことが多いので、設計→調達→生産→現場フィードバックの仕組みを整えておくことも忘れてはいけません。
フィルタ実装の盲点:部品選定と配置のセオリー
定数設計の根本的な考え方
フィルタ回路は、「どこにノイズが入り、どこから出ていくか」を現場で可視化してから設計することが基本です。
よくある失敗例として、「なんとなく100pFのコンデンサを増やしてみたが効果が出ない」「適当にチョークを投入したが信号が減衰する」といったケースが散見されます。
本質的には以下を意識します。
・目的箇所のノイズ周波数帯域(MHz帯 or kHz帯)を明確化
・信号のインピーダンス特性に合わせたフィルタ部品選定
・フィルタの挿入ポイントをPCBのグランド近傍に配置
これにより、必要最小限のパーツで最大の効果を引き出すことができます。
プロの工夫:「多段フィルタ」と「LC組合せ」の実用例
自動車や産業用機器のパワーラインなど、規制が厳しい分野では「2段/3段のLCフィルタ」「コモンモード+ノーマルモード混成フィルタ」などの多段設計により、大幅なノイズ低減を現場で実現しています。
ですがここでも、部品コスト・レイアウトスペース・生産歩留まりとのバランスが肝要です。
調達・工程管理者目線:「工数削減と信頼性担保の両立」
多品種変量生産の時代、調達・組立工程で異種部品在庫不足や定数間違い等のリスクを減らすため、汎用品活用やモジュール化も増えています。
また最近では、「部品の標準化リスト」にフィルタ部品も取り込み、調達バイヤーと設計者で定期的なレビューを行う、というメーカーも増えてきました。
デジタル化・IoT時代におけるEMC/EMI動向と新たな課題
IoT/CPS時代の「予想外EMCトラブル」とは
・Wi-Fi/Bluetoothなど無線端末との干渉
・海外規格(CE/FCC等)に基づく新たなEMC試験手法
・工場丸ごとシステム(スマートファクトリー)化による複合ノイズの顕在化
これまでの「カンと経験」に加えて、測定データ・シミュレーション解析の重視や、設計フェーズからバイヤーや品質部門を巻き込んだ情報共有が強く求められています。
AI/自動化による新しいEMC検証プロセスとは
大手メーカーやIT企業では、AIによるノイズ測定データの自動診断や、CAEによるノイズシミュレーション、オンラインでのEMCドキュメント管理等「全体最適化」に動き出している現場もあります。
これにより、工数カットのみならず世界標準への準拠スピードが格段に高まっています。
まとめ:EMC/EMI対策における初期設計の本質的視点
EMC/EMI対策は〝あとから抜本解決〟するのが極めて難しい設計領域です。
ですので、実践的なポイントは次の通りです。
- レイアウト(信号・GND・パワー分離)で8割は決まる
- シールド・フィルタは「現場条件+コスト」を踏まえ最適化
- 設計段階での現場・調達・生産・品質部門の巻き込み
- デジタル化・IoT化時代を見据えたデータ主導アプローチ
昭和的な「カン、経験、後追い」から抜け出し、初期設計段階こそがEMC/EMI対策の勝負所です。
現場・現実・未来を見据えた、三位一体型EMC設計で製造業の新時代を切り拓いていきましょう。
エピローグ:現場と設計をつなぎ、未来を創る
現場で実際にモノをつくり、バイヤーやサプライヤーの視点を持つことが、EMC/EMI対策を成功させる最大の処方箋です。
自部門だけで完結せず、周囲と連携・情報共有して、ぜひ成功事例を積み上げていただきたいと思います。
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