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EV・SDV移行で部品調達は何が変わるか——数量の協議とソフトの取り決め

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点で、電動化の速さを決める規制はまだ動いている。EU は 2023 年の改正で 2035 年以降の新車の CO2 を 100% 減らす目標を定めたが、欧州委員会は 2025 年 12 月に、これを 90% に改め残りを EU 製の低炭素鋼や合成燃料などで埋める案を出した[1][2]。一方、車のソフトウェアの規制はすでに動いている。国内では国連の基準を取り入れたサイバーセキュリティとソフトウェア更新の基準が段階的に導入されており、国土交通省の検討会資料では、無線更新に対応しない車の継続生産車への適用を 2026 年 5 月 1 日からとしている[3]。部品の調達で変えることは二つある。数量の見通しが上下どちらにも振れる前提で契約と協議の仕組みを作ること(数量の減少は取適法上の協議の事情に当たる[6])と、ソフトウェアを含む部品の版・更新・脆弱性の情報を、発注の条件として取り決めることである。
目次
2026 年 10 月時点で決まっていること、決まっていないこと
電動化(EV)とソフトウェア定義車両(SDV。車の機能の多くをソフトウェアで決め、販売後も更新で変えていく車)への移行は、部品の調達先に二つの方向から効いてくる。ひとつは、どの部品がどれだけ要るかという数量。もうひとつは、部品に組み込むソフトウェアをどう管理するかという中身である。前者は規制の行方に左右され、後者はすでに規制が動いている。まず、確かめられた事実と、まだ提案の段階のものを分けて並べる。
| 項目 | 内容 | 状態(確認した資料の時点) |
|---|---|---|
| EU 乗用車・バンの CO2 基準(規則 2019/631 を 2023/851 で改正) | 2035 年以降の新車に 100% の削減目標 | 現行の法令[1] |
| 2025〜2027 年の目標の扱い(規則 2025/1214) | 毎年ではなく 3 年平均で達成すればよい | 2025 年 6 月 17 日に採択済み[1] |
| 自動車パッケージの改正案 | 2035 年以降は 90% 削減。残る 10% は EU 製の低炭素鋼、合成燃料・バイオ燃料で埋め合わせる。バンの 2030 年目標を 50% から 40% へ | 2025 年 12 月 16 日の欧州委員会提案。2026 年 1 月 30 日更新の同委員会ページでは提案の段階[1][2] |
| 国内のサイバーセキュリティ・ソフトウェア更新の基準(国連 R155・R156 相当) | 無線更新に対応する車は新型 2022 年 7 月 1 日・継続生産車 2024 年 7 月 1 日、対応しない車は新型 2024 年 1 月 1 日・継続生産車 2026 年 5 月 1 日から適用 | 国土交通省の検討会資料(2020 年 11 月)が示した適用時期。最後の継続生産車(無線更新に対応しない車)は 2026 年 5 月 1 日から[3] |
| 自動車の特定改造等の許可制度 | 使用過程の車のソフトウェアを更新して性能変更・機能追加をする場合の許可制度 | 2020 年 11 月 23 日施行[4] |
欧州委員会の改正案は、本記事の執筆時点(2026 年 10 月)で成立を確認できていない。ここで大事なのは、どちらに決まるかを当てることではない。同じ車種でも、エンジンを積む車の比率が数年単位で上下しうるという前提で、部品の調達を組むことである。
数量の見通しが揺れる部品——契約と協議で吸収する
増える部品と減る部品を分けて見る
電動化で使われなくなるのは、エンジン本体、燃料系、排気系、変速機の一部など、内燃機関に固有の部品である。増えるのは、駆動用電池、モーター、インバーターとパワー半導体、高電圧の配線、電池や電子部品を冷やす熱管理の部品などである。ただし、上の表のとおり規制の行方が定まっていないうえ、欧州委員会の改正案はプラグインハイブリッド車やレンジエクステンダー、マイルドハイブリッド車が 2035 年以降も役割を持てるようにすると説明している[1]。エンジン系の部品が一気にゼロになるとも、電動系の部品が計画どおりに伸びるとも言い切れない。
この状況で仕入先に起きやすいのは、設備投資の判断ができないことである。エンジン部品を作ってきた加工・鋳造の仕入先は、更新投資をすれば数年後に余るかもしれず、しなければ設備が古くなる。電動部品を新たに頼む仕入先は、数量の見通しが確かでないまま設備を入れることになる。発注側が数量の見通しを出さずに単価だけを求めると、仕入先はどちらの投資もためらう。
数量の減少は、取適法上の協議の事情に当たる
2026 年 1 月施行の取適法は、中小受託事業者の給付に関する費用の変動などが生じた場合に、中小受託事業者から代金の額について協議を求められたのに応じない、あるいは求められた説明や情報を出さずに一方的に代金を決めることを禁じている(第 5 条第 2 項第 4 号)[6]。取適法のテキストは、ここでいう事情として、労務費・原材料価格・エネルギーコストの上昇のほか、発注数量の減少等による取引条件の変更や需給状況の変化を挙げている[6]。
エンジン部品の数量が当初の見込みより減れば、仕入先の単位あたりの固定費は上がる。そのとき仕入先から単価の見直しを求められたら、協議に応じ、必要な説明や情報を出すことが義務になる。値上げの申し入れを受けたときの進め方は仕入先から値上げの申し入れが来たらで扱っている。取適法の改正点の全体は下請法は取適法になったを参照してほしい。
契約で決めておくとよいこと
次は法令の要求ではなく、上の事情を踏まえた実務の提案である。
1. 数量の見通しと、見直しの時期
年度ごとの見込み数量を示し、いつ・どの条件で見直すかを決めておく。見込みは確定の発注ではないことも書いておく。
2. 数量が大きく変わったときの単価の扱い
あらかじめ数量の帯ごとの単価を決めておくか、一定の幅を超えて変わったら協議すると決めておく。
3. 生産終了の予告と最終発注
車種の生産終了や補給部品の期間を見越して、何か月前に予告し、最終発注をどう決めるかを決める。
4. 型・設備の扱い
数量が減って発注が長く途切れる型は、保管の費用と廃棄・回収の判断を仕入先と協議する必要がある(取適法の型の保管の扱い)[6]。
数量が大きく減った仕入先は、事業そのものをやめる判断をすることもある。その兆候と準備は仕入先の廃業・後継者不在で扱う。
鋼材の調達条件にも波及しうる
欧州委員会の改正案では、2035 年以降の残り 10% の排出を埋め合わせる手段のひとつに「EU 製の低炭素鋼の使用」が挙げられている[2]。提案の段階ではあるが、成立すれば、EU 向けの車を作るメーカーにとって、鋼材の産地と製造時の CO2 が車の規制と結びつくことになる。鋼材や鋼材を使う部品を扱う仕入先には、鋼材の製造元や排出量の情報を求められる場面が増えうる。仕入先に CO2 の情報を頼むときの進め方は仕入先に CO2 排出量のデータを頼むときで扱う。
ソフトウェアを含む部品——規制は「車のメーカー」にかかり、情報は部品側にある
国内の基準が求めていること
国土交通省の資料によると、サイバーセキュリティとソフトウェア更新の国際基準は、自動車メーカーに対して、サイバーセキュリティとソフトウェア更新の適切さを担保するための業務管理システムを確保すること、車両のリスクアセスメントとリスクへの対処・管理を行い、対策の有効性を検証する試験を実施すること、危険・無効なソフトウェア更新を防ぎ、更新の適切な実施を確保することを求めている[3]。また、使用過程の車のソフトウェアを更新して性能変更や機能追加をする場合の許可制度では、更新の実施状況と更新に関する情報の記録・保管、更新した車のサイバーセキュリティに対する脅威と脆弱性の監視・検出・対応などが遵守事項になっている[4]。
義務を負うのは車のメーカー(許可制度では申請者)である。しかし、電子制御装置のソフトウェアを実際に書き、どの版がどの部品に入っているかを知っているのは、多くの場合、部品の仕入先である。メーカーが自社の義務を果たすには、仕入先から情報を受け取り続ける仕組みが要る。その分、部品を発注する側は、部品と一緒に何の情報を受け取るかを条件として決めておく必要がある。
国際規格は OEM と一次・二次の仕入先を対象にしている
自動車のサイバーセキュリティの工学的な取り組みを定めた国際規格 ISO/SAE 21434(2021 年 8 月発行)について、ISO は、車の電気・電子システムのライフサイクル全体(構想・開発から生産、運用、保守、廃棄まで)を対象にし、自動車メーカーだけでなく一次・二次の仕入先も使う規格だと説明している[5]。同時に、法的に義務づけられた規格ではないとも書いている[5]。規格の要求事項の中身は有償の本文で確かめる必要があるので、ここでは踏み込まない。発注側としては、取引先から「この規格に沿って開発している」と説明を受けたときに、何の工程が対象で、どの成果物を受け取れるのかを具体的に聞くことが大事になる。
ソフトの開発を頼むなら、取適法では「情報成果物作成委託」
部品に組み込む制御プログラムの開発を他社に頼む取引は、取適法の情報成果物作成委託に当たりうる。取適法のテキストは、情報成果物の例としてプログラムを挙げ、家電製品に内蔵する制御プログラムや、工作機械メーカーが製造を請け負う機械に内蔵するプログラムの開発を委託する例を示している[6]。物品の製造委託とは対象となる資本金・従業員の区分が異なる場合があるので、発注の前に区分を確かめる。仕様の追加や手戻りが多いソフトウェアの開発では、やり直しや無償の追加作業の要請が問題になりやすい。
発注書・契約で取り決めておく情報
ソフトウェアを含む部品について、受け取る情報を一覧にすると次のようになる。どれも法令が部品の発注者に直接課すものではなく、上の基準と許可制度で車のメーカーが求められていることを、部品の取引に引き直した提案である。
| 取り決める情報 | なぜ要るか | 決めておくこと |
|---|---|---|
| ソフトウェアの版の識別 | どの版が載った部品をいつ受け入れたか追えないと、更新も不具合の範囲の特定もできない | 版の表示の方法、納品書や検査成績書への記載 |
| 版を変えるときの通知 | ソフトの変更は外観で分からない変化点になる | 事前通知の期間、承認の要否、変更内容の説明 |
| 脆弱性の情報 | メーカーは販売後も脅威と脆弱性の監視・対応を求められる[4] | 知ったときの連絡の期限、対応版の提供期間 |
| 更新の記録 | 更新の実施状況と情報の記録・保管が遵守事項になっている[4] | 記録の範囲と保存の期間、提出の求めに応じる方法 |
| 開発の成果物と権利 | 仕入先が廃業・撤退したとき、ソフトを直せる者がいなくなる | ソースコード・開発環境の扱い、権利の帰属と対価 |
| 半導体の供給 | ソフトは載せるマイコンの供給終了で作り直しになる | 使っている半導体の型番、供給終了の予告を受けたときの連絡 |
最後の行の半導体は、電動化と SDV の両方で使用量が増える。汎用の半導体を長く確保する方法は汎用・レガシー半導体の供給と長期の確保で、正規の流通の外から買うときの危険は電子部品の模倣品を避ける調達で扱っている。EU に輸出する製品に組み込む部品・ソフトの扱いはEU サイバーレジリエンス法と組み込む部品・ソフトの調達を参照してほしい。
よくある質問
EU の規制が緩むなら、エンジン部品の仕入先はこれまでどおりでよいのか
改正案は成立を確認できておらず、成立しても 2035 年に 90% の削減を求める内容である[1]。エンジンを積む車が残るとしても、数量がどう推移するかは車種と市場で違う。「これまでどおり」ではなく、数量の見通しと見直しの時期を仕入先と共有し、型と設備の扱いを先に決めておく方が安全である。
部品メーカーにすぎない自社にも、サイバーセキュリティの体制を求められるのか
国内の基準と許可制度で義務を負うのは車のメーカーである[3][4]。ただ、メーカーがその義務を果たすための情報は部品側にあるので、取引の条件として情報の提供や体制の説明を求められることはありうる。求められたときは、何の情報を、いつまで、どの形で出すのかを具体的に取り決め、自社だけで負えない部分(二次の仕入先が持つ情報など)を切り分けておく。
電池の調達はどう考えるか
駆動用電池は、EU では電池規則による情報の提出や表示の要求が別にかかる。電池を使う製品の調達はEU 電池規則とバッテリーパスポートで扱う。欧州委員会は 2025 年 12 月の自動車パッケージで、EU 域内の電池の供給網づくりへの支援策も打ち出している[2]。
まとめ
EV と SDV への移行で部品の調達が変わる点は、数量と中身の二つに分けられる。数量は規制の行方に左右され、EU では 2035 年の目標を 100% から 90% に改める案が出ている段階である[1][2]。数量が減れば仕入先の単価の見直しが必要になり、取適法は数量の減少を代金の協議の事情として挙げている[6]。中身については、国内でもサイバーセキュリティとソフトウェア更新の基準がすでに適用されており[3]、販売後の更新の記録や脆弱性への対応が車のメーカーに求められている[4]。その情報は部品側にあるので、ソフトウェアの版・変更の通知・脆弱性・記録・権利を発注の条件として取り決める。国際規格 ISO/SAE 21434 は一次・二次の仕入先も使う規格とされている[5]。
出典・参考資料
- CO2 emission performance standards for cars and vans(European Commission, Climate Action/2026 年 1 月 30 日更新)
- Automotive package(European Commission, Mobility and Transport/2025 年 12 月 16 日公表のパッケージの紹介ページ)
- サイバーセキュリティ及びプログラム等改変システムに係る基準(UN-R155 及び UN-R156)(国土交通省 令和 2 年度 第 2 回車両安全対策検討会 資料 3-7/令和 2 年 11 月 20 日)
- 自動車の特定改造等の許可制度を本年 11 月より開始します(国土交通省 報道発表資料/令和 2 年 8 月 5 日)
- ISO/SAE 21434:2021 Road vehicles — Cybersecurity engineering(国際標準化機構/2021 年 8 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
規制の動きを、自社の取引条件に引き直すために
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