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仕入先にCO2排出量のデータを頼むとき——製品単位と会社単位、依頼書の書き方

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。仕入先に頼める CO2 排出量のデータは大きく二つある。品目ごとの排出量(製品ベース。CFP と同じ考え方で、範囲は原料の採取から仕入先の出荷まで)と、仕入先の会社全体の Scope1・2・3 を自社への納入分に配分する数字(組織ベース)である[1]。前者は精度が高いが入手しにくく、後者は入手しやすいが自社の品目に関係ない排出が混ざる[1]。依頼するときは、何に使う数字か、どちらの形で欲しいか、算定の前提として何を添えてほしいかを書面で示す。算定の費用が取引の対価に適正に含まれるよう協議し、目的に必要な範囲を超えて技術上・営業上の秘密を求めないことは、経済産業省・環境省のガイドラインが求めている[2]。
目次
何に使う数字かで、頼むものが変わる
「仕入先から CO2 のデータをもらってほしい」と社内で言われたとき、最初に確かめるのは使い道である。自社の Scope3(サプライチェーンの排出量)のうち、購入した製品・サービスに当たるカテゴリ 1 を算定するためなのか、顧客から特定の製品のカーボンフットプリント(CFP)を求められているのか、EU への輸出品で製品ごとの排出量を申告する必要があるのかで、頼むべき数字の形が違う。
環境省と経済産業省の基本ガイドライン(ver.2.8・2026 年 3 月)は、カテゴリ 1 の算定方法を二つ示している[3]。一つは、購入した製品・サービスの資源採取段階から製造段階までの排出量をサプライヤーごとに把握して積み上げる方法、もう一つは、購入した物量や金額に排出原単位データベースなどの 2 次データを掛ける方法である[3]。前者は精度が高くなるが仕入先にデータを把握してもらう必要があり、後者は新たに仕入先からデータを取らずに済む[3]。どちらも基本の式は「排出量=活動量×排出原単位」である[3]。
仕入先に頼むのは前者のための数字で、環境省の 1 次データ活用ガイド(2025 年 3 月)は、これを製品ベースと組織ベースの二つに分けて説明している[1]。
| 項目 | 製品ベースの排出量データ | 組織ベースの排出量データ |
|---|---|---|
| 中身 | 特定の製品について、原料の採取から仕入先の出荷まで(Cradle-to-Gate)の排出量。kg や個などの単位あたりで示される | 仕入先の組織全体の Scope1・2・3 を、売上金額などで自社への納入分に配分したもの |
| 自社での使い方 | 単位あたりの排出量×自社の調達量 | 仕入先の排出量×(自社向けの売上÷仕入先の売上)など |
| 準拠する算定ルールの例 | カーボンフットプリント ガイドライン、ISO 14067、製品別算定ルール(PCR)など | サプライチェーン排出量の基本ガイドライン、GHG プロトコルなど |
| 長所 | 対象製品に関わるデータである度合いが高い | 算定に取り組む企業が増えており、比較的簡単に使える |
| 短所 | 算定のハードルが高く、依頼しても入手できない場合が多い | 自社の品目に関係ない排出が入り込む |
表は 1 次データ活用ガイドの表 7 と本文から作った[1]。ガイドは、製品ベースが入手できるならその活用を検討し、できない場合は組織ベースを検討すると順序を示し、組織ベースの中でも会社全体より生産ライン・施設・事業単位の数字を配分するほうが、関係ない製品の排出が入り込む度合いが低いと説明している[1]。
製品ベースの範囲には注意が要る。通常の CFP は使用・廃棄まで含む Cradle-to-Grave で算定されている場合もあるため、カテゴリ 1 に使うなら Cradle-to-Gate になっていないデータは、その範囲で出し直してもらう必要があるとガイドは書いている[1]。
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頼む前に、公開情報と相手の状況を見る
環境省のエンゲージメント実践ガイド(令和 7 年度改訂版・2026 年 3 月)は、取引先の取組状況の把握の仕方として、①公開情報を活用する、②アンケートを行う、③ヒアリングを行う、の三つを挙げ、まず取引先のホームページなどで開示状況を確かめることを勧めている[4]。公開情報で足りれば取引先に負担をかけずに済み、後のアンケートやヒアリングも意味のあるものになる[4]。一方で、中堅・中小の取引先は開示制度に対応していないことも多く、アンケートやヒアリングが重要になる場合が多いとも書いている[4]。
同じガイドは、取引先の算定の知識が足りない場合は基本的な算定の説明から始め、基本的な排出量の算定から依頼していくなど、相手の状況に合わせて依頼事項を決める必要があるとしている[4]。また、取引先が別の顧客との間で業界のルールに沿った算定方法やデータのやり取りの様式をすでに持っている場合は、それを採用するなど、双方がやりやすい方法を検討することを勧めている[4]。顧客ごとに様式が違うことは、仕入先にとって最も負担になる。
依頼書に書くこと
依頼は口頭やメール本文の一言で済ませず、書面にする。書く項目は次の八つである。これは購買側の実務の提案で、ガイドラインがこの形を定めているわけではないが、各項目の根拠はガイドに沿っている。
1. 何に使うか。
自社の Scope3 の算定か、顧客から求められた製品の CFP か、輸出品の申告かを書く。目的が分からないと、仕入先は範囲を決められない。
2. 対象と期間。
品番(製品ベースの場合)または取引全体(組織ベースの場合)と、算定対象の年度を書く。ガイドは、受け取るデータは自社の算定と同じ期間が望ましいが、難しければ一つ前の年度のデータを使うことも考えられるとしている[1]。
3. 欲しい形。
製品ベースなら単位(kg・個など)あたりの排出量で、範囲は Cradle-to-Gate。組織ベースなら Scope1・2・3 の内訳と、配分に使う売上などの数字。
4. 添えてほしい前提。
1 次データ活用ガイドは、排出量と一緒に提供を受けることが望ましい補足情報として、保証・検証の有無、バウンダリ(算定に含めた工程や Scope の範囲)、除外した項目とその基準、依拠した算定ルール、算定期間、地理的範囲、使った排出原単位、上流の仕入先から直接入手したデータの割合、カーボン・クレジットによる相殺が含まれていないかを挙げている[1]。
5. 期限と、出せない場合の扱い。
期限までに出せなければ自社で 2 次データを使って算定する、と書いておけば、仕入先は無理に数字を作らずに済む。
6. 受け取ったデータの使い道と開示の範囲。
エンゲージメント実践ガイドは、取引先が提供した情報が価格交渉に使われることを懸念する場合があり、細かいデータほど開示のハードルが上がると指摘している[4]。必要なデータの範囲と自社での使い方を明確に説明し、必要に応じて秘密保持契約を結ぶことを勧めている[4]。
7. 費用の扱い。
算定にかかる費用を誰が負担し、取引の対価にどう含めるかを協議する(次の節)。
8. 協力は任意であること。
応じないことで取引上の不利益が出ないかを、相手は必ず気にする。後の節で触れる取適法の考え方からも、ここを明記しておく価値がある。
費用と秘密の扱い——ガイドラインが求めていること
経済産業省・環境省のカーボンフットプリント ガイドライン(2023 年 3 月)は、仕入先へのデータ提供依頼について、提供の趣旨を説明して共通の理解を得るように努めること、データ取得に伴うコスト負担が適正に取引対価に含まれるよう協議・合意すること、目的の達成に必要な範囲を超えて技術上または営業上の秘密の提供にならないようにすることを求めている[2]。取引対価の決定に当たっては十分に協議し、データ提供に必要な費用を受注側が受け入れ可能なものとすること、協議の経緯を書面で残すこと(たとえば見積書に算定コストを記載する)を推奨している[2]。
同じガイドラインは、データ提供業務のための負担額とその算出根拠、使途、提供の条件などが明確でない「経済上の利益」の提供は、下請法違反となる可能性があると書いている[2]。ガイドラインが発行されたのは 2023 年で、根拠として下請法第 4 条第 2 項第 3 号を挙げているが、2026 年 1 月に施行された取適法では、不当な経済上の利益の提供要請の禁止は第 5 条第 2 項第 2 号に置かれている[5]。取適法のテキストは、委託事業者が中小受託事業者に経済上の利益を提供させることと、相手の利益との関係を明確にしないまま(負担額、算出根拠、使途、提供の条件などが明確でないまま)提供させる場合は、相手の利益を不当に害するものとして問題になると説明している[5]。
エンゲージメント実践ガイドに載っている事例では、公正取引委員会の考え方として、下請(いまの中小受託)の取引先へのデータ提供の依頼は基本的に個別の判断が必要だが、①依頼に応じるかどうかが取引先の任意の判断に委ねられていること、②依頼する取組が取引先側の直接の利益につながることが担保されている必要がある、と紹介されている[4]。②の利益については、算定や削減がその取引先自身の企業価値を高める取組だと納得できていれば問題に当たらないと考えられる、とされている[4]。依頼書に「任意」と書くのは①のためで、②のためには、データが相手にとってどう役立つか(自社の顧客への説明に使える、削減の手がかりになるなど)を依頼の趣旨として伝える。「費用の扱い」を書くのは、②とは別に、前の二つの段落で見たガイドラインと取適法の求めによるものである。
| 依頼のしかた | 起きやすいこと | 直し方 |
|---|---|---|
| 目的を書かず「CO2 のデータをください」とだけ送る | 範囲がばらばらの数字が返る | 使い道と範囲(Cradle-to-Gate など)を書く |
| 原料の配合や工程の明細まで求める | 営業上の秘密に当たり、回答が止まる | 目的に必要な範囲に絞り、秘密保持を取り決める |
| 算定費用に触れず、期限だけ切る | 負担の押しつけと受け取られる | 費用の扱いを協議し、経緯を書面に残す |
| 応じない取引先への扱いを示唆する | 取適法上の問題になりうる | 任意であることを明記する |
受け取ったら、どこを確かめるか
1 次データ活用ガイドは、GHG プロトコルが推奨するデータ品質の指標として、技術的代表性、時間的代表性、地理的代表性、完全性、信頼性の五つを挙げている[1]。受け取ったデータは、これに沿って次の点を確かめる。
最初に見るのは範囲である。カテゴリ 1 は購入した製品の資源採取・製造・輸送に係る排出を対象とするため、直接の仕入先の排出だけでなく上流まで含まれているかを確かめる必要があり、ガイドはこれを算定に当たって必ず把握しなければならない項目としている[1]。次に、カーボン・クレジットによる相殺分が差し引かれていないかを見る。ガイドは、GHG プロトコルでは排出量からオフセットによる相殺分を差し引くことが認められていないと注記している[1]。
保証・検証について、ガイドは、GHG プロトコルのスコープ 3 基準は提供を受けるデータが保証・検証を受けていることを必須にしていないが、正確性・完全性の観点から仕入先に保証・検証を求めることもできる、としている[1]。そのうえで、前年度の同じ仕入先のデータと比べて大きな乖離がないか、変化しているならその理由は何かを自社で確かめることも有効だとしている[1]。
最初からすべての補足情報がそろうことは少ない。ガイドは、いくつかの項目が入手できないからといって 1 次データの活用を断念するのではなく、使いながら年を追って入手できる情報を増やしていく考え方が重要だと書いている[1]。受け取りを拒むより、欠けている項目を記録して翌年の依頼に反映するほうが現実的である。
答えられない仕入先への対応
算定の体制がない仕入先に、製品ベースの数字を求めても出てこない。その場合は、基本ガイドラインの算定方法②(物量や金額に 2 次データの排出原単位を掛ける)で自社が算定し[3]、仕入先には組織全体の Scope1・2 から始めてもらうのが現実的な順序になる。1 次データ活用ガイドも、製品ベースが当面入手できない場合は組織ベースの活用から取り組み、徐々に製品ベースへ移っていく考え方を示している[1]。
答えないことを理由に取引の評価を下げるかどうかは、慎重に扱う。データの提供状況を評価に入れるなら、その旨をあらかじめ評価基準として示しておく必要がある。評価項目の作り方は サプライヤー評価の項目と点数化、調達基準そのものに排出量の項目を入れるときの段取りは グリーン調達基準を改定するとき、仕入先に何を求めるか で扱う。
ほかの調査とまとめて頼むか
含有化学物質の調査や紛争鉱物の調査と同じ時期に、同じ仕入先へ排出量の依頼が重なることは多い。窓口を一本にして依頼の時期をそろえると仕入先の負担は減るが、中身は別物なので様式は分ける。含有化学物質の調査の頼み方は 含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき にまとめた。
算定を始めた仕入先から、その費用を価格に反映したいという申し入れが来ることもある。その場合の受け方は 仕入先から値上げの申し入れが来たら と同じで、費用の中身と根拠を確かめて協議する。
よくある質問
Q. 顧客から部品ごとの CO2 を求められたが、仕入先は会社全体の数字しか出せない。どうするか。
組織ベースの数字を売上などで配分して使い、その旨と配分の方法を顧客に説明する。1 次データ活用ガイドは、配分の方法として物量で配分する方法と市場価値(価格)で配分する方法があり、適切な方法がない場合は実務上、売上金額で配分する場合が多いとしている[1]。
Q. 仕入先が出してきた数字が、前年から大きく下がっている。そのまま使ってよいか。
前年との乖離とその理由を確かめる[1]。算定範囲の変更、使った排出原単位の変更、クレジットによる相殺の混入など、削減以外の理由で下がっていることがある。
Q. 自社の顧客がなぜここまで数字を求めるのか。
上場企業の開示基準が、スコープ 3 の測定に 1 次データを優先することを求めていることが背景の一つにある。詳しくは サステナビリティ開示基準(SSBJ)と、サプライチェーンのデータ で扱う。排出量取引制度の対象かどうかとは別の話であることは 排出量取引制度(GX-ETS)の本格化と、調達への影響 で書いた。
まとめ
仕入先に頼む CO2 のデータは、品目ごとの製品ベースと、会社全体を配分する組織ベースに分かれ、精度と入手しやすさが逆になる[1]。依頼書には使い道、対象と期間、欲しい形、添えてほしい前提、期限、使い道と開示の範囲、費用の扱い、任意であることを書く。費用が取引対価に適正に含まれるよう協議し、目的を超えて秘密を求めないことはガイドラインが求めており[2]、負担額や使途が不明確な提供要請は取適法上の問題にもなる[5]。受け取ったデータは範囲・期間・相殺の有無・前年との乖離を確かめ、欠けている項目は翌年の依頼で埋めていく[1]。
出典・参考資料
- 1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド(Ver1.0)(環境省/2025 年 3 月)
- カーボンフットプリント ガイドライン(経済産業省・環境省/2023 年 3 月)
- サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.8)(環境省・経済産業省/2026 年 3 月)
- バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド(令和 7 年度改訂版)(環境省/2026 年 3 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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