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SSBJ開示の義務化で取引先に求められるCO2データ——時期と備え

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。プライム市場の上場企業に、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準に沿った開示と第三者保証を義務づける法改正が 2026 年 7 月 15 日に成立し[3]、適用は時価総額 3 兆円以上の企業が 2027 年 3 月期から、1 兆円以上が 2028 年 3 月期、5,000 億円以上が 2029 年 3 月期からと整理されている[1]。SSBJ の気候基準は、サプライチェーンの排出量(スコープ 3)をカテゴリー別に開示させ、測定に使うデータは1 次データを 2 次データより、検証されたデータを検証されていないデータより優先するよう求めている[5]。対象企業に部品や材料を納める側は、「仕入先として数字を求められる」こと、対象企業の購買部門は「自社の仕入先から数字を集める」ことに、それぞれ備える必要がある。
目次
誰が、いつから開示するのか
金融庁は、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律が 2026 年 4 月 10 日に国会に提出され、7 月 15 日に成立したと公表している[3]。改正の柱の一つが「サステナビリティ情報の開示・保証」に関する制度の整備である[3]。開示に使う基準について金融庁は、企業内容等の開示に関する内閣府令第 19 条の 9 第 5 項に基づく告示で、財務会計基準機構が設置したサステナビリティ基準委員会が作成・公表した基準を指定しており、2026 年 9 月 15 日の改正で、温対法の SHK 制度の方法で測定した排出量を使う場合の実務対応基準第 1 号を加えた[4]。
適用の順番は、金融審議会のワーキング・グループが 2026 年 1 月に公表した報告で整理されている。グローバルな投資家との対話を志向するプライム市場上場企業を対象に、時価総額の大きな企業から順に SSBJ 基準に沿って有価証券報告書を作成させ、開示の義務化の翌年から保証を義務づける[1]。時価総額は前期末から遡って過去 5 事業年度の末日の平均で算定する[1]。5,000 億円未満の企業への適用は、開示状況や投資家のニーズを踏まえて今後検討するとされている[1]。
| 時価総額の区分 | SSBJ 基準の適用開始 | 2025 年 7 月時点のロードマップに示された社数 |
|---|---|---|
| 3 兆円以上 | 2027 年 3 月期 | 68 社 |
| 3 兆円未満 1 兆円以上 | 2028 年 3 月期 | 1 兆円以上で 171 社 |
| 1 兆円未満 5,000 億円以上 | 2029 年 3 月期 | 5,000 億円以上で 284 社 |
| 5,000 億円未満 | 今後検討 | — |
適用開始の時期は 2026 年 1 月の報告[1]、社数は 2025 年 7 月 17 日時点のロードマップ(Bloomberg と JPX の 2025 年 3 月末時点の情報から作成)[2]による。社数は時価総額が変われば動くので目安として読む。2027 年 3 月期から適用される 3 月決算の企業にとっては、2026 年 4 月から始まった今の事業年度がすでに最初の開示の対象期間である。
保証は翌年から、範囲は当初限定
報告は、経過措置としての二段階開示を適用開始から 2 年間認め、保証の範囲は当初 2 年間は限定するとしている[1]。2025 年 7 月時点のロードマップでは、保証水準は限定的保証、保証範囲は当初 2 年間はスコープ 1・2、ガバナンス及びリスク管理とされていた[2]。つまり、仕入先から集めたデータが入るスコープ 3 は、当初の保証範囲の外に置かれる設計である。ただし、それはスコープ 3 の数字の精度を問われないという意味ではない。次の節で見るとおり、基準そのものがデータの選び方を定めている。
気候基準は、サプライチェーンのデータに何を求めているか
SSBJ の気候関連開示基準(2025 年 3 月公表・2026 年 3 月 13 日改正)は、スコープ 3 の温室効果ガス排出を、GHG プロトコルのスコープ 3 基準(2011 年)のカテゴリーに従い、報告企業の活動に関連するカテゴリー別に分解して開示するよう求めている(第 55 項)[5]。部品・材料の購入は、このうちカテゴリー 1(購入した製品・サービス)に当たる。
どのデータを使うかについては、第 70 項が次の四つに従って決めるよう求めている(四つは順不同)[5]。
- 直接測定によるデータがある場合は、見積りによるデータより優先する
- 1 次データがある場合は、2 次データより優先する。2 次データを使う場合は、企業の活動をどの程度忠実に表すかを考慮する
- 活動と排出が行われた法域や、活動の方法を忠実に表す適時のデータがある場合は、そうでないデータより優先する
- 検証されたデータがある場合は、検証されていないデータより優先する
さらに第 72 項は、スコープ 3 の測定に使った要素と仮定を開示するに当たり、組み込むデータをどう決めたか、1 次データを使った範囲、検証されたデータを使った範囲を含めるよう求めている[5]。開示企業は「仕入先からどれだけ 1 次データを集められたか」を外に向けて説明することになる。上場している顧客から仕入先への排出量データの依頼が増えるのは、この仕組みのためである。
初年度はスコープ 3 を開示しないことができる
気候基準は、法令の定めに基づいて基準を適用する最初の年次報告期間に限り、スコープ 3 の温室効果ガス排出を開示しないことができる経過措置を置いている(第 103 項(2))[5]。適用する場合はその旨を開示しなければならない[5]。2027 年 3 月期から適用される企業がこの措置を使えば、スコープ 3 の開示は 2 年目の 2028 年 3 月期からになる。仕入先から見ると、本格的な依頼が来るまでの時間は、相手がこの措置を使うかどうかで 1 年ずれる。
また、温室効果ガスの測定は原則として GHG プロトコルによるが、法域の当局が別の方法を求めている場合はその方法を使える[5]。この関係で SSBJ は 2026 年 6 月 11 日、温対法の SHK 制度の方法で測定し報告する排出量を使って気候基準に従う場合の開示について、実務対応基準第 1 号を公表した[6]。金融庁の告示改正で、この基準も開示に使う基準として指定された[4]。
| 立場 | 起きること | 備えること |
|---|---|---|
| 開示企業の購買部門 | カテゴリー 1 の算定のため、仕入先から 1 次データを集める必要が出る | 対象の仕入先を絞り、依頼の様式・費用・秘密の扱いを決める |
| 開示企業の一次仕入先 | 組織全体または品目ごとの排出量の提出を求められる | 燃料・電気の使用量の記録と、算定の前提の説明を用意する |
| 二次以降の仕入先 | 一次仕入先が自分の上流の数字を集めるため、依頼が回ってくる | 一次仕入先と同じく、自社の Scope1・2 から用意する |
開示企業の購買部門がすること
カテゴリー 1 は、購入した製品・サービスのすべてが対象になりうるが、全仕入先から 1 次データを集めるのは現実的でない。購買部門がまず決めるのは、どの仕入先から 1 次データを取りにいくかである。取引額や重量が大きく、排出の多い素材を扱う仕入先から始めるのが自然な順序になる。
次に、1 次データを取れない仕入先の扱いを決める。物量や金額に排出原単位を掛ける 2 次データの算定で埋めることになるが、第 70 項(2)は 2 次データを使う場合に、企業の活動をどの程度忠実に表すかを考慮するよう求めている[5]。調達の記録が、品目の分類・重量・金額のどれで取れているかによって、2 次データの当てはめの精度が変わる。購買システムや発注記録の品目分類を、排出原単位の分類と突き合わせられる形にしておくことは、購買部門にしかできない準備である。
依頼の文面、受け取ったデータの確かめ方、費用と秘密の扱いは 仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むとき にまとめた。仕入先の評価や調達基準に排出量の項目を組み込むかどうかは、グリーン調達基準を改定するとき、仕入先に何を求めるか で扱う。取引先への依頼が取適法の対象取引になる場合の注意は、買いたたきと価格転嫁の協議応諾義務 とあわせて読んでほしい。
排出量のデータを仕入先の評価に使うかどうかも、早めに決めておく論点である。評価に入れるなら、何を測り、どの重みで点数にするかを事前に示しておかないと、仕入先は何を用意すればよいか分からない。評価項目の作り方は サプライヤー評価の項目と点数化 で扱っている。含有化学物質の調査など、同じ仕入先に同じ時期に届く別の依頼と窓口をそろえると、仕入先の負担は小さくなる。化学物質の側の頼み方は 含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき にまとめた。
開示企業に納める側がすること
自社が開示義務の対象でなくても、顧客が対象なら依頼は来る。慌てないために、次の順で用意しておく。
1. 燃料と電気の使用量を月単位で記録する。
組織全体の Scope1・2 は、ほぼこれで計算できる。SHK 制度の対象であれば、すでに算定しているはずである。
2. 自社の売上のうち、その顧客向けの比率を出せるようにする。
組織全体の排出量を顧客ごとに配分するとき、売上で割り振る方法がよく使われる。
3. 算定の前提を一枚にまとめる。
どの期間・どの拠点を含めたか、使った排出係数、除外したもの、クレジットによる相殺を含めていないか。顧客は第 72 項に沿って、データの決め方を説明する必要がある[5]。
4. 検証の有無を答えられるようにする。
第 70 項(4)は検証されたデータの優先を求めている[5]。検証を受けていなければ、受けていないと答えればよい。
5. 依頼の費用と範囲を協議する。
製品ごとの数字を求められ、算定に費用がかかる場合は、その扱いを顧客と協議する。
顧客ごとに様式が違うことは避けられないが、中身の数字は一つにしておく。顧客 A には会社全体、顧客 B には工場単位と、範囲の違う数字を出すと、後で説明がつかなくなる。
排出量取引制度や CBAM との関係
SSBJ 基準による開示は、投資家向けの情報開示の制度で、排出の量そのものに義務を課すものではない。2026 年度に始まった排出量取引制度は、直接排出量が一定以上の事業者に排出枠の保有を義務づける別の制度で、その概要は 排出量取引制度(GX-ETS)の本格化と、調達への影響 で扱った。EU 向けの鉄鋼・アルミ製品で製品ごとの排出量を申告する CBAM は、さらに別の仕組みで、範囲や算定方法が違う。同じ「CO2 の数字」でも、どの制度に出すものかで中身が違うことは、仕入先にも顧客にも最初に伝えておくべき点である。
よくある質問
Q. 自社は非上場の中小企業だが、関係あるか。
開示の義務はない。ただし、顧客が開示企業であれば、その購買部門から排出量データの依頼が来る。第 70 項は 1 次データを 2 次データより優先するよう求めているので[5]、依頼は続くと考えておくほうがよい。ただし 1 次データには、製品ごとの排出量だけでなく、組織全体の排出量を売上などで納入分に配分した数字も含まれるので、求められる粒度は顧客の算定方法で変わる。どちらで出せるかは、仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むときで整理している。
Q. 顧客から依頼が来たが、検証を受けていない数字を出してよいか。
出してよい。検証されたデータは優先されるが[5]、検証されていないデータが使えないわけではない。検証を受けていない旨を明記して出す。
Q. 2027 年 3 月期から適用される顧客なら、今すぐ依頼が来るか。
初年度にスコープ 3 を開示しない経過措置を使えば、スコープ 3 の開示は 2 年目からになる[5]。ただし算定には前年度からの準備が要るので、依頼が早めに来ることはありうる。
まとめ
プライム市場の上場企業に SSBJ 基準による開示と保証を義務づける法改正が成立し[3]、時価総額 3 兆円以上の企業は 2027 年 3 月期から適用される[1]。保証は開示の翌年からで、当初の範囲はスコープ 1・2 などに限られるが[2]、気候基準はスコープ 3 をカテゴリー別に開示させ、1 次データと検証されたデータを優先するよう求めている[5]。開示企業の購買部門は、どの仕入先から 1 次データを取るかと、取れない分を 2 次データで埋める準備を進める。納める側は、燃料・電気の使用量の記録、顧客別の売上比率、算定の前提の一枚を用意しておけば、どの顧客からの依頼にも同じ数字で答えられる。
出典・参考資料
- 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告(概要)(金融庁/2026 年 1 月 8 日公表)
- サステナビリティ開示基準の適用及び保証制度の導入に向けたロードマップ(金融庁/2025 年 7 月 17 日時点)
- 国会提出法案等(金融庁/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- 「企業内容等の開示に関する内閣府令第十九条の九第五項に規定するサステナビリティ開示基準を指定する件の一部を改正する件」の公布及びパブリックコメントの結果について(金融庁/令和 8 年 9 月 15 日)
- サステナビリティ開示テーマ別基準第 2 号「気候関連開示基準」(サステナビリティ基準委員会/2025 年 3 月 5 日・2026 年 3 月 13 日改正)
- サステナビリティ開示基準(サステナビリティ基準委員会/2026 年 10 月 1 日閲覧)
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