投稿日:2025年6月10日

FOWLPファンアウトウエハレベルパッケージの基礎と最新技術

はじめに:FOWLPファンアウトウエハレベルパッケージとは何か

半導体分野は日進月歩で進化を続けています。
製造現場でも、5GやIoT、AIといったキーワードが製品仕様や工程設計を左右する時代に突入しています。
その中で注目を集めている技術の一つが、「FOWLP(ファンアウト ウエハレベルパッケージ)」です。

FOWLPは、従来のパッケージング技術とは異なる新しい概念を持つ技術であり、半導体パッケージの進化を象徴しています。
この記事では、FOWLPの基礎から、現場で注目されている最新技術動向、そして今後の展望までを、現場目線かつ実践的なアプローチでご紹介します。

FOWLPとは?わかりやすい基礎解説

従来パッケージ技術との違い

半導体チップは本来、製造後にパッケージと呼ばれる「ケース」に組み込まれ、外部と電気的につながるように加工されます。
このパッケージの構造は、従来では「ワイヤーボンディング」や「リードフレーム」、「FC-BGA」などさまざまな方式が用いられてきました。

しかし、微細化や高密度実装、小型化といったニーズが高まる中、従来の技術では限界が見えてきます。
そこで登場したのが、FOWLPです。

FOWLPは「Fan-Out Wafer Level Package」の略称で、ウエハ状態でパッケージングを行う技術です。
特徴は、チップの外側(ファンアウト領域)まで配線パターンを広げることで、より多くの入出力端子(I/O)を確保し小型かつ高機能なパッケージを実現できる点です。

ファンアウトの概念

ファンアウトとは、「扇状に外へ広がる」という意味です。
チップ本体よりもパッケージ外形を大きくし、外側にも配線を展開することで、従来のファンイン構造(チップ内にとどまる配線)より多くの端子と高密度配線が可能となります。

ウエハレベルパッケージ(WLP)とFOWLPの違い

WLPはチップそのものの大きさの範囲に限定されるため、I/O数や放熱性に課題がありました。
一方FOWLPなら、チップの外側にも配線を延ばせるため、より大容量・高性能なパッケージが設計できるのです。

FOWLPの工程と仕組みを図解イメージで理解する

FOWLPの代表的なプロセス概要

FOWLPには、おもに「リディストリビューションレイヤー(RDL)」という配線層を追加する工程があります。
また、チップがウエハ上に並べられ、樹脂などのモールド材料で一体化される「リコンスティテューテッドウエハ」工程も独特です。

実際のフローは以下のようになります。

1. ダイシング(ウエハをチップ単位に切断)
2. チップの再配置(リコンスティチューション:専用キャリア上に間隔を空けてチップを並べる)
3. モールド(モールディング:樹脂で固めてウエハ状に戻す)
4. RDL形成(配線層を表面に形成・微細加工)
5. バンプ形成(はんだボール配置)
6. ダイシング(再度、パッケージごとに切断)

この工程を通じ、チップ本来のサイズを超えたファンアウト領域で自由な配線設計が可能となります。

現場でのFOWLP工程のポイント

特に工程設計・歩留まり改善の観点からは、
・再配置時のチップ位置精度
・モールド時の歪み/ボイド対策
・RDLの微細パターン形成(露光・エッチング・メタライゼーション技術)
がキーポイントとなります。

私の経験上、量産初期は「モールド不良」や「位置ズレ」「バンプ脱落」などの事故例が多いため、量産立ち上げ時には十分なパイロット検証が不可欠です。

FOWLPのメリット・デメリット

FOWLPの強み

・小型・薄型化が実現できる
・高い実装密度でI/O数が増加
・熱伝導性が高く、信号の遅延も改善
・コスト競争力(パッケージ工程の簡素化、ウエハ状一括処理による歩留まり向上)

近年のスマートフォン向けSoC、車載用先進ドライバシステム、AIプロセッサなど、多様な先端製品で採用例が増えています。

FOWLPの弱点

・工程が複雑化し、初期投資・立ち上げコストが高い
・モールドやRDL形成で新たな不良因子が発生
・SiP(System in Package)や3D-ICなどとの複合技術が必要な場合、さらに工程設計が高度化
・従来型パッケージの「コスト/性能最適化」が微細プロセス以外では依然有効な領域も多い

むやみにFOWLPへ完全シフト…ではなく、用途やコストバランスを見極めて適用分野を選定する「バイヤーの目利き力」が現場では求められます。

FOWLPの最新技術動向

先端パッケージの多層化・SiP化の流れ

FOWLP単体の技術だけでなく、複数チップを一体化する「SiP(System in Package)」や2.5D/3Dスタックとの組み合わせが近年の主流です。

たとえば、AppleのAシリーズプロセッサや大手半導体メーカー各社のAI・自動運転チップでは、
「複数ダイのFan-Out統合」や「大型の再構成ウエハ作製」「トラステッドインターポーザー」といったハイブリッドパッケージが盛んです。

量産ラインの自動化/デジタル化の進展

FOWLPは新しい工程が多いため、検査・搬送・露光など一連の工程自動化ノウハウが不可欠です。
現場では「画像検査AI」「AGV/ロボットハンドによる無人搬送」などの導入が一気に進んでいます。

特に日本の大手製造現場や製造装置サプライヤーが強い領域では、「従来のアナログ工程×デジタル自動化」が突出した歩留まり改善やコスト競争力に直結しています。

耐環境性・信頼性評価の高度化

自動車・産業機器用FOWLPでは、従来以上の「熱サイクル」「高湿熱」「加速寿命」などの厳しい信頼性試験が行われています。
生産現場の品質管理部門には、こうした新規評価プロトコルへの柔軟な対応力が求められる時代です。

バイヤー・サプライヤー現場から見たFOWLP導入の課題

バイヤー目線での「コストと技術革新」の見極め

調達・購買現場では、
「FOWLP化でどれだけ製品差別化できるか?」
「どのレベルまで初期投資や工程変更に振り切るべきか?」
「パートナーとなるサプライヤーの成熟度やサポート体制は?」
といった観点がリアルな関心事となります。

今後も半導体パッケージの進化は不可逆的であり、トップバイヤーほど「早期導入リスク」と「先行メリット」の両面をシビアに精査しています。

サプライヤー(下請け・加工メーカー)目線での対応力

FOWLP関連の工程は多段の特殊装置や微細制御が前提となるため、既存設備・技能の延長では対応しきれない事例もしばしば発生します。

現場では、「装置・評価・プロセス自動化・人材」の4つの投資バランスを慎重に見極めながら、
“昭和”の経験値と“令和”のデジタル技術を高度に融合できる体制づくりこそが競争力を左右します。

私の経験では、「関係各所との連携の柔軟さ」が最終的なプロジェクト成功率を大きく左右していました。
早期からオープンなすり合わせ文化を根付かせることが、長い目で見て大きな成果につながります。

今後の展望:FOWLPの未来

FOWLP技術は今後も進化を続ける見通しです。

・2次元配線密度の更なる微細化
・3Dスタックやヘテロジニアス集積との高度化統合
・極薄チップの樹脂包埋技術
・車載・インフラ等の高信頼性分野への適用拡大
・パッケージ設計と製造現場の「超上流シームレス化」

これらが今後、電子機器の“知能の器”である半導体パッケージ分野をリードしていくのは間違いありません。

まとめ:現場発のFOWLP活用と業界発展へのヒント

FOWLPは、単なる「新しいパッケージ」ではなく、ものづくり変革を象徴する革新的技術です。
昭和のアナログ魂と、令和のデジタル×自動化の最先端技術との架け橋の役割も担っています。

バイヤー、サプライヤー、エンジニアそれぞれが業界全体のアップデートを意識し、
「現場と営業の現実感」「リスクを歓迎する挑戦心」「顧客ニーズのラテラルな発掘」
に磨きをかけることで、日本の製造業はさらに強くなれるはずです。

今後も変化の大きいパッケージ技術の世界から目が離せません。
皆さま一人ひとりの現場力と知見の発信が、業界全体の発展に必ずつながると信じています。

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