月間83,046名の
製造業ご担当者様が閲覧しています*

*2025年5月31日現在のGoogle Analyticsのデータより

投稿日:2025年6月6日

破壊力学の基礎と破壊損傷の未然防止への応用

はじめに:破壊力学とは何か

製造業の現場において、製品や構造物の「破損」は決して他人事ではありません。
素材・部品・設備の故障や事故は、納期遅延や多大な損失を招くだけでなく、ときには人命に関わる重大なトラブルへ発展することもあります。
そのため、設計や調達、生産現場など関係するあらゆる工程で「いかに壊れないモノをつくるか」「不具合を未然に防ぐか」が最大のテーマとなります。

ここで不可欠なのが、材料がどのように壊れるのかを科学的に解明する「破壊力学」の知識です。
「何を、なぜ守らなければならないのか」を理解し、実践的に活かすことが、現代の製造業の競争力強化に直結します。

本記事では、破壊力学の基礎から、アナログ業界を抜け出して現場で即実践できる破壊損傷の未然防止策まで、現場目線で詳しく解説します。
また、バイヤーやサプライヤー双方にとって役立つ視点も盛り込み、製造業に関わるすべての方がワンランク上の品質管理を目指せるような内容にしています。

破壊力学の基礎:なぜ「壊れる」のか?

材料はなぜ壊れるのか?~ミクロとマクロの世界~

ものづくりの現場では、金属・樹脂・セラミックなどさまざまな素材が使われています。
一見、頑丈そうに見える構造物も、実はミクロレベルでは小さな傷や欠陥、「き裂」が発生しています。

破壊力学では、特に「き裂」が成長・進展し、ある閾値を超えると一気に構造全体が破壊されてしまう現象に着目します。
このき裂の振る舞いは、通常の「材料力学(=平均的な強度を評価)」だけでは予測が難しいため、「き裂がある場合の材料の強度」を評価する新たな理論体系として破壊力学が発展しました。

破壊力学の三本柱と基本パラメータ

破壊力学の三本柱は、以下の通りです。

1. 破壊靭性(Fracture Toughness):
 素材がき裂を持った状態でどれだけ壊れにくいかを示す指標(KICなど)。
2. 応力拡大係数(Stress Intensity Factor):
 き裂先端に集中する応力の大きさを表し、き裂進展のしやすさを評価。
3. き裂進展速度(Crack Growth Rate):
 疲労や腐食などにより、き裂がどのくらいの速度で伸びていくか。

また、「壊れ方」には、大まかに「脆性破壊」と「延性破壊」の2つがあります。
脆性破壊は一気に割れるような壊れ方、延性破壊は変形しながら壊れるイメージです。
どちらになるかは材料そのもの、温度、荷重の速度などさまざまな要素が組み合わさって決まります。

現場目線でみる破壊力学の重要性

なぜ現場で重要性が高まっているのか?

グローバル競争・軽量化設計・コストダウン・短納期化といった世の中の動きにあわせて、部品や構造物はますます「ギリギリまで軽く・薄く・細く」なっています。
こうした「攻めの設計」の裏側では、従来なら許容されてきた小さな欠陥が命取りとなりやすいのです。

加えて、納入先(バイヤー側)の品質要求は日に日に厳しくなり、新素材や複合材料のような新たなリスクも加わりました。
アナログな「勘と経験」だけでは対応しきれない時代となり、破壊力学による「科学的根拠に基づいた評価」が求められるようになっています。

“安全率”に潜むドグマからの脱却

従来の設計現場では、「とりあえず安全率3倍で」と大雑把に寸法を厚くする「安全率信仰」が根強く残っていました。
しかし、コストや軽量化要求が高まる今日、「余分な厚肉」は致命的なデメリットです。
そこで、安全率ではなく「破壊靭性やき裂評価に基づく合理的な設計」こそが、現場の実践的な武器になります。

昭和世代の現場には「壊れるまで使う」の精神も根強いですが、予防保全・劣化監視・異常診断など最新の破壊力学的知見を取り入れることで、「壊れる前に交換」の文化へとシフトが加速しています。

破壊損傷の未然防止への応用

検査・評価技術の進化と現場の実践

【非破壊検査(NDT)の活用例】

製品が完成してから『分解して壊して中身を確認する検査』は現実的ではありません。
そこで、「超音波探傷」「磁粉探傷」「X線検査」など非破壊検査技術が普及しました。
新しい非破壊検査技術は、0.1mm以下の小さなき裂や内部欠陥まで高精度に検出できるものも登場しており、未然にリスクを発見できるようになりました。

検査結果をもとに『どの程度大きさのき裂なら現場運用しても安全か?』『どのタイミングで補修・入れ替えが必要か?』を論理的に判断するには、破壊力学的な知識が欠かせません。

設計段階にも“破壊力学的思考”を

設計者がCAD注文書や製作用図などで、「き裂に対する余裕をどれだけ持たせておくか」「溶接や折り曲げ部などき裂が発生しやすい箇所の形状をどう工夫するか」など、破壊のメカニズムを理解した上で設計に反映することが重要です。
最近では、3D-CADやCAE解析による「き裂シミュレーション」も一般化しています。
設計段階で「もしもここに微細なき裂が入った場合でも、大事故にならず機能を維持できる設計(フェイルセーフ)」が求められます。

現場作業・調達管理への応用ポイント

・仕入れサプライヤーから納品された部品のミルシート(成分分析表)や材質保証書だけではなく、「破壊靭性」や欠陥の有無も確認する
・現場で発見した微細な変形やクラックには、速やかに非破壊検査や破壊モード解析を適用し、安全側で判断する
・溶接や成形時の応力集中(応力が集中する形状や処理)をさけ、品質トラブルの芽を設計段階から最小化する
・定期点検やメンテナンス計画に破壊力学的なき裂進展の予測値を組み入れる

新しい考え方としては「壊れることを前提に、代替部品や予兆保全用センサーを設計に組み込む」ことも現実的かつ有効です。

サプライヤー × バイヤー 両者にとっての破壊力学の価値

バイヤー視点:信頼の数値化

バイヤー担当者は「本当に長く安心して使えるものか?」を常に追求しています。
破壊力学の考え方と対応力を持ったサプライヤーは「単なる仕入先」から「信頼できるパートナー」への格上げにつながります。

特に自動車・鉄道・航空機など高い安全性を要求される業界では、「KIC値で最低○○MPa√m以上」など明確な数値基準で納入可否や継続可否が判断されます。
「うちの工場はこの値を楽々クリアできる」と自信をもって言えるサプライヤーは、今後も重宝される存在です。

サプライヤー視点:顧客価値の最大化

調達購買サイドの心配や不安(隠れた破壊・クレームリスクなど)を先回りして“論理的に潰しこむ”視点が重要です。
破壊力学に強いサプライヤーは「コストは低いが安心度は最高レベル」という、他社との差別化ポイントを持てます。
また、製品トラブルが起きた場合でも、「責任の所在」を科学的に明確化できることで、無用なトラブルの長期化や関係悪化を防げます。
近年では欧米メーカーから「FMEA(故障モード影響解析)」とセットで破壊力学的な説明責任を求められるケースも増えてきました。

昭和型アナログ思考から“科学的予防”へのマインドチェンジ

いまだに製造業の現場には、「毎日目視点検すれば大丈夫」「経験年数が長い人が見てるから問題ない」といった昭和流発想が根強くあります。
しかし、現代社会では安全・品質トラブルをゼロに近づけなければ生き残れません。
不良品や破損事故の損失は、時に企業の屋台骨を揺るがします。

業界全体が、勘と経験の時代から、破壊力学のような科学的知見に裏打ちされた「予測と予防」が当たり前になる時代へ、強い意識をもってシフトすることが必要です。

まとめと今後に向けたアクション

破壊力学は「材料にき裂があるとどうなるか?」を、科学的・数値的に読み解く学問です。
現場での事故や品質トラブルを未然に防ぐためには、設計・調達・製造・保全のあらゆるフェーズで、破壊力学的な思考が不可欠となりました。
これにより、ギリギリまで無駄を削った設計、信頼できるサプライヤー選定、計画的なメンテナンス、安心できる現場運営が実現できます。

今こそ昭和型アナログ思考にとどまらず、最新の工学知識・検査技術・シミュレーションツールを使いこなして「破壊損傷の予防」という新たな文化を根付かせましょう。
バイヤーも、サプライヤーも、現場担当者も、破壊力学を自社・自分の武器とすることで、製造業をより強く、しなやかに発展させていくことができます。

現場経験と工学知識を両立させたプロフェッショナルの皆さんが、一丸となって安全・高品質のものづくりに挑戦し続けていきましょう。

資料ダウンロード

QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。

ユーザー登録

受発注業務の効率化だけでなく、システムを導入することで、コスト削減や製品・資材のステータス可視化のほか、属人化していた受発注情報の共有化による内部不正防止や統制にも役立ちます。

NEWJI DX

製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。

製造業ニュース解説

製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。

お問い合わせ

コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)

You cannot copy content of this page