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異種金属接触腐食を防ぐ金属材料選定と防食対策ガイド

目次
はじめに:異種金属接触腐食とは何か
異種金属接触腐食とは、異なる種類の金属が直接接触し、かつ電解質(多くの場合は水分)が存在するときに発生する腐食現象です。
この現象は「ガルバニック腐食」とも呼ばれ、工場やプラント、各種製造装置、また建築分野でも多く発生しています。
日本の製造業ではいまだに「伝統的なやり方」や「現場の経験則」に依存した工程管理が多く、設計や調達現場においても腐食リスクが軽視されがちです。
そのため、実際に製造現場や設計の立場で「思わぬトラブルを招いた」経験を持っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、異種金属接触腐食の基礎知識から、現場で役立つ材料選定法、具体的な防食対策に至るまで、長年のメーカー実務経験に基づいた実践的な視点で解説します。
異種金属接触腐食が起きるメカニズム
1. ガルバニックセルの形成
異なる金属同士を湿気の多い環境で接触させると、「電池」と同じ状態が局所的に発生します。
この状態を「ガルバニックセル」と呼びます。
ガルバニックセルができると、電位の低い金属(卑な金属)がアノードとなり、溶解・腐食していきます。
一方、電位の高い金属(貴な金属)はカソードとなり腐食しにくくなります。
例えば、鉄とステンレス鋼、アルミと銅のような組み合わせがよくあるケースです。
2. 腐食を加速する要因
異種金属接触腐食の進行度合いは、次の要素で大きく左右されます。
- 金属それぞれの電位差(ガルバニックシリーズで確認)
- アノード側(卑な金属)の表面積が小さい
- 湿度が高い、あるいは雨水・海水などの電解質の存在
- 結合部に隙間が多い、もしくは密着性が高い
実際の現場では、「とりあえず強度が高いからステンレスをボルトに使おう」と安易に材料を混用した結果、母材(鉄やアルミ)が急速に腐食するトラブルが頻発しています。
3. 現場の失敗事例
例えば、亜鉛メッキ鋼と銅を直接組み合わせて使用した結果、亜鉛メッキ面が想定外のスピードで剥がれ落ちてしまった、などの失敗が繰り返されています。
設計図やBOMには異種金属のリスク記載がなく、調達現場では「納期優先」「コスト優先」で適当な材料手配となり、これが腐食事故の温床となるのです。
製造業現場における異種金属接触腐食の影響
1. 生産設備のダウンタイム増大
異種金属接触腐食が進行すると、設備や機械部品の破損につながり、突発的なダウンタイムや修理コスト増加に直結します。
JIT生産や省人化が進む現場では、「計画外停止」はサプライチェーン全体に影響を及ぼします。
2. 品質不良・クレームの発生
例えば、屋外設置機器での異種金属部材の腐食による脱落事故、食品製造ラインでの異物混入リスク増加など、品質保証問題にも発展します。
品質管理や検査部門の負担も大きくなり、結果として顧客クレームやリコールに発展する場合もあります。
3. 日本の製造現場が直面する「アナログ慣習」問題
現場では「昔からこのやり方でやっている」「とりあえずステンレスを使えば大丈夫だろう」という昭和的発想が根強く残っています。
DXやデータ解析が進む中、腐食リスク管理だけが経験則や個人の知識に依存しがちで、抜本的な対策が進んでいません。
これが多くの製造現場での潜在的なリスク増加につながっています。
金属材料選定の基本原則
1. 「ガルバニックシリーズ」を理解しよう
材料選定時は、まず「ガルバニックシリーズ(電位列)」表を活用しましょう。
一般的に、下記のような順番で貴⇔卑の関係が成り立ちます。
- 貴な金属:金、白金、グラファイト、ステンレス(パッシブ)、チタン
- 卑な金属:アルミ、亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム
貴な金属同士、卑な金属同士の組み合わせであればガルバニック腐食リスクは低減します。
逆に、電位差が大きい組み合わせほど腐食リスクが急増します。
2. 接触面積バランスに注意
卑な金属の面積が小さく、貴な金属の面積が大きいほど腐食速度が上がります。
例えば、鉄製構造体に小さなステンレス製ボルトを使用すれば問題は少ないですが、その逆(ステンレス構造体+小さな鉄製部材)では鉄部が強く腐食します。
材料選定では設計段階から「どちらの部材面積が大きいか」「絶対に卑な金属が小面積側にならないか」を意識しましょう。
3. コーティング材や絶縁体の活用
必要に応じて、接触部に防食めっき(亜鉛メッキ、クロメート処理等)や、非金属製ガスケット、シール材で絶縁する設計も有効です。
調達購買の現場では「コーティング指示書」をBOMに明記し、供給業者に徹底周知することが重要です。
防食対策の具体的実践例
1. 設計段階からの腐食リスク解析
製品設計時点で、異種金属部材のリストアップ+組み合わせの事前評価を実施します。
表作成や3Dモデルで腐食リスクが高い組み合わせを明確化し、購買・サプライヤー部門とも情報共有しましょう。
部品表(BOM)の備考欄や工程手順書にも「異種金属接触防止」の注意喚起を明記する文化を根付かせることが重要です。
2. 材料選定・組み合わせの工夫
- アルミ構造材+ステンレスボルトの組合せでは、アルミ側に陽極処理アルマイト・絶縁ワッシャなどを挿入する
- 鉄(F)と銅(Cu)部材の接合部には、絶縁シートや非導電性接着剤を利用して直接接触を防止する
- ステンレスを母材として小さなスチールボルトを使うのは極力避ける
設備の新規導入や設計変更時には、現場目線で「現物検証」「サンプル材の経年試験」なども推奨します。
3. メンテナンス・検査体制の強化
腐食発生の初期兆候は「付着物変色」や「サビの微細発生」として現れます。
定期的な目視検査・拡大検査をルーチン化し、兆候を発見したら即対策工事につなげることが、重大事故の未然防止に繋がります。
現場作業者や品質管理スタッフ向けの教育・OJTも定期的に実施しましょう。
4. サプライヤーへの要求とコミュニケーション体制
バイヤーや調達担当者の方は、サプライヤーに対し「防食処理仕様」「異種金属禁止区分」など品質要求事項をしっかり伝える必要があります。
メーカー側も調達先とは単に価格交渉だけでなく、「腐食対策含む品質保証」の目線でパートナー関係を築くことが、全体最適につながります。
今後の製造業に求められる異種金属腐食管理の在り方
1. デジタル活用による腐食管理の高度化
IoTセンサーによる異種金属結合部の電位モニタリングや、AI解析による劣化傾向予測など、デジタル改革の流れを工程管理にも導入していくことが有効でしょう。
設計から保全、サプライヤー評価まで情報一元化し、「異常の兆候を早期把握する」仕組みづくりが急がれます。
2. 経験継承と人材育成
現場では熟練作業者の「直感的な異常検知力」がいまだに防食の最終砦です。
今後は、このノウハウや注意点を体系化し、次世代へ伝承する教育コンテンツ化にも力を注ぐべきです。
3. グローバル標準との連携
日本以外の海外工場・パートナーとの部品共用が増える中、海外規格(ISO、ASTM等)や、グローバルメジャーの腐食対策PDFなども積極的に参照し、自社基準を磨き込みましょう。
まとめ:腐食リスクマネジメントが現場競争力のカギ
異種金属接触腐食は「見えにくいが、確実にダメージを蓄積する」製造現場の隠れたリスク要因です。
一見小さなトラブルも、生産性・品質・納期・コストと、サプライチェーン全体に波及する大きな問題へと発展します。
調達・購買・生産管理・品質管理のいずれの部門も、「昭和の常識」から脱却し、現場の合理性・最新技術・積極的な情報連携で腐食リスクを低減しましょう。
この記事が、製造業に関わる多くの方にとって、実践的な材料選定や防食対策の指針となることを願っています。
現場で使えるノウハウを次世代へ、自信をもって紡いでいきましょう。
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