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高速プリント回路基板における不具合の発生・原因究明とその対策

目次
はじめに:高速プリント回路基板の重要性と不具合の現状
高速プリント回路基板(High-Speed PCB)は、情報通信機器や車載電子機器、医療分野など、現代の先端産業を根幹から支える存在です。
高度な信号伝送、高速処理、低遅延―これらを高い信頼性のもと実現するため、高速PCBには従来の一般的なPCB以上の設計・製造技術が求められています。
一方で、その複雑さや速度要求の高さから、不具合の発生は業界全体で頭を悩ませる課題です。
昭和から続くアナログ的な設計開発・管理体制が根強く残る現場でも、根本的な品質改善が進んでいない例は少なくありません。
本記事では、現場で実際に経験してきた立場から、不具合の起きやすいポイント、発生原因、その特定方法、そして現実的かつ効果的な対策について、徹底的に掘り下げます。
高速プリント回路基板の不具合とは何か
不具合の定義と主な種類
高速PCBの「不具合」とは、回路が想定どおりに信号を伝送できず、製品品質や性能が著しく損なわれる事象を指します。
その発生要因は多岐にわたりますが、主に以下の種類に大別されます。
– 伝送信号の減衰・遅延・波形崩れ(シグナルインテグリティの問題)
– ノイズ・クロストークなどの電磁干渉(EMI/EMS)
– はんだづけ不良、ピン折れ、パターン断線などの物理的欠陥
– 実装部品ずれ、ショート等の実装不良
– ラミネート基板自体の膨れや剥離、部品剥落
昭和時代から一般的なPCBで問題となったパターン断線やショートに加え、高速領域特有の問題(SI/PIノイズ、大容量データ伝送時の信号劣化など)が急激に増えています。
現場でよくある不具合の実例
例えば、ある通信機器工場では、量産開始直後の高速基板で通信断が頻発しました。
外観・寸法では問題なく通っているにも関わらず、データ受信が不安定です。
精密なタイミング調整や、追加クロック供給で対応しようとしましたが効果なし。
最終的には、基板パターンの一部で微妙な線幅違いが判明し、設計段階のルール設定が不十分だったことが発覚しました。
こうした事例は氷山の一角に過ぎません。
原因究明のための現場的アプローチ
1. 製造現場の固定観念にとらわれない
従来は「不具合=はんだ・パターン不良」と見なす傾向が根強く、アナログ手法での検査や対策に終始していました。
しかし高速PCBでは、目に見えない伝送品質や電気的特性の不良が本質である場合がほとんどです。
「基板を交換したら直った」で済ませず、必ず根本原因を分解していく姿勢が不可欠です。
2. テスト工程と測定器活用の仕組みづくり
高周波信号ラインのインピーダンス測定、TDR(Time Domain Reflectometry)やVNA(ベクトルネットワークアナライザー)などの高度な測定器導入が必須です。
外観検査だけでは見抜けない「見えない不良」を、機器を駆使して可視化することが、最初の一歩となります。
3. 設計段階でのシミュレーション強化
不具合の8割近くは実装・製造工程よりも、最初の設計に起因しているといわれます。
レイアウトCADやシグナルインテグリティ・シミュレーションを活用し、設計ルール違反の有無や、差動ペア配線の精度、層構造の整合性などを事前に徹底確認します。
よくある不具合の発生要因と深堀り
パターン線幅・パターン間隔の微小な違い
高速信号パターンは、数十ミクロン単位の違いでもインピーダンス・伝送特性に大きな変化をもたらします。
往々にして現場では「設計値±20μmは誤差範囲」と捉えがちですが、例えば10Gbpsを超える通信では致命的な位相ずれ・波形崩れを引き起こします。
これは板金・機械加工業由来の“許容誤差”思考が、基板製造にも引きずられている一例といえるでしょう。
ビアとレイヤ間の電気的障害
ビア(層間接続孔)は多層基板構造には欠かせませんが、EV(エスケープビア)での過多な貫通や、不必要なスティッチングビアの乱立はインピーダンス変動源となります。
高速信号では、「見た目をきれいにまとめる」だけのレイアウト設計ではなく、電気的意味を深掘りした解析が必須です。
材料選定・ラミネート品質の限界
ローコスト基板に多いガラス含有エポキシ材では、従来比2GHzレベルでは問題なくても、10GHz級になると遅延・減衰・絶縁破壊が表面化します。
安易に材料グレードダウンや、工程短縮でコストを下げることは、最終的に高額な不具合コストを生み出す要因となります。
リフロー・はんだ実装時の熱ストレス
高速PCBは多層化・微細化が進み、熱応力(Cteの違い)による層間剥離・パターンクラックなど、従来よりも脆弱な面が増加しています。
実装工程での温度プロファイル管理は、徹底的なモニタリングと改善サイクルが不可欠です。
不具合発生を防ぐための設計・製造プロセス改善
設計段階で実践すべきポイント
– シグナルインテグリティ解析の前提共有:回路設計者・基板設計者・生産現場を巻き込んで、設計要件やターゲットインピーダンス、クロストーク許容値などを“仕様”として明文化することが不可欠です。
– 実装部品レイアウトと配線経路の最適化:配線長さ・層間遷移回数・折れ点数を極力抑え、定常なパスを確保しましょう。
– プロト試作による初期フィードバック:ライン量産前に、必ず物理試作・測定を実施するPDCA体制を整えます。
製造工程でのハードルと克服策
– 微細加工技術の定着:微細配線値や穴あけ精度を現場レベルでも可視化し、標準管理図による傾向管理を実施します。
– わずかな材料ロットによるバラツキ管理:ベース材メーカー・ラミネート業者とも密な連携をとり、異常ロット流入時の早期検知体制を構築します。
– 工程内検査の自動化推進:AOI(自動外観)、X線CT、インピーダンスチェッカーなど自動測定ツールを工程間ごとに挟み、抜け・漏れのないデータ取得を徹底します。
不具合が発生した際のトラブル対応フロー例
1. 不具合の一次報告・分類
2. 影響範囲(ロット/工程/設計/部品)絞り込み
3. 起因パターンの物理的・電気的調査
4. 不具合サンプルの詳細解析(クロスセクション、測定器活用)
5. 設計、部材、工程のどこに本丸原因があるかの仮説立て・再現試験
6. 改善案立案・検証・標準化
7. 類似リスクライン・他社サプライヤーの水平展開
バイヤーや調達担当者側が現場主導でこうした流れを現場・サプライヤーと構築していくことで、再発ゼロ・品質安定化が図れます。
サプライヤー、バイヤー視点で考える現場改善のカギ
サプライヤーができる支援・提案ポイント
– 材料・製造プロセス変更時の事前リスクアセスメントと共有
– 設計部門向け技術セミナー・現場コミュニケーションの積極開催
– 先端測定器やシミュレーション技術の無償/共同利用体制
バイヤーに期待される役割と心構え
– コストだけでなく信頼性・再現性を重視した調達指針の策定
– 現場・設計・生産部門の橋渡し役としての調整力発揮
– サプライヤーと課題を開示し合う“共創文化”の醸成
昭和的なアナログ思考から脱却!新時代のものづくりのために
高速プリント回路基板における不具合撲滅は、一部のエンジニアの“技”や“経験”のみに任せる時代ではありません。
「現場力」「アナログ現場の粘り」「基板屋に丸投げ」の昭和型OSを卒業し、設計・生産・調達・サプライヤーが本当に“開かれたチーム”となって不具合を可視化し、科学的な管理サイクルを現場に根付かせることが何より重要です。
現場を知る者こそ、バイヤーもサプライヤーも共に新しい品質文化を作るキーとなり得ます。
ものづくり大国・日本の競争力を取り戻し、世界で勝てる品質体制の実現に、一人一人が知恵と行動を持ち寄って参りましょう。
おわりに:未来の製造業現場へ
高速プリント回路基板の不具合、そしてその真因究明・対策には“一過性”“個人技”ではなく、組織としての学びと標準化、現場主体の問題発見・解決が不可欠です。
昭和の常識・慣習を問い直し、先端テクノロジーと現場目線の胆力を融合することで、日本の製造現場は未来に向けて飛躍できます。
本記事が、現場の皆様が一歩を踏み出し、より高品質なものづくりの実現に寄与するヒントとなれば幸いです。
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