投稿日:2025年9月10日

調達購買でサプライチェーン全体のSDGs対応を強化する方法

はじめに:サプライチェーンとSDGs対応の重要性

製造業における調達購買の現場は、これまでコスト削減や品質確保が最重要任務とされてきました。
しかし近年、グローバル化やESG経営の台頭により、サプライチェーン全体でSDGs(持続可能な開発目標)への対応が急速に求められるようになっています。
バイヤーやサプライヤーといった立場を問わず、いまや「SDGsへの取り組み」は競争力強化の中核を担う戦略テーマです。

本記事では、20年以上の現場経験で得た知見をもとに、「調達購買でサプライチェーン全体のSDGs対応を強化する手法」について、実践的な視点とともに詳しく解説します。

SDGsと日本の製造業調達現場の現状

昭和型からの脱却が求められるアナログ文化

多くの製造業では、いまだにアナログ的な商習慣が根強く残っています。
例えば、「見積もりはFAXや電話」「暗黙知での合意」を重んじる場面が少なくありません。
こうした文化は、リレーションシップ構築やスピード対応では一定のメリットを持つものの、サプライチェーン全体のSDGs対応には大きな壁となります。

たとえば、サプライヤーの環境負荷や人権配慮の実態を可視化・共有することは、アナログ管理では極めて困難です。
一方で、脱炭素、省エネ、リサイクルなど、調達品が環境や社会へ与える影響はますます精緻に求められます。
こうしたギャップをどう乗り越えるかが、今後の業界発展のカギとなります。

グローバル調達のリスクとSDGs

グローバル化が進行する中で、調達部門は日本のみならず海外サプライヤーとの関係構築が不可欠です。
しかし、海外では児童労働や強制労働といった人権課題、サプライヤーによる環境規制違反、不適切廃棄といったリスクが未だ根深く存在します。

SDGs対応とは、「自社の都合」だけでなく広くサプライチェーン全体(川上から川下まで)の持続可能性を追求するものです。
単に現地生産を委託するだけでは、後々大きなレピュテーションリスクを抱えることになりかねません。

調達購買がSDGs対応をリードするべき理由

会社の価値観を体現するのは調達線上

会社として「SDGsに取り組んでいる」と標榜しても、その姿勢を最も体現できるのは、実際に外部パートナー・サプライヤーを選定・管理する調達購買部門です。
調達方針を明確に伝え、SDGs要素を選定基準とすることは、サプライチェーン全体に高い実務的インパクトをもたらします。

バイヤーの交渉力が社会課題解決に直結する

バイヤーは、価格・納期・品質だけでなく「エネルギー消費」「廃棄物削減」「人権配慮」「労働環境改善」といったSDGsの観点からも条件を提示できる立場です。
この条件に応じられるサプライヤーを選ぶか、またはサプライヤーと共に改善活動を進めることで、川下・川上双方に好循環を生み出します。

SDGs要素を調達購買に組み込む4つの実践手法

1. 調達ポリシーへのSDGs要件明記

まずは社内外に「SDGsに配慮した調達を行う」旨をポリシーとして明記します。
このポリシーには、下記の要素を盛り込むと効果的です。

– 環境配慮(温室効果ガス削減、省エネ、リサイクル材活用 等)
– 人権・労働環境配慮(労働時間、賃金、児童労働の禁止)
– サプライヤー評価システム(SDGsに準拠した評価基準の構築)
– エシカル(倫理的)な購買の推進

ポリシーが形骸化しないためには、実際のサプライヤー選定や年次見直しの場で、これらの項目を必ず評価・議論することが求められます。

2. サプライヤーとの連携強化と教育

SDGs対応はバイヤー一社の努力だけでは完結しません。
取引先サプライヤーと「共に」取り組む姿勢が不可欠です。

– 年数回の意見交換会を主催し、最新のSDGs動向や要求事項、優良事例を共有する
– サプライヤー研修やワークショップを開催し、SDGs関連ノウハウや改善事例を水平展開する
– 現場のオペレーターや現場長まで巻き込んで実践的な改善活動を推進する

これらを定例化することで、サプライヤー自身の経営改革を促進し、持続可能な取引先ネットワークを構築できます。

3. デジタル技術による情報可視化・トレーサビリティ強化

未だ多くの現場で「紙文化」「経験と勘」といった昭和型の運用が残存していますが、
持続可能性を保証するためには「見える化」が不可欠です。

– クラウドシステムで納品実績・材料原産地・環境負荷データを一元管理
– サプライヤーごとの温室効果ガス排出量やリサイクル率などのSDGs指標を定量化
– AI/IoTを活用したリアルタイムの生産・品質・在庫監視

データドリブンなサプライチェーンマネジメントを構築することで、自社・サプライヤー双方の業務効率も高められます。

4. SDGs貢献度を取引インセンティブに組み込む

– 総合評価落札方式の導入において、価格・品質に加え、SDGs貢献度(CO2削減率、リサイクル品比率、人権デューデリジェンス状況等)も評価ポイント化
– SDGsで優れた成果を上げたサプライヤーに対する表彰や取引拡大
– 取り組みが未達なサプライヤーへのサポートプログラム

取引先選定に「SDGs貢献」という新たな武器・価値観が加わることで、川上のモチベーションも自然と高まります。

サプライヤー側が知っておきたいバイヤーのSDGs志向と思考

なぜバイヤーはSDGs対応を重視するのか

昨今は大手メーカーやグローバル顧客から「SDGs未対応取引先とビジネスできない」という要求が広がっています。
欧州や北米では法規制も進行中で、バイヤーは納入品が「環境・人権・倫理」面で社会的責任を果たしているか、納品前から厳しく確認するプレッシャーにさらされています。

サプライヤーとしては、「なぜ今それが必要なのか」「何が評価されるのか」を正しく理解し、能動的提案・改善に動くことが中長期の競争力向上に直結します。

SDGs対応が新たな商談・引き合い獲得につながる

従来型OEMビジネスに閉じていては、今後のサバイバルは難しい時代です。
バイヤーは調達網を絶えず見直し、SDGsに取り組むパートナーと長期的な関係構築を狙っています。

– LKSG(ドイツサプライチェーン法)や英国現代奴隷法といった海外規制
– 顧客要求調達仕様書(環境データ記載必須化)への適合
– SDGs評価情報を公開することでの新規販路開拓や逆指名獲得

これらを踏まえて、サプライヤー自らが積極的にSDGsの取り組みを開示・提案し、他社との差別化ポイントとして活用するのが有効です。

バイヤー・サプライヤーが互いにWin-WinとなるSDGs対応のために

SDGsへの変化は、ときに現場の仕事量やコスト増になる恐れもあります。
しかし、本質的に目指すべきは「調達購買のレベルアップ」と「業界全体の信頼性向上」です。
バイヤー主導で共通課題を設定し、サプライヤーを「管理」するのではなく「パートナー」としてコミュニケーションを深めることが重要です。

従来型の価格・品質の追求に加え、
– サプライヤーの現場に寄り添った改善支援
– ベストプラクティスの水平展開
– デジタル活用支援

といった「現場発」の新たな価値創造型スキームが今、求められています。

まとめ:SDGsは調達購買の“新しい常識”

今やSDGs対応は社会的責任を超え、売上拡大や業界での存続を左右する必須要件です。
調達購買部門こそがこの変革の主役であり、バイヤー・サプライヤー全員が同じ方向を向き、知恵と実践力を結集することが「業界の新たなスタンダード」になります。

これからの時代、昭和から続く商習慣を活かしつつも、ラテラルシンキング――深く多面的に考え抜く現場力で、SDGsの“本質”を業務に落とし込みましょう。
持続可能な未来を、私たち現場ひとりひとりが創っていくのです。

バイヤーを目指す方も、サプライヤー側の皆さんも、ぜひ今こそ“調達購買を通じたSDGs戦略”に積極的にチャレンジしてください。

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