投稿日:2025年6月9日

ヒューマンエラー発生メカニズムと未然・再発防止策およびそのポイント

はじめに:ヒューマンエラーはなぜ起きるのか

ヒューマンエラーは、どんなに優秀な従業員でも避けることが難しい現象です。

特に製造業の現場では一点のミスが生産ライン全体の停止や、重大な品質問題に発展することも珍しくありません。

自分は大丈夫、と思っている方でも、ふとした瞬間に手順を誤る可能性は否定できません。

多くの現場ではエラーのたびに原因究明と再発防止策が議論されますが、なぜか類似のミスが繰り返されることも多いのが現実です。

本記事では、ヒューマンエラーの発生メカニズムを現場目線で解説し、昭和時代から根強く残る「べてらん頼み」やアナログ管理の落とし穴にも触れつつ、実効性の高い未然・再発防止策とその実践ポイントを紹介します。

工場長など管理職を経験した筆者ならではの視点で、本質的なエラー撲滅の道筋を深掘りします。

ヒューマンエラーの分類と背景要因

思い込み・確認不足:人間の本能に潜む罠

ヒューマンエラーは大きく「操作ミス」「判断ミス」に分かれます。

背景には、慣れや思い込み、不十分な確認、注意散漫といった人間特有の心理状態が横たわっています。

たとえば、毎日同じ作業を繰り返すうちに「今日は大丈夫だろう」と油断した瞬間、手順を飛ばしてしまう。

あるいは、「昨日までこれで良かったから今日も大丈夫だ」と現場の変化に気づけない。

こうした”うっかりミス”は、個人だけでなく組織の風土や教育の在り方とも密接に関わっています。

手順書・マニュアルの形骸化という現実

現場ではマニュアルが整備されている一方で、「分厚いだけで普段誰も読まない」といったマニュアル離れも見受けられます。

「阿吽の呼吸」「先輩の背中で覚えろ」といった昭和型の口伝文化は悪習とまではいかないものの、抜本的なミス防止には限界があります。

これでは属人的な対応にならざるを得ず、ベテランの突然の退職や異動が現場力低下に直結するのです。

潜在リスクに気づけない組織構造

製造業現場の“見えないリスク”として、納期重視や生産効率追求に偏った現場文化があります。

「急げ」「遅れるな」が常態化すると、どうしても一工程ごとの確認や危険予知活動がおろそかになります。

また、熟練者中心の人員配置では経験の浅い新人が心理的に萎縮し、疑問や違和感を口にしにくくなります。

これが潜在的なミスを見過ごす”温床”となり、いずれ大きなトラブルに発展するのです。

ヒューマンエラーの発生メカニズムを理解する

システム×ヒト×環境=エラー

ヒューマンエラーは単なる「不注意」ではなく、作業体系(システム)、作業者(ヒト)、作業環境(環境)の三角関係で発生すると考えるべきです。

システム設計が複雑すぎる、作業者が多能工化で過度な負担を背負っている、現場の照明や作業動線が悪い…といったそれぞれの要素が相互に影響し合い、一度歯車が狂うとエラーが誘発されます。

現場で頻発する「なぜそんなことを?」を読み解く

現場で「何でこんな初歩的なミスを?」と首をかしげるエラーには、必ず理由があります。

たとえばAパーツとBパーツが形や色、取り付け方向が似ている場合、「思い込み」「見間違い」による入れ違いは必然です。

また、休憩直後や終業間際にミスが発生しやすいのは、食後や疲労による集中力の低下が原因です。

「本人の注意不足」で片付けず、多層的に要因をひも解くアプローチが再発防止には不可欠です。

未然防止策:ゼロから見直す「現場の仕組み化」

ポカヨケ(ミス防止装置)の徹底活用

ミスの起きやすいポイントにセンサーや治具を利用した制御(ポカヨケ)を導入することは、有効な未然防止策です。

たとえば、部品の挿入ミスを物理的に防ぐ形状設計や、工程ごとにランプやブザーで作業指示を出す仕組みなど、アナログな現場こそ積極的に活用したいものです。

「ヒト頼み」から「仕組み頼み」へ

人の注意力や記憶力に頼るのは限界があります。

現場ごとのヒヤリハット事例を集約し、標準作業手順(SOP)を定期的に見直す、作業台帳や記録を電子化して容易にチェックできるようにするなど、DX推進も視野に入れましょう。

小規模なラインや少人数現場でこそ、紙ベースの帳票をデジタル化してエラー検出の自動化に踏み切ることが効きます。

現場全員参加型の危険予知活動(KY)

「この作業で起きそうなミスは?」「何に注意すればよいか?」を現場メンバーが日々話し合うKY活動は、未然防止の王道アプローチです。

トップダウンだけでなく、現場のパート従業員や新人が本音で参加できる雰囲気づくりがポイントとなります。

数分だけ立ち止まる「朝礼KY」、作業現場のなかで掲示板を活用した「見える化KY」など、現場に合った工夫を重ねましょう。

再発防止策:対症療法から本質是正へ

再発防止の第一歩は「なぜなぜ分析」

エラー発生時は、再発防止策を急ぐ前に「なぜそのミスが起きたのか?」をしっかり掘り下げることが重要です。

単に「注意不足」「手順違反」で終わらせず、「なぜ注意が足りなかったのか」「なぜ手順を守れなかったのか」と五回ほど「なぜ?」を繰り返して深掘りします。

これにより、表面的な是正策では到達できない、本質的な要因=真因の洗い出しが可能となります。

エラー情報の水平展開とナレッジ共有

同じミスが別工程や他の工場・部署で発生しないようにするためには、失敗事例の迅速な情報共有が欠かせません。

「ヒューマンエラー白書」など簡易なレポートでよいので、現場で起きたミスや未然事例を集約し、定期的に配信・共有する仕組みをつくりましょう。

「恥を隠す文化」から「ナレッジを活かす文化」への転換が、組織の底力を押し上げます。

人の成長・組織の成熟を促す教育体系

ヒューマンエラー防止には、現場力の底上げも重要です。

単なる研修や座学の繰り返しではなく、OJT(現場教育)や、ヒューマンエラー事例発表会の定期開催などを通じて、個々人の気づき力・危険予知能力を育てる仕組みを整えましょう。

また、担当ごとに必須可視化スキルやダブルチェック方法を明確に決めると、属人化リスクが低減できます。

昭和の現場から脱却するために必要なマインドセット

「現場は変わらない」という思い込みを打破する

長年同じやり方を続けてきた現場では、“昭和的慣習”が根強く残っています。

「今さら変えても効果がない」「ウチの現場にDX導入なんてムリだ」といった諦めこそが、エラーの温床です。

むしろ小さな現場こそ、改善インパクトが大きいことを認識しましょう。

現場の声を積極的に吸い上げ、トップが率先して「変えること」「変わることの価値」を示すリーダーシップが問われます。

“人のミス”を責めず、“仕組みの不備”に目を向ける

一度のミスで叱責したり評価を下げたりすることは、現場の隠蔽体質を助長します。

「誰でもミスは起こすもの」という前提で、「なぜ起こったのか?」を一緒に考える姿勢が信頼を生みます。

人がミスをしにくくなる仕組みへと“攻めの改善”を進めることが、持続的な成長には欠かせません。

バイヤー・サプライヤー視点でのヒューマンエラー対策の重要性

バイヤーに求められるリスク管理視点

バイヤーの立場では、サプライヤーの現場でヒューマンエラーが頻発すれば、大きな納期遅延やコストアップ、品質問題につながりかねません。

だからこそ、サプライヤーのエラーレポートや未然防止策の有無を確認し、場合によっては改善提案やQCD(品質・コスト・納期)維持のためにエラー原因の共有を求める姿勢が大切です。

サプライヤーがバイヤーの期待に応えるには

一方、サプライヤーの現場担当や管理職は、バイヤーがどのような観点でエラー管理を重視しているのかを理解しましょう。

「我が社の現場はなぜこの防止策を取っているのか」「どういった仕組みでミスを再発させないのか」を論理的・体系的に説明できる体制は、中長期的な取引継続や信頼構築の要です。

また、ヒューマンエラー対策の進化・デジタル化に取り組むことで、他社との差別化や新規案件獲得につなげるチャンスにもなります。

まとめ:ヒューマンエラーゼロを目指して現場全体で進化を

ヒューマンエラーは決して「人の能力」の問題だけではありません。

現場の仕組み、作業環境、そして組織文化すべてを包含する、広い視点での改善が必要です。

未然・再発防止のためには、ポカヨケやデジタル化といった具体策のみならず、日々のKY活動や情報共有、そして変化を恐れない現場マインドの醸成が大切です。

いま目の前の一つのミスも、放っておけば大きな事故につながりかねません。

現場に関わるすべての人たちが一丸となって、ヒューマンエラーに真正面から向き合い、製造業の未来を切り開いていくことを切に願います。

バイヤーやサプライヤー職の方にも、本記事が現場力向上と信頼構築の一助になれば幸いです。

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