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投稿日:2025年7月3日

電磁波工学で実現するアンテナ小形化高性能化設計入門

はじめに:製造業が直面するアンテナ設計の新しい課題

製造業が抱える課題の一つに、無線通信機器の高性能化と並行した小形化要求の高まりがあります。IoTの進展、自動車やインフラ設備でのワイヤレス利用拡大により、あらゆる現場でアンテナ設計はより高度なものが求められている現状です。

従来の昭和的アナログ志向では、アンテナ寸法を物理法則のまま大きくとることでゲインを稼ぎ、設計も経験則と勘に頼る部分が多く、設計変更への柔軟性を欠いていました。しかし、現代ではスペースや質量の制約、開発期間短縮、通信品質の向上という要求が複雑かつ同時に求められています。この潮流を受け、電磁波工学に基づく理論とラテラルな発想が、現場を大きく進化させる鍵となっています。

電磁波工学の基礎とアンテナ小形化への応用

アンテナ設計の基礎理解:電磁波の本質

アンテナは「受信・送信」を司る最前線です。その動作原理は、マクスウェル方程式に代表される電磁波工学に由来します。簡単に言えば、導体を通じた電気エネルギーが空間を伝搬する際の――すなわち電気信号が空間に「漏れ出す」現象を効率的に活用したものがアンテナです。

伝統的なλ/2ダイポールアンテナ(波長の1/2が長さ)は、基礎知識として多くの現場マンが学びます。しかし、実務においては「物理サイズを如何に制限するか」が主課題となり、電磁波工学がここで本領を発揮します。

アナログ的な思考から理論的・最適化設計へ

アンテナ小形化における典型的問題は、物理サイズの縮小が必然的に性能(ゲイン、帯域幅、効率)の犠牲につながることです。このトレードオフ解消に向けては、単なる伝統解法(大きく作って後からカットする、基板設計を丸投げする)から脱却し、「共振原理」「高誘電率材料利用」「メタマテリアル応用」といった電磁波工学理論の導入が有効です。

特に、誘電率の高い材料を使うことで、電波の等価波長を縮め、見かけのアンテナサイズを小さくしつつ共振ポイントを維持できます。また、共振構造を多重化する(フラクタル形状・折り返し・蛇行)ことで、同一面積で多帯域対応すら実現しています。

アンテナ小形化の具体的手法と現場での応用

誘電体アンテナとメタマテリアル活用

近年注目されているのが「誘電体アンテナ(DRA: Dielectric Resonator Antenna)」です。伝統的金属素子アンテナと異なり、高誘電率セラミックスなどを用いることで、同一周波数で著しく小さな体積で高効率を実現します。

メタマテリアル技術も、ここ数年で急速に脚光を浴びています。これは、自然界にはない微細な構造を人工的に作り出すことで、「負の誘電率」「負の透磁率」といった異常な電磁特性を持たせ、放射特性やサイズ・ビーム指向性を自在に制御します。特殊な実装や工程管理は必要ですが、従来困難だった形状制約下での性能維持に繋がります。

フラクタル・蛇行アンテナ設計(ラテラル発想の妙)

近年よく使われるラテラルシンキングの成果が「フラクタルアンテナ」です。これは幾何学的な自己相似パターン(例:コッホ曲線やシェルピンスキー三角形)をアンテナ素子形状として用い、同一面積で長い媒体長を確保したり、複数帯域特性を持たせたりします。設計最適化ツールと電磁界シミュレータの発展で、この手法は非常に現実的なものとなっています。

蛇行・折り返しアンテナも同様に有効です。従来は「省スペース対策の苦肉の策」でしたが、場の分布や誘起電流の流れを正確にシミュレーションすることで、利得や指向性を高めつつ小型化が実現できます。技術者一人ひとりの経験則に頼るのではなく、再現性ある仮説検証・設計が可能な時代なのです。

高性能化設計のポイントと製造現場での落とし穴

現場でよくある誤解:材料選定と組立精度軽視

アンテナサイズを小さくして設計図通りに量産部材を発注した――が、通信モジュールに組み込んだとたん性能が激減した、といった事例は現場で多発します。原因の1つは、材料定数の”ばらつき”、および生産現場での実装ズレです。

ハイエンドな電磁場シミュレータで設計しても、採用部材の誘電率や寸法公差、基板取り付けずれ、部品周辺に配置される配線や筐体金属の影響を正確に織り込まなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。量産時には組立冶具精度・検査装置・現品確認など、アナログ的”現場力”も極めて重要です。

トータルサプライチェーンの視点での最適化

DX化が叫ばれながらも、部品サプライヤーやEMSベンダーの現場では今なお「図面と現物だけが頼り」「現物合わせ」の文化が根強く残ります。アンテナ小形化・高性能化に成功する現場は、サプライチェーン全体で情報連携・課題共有ができている点が共通しています。

バイヤーの立場では、設計・生産技術・品質部門を巻き込んだVA/VE活動を早期から仕掛け、現場やサプライヤーの細かな技術情報・ノウハウも収集しつつ、設計意図と量産要件を明確に伝える調整力が必須。しかし、下請け部材メーカーの側としても「なぜその形状が必要か」「材料や工程のどこまで変えて良いのか」など顧客意図を深く理解することが、長期的信頼関係やビジネス拡大に直結します。

今こそラテラル思考と電磁波工学で差別化を

アンテナ小形化・高性能化への挑戦は、電磁波工学の基礎理論と現場の泥臭い実践知、そしてそれらをつなぐ「ラテラル(水平的)思考」の掛け合わせにあります。既存の設計定石だけでなく、新しい材料やパターン、最適化手法、そして工程管理手法までも貪欲に取り込むことで、他社と差をつけることができます。

また、「バイヤー vs サプライヤー」という対立型関係ではなく、情報を”分かち合って成長するパートナー”として、製造現場目線・顧客目線の両軸から課題解決を図っていく意識が不可欠です。その推進役として、各現場エンジニアやバイヤー、サプライヤー担当者が知識を磨き、異分野の話題にも柔軟にチャレンジする姿勢が求められます。

まとめ:アンテナ設計の未来と読者へのメッセージ

アンテナ小形化・高性能化は、単なる「技術トレンド」ではなく、製造業の競争力を真に左右するコアテーマです。電磁波工学という固い理論だけでなく、設計現場の経験知・現場間連携・サプライチェーン全体の最適化が合わさることで、新しい価値が生まれます。

今後ますますIoTや自動車、5G/6G通信など応用範囲が広がるなか、新たなラテラル思考や自主的な学びがイノベーションのカギとなります。アンテナ設計をはじめとした製造業の課題解決に、皆さんが自分なりの知見と情熱を活かして貢献されることを、心から期待します。

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