投稿日:2025年6月3日

排熱(廃熱)を有効利用するための各種最新技術とその応用例

はじめに ― 製造業における排熱有効利用の重要性

現代の製造現場は、エネルギーコストの高騰、環境規制の厳格化、カーボンニュートラルへの社会的要請といった大きなうねりの中にいます。

特に、工場から発生する排熱(廃熱)は、エネルギーの損失源であると同時に、有効活用できれば新たな価値源へと転換するポテンシャルを秘めています。

昭和期から「もったいない」の精神が根付いてきた製造業ですが、現代はそれを単なる精神論でなく、データ駆動・テクノロジーの活用によって、数字として成果を生み出す時代です。

この記事では、私自身の工場長、調達・生産・品質管理の経験を総動員し、排熱の最新有効利用技術と、その現場応用のポイント、さらにバイヤーおよびサプライヤー双方の視点から業界動向を掘り下げて解説します。

排熱(廃熱)とは何か ― 基本の整理と現場での現実

排熱発生のメカニズム

製造業の現場では、加熱・冷却・摩擦・化学反応など様々なプロセスでエネルギーを消費し、その副産物として必ず「排熱」が発生します。

ボイラー、炉、プレス、成形機械、コンプレッサー、更にはモーターや空調設備など、予想外の場所からも熱が捨てられています。

多くの現場では、この排熱のほとんどが「当たり前に捨てるもの」という固定観念に縛られてきました。

しかし、最近は熱量の見える化や、熱回収設備の導入が日本の製造業で静かに進みつつあります。

排熱の種類と温度帯

排熱は温度帯によって「高温(200℃以上)」「中温(100~200℃)」「低温(100℃未満)」に分類されます。

これによって有効利用の難易度や用途が大きく変わります。

特に、低温排熱こそ産業界全体の“宝の山”であり、これを如何に利用するかが鍵となります。

排熱の最新有効利用技術 ― 実践的カテゴリ別アプローチ

廃熱利用技術は年々進化しています。

ここでは、現場で実装が進む代表的なものと、その応用例を具体的に紹介します。

1. 熱交換器の高効率化・高度化

もっともベーシックなのは、廃熱を別の工程へ再利用するための熱交換技術です。

従来は“加熱プロセス同士をサンドイッチするプレートタイプ”が主流でしたが、近年は断熱性・流体制御性の高い新型熱交換器が登場し、小型・省スペース・メンテフリー傾向へと進化中です。

応用例としては、炉から出る高温ガスの排気を利用し、予熱工程や、工場の給湯・暖房へ熱供給するといった使い方が多いです。

面白い動向では、化学・食品・医薬業界など、クリーンな熱が求められる工場で“クロスコンタミリスク”をきわめて低減した二重管式熱交換器の導入も進んでいます。

2. 吸収式冷凍機による冷熱化・冷房補助

昭和の大型工場にもよくあった「蒸気を使う吸収式冷凍機」ですが、現代は排熱でも十分に駆動ができ、電気消費を抑えた冷房として再注目されています。

とくに中温域(120~180℃)の廃熱を使い、夏場の空調負荷を大幅に引き下げる“空調一体型の省エネ工場”が各地で実現しています。

自動車部品工場、精密部品工場、半導体工場など、空調安定性が生産に直結する現場での採用が加速中です。

また、設備リプレース時に、従来の電動チラーから排熱利用へ切り替える事例も目立ちます。

3. 発電(コージェネレーション・ORC等)へ活用

コージェネレーション、すなわち「熱電併給」型設備の導入も伸びています。

ガスタービンやガスエンジンによる発電設備の排熱は、ボイラーとして再利用できます。

さらに注目なのは「有機ランキンサイクル(ORC)」を使った低温排熱発電です。

70℃~100℃程度の排熱をフロンなどの低沸点媒体に通してタービンを回し、電気に変える小型設備が国内メーカーから複数登場。

これにより、これまで“価値がない”と思われてきた低温排熱まで利益化が可能となりました。

食品、紙パルプ、繊維、ゴム、化学系の工場では既に導入実績が出てきています。

4. ヒートポンプによる熱リサイクル

比較的低温域の排熱を有効利用する技術として近年急成長しているのがヒートポンプです。

回収困難な40~60℃の排熱を“敷地内の別工程の加熱”や“給湯設備の温度引き上げ”へ利用することで、工場全体の熱利用効率を格段に改善できます。

特に、熱のマネジメントが難しい混流工場や多品種生産現場で、ヒートマップ解析と組み合わせて最適配分するソリューションが広がっています。

導入事例から学ぶ ― 現場目線での応用例

大手自動車部品工場:コンプレッサー排熱の給湯転用

10万個/月を超すプレス部品を量産するこの工場では、空気圧コンプレッサーが24時間稼働しており、大量の熱が生じていました。

以前はそのまま工場外へ排気していましたが、「もったいない」という発想から、これを工場の従業員用給湯(シャワー・食堂)や、冬場の暖房補助へ転用。

専用の熱交換システムを後付けし、年間500万円以上のエネルギーコスト削減を実現しました。

食品工場:低温排熱のヒートポンプ活用

食品工場では、40~60℃の洗浄排水やオーブン冷却ラインからの熱が大量に発生します。

特に冷蔵・冷凍+加温工程が混在するため、排熱ヒートポンプを用いて、冷蔵室で生じた“放熱”を給湯や予熱へ使い回す熱融通ネットワークを実現。

結果、エネルギーの自家消費比率アップに成功し、CO2排出量も大幅削減できました。

中小製造業:ORCによる小型発電システム

機械加工や染色など、小ロット生産の現場では、発電設備を新設する資本余力がありません。

そのような現場向けに、既存ボイラーや乾燥炉の廃熱を活用したパッケージ型のORCユニットを導入。

“副産物の電気”は工場内設備用に使用し、停電リスク低減・エネルギー安全保障を同時に実現している現場が増えています。

バイヤー、サプライヤーそれぞれの視点からみた排熱活用のトレンド・課題

バイヤーが重視する視点:経済性・将来性・SDGs貢献性

調達・購買担当の立場から見ると、排熱利用機器やシステム導入の際にポイントとなるのは「投資回収期間(ROI)」「運用工数(現場負担)」「既存設備との親和性」「サステナビリティへの訴求効果」です。

また、海外拠点・グローバル展開を行う企業の場合、「現地規制(例:CO2削減義務)への準拠」「スコープ1・2のカーボンフットプリント削減」が評価指標となります。

本質的に「使い捨て(waste)を減らせる現場=生産安定性も向上する現場」なので、工場長・現場リーダーとのダイレクトな意思疎通がますます重要です。

サプライヤー視点での差別化ポイント

サプライヤー側に求められるのは、「省エネ機能だけでなく、維持管理性・安全性・拡張性」まで一体となった提案力です。

単なる省エネ設備の“スペックカタログ売り”や補助金頼み営業では、激化する競争環境を勝ち抜けません。

「データドリブン運用」や「エネルギーの見える化」「IoTによる予知保全」など、先進技術とソリューションを組み合わせた課題解決型提案がカギとなります。

また、アナログ思考が根強く残る一部中小現場向けには、シンプルかつ“安全・メンテ性重視”のアプローチも依然として需要があります。

今後の動向 ― デジタル変革・脱炭素の時代へ

省エネ大賞等で名を馳せた企業の多くが取り入れ始めているのが、「デジタルツインによる熱エネルギーマネジメント」です。

現場に熱流センサー・データロガーを敷設し、AIが最適な熱配分や負荷分散をリアルタイムで指示。

これにより、従来の経験と勘だけでは見逃してきた「熱の遊休資産」を余すところなく活用する潮流が加速しています。

また、2024年度から始まるカーボン排出量取引制度、規模別CO2可視化の義務化により、排熱利用技術は「競争力の源泉」として重要度が増しています。

まとめ ― 排熱有効利用は“現場価値”創出の新フロンティア

排熱(廃熱)の有効利用は、単なるコストカットやSDGs対策の枠を超え、「現場の生産価値そのもの」を高める戦略的手段となっています。

技術は日進月歩で進化しつつ、アナログな現場の「もったいない精神」こそが、デジタル変革・脱炭素社会への架け橋となります。

バイヤーやサプライヤーの立場を問わず、根本にあるのは「自社の現場をベストにアップデートし続ける意識」です。

それが、昭和から令和へ、日本の製造現場が次代を切り拓くカギではないでしょうか。

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