投稿日:2025年7月2日

鉛フリーはんだトラブル事例解析と最新材料技術活用法

はじめに:鉛フリーはんだ導入の背景と現場の悩み

鉛フリーはんだは、2006年施行のRoHS指令を皮切りに、エレクトロニクス分野を中心とした製造業で広く使用されるようになりました。

従来の鉛入りはんだは低コストかつ取り扱いも容易だったため、今なお「鉛フリー化の流れに乗り切れない」という現場や業界も少なくありません。

一方で、急速なデジタル化やSDGsを掲げるグローバル企業との取引を目指す場合、鉛フリー化は必須要件です。

この移行の過程で、
・はんだクラック
・ウィスカ発生
・接合信頼性低下
・設備費の増大
など多くのトラブルに直面するようになりました。

本記事では、製造現場でよく発生する「鉛フリーはんだトラブル事例」と現場視点に立った原因解析、さらに最新材料技術の実践的活用法を解説します。

バイヤーを目指す方、サプライヤーとして顧客のニーズを徹底把握したい方にも、鉛フリー時代の競争力確保のヒントとなるでしょう。

鉛フリーはんだ特有の主なトラブル事例

鉛フリーはんだ化によって最も大きく変わったのは「組成」と「融点」です。

これにより従来鉛入りはんだでは見られなかったトラブルが多発しています。

1. ウィスカ(Whisker)発生問題

鉛入りはんだ時代には無縁だった「ウィスカ」(金属の微細なヒゲ)の発生が、鉛フリー化により深刻化しました。

ウィスカは電気的ショートや誤作動の要因となり、特に長寿命・信頼性重視の自動車、医療、産機分野では致命的となります。

主な発生原因はスズ(Sn)(多くの鉛フリーはんだの主成分)特有の金属応力ですが、
・不適切なメッキ前処理
・異物混入
・部材応力
など複合的な要因が絡み合っています。

現場目線では、部品供給時点、はんだ付けラインでの扱い、完成品保管体制まで全工程でのリスク管理が必要です。

2. はんだクラック・割れの多発

鉛フリーはんだは「融点が高く、脆性破壊しやすい」という欠点があります。

従来品と同じ温度プロファイル・基板設計のままでは、鉛フリー導入後に
・リフローはんだ付け後の接合部クラック
・熱衝撃・振動での割れ
が激増します。

物流センターでの「冬の冷却・夏の高温」など、工場内だけでなく保管流通まで要注意です。

3. 接合強度不均一化による信頼性低下

主成分がスズとなったことで「ぬれ性」の低下が問題化しました。

その結果、部品リード・ランドとの密着度が不均一となり
・部分的なボイド・空洞
・微細な未接合ゾーン
が増加。
高密度実装基板や小型モジュールでは顕著な歩留まり低下を誘発します。

はんだペーストの取り扱いや印刷環境管理も、鉛フリー時代は従来以上の現場管理が必須です。

現場で起こったリアルなトラブル「事例」とその分析

長年の現場経験で実際に目にした事例から、よくあるトラブルをピックアップし、その背景や教訓を共有します。

事例1:量産直後のリフロー品で突発的な「全数不良」

ある大手家電メーカーで、鉛入りから鉛フリーへラインを急遽変更。

同じ設備、同じプロファイルで稼働したところ、
「リフロー工程」で想定外のぬれ不良・クラックが多発。
工程テスト時には問題なかったのに、朝一番の本番ロットでいきなり発覚しました。

<原因>
・鉛フリー化で融点が上昇(約180℃→220℃台)
・現場の温調担当者が試作ラインと同じ設定で運転
・加熱不足・冷却タイミング不適切で結晶粗大化・脆性化

<対策>
・リフロー炉のプロファイルを再設定(昇温・ピーク・冷却各過程見直し)
・材料メーカーと協業し最適フラックス選定
・現場作業者教育の徹底

鉛入り時代の「経験」だけに頼ると、材料物性の大きな変化に吸収されてしまう実例です。

事例2:海外サプライヤーのメタルマスク変更トラブル

日系メーカーがEMS(海外受託工場)に生産委託。

鉛フリー品の温度設定に合わせて現場判断で「はんだペーストマスクの孔径」を微調整。
この結果、現地製造分だけ顕著にコンタクトピン部でショートが多発。

<原因>
・鉛フリーはんだはぬれ性が異なり、ペーストの広がりが大きく異なる
・現地担当者は鉛入り経験のみで「目視検査パスならOK」思考

<対策>
・日本側設計部門と毎週Webカンファレンス設置
・全拠点でペースト銘柄、マスク工程と実装条件を標準化
・現地の「目視OK」基準への過信を排除

グローバル分業が進む今、自社だけでなく「協力会社の現場認識」まで監督する重要性が高まっています。

最新の鉛フリーはんだ材料技術の動向と現場活用法

近年、材料メーカー各社が「鉛フリー特有の問題克服」を目指して高機能はんだ・アロイ改良を加速しています。

ここでは、導入しやすい代表的な技術やその活用ポイントを解説します。

1. 銀(Ag)添加型鉛フリーはんだの採用拡大

一般的なSn-Ag-Cu(SAC)系(例:SAC305)は、スズ+銀+銅の合金です。

銀(Ag)の適切添加によりウィスカ抑制・ぬれ性改善・機械的強度向上が期待できます。

ただし銀量が多いとコスト・供給リスクが高まるため、自社事情に合わせた最適バランス選定が必要です。
調達・購買担当者は、部品点数や用途、納入先(車載・医療など信頼性要求)が高い場合ほど、トータルコストだけでなく長期信頼性データも重視しましょう。

2. 新規微量添加元素による改質技術

・ビスマス(Bi)やアンチモン(Sb)、インジウム(In)などの微量添加
・酸化抑制や接合状態安定化
・特殊フラックス組成によるぬれ性・リペア性向上
など、多様な新技術が上市されています。

これらを採用する場合、従来の検査基準や加熱・冷却プロファイルが使えない場合もあるため、
必ず製造現場・品質保証部門との密接な連携を進めてください。

3. 業界横断で「工程ごと標準化・自動化」進展中

従来の手作業・目視頼みから、
・リフロー装置のAI自動プロファイル調整
・画像AIによる接合部リアルタイム検査
・IoT化による工程トレーサビリティ自動確保
など、工程全体の効率・標準化も進んでいます。

この流れは「昭和型アナログ現場」でも徐々に浸透を始めており、人任せ期から「誰でも安定的に鉛フリー品が作れる」時代へ移行する足音が聞こえています。

バイヤー・サプライヤー視点で押さえておくべき「鉛フリー」時代の交渉・選定ポイント

製造メーカーのバイヤーや、サプライヤーに立つ方にとって、今後の交渉で重要なのは「価格」一辺倒ではありません。

材料物性と現場力、両面を冷静に俯瞰できる視点が欠かせません。

1.「長期信頼性」まで視野に入れた材料選定

鉛フリー導入後は「数年後に不良が発生」するケースも多く、「短期の歩留まり」だけで材料を選ぶと、後戻りできないトラブルを招きます。

調達・購買では
・サプライヤーの長期追跡データ(温度サイクル/熱衝撃/暴露試験)
・トレーサビリティ体制
・現場支援力(技術サポートまで含む)
を確認しましょう。

2.「標準化された現場ノウハウ」を納入先も含めて管理

自社工場と外注・協力会社、両方で同一品質を維持できる「標準作業手順書」「工程監査」体制の整備が不可欠です。

現場担当者の属人的ワザや“勘”に頼る時代から、誰でも安定的に扱えるレシピ・教育体制の構築へ、組織全体で転換していくことが求められます。

3. 新技術を「臆せず小さく実験」し続ける文化

材料の進歩は日進月歩ですが、「全量切替」や「一発OK」を狙うより、まずは
・小ロット・1工程だけのパイロットテスト
・異常をすぐ洗い出せる現場参加型実験
で「手を使って確認する」ことが、昭和的現場でも最短で成功する近道です。

これを繰り返すうち、現場と購買・サプライヤーの三位一体で最適解を見つける“現場力”が醸成されていきます。

まとめ:鉛フリーはんだトラブルの本質的克服と“強い現場”作り

鉛フリーはんだの時代は、単なる材料置き換えの域を超え、
・材料の知識
・現場プロセス全体のバランス管理
・そして技術の進化への俊敏な適応
これらすべてを組み合わせて初めて「安定した高品質」が実現します。

日本の製造現場が昭和以来強みとしてきた「現場力」を、鉛フリー時代にどうアップデートするか。

バイヤー、サプライヤーを問わず
・異変を見逃さず小さく速く実践し続ける
・材料メーカー、現場、設計・購買部門が互いの壁を超えて協働する
これは最先端技術も、泥臭い現場も、欠かせない共通項です。

自社だけでなく業界全体の進化を見据え、鉛フリーはんだのリスクとチャンスを「現場の手」で掴み、次代の日本型ものづくりを再び世界に誇れるものにしていきましょう。

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