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MISRA-Cによる信頼性の高いソフトウェア開発実践講座

MISRA-Cによる信頼性の高いソフトウェア開発実践講座
はじめに:産業現場を支えるソフトウェアの進化とリスク
日本の製造業が支えてきた“モノづくり”の現場では、20年前と比較してもソフトウェアの重要性が飛躍的に高まっています。
自動化機器、ロボット、IoTデバイス、あるいは組込制御まで、今や「現場のもの作り」はソフトウェアなくして成立しません。
一方で、昭和から脈々と続くアナログな現場文化や、熟練者の暗黙知による職人気質が、DX推進やソフトウェア開発の現場にも強く根付いています。
このような状況下で、信頼性の高いソフトウェアをどうやって開発するかという課題がますます大きくなっています。
本記事では、製造業の現場経験をベースに、産業用組込ソフトウェア開発で避けて通れない「MISRA-C」について、バイヤー/サプライヤー双方の立場もふまえ、現場の実践的視点で掘り下げていきます。
MISRA-Cとは何か?~業界標準のガイドライン~
MISRA-Cは、「車載電子機器の安全性確保」を目的としてイギリスの自動車業界団体MISRAによって策定されたC言語のプログラミングガイドラインです。
複雑化・大規模化する組込ソフトウェアの信頼性や安全性を担保するため、
「バグを埋め込みやすい危険な書き方」
「解釈があいまいで予測不可能な動作」
「移植性が下がるC言語の癖」
などを排除し、安全に動作するコードを推進する指針となっています。
当初は車載業界向けでしたが、今やFA機器、医療機器、航空宇宙分野などでも採用が拡大しています。
工場設備でも制御ボードやHMI(ヒューマンマシンインターフェース)、F/W部分などにMISRA-Cの導入を求めるバイヤーが増えています。
MISRA-Cが製造業にもたらすメリットと課題
① 事故や不具合の“根本原因”をつぶす
従来のアナログ現場では、「原因不明の誤作動」「再現性の低いバグ」「現場での応急対応」といった問題が日常的に発生していました。
それらの多くは、ソフトウェア側の設計・実装ミス、メモリ破壊、未定義動作によるものでした。
MISRA-Cは、“危ない書き方”を明確に禁止することで、根本的なバグの埋め込みを防ぎます。
これにより製造ラインのトラブル発生率や保守コスト、クレーム件数も大幅削減します。
② 安全文化の浸透と「属人化」の排除
特に昭和的な職人文化が根強く残る業界ほど、「コードは書いた人しか分からない」「引継ぎできない」という現場が多数あります。
MISRA-C導入は、「誰が見ても同じルールで保守できる」「設計者不在でも安心して使い続けられる」文化醸成に役立ちます。
品質管理部門や第三者検証チームによるコードレビュー、設計審査の効率も飛躍的に向上します。
③ バイヤーとしての調達リスク最小化
バイヤー(調達担当)は、サプライヤーから組込ソフトや制御システムを調達する際、「現場導入後のトラブル」=「納入責任リスク」の回避が命題です。
MISRA-C対応を要件に盛り込むことで、潜在的なバグリスク、後回し・隠れた品質問題を事前に排除できます。
またサプライヤー選定基準としても、技術力・品質文化の可視化指標になります。
④ サプライヤー・組込ベンダーのプレミアム価値
サプライヤー側にとっても、MISRA-C適合は「高品質企業」のブランディングに直結します。
競合との差別化・VA提案、海外展開時のアドバンテージにもなります。
一方、単なる「ガイドライン遵守」だけでなく、「いかに現場の要件に沿った運用・開発文化を築くか」が重要です。
製造業現場でMISRA-C対応を実現するためのステップ
1. 現場視点での優先度付け(リスクベース)
すべての機器、すべてのソフトウェアで完全準拠を目指すのは非現実的です。
「安全系」「直接制御系」「止まると致命的損失が出るライン」など、リスクが高い部分から優先的に導入しましょう。
また既存設備・レガシーソフトにも段階的なリスク低減策としてMISRA-C適用範囲を拡大していくことが現実的です。
2. MISRA-C準拠の具体的手法
・コーディングルールブック作成
・静的解析ツール(PC-Lint, Coverity, Cppcheck, QA·C など)の導入
・手動レビュー(ペアプログラミングやクロスチェック)
・ドキュメント管理とトレーサビリティ確立
ルールブックの更新や教育プログラムの整備も定期的に必要です。
サプライヤーへの仕様提示・エビデンス提出を求める際には、具体的な適用範囲・例外規定も明記しましょう。
3. 課題:現場に根付くアナログ文化の壁
「禁止事項が多すぎて開発が遅れるのでは?」
「現場のベテランがルールに反発して進まない」
「正直、納期優先で“形だけ”の運用になりがち」
こうした現場の悲鳴もよく耳にします。
MISRA-Cは“目的”ではなく“手段”です。
「安全稼働させ、現場トラブルを防ぎ、守るため」にルール化されていることを全員で共有し、現場に根付く職人倫理と両立させるサポートが必要です。
業務のQCD(品質・コスト・納期)バランスを考慮し、現場で合意形成・段階的運用が不可欠です。
バイヤー・サプライヤーで得するMISRA-C運用Tips
バイヤー視点:要求仕様の明確化
調達入札や仕様検討フェーズで、MISRA-C対応レベルを「全数準拠」なのか「クリティカル部分のみ」を明記し、定量的なゴール設定をしましょう。
サプライヤー評価には、「MISRA-C準拠体制」「関連教育・評価体制」「過去実績」などの定性指標も加えると、よりレベルの高いパートナー選定に寄与します。
サプライヤー視点:現場提案型のバリューチェーン構築
「お客様のMISRA-C要求を単に守る」だけでなく、「なぜこのルールが必要か」「現場でどう役立つか」を現場担当・バイヤーと一緒に考え、運用提案まで踏み込むことで信頼感はさらに強化されます。
教育・解析ツール導入の工夫、抜け道対策、現場フィードバックサイクルなど「しくみ」で支えることが該当します。
アナログ現場でMISRA-Cを根付かせるための要諦
現場で長年培われてきたアナログ文化と、MISRA-Cのような“設計品質・運用標準”は一見対立します。
しかし双方の橋渡し役(現場経験豊富なエンジニア・管理職)が「安全・安定稼働の現場価値」を言語化し、MISRA-Cをそのための“守りの手段”と発信することが重要です。
また定期的な教育&現場レビュー、失敗事例の共有、MISRA-C遵守による価値実感(故障・クレーム低減例など)の「見える化」が、現場文化醸成には不可欠です。
まとめ:これからの製造業に不可欠な“デジタル品質管理”へ
工場や設備のソフトウェア化にともない、不具合の“影響度”や“ダメージ”は年々大きくなっています。
単なる「人の注意」や「ベテランの勘」では防げない時代に、MISRA-Cを活用した信頼性の高いソフトウェア開発は、バイヤー・サプライヤー双方にとって大きな武器です。
昭和的職人文化を尊重しつつ、「ルール=自分たちを守る手段」と考えるラテラル思考が、現場改革と真のものづくりイノベーションにつながります。
本記事が、業界の発展・安全・効率向上の一助となれば幸いです。
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