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ダイカストを発注するとき決めること——材料・巣と含浸・寸法の等級・後加工代

この記事のポイント(結論先出し)
アルミニウム合金ダイカストの JIS(H 5302)は、記号(ADC12 など)と化学成分を決めているが、機械的性質は受渡当事者間の協定としている[1]。図面に「ADC12」と書いただけでは、強度は何も約束されていない。ダイカストには鋳巣の発生が避けられず、機械加工で内部の鋳巣が出ると圧漏れの原因になる[3]。規格は、補修は注文者が認めた場合に限り、漏れ止めの処理(含浸)は注文者の承認を得て行えるとしている[1]。だから発注書には、加工する面と許す鋳巣、気密の試験、含浸の可否を書く。寸法は図面の指定がなければ鋳造品の寸法公差の規格(JIS B 0403)が適用される[1][2]。
目次
「材質 ADC12」で決まること
アルミニウム合金ダイカストの規格 JIS H 5302 は、ADC1・ADC3・ADC5・ADC6・ADC10・ADC12・ADC14 などの JIS 独自の合金と、ISO の合金を基にした Al Si9 などの種類を、記号と化学成分で定めている[1]。ADC12 は Al-Si-Cu 系で、規格の参考欄には「機械的性質、被削性、鋳造性がよい」とある。ADC12Z は ADC12 より亜鉛の上限が高く(ADC12 が 1.0 % 以下、ADC12Z が 3.0 % 以下)、参考欄では耐鋳造割れと耐食性が ADC12 より劣るとされている[1]。図面の「ADC12」を仕入先が「ADC12Z でも同じ」と読み替えないよう、記号は末尾まで正確に書く。
ここまでが規格で決まる範囲である。規格の品質の項は、化学成分を表で決める一方、機械的性質は受渡当事者間の協定によるとしている[1]。機械試験も受渡当事者間の協定による[1]。規格の附属書の対比表には、ISO 規格にあるダイカストの機械的性質の指針値は極めて良質な別鋳込み試験片によるもので、製品から切り出した試験片には適用できない、と理由が書かれている[1]。
つまり、発注者が強度を必要とするなら、どの部位から切り出した試験片で、何を、どの値で確かめるかを、発注者が決めて書くしかない。カタログや材料便覧の ADC12 の引張強さを、そのまま製品の合格値にしてはいけない。
材料の地金と、分析の成績書
材料は、ダイカスト用アルミニウム合金地金の規格 JIS H 2118 による。協定によっては、鋳物用アルミニウム合金地金の JIS H 2211 も使える[1]。化学成分の成績書について、規格は、製造業者は注文者の要求がある場合に化学分析試験の試験成績書を提出する、としている[1]。求めなければ出てこない書類なので、必要なら発注書に「溶解ロットごとの化学分析成績書を提出」と書く。
表示も決まっている。ダイカストまたはその梱包容器には、規格番号と種類またはその記号、製造番号、製造業者名またはその略号を、貼付ラベルなど適切な方法で表示する[1]。受入では、この製造番号と成績書の番号が対応しているかを見る。
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鋳巣は「なし」にできない前提で書く
ダイカストは、金型に溶けた金属を高い圧力・高い速度で押し込んで作る。鋳造工学会誌に載ったダイカスト技術の歴史の解説は、高圧高速充填という製法から、ダイカストには空気の巻込みによる鋳巣が内在し、ダイカスト技術の歴史は鋳巣との戦いといってもよい、と書いている[4]。ADC12 のダイカスト製品の鋳巣を X 線 CT で調べた研究も、製品内部にガス欠陥や引け巣といった鋳巣の発生は不可避で、鋳巣は機械的性質の低下や圧漏れの原因になる、としている[3]。
規格の外観の要求は、表面が平滑で、有害な割れ・鋳巣などの欠陥があってはならない、である[1]。「有害な」が何かは書かれていない。発注書に「鋳巣なきこと」と書いても、ダイカストでは達成できない要求になり、受入で必ず揉める。書くべきは、どの部位で、どの大きさの鋳巣まで許すか、それをどう確かめるか、である。鋳物一般の内部欠陥の受入基準の決め方(検査方法・等級分類・合格等級を分けて書く)は鋳物の材質と内部欠陥の受入基準で扱っている。
加工すると鋳巣が出てくる
先の研究は、コンプレッサーに機械加工を施した場合、内部の鋳巣が露出するため圧漏れが発生する、と書いている[3]。鋳放しの表面は緻密でも、削った面には内部の鋳巣が顔を出す。量産の鋳造と機械加工を別々の仕入先に出していると、加工の仕入先で巣が見つかり、責任がどちらにあるかで揉めやすい。
実務の提案として、図面で次を分けておく。
1. 機械加工する面と、その削り代
削った分だけ鋳物の内部の層が加工面になる。削り代の決め方は鋳造品の規格の削り代の等級を使う(下の節)。
2. 加工面で許す鋳巣の大きさと数
シール面・ねじ穴・軸受の穴など機能に効く部位は厳しく、それ以外の加工面は緩く、と部位で分ける。
3. 加工後に見つかった鋳巣の扱い
鋳造の仕入先に返すのか、加工の仕入先の段階で選別するのか、費用をどちらが持つのかを決める。
選別にかかった費用を仕入先に請求できるかは、受入基準が発注時にどう書かれていたかで決まる。考え方は流出不良の選別費は請求できるかで扱っている。
気密を要求する部品
ダイカスト品の鋳造欠陥の対策を解説した 1989 年の文献は、欠陥を外部欠陥・内部欠陥・寸法欠陥・材質欠陥と、それ以外の欠陥(主として気密性不良など)に分けている[5]。同じ文献は、湯口や金型の分割面の設計によってガス抜きが難しくなると気密不良が著しく発生することがあり、鋳造方案の基本設計で発生する欠陥の種類と位置の大要が決まる、と書いている[5]。
購買の立場で読み取れるのは、気密の要求は図面の段階で仕入先に伝えないと、金型の設計に反映されないということである。気密を要求する部品なら、試験の方法(加圧する媒体・圧力・保持時間・漏れの判定)と、全数か抜取りかを、見積依頼の時点で書く。金型ができてから要求を足すと、方案の変更と金型の修正が要る。
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含浸と補修:注文者の承認が要る
H 5302 は、ダイカストは埋め金や溶接などによって補修してはならず、欠陥部分が小さくて注文者が使用上差し支えないと認めたときに限り補修できる、としている[1]。そのうえで、注文者の承認を得て漏れ止めの処理を行うことができる、と定めている[1]。
漏れ止めの処理として広く使われてきたのが含浸である。先の歴史の解説は、ダイカストの気密性確保として無機含浸処理が 1960 年代に、有機含浸処理が 1980 年代に導入された、としている[4]。鋳巣の研究も、従来の鋳巣対策として有機溶剤や無機溶剤を鋳巣に含浸させる方法があるとし、同時に、時間のかかる含浸処理は生産性を下げ、溶剤の利用は環境への負荷が大きいとも書いている[3]。
規格の書き方を発注の言葉にすると、こうなる。
1. 含浸を認めるかどうかを、発注書に書く
認めないなら「漏れ止めの処理を行わないこと」。認めるなら、どの工程(機械加工の後か前か)で、どの種類の処理を、全数か不合格品だけかを書く。
2. 補修を認める範囲を書く
規格は注文者が認めた場合に限るとしているので、黙っていれば補修は認めていないことになる。認める場合の大きさ・部位・方法と、記録の残し方を書く。
3. 承認の記録を残す
仕入先から「含浸してよいか」と聞かれて口頭で了承すると、後で処理の有無が追えない。承認は文書で行い、どのロットに処理したかを成績書に載せてもらう。
表面処理を後工程に持つなら、処理の仕入先にも含浸の有無と工程の順番を伝え、処理の条件に影響がないかを確かめてもらう。めっきの指定の書き方はめっきの発注で指定すること、化成処理は三価クロメート・化成処理の指定で扱う。
寸法:何も書かなければ JIS B 0403
H 5302 は、ダイカストの寸法は図面によるとし、寸法許容差は注文者の指定によるが、特に指定がない場合は JIS B 0403 の規定を適用する、としている[1]。鋳造品の寸法公差と削り代の規格 JIS B 0403 の中身(公差等級 CT、削り代の等級、型ずれ、肉厚の扱い、図面への書き方)は鋳造品の普通許容差と削り代の指定で詳しく扱う。ここではダイカストに関わる部分だけを挙げる。
| 項目 | JIS B 0403 での扱い(ダイカスト) |
|---|---|
| 長期間製造する鋳放し品の公差等級(参考) | 軽金属 CT 5〜7、亜鉛合金 CT 4〜6、銅合金 CT 6〜8(規格末尾の参考表 1)。附属書 A の表 A.1 は、圧力ダイカストの等級を当分の間は受渡当事者間で協議するのがよいとしている[2] |
| 削り代の等級(参考) | 圧力ダイカストは B〜D[2] |
| 抜けこう配の普通許容値(アルミニウム合金) | 寸法 3 mm 以下で 10 度、3 を超え 10 mm 以下で 5 度、10 を超え 40 mm 以下で 3 度、40 を超え 160 mm 以下で 2 度、160 を超え 630 mm 以下で 1.5 度[2] |
| 抜けこう配の普通許容値(亜鉛合金) | 同じ寸法区分で 6・3・2・1.5・1 度[2] |
| ダイカストの普通寸法公差(附属書 4) | 型分割面に平行な方向と直角な方向、可動中子で作る部分で許容差を分ける。附属書には 5 年を経過した時点で廃止予定との記載がある[2] |
附属書 4 の表は、型分割面に平行な方向の寸法と、直角な方向の寸法(鋳物の投影面積で区分)、可動中子で作る部分を分けて許容差を決めている[2]。型の合わせ目をまたぐ寸法ほど狂いやすいので、図面に型分割面の位置が描かれていないと、どの許容差で見るかが決まらない。見積の段階で、仕入先に型分割面と可動中子の位置を提案させ、合意した位置を図面に戻す手順を入れるとよい。
鋳放しで保証できる寸法と、加工が要る寸法
ダイカストの寸法を論じた 1991 年の技術報告は、ダイカストの寸法精度は金型の寸法精度に依存するところが非常に大きいとしたうえで、軸間ピッチの穴、ねじ穴、軸受穴などのボスの内径寸法や部品同士の接合面(パッキング面)は、機械加工を施さないと要求精度を満たさない状態だ、と書いている[6]。同じ報告は、金型が新しいうちは寸法精度がよくても、使っている間に老朽化して寸法精度が悪くなる、とも書いている[6]。
購買の実務で言えば、鋳放しで保証させる寸法は金型の摩耗とともに動くので、量産の途中でも寸法の確認を続ける必要がある。金型の更新や修理をいつ、誰の費用で行うかは、金型の所有と保管の取り決めとあわせて決めておく。射出成形の金型と同じ論点で、考え方は射出成形の金型を発注するときで扱う。同じ報告は、溝部が摩耗したときに交換できるよう、O リング溝やガスケット溝などの重要部分を入れ子にしておく設計例も挙げている[6]。
見積依頼・発注書に書くことの一覧
| 項目 | 規格が決めていること | 発注側が書くこと(提案) |
|---|---|---|
| 材料 | 記号と化学成分[1] | 記号(末尾の Z まで)、地金の規格、分析成績書の要否 |
| 機械的性質 | 受渡当事者間の協定[1] | 必要なら、切り出す部位・試験方法・判定値 |
| 鋳巣 | 有害なものがないこと[1] | 部位ごとの許容(大きさ・数)、確かめる方法 |
| 補修・含浸 | 注文者が認めた場合に限る/承認を得て行える[1] | 可否、工程、範囲、記録の方法 |
| 気密 | 規定なし | 試験の媒体・圧力・保持時間・判定、全数か抜取りか |
| 寸法 | 指定がなければ JIS B 0403[1][2] | 公差等級、型分割面の位置、加工する面と削り代 |
受入の基準は発注時に
公正取引委員会のテキストは、取適法がかかる取引について、受領拒否が認められる場合を限ったうえで、検査基準が明確でないために委託内容との違いが明らかでない場合や、発注後に検査基準を恣意的に厳しくして従来なら合格だったものを不合格とする場合は、受領を拒めないとしている[7]。ダイカストで起きやすいのは、鋳巣の許容を決めずに発注し、加工後に巣が出たロットを「不良」として返す形である。許容の範囲と確かめ方、含浸を認めるかどうかは、発注の時点で書く。
よくある質問
ADC12 の強度はどこで確かめればよいですか
規格は機械的性質を協定にしている[1]。強度が設計上必要な部位があるなら、その部位から切り出した試験片の値を試作の段階で確かめ、量産では頻度を決めて確認する。別に鋳込んだ試験片の値は製品の値の代わりにならない、というのが規格が ISO の指針値を採らなかった理由である[1]。
X 線で全数検査すれば鋳巣の問題はなくなりますか
鋳巣の研究は X 線 CT で鋳巣の量と形を測っている[3]が、受入で全数を CT にかけるのは費用と時間の面で現実的でないことが多い。どの部位のどの大きさまでを許すかを先に決め、試作では切断や透過試験で確かめ、量産では工程の条件管理と抜取りの確認を組み合わせる(当方の提案)。
図面に公差の注記がありません
指定がなければ JIS B 0403 が適用される[1]が、等級までは決まらない。図面に公差等級を書くよう設計部門に戻すのが確実である。注記の書き方は図面の一般注記に何を書くかで扱う。
まとめ
ADC12 などの記号が決めるのは化学成分までで、機械的性質と機械試験は協定である[1]。ダイカストの鋳巣は避けられず、加工面に出ると漏れの原因になる[3][4]。補修は注文者が認めた場合に限られ、含浸などの漏れ止めの処理は注文者の承認を得て行う[1]。気密の要求は金型の設計に関わるので見積の段階で伝え[5]、寸法は公差等級と型分割面、加工する面を図面で分ける[2][6]。これらを発注の時点で書いておくことが、受入で合否を決める前提になる[7]。
出典・参考資料
- JIS H 5302:2006 アルミニウム合金ダイカスト(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 7 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0403-1995 鋳造品-寸法公差方式及び削り代方式(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1995 年 2 月 1 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- 半谷禎彦ほか「ADC12 アルミニウム合金ダイカスト製品中の鋳巣量及び形状に及ぼす圧縮処理の影響」鋳造工学 Vol.78, No.11(日本鋳造工学会/2006 年)
- 菊池政男「20 世紀における我が国の鋳造技術の進展 VI. ダイカスト技術の進展」鋳造工学 Vol.72, No.12(日本鋳造工学会/2000 年)
- 植原寅藏「ダイカスト品の鋳造欠陥対策」鋳物 Vol.61, No.12(日本鋳造工学会/1989 年)
- 岩田晃雄「アルミニウム合金ダイカストの Near Net Shape 化技術」鋳物 Vol.63, No.3(日本鋳造工学会/1991 年)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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