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射出成形の金型を発注するとき決めること——取り数・試打ちの合格基準・受領日と所有

この記事のポイント(結論先出し)
射出成形の金型は、部品の単価に混ぜて決めると、あとで「何を買ったのか」が分からなくなる。発注の段階で、取り数・ランナーの方式・成形機に載せる条件・試打ちの合格基準・寿命の約束・図面とデータの扱い・所有と保管を、部品の注文とは別に書面で決めておく。物品の製造に専ら使う金型の製造を他社に委託することは、取適法の「製造委託」に含まれる[1]。取適法の対象になる取引なら、金型にも明示と支払期日の決まりがかかり、金型が仕入先の手元に残る場合の受領日は、あらかじめ合意しておかないと決まらない[1]。
目次
金型代を部品単価に含めると、何が決まらないまま残るか
樹脂部品を新しく外注するとき、「金型代 ○○ 万円、部品単価 ○○ 円」と見積が来て、そのまま発注することは多い。このとき決まっているのは金額だけで、金型そのものの仕様、いつ受け取ったことになるのか、量産が終わったあと誰が持つのかは、多くの場合どこにも書かれていない。金型代を部品の単価に上乗せして回収する形(いわゆる償却の上乗せ)にすると、金型の代金を払い終えた時点さえはっきりしなくなる。
問題が表に出るのは、たいてい数年後である。仕入先を変えようとしたら金型を引き取れるのかで揉める、型が壊れて作り直しになったら費用をどちらが持つのかで揉める、量産が終わった型の保管を求められる。金型を他社に移したら成形機に載らなかった、という話もある。どれも、発注の時点で決めておけば済んだことだ。
この記事は、樹脂の射出成形品を外注する側が、金型を発注するときに書いておくことを整理する。成形品そのものの寸法公差の決め方は、樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱った。材料のグレード指定と代替品の承認は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認にある。ダイカストの金型はダイカストを発注するときで扱う。
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金型の製造委託も、取適法の「製造委託」に入る
取適法(中小受託取引適正化法)は、製造委託の定義の中に、物品の製造に専ら用いる金型、木型その他の物品の成形用の型、治具などの特殊な工具の製造を他の事業者に委託することを含めている[1]。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、「専らこれらの製造に用いる金型」を、目的物の外形をかたどった物品で、その性質上ほかの製品には使えず、その製造に専ら用いられるものと説明している[1]。
つまり、資本金や従業員の基準で取適法の対象になる取引であれば、金型の発注にも、発注内容を明示する義務と、受領日から 60 日以内に支払期日を定める決まりがかかる。部品の注文書だけを出して、金型については見積書の一行で済ませていると、金型の発注について明示すべき内容が抜けることになる。発注書に書く項目そのものは発注書の 4 条明示 12 項目で整理しているので、金型でも同じ項目を埋める。なお、公正取引委員会は「受領後 60 日以内」を「受領後 2 か月以内」として運用しており、月末締め翌月末払いで受領から 61〜62 日目の支払になる場合も支払遅延として扱っていない[1]。支払期日の数え方は支払期日の起算日と遅延利息で扱っている。
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金型が仕入先の手元に残るとき、受領日はいつか
金型は、作った会社や部品を成形する会社の工場に置かれたまま使われることが多い。発注した側が金型を一度も手にしないので、いつ受け取ったのか(支払期日の起算日はいつか)が曖昧になる。テキストの Q&A(Q85)は、この点を次のように整理している[1]。
- 発注した側に金型の占有が移ることを前提にしている場合は、原則どおり金型の受渡日が受領日になる
- 発注した側が金型を持たない場合でも、金型の受領場所を部品メーカーに指定して明示していれば、金型メーカーから部品メーカーに納入された時点が起算日になる
- 金型がどこにも納入されず仕入先の手元に残る場合は受領の時点が明確でないため、あらかじめ「その金型を使った最初の試打ち品を受け取った時点を金型の受領日とする」と合意していれば、その時点を受領日とする扱いが示されている
3 つ目は「合意しておけば」という条件付きである。合意がないまま「試打ち品が来たら払う」と運用すると、どの時点から 60 日を数えるのかで争いになる。金型の発注書か取引基本契約に、受領場所と受領日の扱いを一文入れておく。
仕様書に書く項目
金型の仕様は、金型メーカーや成形メーカーに「お任せ」にされやすい。設計そのものは任せてよいが、成形品の数量・品質・コストに効く項目と、あとで金型を移したり引き取ったりするときに効く項目は、発注側が決めて書く。
| 項目 | 書かなかったときに起きること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 取り数(1 回の成形で何個とるか) | 単価と金型代の比べ方がそろわない。キャビティごとに寸法がばらつく | 4 個取り。キャビティ番号を成形品に刻印 |
| ランナーの方式 | 金型代・納期・保守の手間が見積ごとに違う前提になる | コールドランナー/ホットランナー(ゲート方式も) |
| 成形機に載せる条件 | 別の成形工場に移したとき取り付けられない | 使う成形機の型締力の範囲、ロケートリングの規格と呼び寸法 |
| 型の材料と寿命の約束 | 早く摩耗しても、どこまでが金型側の責任か決められない | 成形材料と予定の総生産数量を伝え、保証する成形回数とその定義を書く |
| 試打ちの回数と合格基準 | 何回直せば「完成」なのか決まらない。基準の後出しになる | 試打ち品の測定項目、個数、合格の判定基準 |
| 金型図面・加工データ | 型を作り直すとき、他社に移すときに使えない | 納品物に含めるか、含めるなら対価をいくらにするか |
| 所有・保管・廃棄 | 量産終了後の保管と引き取りで揉める | 所有者、保管場所、保管費用、廃棄の申し出への回答期限 |
| 識別表示 | 工場の中でどの型が誰の物か分からなくなる | 型番号・所有者名を型本体に表示 |
取り数は、単価と品質の両方に効く
取り数を増やせば 1 個あたりの成形の手間は減るが、金型代は上がる。見積を比べるときは、取り数をそろえて出してもらわないと、単価と金型代のどちらが安いのかを正しく比べられない。
もう一つは品質への影響である。多数個取りの金型では、ランナーの形や配置によってキャビティごとに樹脂の流れ方が変わり、同じ品質の成形品をそろえる金型設計が課題になると、射出成形の研究で指摘されている[5]。同じ研究は、表面に模様(シボ)のある多数個取りの金型で、キャビティ間の樹脂の流れ方の違いが成形品の表面の状態に影響することを確かめている[5]。発注側にできることは、キャビティ番号を成形品に刻印させ、試打ちと量産初期の測定をキャビティごとに出させることだ。不良が出たときにどのキャビティかを特定でき、全部のキャビティを止めずに済む。刻印の位置や内容をどう指定するかは部品の識別表示の指定で扱う。
ホットランナーにするかどうか
ホットランナーは、樹脂の通り道(ランナー)を溶けた状態に保ち、ランナーを成形しない方式である。成形加工学会誌の解説は、長所として成形サイクルが短く材料のロスが少ないこと、短所として構造が複雑で温度制御も要るため金型コストが高いこと、金型の納期が長くメンテナンスが難しいことを挙げ、生産数量が一定以上あれば金型の償却コストが相対的に下がると説明している[4]。
つまり、どちらが得かは総生産数量で決まる。発注側が予定の数量を伝えずに金型を依頼すると、仕入先は自社の得意な方式で見積を出す。見積を比べる前に「予定の総数量はこれだけ、この方式で」と前提を書いておく。ホットランナーには、ゲートの開け閉めの方式にも種類があり、成形品に残るゲートの跡の見え方が変わる[4]。外観に関わるなら、ゲートの位置と跡の許容範囲も図面か仕様書に入れる。
成形機に載るかどうかは、移すときに効く
金型は、作った工場の成形機に合わせて作られる。別の成形工場に移すと、成形機の大きさや取り付けの寸法が合わないことがある。中国に進出した日系の自動車部品メーカーのプレス金型取引を調べた研究は、日本で作った金型の図面・データを中国に持ち込む際も、日本と中国でプレス機械の仕様が違うため、その部分の修正を現地で行っていたと報告している[3]。
射出成形の金型では、成形機に取り付けるときの位置決めに使うロケートリングについて JIS B 5111 があり、種類(A 形・B 形・AJ 形・BJ 形)と、呼び寸法・内径による表示のしかたを定めている[2]。規格品を使うか、どの呼び寸法かを仕様書に書いておけば、移管先の成形機に合うかを先に確かめられる。将来ほかの工場で成形する可能性がある型なら、使う予定の成形機の型締力の範囲も書いておく。
試打ちの合格基準は、発注時に書く
金型が完成すると、試し打ち(試打ち)をして成形品を測り、直しながら仕上げていく。何回目の試打ちで、何を測って、どこまで合えば完成とするのかが決まっていないと、仕入先は直し続けることになり、発注側は後から基準を足したくなる。
取適法のテキストは、金型の製造を委託している発注側が、従来の基準では合格していた金型について検査基準を一方的に変え、無償でやり直しを求めた事例を、不当なやり直しの違反行為として挙げている[1]。基準を厳しくしたいなら、それは発注内容の変更であり、費用を誰が持つのかを含めて協議して決める。受け入れたあとのやり直しや返品の決まりは受領拒否・返品・やり直しで整理している。
実務では、次の点を仕様書に書いておくとよい(ここからは発注側の進め方の提案で、規格や法令の要求ではない)。
- 試打ちで測る項目(図面の寸法のうち、どれを全数測るか)と、測る個数(キャビティごとに何個か)
- 成形の条件を記録させること(樹脂の温度、金型の温度、射出の条件など)。量産で同じ条件を再現するため
- 完成と判断する基準と、判断する人(発注側の誰が承認するか)
- 試打ち品の受領を金型の受領日とするなら、その旨(前の章の Q85 の扱い)
試打ちで合格したあと、量産に入る前に何を出させて承認するかは量産承認で仕入先に何を出させるかで扱った。金型の試打ちと量産承認を一回で済ませるのか、分けるのかも、ここで決めておく。
寿命の約束は、「何をもって寿命とするか」まで書く
金型の見積には「保証ショット数 ○○ 万回」のように、何回成形できるかが書かれることがある。ただし数字だけ書いても意味は決まらない。ここからも実務の提案になるが、次の 3 点をそろえて書く。
1. 何を伝えるか。成形材料(グレードと、繊維などの充填材の有無)と、予定の総生産数量を金型メーカーに伝える。型の材料や熱処理はそれを前提に選ばれるので、伝えずに頼むと、安い型の見積と長く使える型の見積が混ざる。
2. 寿命の終わりを何で判断するか。成形品の寸法が図面を外れたときか、バリが一定以上出たときか。修理や部品の交換で戻せる範囲は寿命に含めるのか。
3. 途中で壊れたときの費用。約束した回数より前に、通常の使い方で壊れたり摩耗したりしたら、修理・作り直しの費用は誰が持つのか。逆に、約束した回数を超えて使い続けるときの更新の費用はどうするのか。
成形回数を数える仕組みがなければ、約束の回数に届いたかどうかも分からない。成形した数を記録させ、定期的に報告させることを一緒に決めておく。
図面・データ、所有、保管と廃棄
金型図面と加工データは「誰の物か」を先に決める
金型の図面と加工データは、型を作り直すときや、ほかの工場で同じ型を作るときに必要になる。前出の中国のプレス金型取引の研究は、日本で外部のメーカーが作った金型の図面・データは、技術の流出につながりかねないため社外への持ち出しの承認を得にくく、中国で改めて作り直す必要が生じていたと報告している[3]。
取適法のテキストには、金型の製造を委託している発注側が、海外で作った方が安いため、仕入先が作った金型の図面・加工データを対価を払わずに出させて海外の事業者に渡した事例が、違反行為の例として載っている[1]。図面・データが必要なら、発注時に「納品物に含める」と決めて、その対価を金型代に入れる。後から無償で出させるのではない。この類型の考え方は有償支給材と金型代——発注側が踏みやすい禁止行為で詳しく扱っている。
所有と保管は、量産が終わる日を見越して決める
金型の代金を払ったから自社の物、とは限らない。所有者、保管する場所、保管とメンテナンスの費用、量産が終わったあとの扱い(引き取るのか、廃棄するのか、いつまで保管するのか)を、金型の発注のときに書いておく。量産終了後の型を無償で保管させ続けることがどう問題になるかは、上の記事で取適法テキストの類型とあわせて整理している。ここでは繰り返さない。
実務では、型の本体に型番号と所有者を表示させ、型の台帳(どの工場に、どの型が、何回使われたか)を発注側でも持つ。海外の工場に置いた型ほど、所在と状態が分からなくなりやすい。
よくある質問
金型代を部品単価に上乗せして回収する形にしてもよいですか
取引の形としてはありうるが、その場合は金型の代金をいつ払い終えるのか(何個で回収が終わるのか)、途中で発注をやめたら残りをどう精算するのかを決めておく。金型の製造委託として取適法の対象になる取引なら、金型の受領日から 60 日(運用上は 2 か月)以内に支払期日を定める決まりがあるので、部品代への上乗せで何か月もかけて回収する形がその決まりと合っているかを確かめる[1]。
試打ち品が届いた日を金型の受領日にしたいのですが
金型が仕入先の手元に残る場合で、あらかじめ当事者間で合意しているなら、最初の試打ち品を受け取った時点を金型の受領日とする扱いがテキストに示されている[1]。合意は書面に残す。金型を自社や部品メーカーに納入させる場合は、その受渡しの日が基本になる。
金型を別の成形メーカーに移したいと言ったら、断られました
所有と移管の条件を発注時に決めていなかった場合に起きやすい。まず金型の発注書・契約書で所有者と移管の扱いを確かめる。決まっていなかったなら、移管の費用と時期を話し合って書面にする。次の金型からは、所有・移管・図面データの扱いを最初に書く。
まとめ
射出成形の金型は、部品の注文に付いてくるおまけではなく、別に仕様と条件を決めて買う物である。取り数とランナーの方式は単価と品質を、成形機の条件は将来の移管を、試打ちの合格基準と寿命の定義は「どこまでが仕入先の責任か」を決める。物品の製造に専ら使う金型の製造委託は取適法の製造委託に含まれるので、対象の取引なら明示と支払期日の決まりがかかり、金型が仕入先の手元に残るなら受領日の扱いを先に合意しておく。図面・データと所有・保管・廃棄は、量産が終わる日を見越して最初に書く。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- JIS B 5111:2000 プラスチック用金型のロケートリング(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2000 年 12 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- 中国における日系自動車 1 次部品メーカーの取引優位性——プレス金型取引にみる欧米系メーカーとの比較から(兼村智也/国際ビジネス研究 第 3 巻第 2 号/2011 年)
- ホットランナ金型(福島有一/成形加工 第 25 巻第 12 号/2013 年)
- 射出成形品の表面性状に関する研究 第 2 報——多数個取り金型内の樹脂温度及び圧力の影響(児玉勝洋ほか/成形加工 第 21 巻第 10 号/2009 年)
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