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投稿日:2026年10月2日

部品の識別表示の指定——刻印・ラベル・2 次元コードと読み取りの等級

この記事のポイント(結論先出し)

部品への識別表示を「品番刻印のこと」とだけ書くと、何を書くか、どの方法で、どこに、どれだけ読めればよいかが仕入先任せになる。2 次元コードは、データマトリックスなら JIS X 0512 が、ISO/IEC 15415 の印刷品質の考え方に拡張と修正を加えたもので品質を評価するよう定めている[2]。NASA の直接部品マーキングの規格(2016 年 2 月 20 日からは新規設計に使わない扱い)は、マーキング時点の品質を等級 B 以上、使用中は C 以上とし、削る・焼くなど表面を変える方法では多くの用途で深さを部品の厚さの 10 分の 1 以下にするなどを決めていた[1]。読み取りの合否を数値で決めないと、刻印できても読めないことがある[5]。発注では、表示内容、方法、位置、品質の判定、表面処理との順番、記録を決めておく。

「刻印のこと」だけでは決まらない 4 つのこと

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図面の注記に「品番・ロット番号を刻印のこと」とある部品は多い。しかし、この一行からは次の 4 つが決まらない。

  • 内容:品番だけか、図面の版や製造ロット、個体の番号まで入れるか
  • 方法:打刻、レーザー、インク、ラベルのどれか
  • 位置と大きさ:どの面に、どれだけの大きさで入れるか
  • 読み取りの合否:目で読めればよいのか、読み取り装置で何回読めればよいのか、どの等級以上か

このうち 1 つでも仕入先の判断に残ると、受入で「入っているが読めない」「入れてはいけない面に入っている」「表面処理の後で消えた」といった食い違いが起きる。とくに 2 次元コードは、人が見ても良否が分からないので、合否の決め方を先に決めておかないと受入で判定できない。

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何を表示するか

ロット単位か、1 個ずつか

表示の内容は、後で何をたどりたいかで決まる。鋳造工学の技術報告は、ダクタイル鋳鉄の生型造型ラインで、各部品に識別番号を刻印するマーキングロボットと製造条件の自動計測システムを組み合わせ、製品の個体と製造・品質データを紐付けられるトレーサビリティの仕組みを作った例を報告している。報告は従来の部品管理を「ロット単位」、新しい方法を「1 個単位(個体マーキング)」と対比している[3]。不具合が出たときに、その 1 個がどの溶湯・どの鋳枠で作られたかまでたどりたいなら個体ごとの番号が要り、ロットまでで足りるならロット番号で済む。

品番の書き方を決める

自社の品番を表示させるのか、仕入先の品番なのかも決めておく。注文書と現品で品番が違うと、受入の照合で迷う。品番の対応づけの考え方は自社品番と相手品番をどう紐づけるかで扱った。図面の版を表示に含めるかどうかは、図面の版の指定と改訂の合わせ方と合わせて決める。

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情報量と大きさは引き換えになる

2 次元コードに入れる文字が増えるほど、セルの数が増え、同じセルの大きさならコードは大きくなる。NASA-STD-6002D は、2008 年に承認され、2016 年 2 月 20 日の変更で新規設計には使わない扱いになった NASA の規格である。以下ではこの規格に書かれていた考え方を、一般の部品で使える部分に絞って紹介する。同規格は、マーキングの方法ごとにセルの大きさと、データの量に応じたシンボルの大きさの例を示していた。インクジェットの例は次のとおりである[1]。

入れるデータ(典型的な文字数) マトリックスの大きさ シンボルの大きさ(インクジェット・セル 0.030 インチの例)
品番・企業識別子・シリアル番号(29 文字程度) 24 × 24 0.720 インチ(18.288 mm)
企業識別子・シリアル番号(13 文字程度) 18 × 18 0.540 インチ(13.716 mm)
シリアル番号のみ(7 文字程度) 12 × 12 0.360 インチ(9.144 mm)

この大きさに、後で述べるコードの周りの余白が加わる。小さな部品では、入れたい情報が入る面が無いことがある。その場合は、部品には個体番号だけを入れ、品番や仕様は番号から台帳で引く、という分け方も考えられる。アルミニウム合金鋳物の例では、鋳造直後の約 500℃の製品にドットピンマーカーで 2 次元コードを刻印し、シリアル番号に加えて製造年月日・鋳造条件・納品履歴を一元管理する仕組みにしていた。約 300 項目にのぼる製造情報は、コードに詰め込むのではなく工場内からデータサーバーへ自動転送している[4]。

方法を選ぶ——表面を変えるか、上に足すか

NASA-STD-6002D は、表示の方法を大きく 2 つに分けていた。表面を削る・焼く・溶かす・変形させるなどして表面そのものを変える「侵入的な(intrusive)マーキング」と、インクジェット、レーザーボンディング、シルクスクリーン、ステンシル、薄膜の堆積のように表面に材料を足す「非侵入的な(non-intrusive)マーキング」である[1]。打刻やレーザー彫刻は前者に入る。

選び方について、同規格は次のように定めていた[1]。

  • 壊れると危険な状態を招く安全上重要な部品には、非侵入的な方法を推奨する
  • 安全上重要な部位への侵入的なマーキングは、文書化して承認を得る
  • 多くの用途で、マーキングの深さは部品の厚さの 10 分の 1 を超えてはならない
  • 塗装などで被覆された面に侵入的なマーキングをした場合は、腐食を防ぐために被覆し直す

規格は宇宙機器の部品を対象にしたもので、そのまま一般の部品の要求になるわけではない。ただ、「打刻は強度に影響しうる」「被覆を破れば錆びる」という点は、どの部品にも当てはまる考え方として使える。なお同規格は、電気・電子・電気機械部品(EEE 部品)の表示には使ってはならないとしており、ラベルやタグのような一時的な識別表示も扱っていない[1]。電子部品の表示と真贋の確かめ方は電子部品の模倣品を避ける調達で扱った。

ラベルで表示する場合は、ラベルが規格の「永久的な表示」に入らないことを前提に、耐熱・耐薬品・はがれにくさを用途に合わせて別に決める。JIS X 0512 は、ラベルの重なり、透き通し、曲面や凸凹面がシンボルの読みやすさに影響しうるとして、ラベルやパッケージ構成でのシンボルの適合を確認することを挙げている[2]。

位置と余白を決める

2 次元コードは、周りに何もない余白(クワイエットゾーン)が要る。JIS X 0512 は、データマトリックスについて、最小のクワイエットゾーンを四方ともモジュールの幅(X 寸法)と同じとし、シンボルに隣接した過度な反射ノイズを抑える必要がある用途では 2X〜4X を推奨している[2]。NASA-STD-6002D は、表面仕上げのばらつきを理由に、NASA の計画ではこれをシンボルの最も長い辺の 10% に広げていた[1]。

同規格は、特に指示がない限りデータマトリックスを付けてはならない場所として、人や物の往来の多い場所、高度に研磨された曲面、直接の気流にさらされる場所、高熱源の近く、シール面、摩耗面を挙げている[1]。シール面と摩耗面は一般の部品でも機能に直結する。図面では表示の位置を寸法で示すか、「この面には表示しないこと」を明記しておくとよい。組み立てた後に読む必要があるなら、読み取り装置の光が届く位置かどうかも確かめる[1]。

読み取りの合否を数値で決める

JIS X 0512 は、データマトリックスのシンボルは ISO/IEC 15415 が定める 2 次元マトリックスシンボルの印刷品質のガイドラインに、この規格の拡張と修正を施したものを用いて品質を評価しなければならないとしている[2]。また、ドットピンやインクジェットのように連続したモジュールを 1 本のベタ線で作れないマーキング技術では、モジュールの間隔に特別な注意が要るとも書いている[2]。

NASA-STD-6002D は、シンボルのコントラストなど 6 つの項目について等級ごとの値を決め、総合の等級を最も低い項目の値で表す。NASA の計画では、マーキング時点の最低の等級を B、使用中は少し劣化することを見込んで C までを許容し、使用中や修理後に C を満たさない表示は再表示の手続に回すとしていた[1]。コントラストについては、確実に読める最低の差を 20% とし、使用環境での劣化を見込んでマーキング時点では 40% を最低としていた[1]。

数値で決めることの意味は、実際の工程の事例からも分かる。鋳造工学会の講演で報告されたカムシャフトの鋳造ラインでは、製造条件や材質検査結果を 2 次元コードでレーザー刻印し、カメラで読んだ出来栄えを点数(マッチングレベル)で評価して、70 点を下回ると読み取り NG としていた[5]。読み取り NG の要因を分析すると、刻印装置の仕様にあった照射距離「168 mm ± 21 mm」は刻印が可能な範囲であって適正な範囲ではなく、目標の 90 点以上を得るには ± 3 mm で管理する必要があったという[5]。「刻印できる」と「確実に読める」は別の条件で、後者は数値で決めて工程で管理しないと守れない。

表面処理との順番を決める

めっき・塗装・化成処理をする部品では、表示を処理の前に入れるか後に入れるかで結果が変わる。処理の後に打刻すれば、被膜を破った部分が錆の起点になりうる。処理の前に入れる場合は、処理の後でも指定の等級で読めるかを試作で確かめる。NASA-STD-6002D が、被覆された面への侵入的なマーキングは被覆し直すこととし、摩耗や頻繁な取り扱いで傷みうる表示には保護被覆を求めていたのはこのためである[1]。順番と、処理後に必要な読み取りの等級を一緒に決めておく。めっきの指定はめっきの発注で指定することで扱った。

図面・発注書に書くこと(実務の提案)

以下は規格の要求ではない。表示を仕入先に任せるとき、図面か仕様書に入れておくと受入で判定できるようになる項目である。

1. 内容と書式

品番、版、ロットまたは個体番号、仕入先の識別、製造日など、入れる項目と並び、区切り文字を決める。人が読む文字を併記するかも決める。

2. 方法

打刻・レーザー彫刻など表面を変える方法を使ってよい部位と、使ってはならない部位を決める。ラベルにする場合は、材質と貼る位置、はがれの基準を決める。

3. 位置と大きさ

位置を寸法か図で示し、シール面・摺動面・外観面など表示してはならない面を明記する。コードの周りの余白も含めた大きさで場所を確保する。

4. コードの種類と読み取りの基準

データマトリックスか QR コードかを決める。QR コードは JIS X 0510(2026 年改正・ISO/IEC 18004:2024 対応)が仕様を定めている[6]。読み取りの合否は、何の規格による等級でいくつ以上か、どの装置・照明で検証するかまで決める。

5. 処理との順番

表示を表面処理の前に入れるか後に入れるか、後に入れるなら被膜を補修するかを決める。

6. 記録

個体番号やロット番号と、検査記録の対応をどう残すかを決める。量産を始める前に何を出させて承認するかは量産前に仕入先に何を出させるかで扱った。

受入で確かめること

  • 表示の内容が注文書・図面と一致しているか(読み取った文字列と人の読める文字の両方)
  • 指定した位置に入っており、表示してはならない面に入っていないか
  • 指定した方法・等級で読み取れるか(初回は検証の結果を記録で出してもらう)
  • 表面処理の後でも読めるか、被膜が破れたままになっていないか
  • ラベルの場合、はがれ・浮き・かすれがないか

読み取りの等級や表示の位置を、量産が始まってから付け足すのは避ける。取適法の対象取引で、従来の基準なら合格だったものを、発注後に検査基準を恣意的に厳しくしたうえで委託内容と違うとして受け取らないことは、認められない受領拒否の例として公正取引委員会のテキストに挙げられている[7]。

よくある質問

データマトリックスと QR コードのどちらを指定すればよいですか

どちらも JIS で仕様が決まっている(データマトリックスは JIS X 0512、QR コードは JIS X 0510)[2][6]。自社や顧客の読み取り装置・システムが扱える方、部品に入る大きさの方を選ぶ。顧客から指定があればそれに従う。

表示を間違えたので、上から打ち直してもらってよいですか

NASA-STD-6002D は、承認なしに追加の識別表示をしてはならないとし、元の表示を消すためや誤りを直すために重ねた侵入的な表示が、材料の特性を許容できないところまで下げうると注意していた[1]。新規設計には使わない扱いの規格だが、この注意は一般の部品でも参考になる。打ち直しの可否と方法は事前に決めておき、勝手に重ねないよう仕入先に伝えておく。

ラベルで済ませてもよいですか

使用中ずっと読める必要があるか、出荷と受入の間だけ読めればよいかで決まる。前者なら部品に直接入れる方法を検討し、後者ならラベルでよい場合が多い。ラベルにするなら、貼る面の形と材質で読みやすさが変わる[2]。

輸出梱包にも識別表示が要りますか

部品の識別表示とは別に、木箱やパレットには植物検疫のための処理表示が要る場合がある。こちらは輸出梱包の木材の指定(ISPM No.15)で扱う。

まとめ

部品の識別表示は、内容・方法・位置・読み取りの合否の 4 つを決めないと仕入先任せになる。何をたどりたいかで、ロット単位か 1 個単位かが決まり、入れる情報の量が決まると、必要な面積が決まる。打刻やレーザー彫刻のように表面を変える方法は、強度や被膜への影響を考えて部位を限る。2 次元コードは JIS X 0512 などが品質の評価方法を定めており、読み取りの合否は等級で決めて工程で管理する。表面処理との順番と記録の残し方まで決めて、基準は発注の時点で渡す。図面の注記全体の書き方は図面の一般注記に何を書くかで扱う。

出典・参考資料

  1. NASA-STD-6002D Applying Data Matrix Identification Symbols on Aerospace Parts(NASA/2008 年承認・Change 1 で新規設計には非適用〈2016 年 2 月 20 日〉)
  2. JIS X 0512:2015 情報技術-自動認識及びデータ取得技術-バーコードシンボル体系仕様-データマトリックス(日本産業標準調査会 JIS 検索)
  3. 個体マーキングによる鋳鉄品質トレーサビリティの改善事例(浅田康史ほか/鋳造工学 83 巻 3 号/2011 年)
  4. トレーサビリティによるアルミニウム合金鋳物の品質保証システムの開発(鋳造工学 89 巻 4 号/2017 年)
  5. カムシャフト生産工程におけるトレーサビリティー情報の刻印読み取りNGゼロ化(草野洸太郎ほか/日本鋳造工学会 第 177 回全国講演大会講演概要集/2021 年)
  6. JIS X 0510:2026 情報技術-自動認識及びデータ取得技術-QRコード バーコードシンボル体系仕様(日本産業標準調査会 JIS 検索)
  7. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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