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PETマグネトロンスパッタバリア蒸着と宇宙機材包装透湿率

目次
PETマグネトロンスパッタバリア蒸着とは何か
PET(ポリエチレンテレフタレート)は、食品包装をはじめ多くの産業分野で広く用いられている高分子フィルム素材です。
これにマグネトロンスパッタバリア蒸着という技術が重ね合わさることで、優れたバリア性を持つ素材が誕生します。
この技術によって透明で剛性、耐熱性、そしてガスバリア性に優れた包装材料が実現し、食品や医薬品、半導体、さらには宇宙産業の特殊包装にまで活用の幅が広がっています。
本記事では、現場視点からPETマグネトロンスパッタバリア蒸着の基本、業界全体としての動向、実際の包装設計への適用、宇宙機材分野で求められるバリア特性について解説します。
サプライヤーの戦略やバイヤーの考え方まで掘り下げて紹介しますので、製造業のあらゆる立場の方が現場で実践しやすい内容になっています。
マグネトロンスパッタ技術の基礎とバリア性の向上
マグネトロンスパッタとは
マグネトロンスパッタ(Magnetron Sputtering)は、真空中でアルゴンなどの不活性ガスを用い、ターゲット(金属や酸化物)の原子を高エネルギーでPETフィルム表面に物理的に吹き付けて薄膜を形成する技術です。
従来の真空蒸着やラミネーションより「高密度で緻密な膜」が得られる点が最大の特長です。
この緻密な膜が、酸素や水蒸気などの透過を大きく抑制し、「バリア性」を飛躍的に高めます。
また、処理温度が低いためPETや他の高分子基材の耐熱温度を超えることなく成膜できるのもメリットです。
どんな金属が蒸着されているか
代表的なターゲット材料はアルミニウム、酸化アルミニウム(Al2O3)、シリコン、酸化シリコン(SiO2、SiOx)、酸化チタンなどです。
アルミニウムはコストやバリア性のバランスに優れ、広く使われています。
酸化アルミや酸化シリコンは無色透明なバリアフィルムを可能にします。
特に、近年では“透明バリアフィルム”へのニーズが高まっており、酸化物系や多層膜技術による高機能化が進んでいます。
PETマグネトロンスパッタバリア蒸着がもたらす包装の革新
昭和-平成-令和を貫くニーズの変化
昭和の高度経済成長期、包装に求められるのは「安価に大量生産されたアルミ蒸着フィルムによるバリア性アップ」でした。
しかし、グローバル化や小ロット多品種化に加え、SDGsやフードロス対策、宇宙産業の発展といった時代の転換期を迎える中で、包装材料に求められる要件は格段に多様化しています。
今やバリア性は当然の基礎仕様となりつつあり、「環境対応」や「リサイクル性」、「異分野機能の融合」など、求められる技術水準は年々高まっているのが現実です。
古き良き「ぶ厚いアルミ蒸着フィルム」一辺倒の思考ではこの流れに取り残されかねません。
実際、食品や医薬品用途で発展したバリアフィルムですが、半導体や宇宙分野にまで用途が広がることで、製造・調達・品質・現場管理それぞれのセクションで、全く新しい視点と知見が求められています。
最大の特長は水蒸気透過率(WVTR)、酸素透過率(OTR)の劇的な低減
PETマグネトロンスパッタバリア蒸着フィルムの心臓部は「低WVTR、低OTR」というバリア性能にあります。
・WVTR(Water Vapor Transmission Rate):水分がフィルムを通過する量
・OTR(Oxygen Transmission Rate):酸素がフィルムを通過する量
従来PETにアルミニウムを蒸着したフィルム(VMPET)は0.1~1.0 g/m2/day程度(厚みや条件による)でした。
しかし、スパッタ法を用いた多層酸化物バリアでは0.01g/m2/day以下まで、さらに真空蒸着+スパッタ二重積層で「0.005g/m2/day」レベルまで透過を抑えられる事例も登場しています。
作り方を一工夫するだけで、世界基準のバリア性能を有したパッケージングがローコストに実現できるというわけです。
この進化は、電子部品や医薬品、さらには「宇宙機材の包装」など、微細な劣化要因の遮断が生命線となる分野で高く評価されています。
宇宙機材包装における透湿率(WVTR)の重要性
なぜ宇宙機材包装でバリア性が問われるのか
宇宙機材は組立から打上げ、宇宙空間に到達・運用されるまで、きわめて過酷な条件を強いられます。
打上げ前の地上保管や輸送時には大気中の酸素、水蒸気への暴露、パーティクル汚染が最小限でなければなりません。
電子部品、精密機械、バッテリー、光学機器は特に「水蒸気」による錆・腐食・劣化を極度に嫌う性質があります。
たとえば「水蒸気透過率」が一桁オーダー向上するだけで、保管中の機能劣化リスクは大きく減り、「打上げ直前まで完全状態を維持」することができます。
また宇宙機材包装は、作業現場が寒暖差の激しいクリーンルームや船上、南海の港湾に広がるため、それぞれの環境にも適応できる多機能バリア構造が求められています。
求められる実践的な包装設計
・高いバリア性=低WVTR・低OTRのフィルム層
・帯電防止や静電気対策、帯電防止コート
・強度、耐摩耗性、耐ピンホール性
・輸送過程での耐衝撃性や緩衝構造との組み合わせ
・各国間輸送の認証規格やグローバルルールへの適合
・新しいEOL(End Of Life)対応、すなわち包装材自体のリサイクルや再資源化対応
これらを総合的に設計するには、サプライヤーとバイヤー、エンドユーザーが密に連携し、試作・評価・改良のPDCAを地道に回す「現場の地力」が欠かせません。
とくにバイヤーは「何を包装するのか」「どんなリスクが許容されるのか」「どこまでのバリアレベルが必要か」に明確な議論軸と責任感を持って調達設計を進めなければなりません。
サプライヤー・バイヤーが知るべき現場のリアル
調達側の着眼点:現場クオリティのバリア性能要件とは
調達・バイヤー目線で重要なポイントは、
・「スペック表」だけではわからない現場実力(ロット間バラつき、ピンホール、ライン汚染の実態)
・海外拠点、ジョイントベンチャー生産品の品質安定性
・蒸着膜と基材PETの密着トラブル・白化・カールなど
・装置ごとの差異、ロットトレース、検査・保管工程での再現性
また「最新の多層バリアサンプル」をラボでテストしても、実際の量産ラインや包装ライン組込後で同等性能が確保できるかは慎重に見る必要があります。
「理論上は高性能」でも、現場ではピンホール・膜剥離・熱シール不良でロス続出…という経験、お持ちではないでしょうか。
こうした課題こそ、現場発のフィードバックや、20年来の“アナログ的”現場力をもって解決することが今も変わらず大切です。
サプライヤー側から伝えたい技術者の本音
サプライヤー・加工メーカー技術者にとって、「高バリア化」と「コストダウン」、「安定量産」という要望のバランスは、悩みの種です。
最新スパッタラインをフル稼働させても、バリア性能・透明性・コスト要求のすべてを100点で満たす素材はなかなかありません。
現場のエンジニアは以下のような工夫を重ねています。
・排気条件や原料供給バランスの最適化
・フィルム表面洗浄・前処理強化(バリア性能の安定再現に直結)
・多層スパッタ、多ターゲット成膜による新工法開発
・大量生産と試作のクロスチェック、定期的な拭き取り検査など
もし納品された包装材に小さな問題があれば、仕様やスペックシートだけで片付けず、現場どうしの対話や共同現場トライアルを行うことで、飛躍的に歩留まりやバリア性能が向上することがしばしばあります。
バイヤーが「現場の知恵」「サプライヤー技術者の奥の手」を信じ、一歩踏み込んだ議論を交わすことで、業界全体がレベルアップしていくのです。
これこそがアナログ的な現場力と、最先端薄膜技術との掛け合わせで生まれる日本製造業の底力だと強く感じます。
アナログ的現場力の重要性と川下・川上の協働へ
AI化やDX推進が叫ばれる中でも、製造・包装・品質管理など工場現場は「すぐれた現場観察眼」と「現物、現場、現実の三現主義」をかたくなに重視しています。
なぜなら、薄膜成膜・バリア評価は「微差」が命運を分ける領域だからです。
・異常値は一見同じグラフの裏に隠れていることも多い
・実ロットや現場での再現性が油断すると失われやすい
・アナログ工程のノウハウ(職人による現場微調整)の価値がいまだに高い
調達部門や開発・営業でも現場での「生きた失敗談」「微調整の小ワザ」「製造側とユーザー側の両輪PDCA」を率直に共有する文化作りが大切です。
宇宙機材包装やグローバル対応包装の現場では、数字だけではなく、「現場感」と「エンジニアどうしの気付き」にこそ未来商品モデルのヒントが詰まっています。
アナログ的現場力を武器とした日本製造業こそ、マグネトロンスパッタ蒸着によるバリア包装技術のフロンティアを切り拓けるのです。
新技術×現場知恵の連携を続け、バイヤー・サプライヤー・エンドユーザーが一体となった“現場起点のモノづくり”で、時代の変化にしなやかに対応する体制を築きましょう。
まとめ:PETマグネトロンスパッタバリア蒸着技術は次代製造業の要
PETマグネトロンスパッタバリア蒸着は、単なる高機能材料としてだけでなく、宇宙レベルの要求にも応えうる最先端の包装技術です。
SDGsやグローバルサプライチェーンの拡大、高機能・高信頼性包装の新潮流、さらにはDXと現場力の共存といった時代背景のなか、現場実感を持ったものづくりがより一層重要になっています。
今後もサプライヤー・バイヤー・ユーザーが、それぞれの現場視点を持ち寄り、確かなバリア性能の現実的な担保=製造力の底上げを続けていくことが、製造業の未来を切り開く力になるはずです。
最新技術と現場知に磨きをかけ、明日の製造業を共につくりあげましょう。
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