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モデルベース設計で学ぶPID制御性能向上とデモ実践

目次
はじめに:製造業における制御技術の進化と現場価値
製造業の現場において、制御技術は生産性や品質の基盤となっています。
なかでもPID制御(比例・積分・微分制御)は、装置やラインの安定運転を支える最も基本的な制御アルゴリズムです。
しかし実際の現場では、「PIDパラメータの調整が難しい」「思った通りの制御性能が出せない」「そもそもブラックボックスになっていて全体像が掴みづらい」という声が後を絶ちません。
こうした課題に対し、近年注目されているのがモデルベース設計(Model-Based Design: MBD)です。
本記事では、現場経験やアナログ体質の色濃い製造業ならではの視点を交えながら、モデルベース設計を活用したPID制御の性能向上について、その効果や実践ノウハウを解説します。
また、デモとしてシミュレーションを活用した具体的なアプローチもご紹介し、現場で本当に役立つ“プロの工夫”を余すところなく共有します。
PID制御とは?現場でよくある「お困りごと」
PID制御は、プロセスの目標値(セットポイント)と実際値(プロセス値)の差分(偏差)をもとに、制御対象へ命令(操作量)を出す仕組みです。
PI(比例・積分)のみ、P(比例)だけという簡易型もありますが、汎用的でほとんどの現場で採用されているのがPID制御です。
なぜ現場はPID制御に悩むのか?
PID制御の最大のポイントは「パラメータ調整(チューニング)」ですが、これが意外な難所となります。
– 最適なパラメータ(Kp, Ki, Kd)が分からない
– 設定しても時々暴走(オーバーシュート・ハンチングなど)する
– 装置改造や原料・環境変動に現状設定が合わなくなる
– ベテラン作業者が経験値で感覚調整しており、属人化・ブラックボックス化している
結局「まあ、だいたい動いているから…」と本質的なブラッシュアップまで手が届かない――
それが昭和型の現場あるあるです。
モデルベース設計とは?現場DXの起点になる考え方
モデルベース設計(Model-Based Design:MBD)は、実際の加工ラインや装置全体の挙動を「モデル」(数式やブロック線図、シミュレーション)で再現し、その上で制御技術やロジックを確認・最適化する設計手法です。
本格的なMBDでは、MATLAB/Simulinkなど専門ツールを用いることもありますが、現場での第一歩はもっとシンプルな“挙動可視化”から始まります。
いま話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)の入り口、現場力の底上げとしてもMBDの導入は重要なステップなのです。
従来アナログ現場との親和性にも着目
「うちの現場は古いからモデル化なんて無理」「シミュレーションなんて使いこなせない」――そんな声があって当然です。
ですが、実際はExcelや簡単なフリーソフトでも十分に“モデルベース”の恩恵を享受できます。
大切なのは「現象を数値や可視化で見て、改善サイクルを高速で回すこと」。
属人的な経験知を“見える化”して現場の全員参加でブラッシュアップできることこそ、昭和から令和へと進化する現場力の真髄です。
PID性能向上のためのモデルベース設計:実践手順
PID制御の性能向上をめざし、モデルベース設計を現場でどう役立てるか、その手順をまとめます。
1. モデルによる現状把握
まずは、装置やプロセスの“現象”をモデル化します。
例えば以下のような流れです。
1. 実際の温度や圧力などの応答データを収集する
2. その挙動が一次遅れ、二次遅れ、積分系など、どの典型モデルに近いか評価する
3. Excelや簡単な計算ソフトを使い、応答特性(ゲイン、時定数など)をフィッティングする
この工程で「自分たちの現場のプロセスが、どういうタイプか」を肌感覚からデータベースへ進化させます。
2. PID パラメータの予測・決定
続いて得られたモデルにもとづき、PIDパラメータを理論的アプローチで決定します。
– ゼーゲル・ニコルス法やクローズドループ・チューニングなど古典的アルゴリズム
– モデルと目標性能(応答速度、オーバーシュート抑制)を入力してシミュレーション
– 現場状況に応じて、ロバスト性能や感度解析も積極的に取り入れる
これにより、「なぜその値に設定するのか」「どこまで感度を追い込むべきか」が論理的に根拠を持てるようになります。
3. 実機・ラインでの「シミュレーション&デモ」実践
得られたパラメータや設計ロジックは、まずシミュレーション上や簡易的な疑似ラインで“お試し”します。
このシミュレーションを現場メンバー自身が体験できることが大切です。
この過程で得られるのが「操作前にどんな動きになるか確信できる」「ミスをやり直して安全確認できる」といった安心感です。
さらに提案内容を納得感ある形で上司・工程責任者に説明でき、現場改善の総合力が一段とアップします。
モデルベース設計で得られる実用的な“現場価値”とは
モデルベース設計の導入によって、現場にもたらされる具体的なメリットをご紹介します。
見える化 → ブラックボックス解消
従来はベテラン技術者・現場担当者の経験値に依存していたプロセスが、誰でも“見える化”され、知識共有・技術継承がスムーズになっていきます。
たとえば異動者や新人もモデルを見て制御ロジックを理解できるため、教育効果やトラブル時の応急対応力が向上します。
パラメータ調整の高度化 → 属人化防止+品質安定
モデル・シミュレーションを駆使すれば、「どんな環境や原料変動でも、なぜうまく制御できるのか」が根拠を持って分かります。
つまりパラメータ調整が属人的な感覚値から、科学的・高速な改善サイクルへ一段と進化します。
設備投資判断への応用力アップ
新規装置や工程改造時の投資判断も、モデルを活用して定量的評価やリスク分析ができ、スマートな意思決定を後押しします。
現場デモ:Excelで作るPID制御シミュレーションの例
実際に現場導入しやすい「Excelを使った簡単なPIDシミュレーション」の例をご紹介します。
– 一次遅れ系プロセスのモデル(例:液体温度制御)
– 各種パラメータ(Kp, Ki, Kd)をシート上で変更可能
– 入力値(目標値)、偏差、操作量、実測値の時系列グラフを自動作成
これにより、「今のチューニング値でオーバーシュートがいくら出るか」「応答時間がどの程度か」など、感覚だけでなく“見える形で”評価・説明ができます。
こういったデモを現場で回すことで、みんなが納得づくでPDCA(計画→実行→評価→改善)を回せる文化が育っていきます。
サプライヤー・バイヤーの立場でも活きる「モデル思考」
モデルベース設計は、ものづくり現場の改善だけでなく、外部折衝や選定プロセスにも強力な武器となります。
バイヤー(調達購買)の視点で
「納入機器の制御性能や仕様を“理論的・可視化”で評価できる」
→ サプライヤーとの技術交渉や比較選定において説得力が増し、本音で“いいもの”を見極めやすくなります。
サプライヤー(供給業者)の視点で
「バイヤーがどこを気にするか(応答性、安定性、ロバスト性など)を、モデルを使って訴求できる」
→ 仕様説明・納入後トラブル回避、継続的改善の共通言語として活用しやすくなります。
まとめ:モデルベース設計は“現場力の再進化”を支える
製造業の現場を根底から支えるPID制御。
その性能を最大限に引き出すには、属人化や経験則だけに頼らない「モデルベース設計」がカギを握ります。
難しそうなデジタルツールに振り回される必要はありません。
まずは自分の現場の“現象”をモデル化し、シンプルな可視化・シミュレーションから一歩ずつスタートすることで、業界風土を超えた新しい改善サイクルを現実のものにできます。
必ずしも最新鋭のソフトや機器を導入する必要はありません。
大切なのは「見える化」で現場の知恵が集まるチーム力、そして進化し続ける現場文化です。
製造業で働く皆さん、バイヤーやサプライヤーの皆さんに、今日から手の届く“モデルベース設計の実践”として、ぜひ取り組んでみてください。
現場の限界突破、まだ見ぬ価値の創造がここから始まります。
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