バイオガス技術を活用した事業連携の実務手法と応用事例

はじめに ― バイオガス技術が製造業にもたらす新たな価値

バイオガス技術は、近年のカーボンニュートラル推進や持続可能な生産に注目が集まる中、製造業においてもその重要性と活用範囲が拡大し続けています。

従来の化石燃料依存から脱却し、再生可能エネルギーへのシフトが求められる中、バイオガスは工場のエネルギーマネジメントや廃棄物削減、環境評価の向上など、さまざまな切り口から事業の発展に寄与します。

本記事では、製造業現場で20年以上の実務経験を活かし、バイオガス技術を活用した事業連携に向けた現場目線の実務手法と、最新の業界動向に基づいた応用事例を詳しく紹介します。

サプライヤー、バイヤー双方の視点を加えながら、昭和的な慣習に縛られることなく、新たな可能性を切り拓くためのヒントを提供します。

バイオガス技術の基礎知識と製造業での注目理由

バイオガスとは？製造業にどう役立つのか

バイオガスは、主に食品廃棄物、家畜ふん尿、工場排水などの有機性廃棄物を微生物発酵によって分解し発生する気体（主成分はメタン）です。

このガスは、熱エネルギーや電力源として利用したり、ガス焚きボイラーやコージェネレーション（熱電供給）に活用したりすることが可能です。

製造業の現場においては、操業過程で発生する廃棄物をエネルギー源として再利用できる点や、CO2排出削減効果、廃棄物処理コストの低減、SDGs対応への好影響などが高く評価されています。

なぜ今バイオガスなのか？業界動向と潮流

長らく製造業ではアナログなエネルギー供給体制や廃棄物処理方式が続いてきました。

しかし、カーボンニュートラル目標の法制化や国際認証の取得競争、原料高騰・電気料金値上げなどを背景に、従来の昭和型の発想では競争力を維持できなくなっています。

その点、バイオガス技術は「自社の資源循環」「ゼロエミッション」実現の核となりえます。

近年は、食品工場、自動車部品工場、製薬工場など、従来型生産現場でも導入が加速しつつあります。

バイオガス技術を活用した事業連携の実務手法

まずは自社の現場で何ができるかを棚卸しする

成功するバイオガス事業連携の第一歩は、「自社の現場発生物・インフラ・コスト構造の徹底棚卸し」にあります。

原材料、工程廃棄物、廃水処理の過程でどの程度有機性物質（発酵原料）が発生しているか。

また、自社内で発生したエネルギーをどの程度活用できるのか、工程変更やレイアウト変更の余地も検討する必要があります。

過去のデータや日常業務での気づきを現場から吸い上げる地道な作業がスタート地点です。

バイオガス事業連携のパターンとその特徴

バイオガス活用における事業連携は、主に次の3つのパターンに分類できます。

1．自社単独型
自社内で発生する有機性廃棄物のみを用いてバイオガスプラントを運営する方式です。

操業コントロールや品質管理が容易ですが、ガス発生量・経済規模に限界があります。

2．他社連携型（サプライヤー・バイヤー間連携）
関連会社・サプライヤーとの連携による廃棄物ストリーム統合型です。

例えば自社食品工場と近隣の物流センター、飲食チェーンの生ごみなどを集約し、安定した原料調達・スケールメリットを追求します。

プロジェクト規模が大きくなる分、データ共有や事務手続き、品質責任の分担設計が実務上のポイントとなります。

3．地域・自治体連携型
自治体の廃棄物処理事業や周辺事業者（企業団地、農家など）とパートナーシップを結び、バイオガスプラントを共同運営するパターンです。

補助金活用・法規制クリア・地域貢献のストーリー性を打ち出しやすく、社会的評価も獲得しやすい特長があります。

バイヤー・サプライヤー目線で押さえるべきポイント

バイヤー側は「安定供給」「適正コスト」「環境価値」の3点を重視します。

導入初期はコスト増になる場合もありますが、長期的なエネルギー調達リスク軽減や、SDGs調達ポリシーへの適合による新規取引獲得が見込めます。

一方サプライヤー側は「廃棄物の出口確保」「既存事業とのシナジー」「リサイクル適正性（異物等の品質管理）」を意識する必要があります。

廃棄物由来バイオガスは供給の安定度・組成変動が課題となりやすく、バイヤーとデータを共有し合意形成するマネジメントが不可欠です。

現場での応用―具体的な事例に学ぶバイオガス事業連携

食品加工業A社×地元自治体 ― 廃棄物から地域エネルギー供給へ

食品加工業A社では、日々発生する製造残さ（皮、くず肉など）の処理費用が年々高騰していました。

自治体のゴミ減量政策に賛同し、近隣飲食店・スーパーとともにバイオガスプラントを建設。

発生したバイオガスは、工場内の蒸気ボイラー燃料として一部利用、残りは地元公共施設に熱エネルギー供給しています。

この取り組みにより産業廃棄物処理コストを50%削減、新規クラウドファンディングやメディア訴求によるブランディング効果も得られました。

自動車部品製造B社×物流企業×近隣農家 ― “廃棄ゼロ”モデル創出

自動車部品工場では、洗浄工程の有機系廃液や食堂生ごみが課題となっていました。

B社は物流企業と連携し、工場・流通センター・周辺従業員食堂から有機性廃棄物を一元回収。

また近隣農家の家畜ふん尿を原料ストリームに組み入れて安定稼働を実現しました。

発生したバイオガスは工場内の熱源として利用し、かつ発酵残渣は高付加価値の液体肥料に精製。

地域ぐるみで“廃棄ゼロ”を掲げ各社のESG評価向上にもつながっています。

大手飲料メーカーC社 ― 取引先サプライヤーの巻き込みで認証取得促進

グローバル展開する飲料メーカーC社は、国際的なサステナビリティ評価（CDP等）向上のため、一次〜三次サプライヤーに対しバイオガス活用施策を要請。

既存廃棄物処理契約の見直しや、廃棄物原料の統合回収、IoTを活用した原料モニタリングまで支援を拡大しました。

その結果、SCM全体でバイオガス原料の安定調達が実現。

BtoBバイヤーとしての競争優位性と、下位サプライヤーとの共存共栄体制の確立に寄与しています。

昭和型アナログ現場からの脱却と、業界に根付く慣習を打破するコツ

「変わることの不安」の乗り越え方

製造業現場では「今までやってきた方法が一番安全」という意識が根強く残っています。

特にバイオガスのような新しい取り組みは、「よく分からない」「責任が重い」という不安と隣り合わせです。

しかし、これまでにない省力化・コスト削減・環境価値向上が期待できる今こそ、現場目線での小さな実証からスタートし、成功体験を積み重ねることが重要です。

現場を巻き込むコミュニケーション・デジタル活用の実際

バイオガス導入を現場に根付かせるには、一部の担当者任せにせず、「現場の知恵」と「デジタル」のハイブリッドが効果的です。

実際の稼働状況や改善点をIoT/BIM/SCADA等で“見える化”し、日々のパトロール・ミーティングで現場スタッフ自らがKPIや成果を確認できる仕組みを作りましょう。

また、経営層やサプライヤーには定期的な現場見学・事例共有会を設け、双方向コミュニケーションでモチベーションを維持できると良いでしょう。

業界慣習に新風を吹き込む「思考のラテラルシフト」

昭和から続く縦割り体質や取引慣行を突破するには、部門間・企業間の壁を超えて「なぜやるのか？」「誰のためにやるのか？」を問い続ける“ラテラルシンキング”が不可欠です。

「廃棄物はコスト」「取引先との付き合いは決まっている」という思い込みを捨て、バイオガス資源を「価値ある商品」「新しい取引のきっかけ」として再定義することが、結果的に現場・経営・地域全体でのウィンウィンモデルに繋がります。

まとめ ― バイオガス活用は日本の製造業に不可欠な成長ドライバー

バイオガス技術の活用と事業連携は、単なるコスト削減策にとどまりません。

原料資源の効率的循環、グリーン調達・生産の実践、サプライチェーン全体の競争力強化など、日本のモノづくり産業にとって不可欠な成長ドライバーとなりえます。

自社だけの発想に閉じ込まらず、現場目線と外部連携、そして新しい思考の融合が業界全体の底上げにつながるでしょう。

今日からできる「自社の強みの棚卸し」から、新たな連携先・活用モデルの提案へ。

昭和の常識を一歩前進させ、バイオガスが切り拓く新たな製造業の地平線を、共に開拓していきましょう。