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PMモータを最適化するモデリング設計と鉄損熱解析の実践ポイント

目次
はじめに PMモータ最適化の重要性と現場の課題
PM(Permanent Magnet:永久磁石)モータは、省エネルギー化や高効率化が求められる現代の製造業において、ますますその存在感が増しています。
産業用機器から電気自動車(EV)、家電まで、多様な分野でPMモータが不可欠な基幹部品として使われている今、いかに“最適化”されたモータ設計を実現するかが現場エンジニアや設計開発部門の大きなテーマです。
とりわけ、モデリング設計と鉄損熱解析は、性能・寿命・コストのバランスを左右する要といえる領域です。
しかし、昭和の時代から続くアナログな設計慣行や属人化されたノウハウが根強く、統合的なモデル設計やシミュレーション技術を十分に活用しきれていない現場も少なくありません。
この記事では、20年以上の現場経験をもとに、PMモータを効率良く・実用的に最適化するためのモデリング設計および鉄損熱解析の“実践的なポイント”を、バイヤー・サプライヤー双方の視点を交えながら掘り下げます。
PMモータの最適化とは何か?〜理論と現場のギャップ〜
最適化(Optimization)という言葉は、一見聞こえはよいですが、現場レベルでは何をどうしたら“最適”になるのかを曖昧に認識している場合も多いです。
理想論から実態へ 最適化の5つの観点
PMモータの最適化を実現するには、以下のポイントを俯瞰的に見て進める必要があります。
1. 効率向上:磁石とコアの特性、巻線配置、損失要因の抑制
2. コストバランス:材料費、加工費、廃棄・リサイクルまで含めた経済性
3. 信頼性・耐久性:熱損失、振動・騒音対策、ロングライフ設計
4. 生産性:量産適性、組立性、品質安定性
5. 環境・法規制適合:RoHS・REACH など規制準拠と材料選定
特に近年、鉄損(コアロス)や巻線損失といったエネルギーロス要因の最小化が、現場レベルで求められ、モータ設計モデルの正確性や解析のリアリティが生産現場へ直結しています。
現場で起こりがちな“最適化の落とし穴”
多くの中堅・老舗メーカーは、現場叩き上げの勘・経験による“属人的”な設計手法が根強く、
「ベテランの○○さんが描いた図面が一番回る」
「先代からの設計テーブルをベースにちょこっと修正」
など、曖昧な“最適化風”設計がまかり通っています。
この昭和ノリが、QCD(品質・コスト・納期)競争の激化やグローバルサプライチェーン下では、競争力低下・不良率上昇などの致命的なリスクになります。
だからこそ、デジタルモデリング設計の推進と、鉄損・熱解析などの「見える化」による科学的アプローチが不可欠なのです。
モデリング設計の実践ステップ 〜形式主義では終わらせない現場活用術〜
PMモータの設計最適化におけるモデル化は、机上の理論とは大きく異なります。
重要なのは「モデル化=現場検証の高速化・柔軟化」と捉えることです。
1.ゴール設定とKPI整理が最優先
モータ最適化プロジェクトでよくある失敗例が、「とにかく詳細なモデルを作り込みたい」というエンジニアの“自己満足”に陥ることです。
実際の現場では、
「どのスペックを最大化したいのか(効率?トルク?コスト?)」
「どこまでの精度・再現性が必要か?」
「社内外のバイヤーが注目する評価指標は何か?」
といった、“経営目線のKPI”と現場がすり合わさっていないことがボトルネックになりがちです。
最初に、「最適化するKPIは何か?」「本質的なゴールは?」を明確化し、それを全員で合意してからモデリングに着手するべきです。
2.現実的なパラメータ設定が勝敗を分ける
PMモータは、回転子(ローター)、固定子(ステータ)、永久磁石、軸受(ベアリング)、巻線、フレームなど多くの要素が複雑に絡み合います。
少しでもパラメータ設定が現場実装と乖離していれば、シミュレーションの信頼性は一気に崩れます。
現場ノウハウとモデリング担当が密に連携し、「使用磁石の偏差・バラツキ」「量産品品質の現実幅」「組立時の位置ズレ」なども加味した“リアルなパラメータ入力”が、最適化成功への鍵です。
3.多変量・多目的最適化(MOO)の推進
1つのスペック追求(例えば効率や鉄損低減)に特化しすぎると、コストや組立性、熱特性の悪化といった副作用が発生します。
最新のモデリング設計では、複数の評価指標(多目的)のバランスを取りつつ、AIや統計的最適化(MOO:Multi Objective Optimization)を使った設計空間探索が進んでいます。
たとえば「コア材コストを抑えつつ、指定した温度上昇以下で最大効率化」などの複雑な課題も、シナリオごとにモデル化しやすくなっています。
鉄損・熱解析の実践的アプローチと落とし穴
PMモータの損失の大きな割合を占めるのが“鉄損”です。
鉄損には主に「ヒステリシス損」「渦電流損」があり、いずれも発熱の起点となります。
現場で活きる鉄損熱解析のステップ
1. 理論式と実機データの「擦り合わせ」
設計初期に電磁場シミュレータ(FEM:有限要素法など)を使って理論的な鉄損・温度分布を計算します。
同時に、現場でサンプルモータを評価し、実測データとのギャップを地道に洗い出す「擦り合わせ」が重要です。
2. FEMシミュレーションの“仮想現場化”
設計者と現場エンジニアのすりあわせを繰り返し、現実のバラツキ(寸法偏差・素材ロット差)をモデルに反映します。
これにより「理論上はOKだけど量産ではNG」の事故を減らせます。
3. 鉄損低減技術の提案力
鉄損を抑えるためには材料メーカー・加工子会社・設計部門―バイヤー/サプライヤー間の垣根をこえて、「高周波用コア材選定」「薄板積層」「パルス制御」「新方式の通風設計」など多角的なアイデアと実証テストが武器になります。
4. 熱シミュレーションから部品配置最適化
実際の発熱分布を反映して部品配置やファン追加、冷却ダクト設計の修正をモデル上でシミュレーションできます。
これにより設計変更によるコストインパクトを定量的に算出しやすくなります。
現場で陥りやすい“見落としポイント”
・材料サンプルデータしか使わず、実ロットのバラツキを見逃す
・設計仕様どおりの試作サンプルでのみ評価し、量産時の寸法ズレや溶接熱影響をモデル化しない
・熱対策の局所最適(ファン追加など)ばかり進め、本質的なコア損失低減を忘れる
このような部分は、バイヤーとサプライヤーの“合意”やサプライチェーンでの役割分担が極めて鍵になります。
サプライチェーン全体を巻き込む現場目線の最適化推進術
モータメーカーだけでなく、材料メーカー、加工子会社、組立請負、OEM調達担当まで、多様な立場のメンバーが相互に知恵を出し合う――これが日本のものづくりの真骨頂であり、今後ますます重要視されます。
バイヤー視点での“最適化”の見方
バイヤー(購買・調達担当)は「設計条件で完璧なスペックさえ満たせばよい」という考えから、
「実機評価で再現できるか?」
「安定調達でき、SCM(サプライチェーンマネジメント)全体でロスが減らせるか?」
といった現場重視の目線へシフトしています。
モデル設計段階からバイヤーチームも巻き込み、「調達段階でどんな情報がほしいか」「コスト・性能どこで折り合うか」を早期に双方向で“見える化”することが鍵です。
サプライヤーが知るべき“バイヤーの考え”
サプライヤー側は「製品仕様を守ればOK」という思い込みを捨て、「なぜ顧客(バイヤー)はこのKPIにこだわるのか」「どの段階でコストや納期のギャップが出やすいのか」を常に考えるべきです。
現場ノウハウを数値化し、“QCD不良”の因子をシミュレーションできれば、早期のトラブル回避や改善提案が可能となり、バイヤーからも信頼されやすくなります。
アナログ業界流のデジタル活用 ~昭和から抜け出す現場改革~
現場では今も「紙」での設計変更や、経験値だけを重視した金型修正など、アナログ文化が根強く残っています。
DXの掛け声だけが“上滑り”して、「結局ベテランの一声が絶対」となってしまうケースも多いです。
しかし、設計・評価・調達・組立まで、工程ごとのナレッジやバラツキ情報を“共有データベース化”し、現場と設計の「インタラクティブな意思決定」ができるシミュレーションモデルの活用が、今後の競争力構築のカギです。
まとめ 最適化の本質は「現場で活かせる知の結集力」
PMモータのモデリング設計や鉄損熱解析は、単なる理論の最適化やモデル化ではありません。
調達・設計・現場検証まで一貫した“最適化ストーリー”を全員で構築する――これがアナログ製造現場がデジタル時代に生き残り、より高付加価値なモータを生み出す唯一の道といえるでしょう。
現場の声を反映しつつ、バイヤーとサプライヤーが“本音と数字の対話”を続けられる仕組みを導入できれば、日本のモノづくりはさらに進化します。
ぜひあなたの現場やプロジェクトでも、この記事の“現場目線の実践ポイント”を参考に、最適化の新たなスタンダードを切り拓いてください。
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